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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
王国編Ⅱ
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焔―017 神王たる所以

 世界の時が止まった。

 それは比喩でも何でもなく、世界が止まったのだ。

 遥か上空を流れるように動いていた雲は止まり、羽ばたいていた鳥達もまた空中でその動きを止めている。

 ――正しく、時間停止。

 思わず目を見開いて周囲を見渡していると、ウラノスさんが肩を震わせて口を開いた。


「どうだい、すごいだろう?」


 すごい……どころの話ではない。

 見ればあのエルザでさえ驚きに目を見張っており、この状態の異常性はもはや考えるまでもないことであった。


「世界を……」

「うん、世界を完全に停止させた。いくら僕でも君を相手するとなると油断なんて出来ないからね。安心してくれていい、君はかなり強いよ、久瀬竜馬くん」


 しかしその瞳には『所詮は【かなり】止まりだけれど』とでも言っているような瞳が宿っており、思わず拳を握りしめる。

 彼は未だに顔に張り付けた笑みを崩すことはなく、その姿はまるで掴みどころのない雲のよう。

 有り体にいえば――気味が悪い。

 まるで正体から生態系まで、何一つとして正体が明らかになっていない危険動物を前にしているような、本能が訴える気味の悪さ。


「ギンが君に告げた言葉。『いざって時は、殺していいから』。それはいつか僕の前に君が現れ、こういう展開になるであろうことを見越して告げた、僕に対しての意味合いが含まれている。まぁあくまでそれは二の次で、一番は予めあの男の出現を予期していたギンが、君にあの男を倒してほしいと、そういう願いを込めて告げた言葉なんだろうけれど」


 ――あの男。恐らくは件の仮面の男の事だろう。

 名前も知らず、力も知らず、顔も知らない敵の頭領。

 そういう掴みどころのなさで言えば、きっとこの人と仮面の男は酷く似ている。酷似している。


「今の君じゃアレには勝てない。僕も一度会いに行ったんだけれどね。危うく殺されかけて帰ってきたもんだ。だから僕にも勝てない。もし全盛期だったとしても果たしてどうだったか……、それほどまでにアレは強い。銀と戦った時のクロノスすら超えているだろうね」


 言いながらも彼は笑ったまま佇んでいる。

 しかしその瞳は冷たい輝きを孕んでおり、じっと僕の方を見据えている。


「実はね。僕は正直、勇者として召喚された君たちは皆銀の仲間になると思っていた。それほどまでに彼の【素質】は大き過ぎた」


 ――素質。

 ふと、それはどんな素質かと気になった。

 けれども彼は言葉を積み重ねる。

 俺には理解できない言葉を、積み重ねる。


「一つ、どんな危機に陥ろうとも、誰かに殺されるということがなく、その危機を成長とともに乗り越える」

「二つ、初めは弱くとも、必ず、他者を一瞬で追い抜いていくような爆発的な成長を見せる。また、最終的に【最強】へと到れるほどの才能を持つ」

「三つ、必ず歴史に残ることを成す」


 そう告げた彼は肩をすくめると「素質の内容、そのメインはこれだ」と付け足して口を開く。


「しかしながら副次的な効果もあってね。その素質を持つものの前には必ず仲間が集まってくる。向こうの世界じゃ浦町くん以外は『それに値する』相手が居なかった銀だったけれど、この世界にいる人間は多くがそれに値する。故に、君たちもみんなみーんな、執行機関に入るんじゃないかと思ってた。それだけ彼の素質は大き過ぎた。あの男嫌いのクロノスが『仲間にしたい』と言うだけはある」


 ――だからこそ困惑した。

 彼は困ったように俺の仲間達へと――そして凛ちゃんへと視線を向ける。


「おかしくないかい? 凛はとてつもなく銀に懐いていた。寂しそうにしてる凛ちゃんをこっちに連れてきて、銀に辿り着けるように修行をつけた。最終的には素質に引き寄せられ、彼女も銀のクランに入るものだと疑ってやまなかった」


 ――にも関わらず、ここにいる。


「それは何故か」


 呟いた彼の体から膨大な殺気が迸る。

 咄嗟に腰から刀を抜き放ち、構える。

 視線の先にいるウラノスさんは既に笑みを浮かべていない。そこにいるのは間違いなく――かつての最強、神王ウラノス。


「素直に賞賛しよう、久瀬竜馬。君は間違いなく銀に追いつけるだけのスペックを誇っている。どころか器の大きさだけ見れば間違いなく銀すら超えられるだろう」


 ――だからこそ惜しい。

 呟いた彼はその手に巨大な杖を召喚する。

 黒檀だろうか、黒色に近い巨大な木の杖。その杖の先には赤い布が巻き付けており、彼はその杖を握りしめると石突を地面へ叩きつけた。


「世界最高の器を持つ者。壁を既に捉えているにも関わらずそれに気づけていない者。世にも珍しき――『壁』と『扉』の融合者」


 君には壁は存在しない。

 そもそも捉えるべき壁そのものがないのだから。

 壁はなく。

 その代わりに――果てしなく巨大な扉がそこにはある。

 そう彼は続け、笑ってみせる。


「自分は普通だ、自分は平凡の域を脱せない。無意識に君はそう思っている。常に自らにコンプレックスを抱えた弱虫だ。だからこそ僕は――弱虫をやめた君を見てみたい」


 弱虫を超えた……俺?

 思わず刀の切っ先を下げ、そんなものがあるのかと目を見開いてしまった俺ではあったが、それに喝を入れるように彼の殺気が吹き荒れる。


「僕には君をこれ以上伸ばすことなんてできやしない。だからこそ、僕はこれより君を殺す。殺すつもりで殺しに行く。けれど君は生き延びるだろう。なにせ君は――その素質を持っているから」


 呟いた彼の背後に巨大な炎が浮かび上がる。

 その数は十、百、千……いや、それ以上。

 あまりにも巨大な、そしてあまりにも多すぎるその力に思わず冷や汗が流れる。

 俺の姿を見て楽しげに笑った彼は。



「大丈夫、君は死なない。だから安心して死にたまえ」



 瞬間、それらの炎が俺へと向けて襲いかかった。




 ☆☆☆




「九尾!」

『流石に言われんでもわかるわい!』


 ――捌ききれない。

 咄嗟にそう考えると同時に叫ぶと、九尾は珍しく焦りを滲ませて答え返す。

 同時に俺達の体が一瞬にして遠く離れた場所にまで移動し、遠くの地面に激突している炎の猛襲に冷や汗が流れる。


『全く……よりにもよってあの方が相手だとは。お前今日という今日は死んだな。ご冥福をお祈りするぞ』

「縁起でもないこと言わないでもらえる!?」


 言いながらも体を聖獣化モードへと移行する。

 相手は神王ウラノス、かつての最強にして銀の父親。

 その能力は全くの未知数であり、噂に『魔法の才能をほとんど失った後衛』と聞いていたが……。


「バリッバリ後衛じゃねぇか……!」


 刀を構え、こちらを振り返った彼を睨み吸える。


「久瀬くんっ! 私たちも――」

「……やめておいた方がいい。下手に手を出すとあの方はお前達のことまで狙ってくるぞ」


 咄嗟にそう言いかけた愛紗へとレイシアがピシャリと釘を指し、視線を横へそらせば、どこからか持ってきた風呂敷を地面に敷いたエルザがお茶をすすっていた。


「まさか久瀬くん、ギンさんのお二人が……。なんだか不思議な感じがしていたのはそのせいですかねぇ……?」

「はぁ……、貴方も相変わらずですね、師匠」

「あー! 私も私もー!」


 言いながらもレイシアさんとリーシャさんが風呂敷の上に腰を下ろし、愛紗達が堪らず俺の方へと『どうすればいい?』という視線を向けてくる。

 どうすれば、か……。


「……お前達はここで待っててくれ。ウラノスさんは俺と戦いたいみたいだし」

「戦いたいんじゃなく、殺しに行ってるんだけどねぇ。そこら辺まだまだ余裕があるって言うのは強い証拠だ」


 遠くから声が響き、足音が近づいてくる。

 彼の方へと振り向くと、彼は微笑をたたえて一歩、一歩とこちらへと近づいてくる。


「さて、久瀬くんも本気になったところで場所を変えよう。時を止めたとはいえ街中で戦うのは気苦労しそうだからね」


 言いながらも彼は指を鳴らし。

 ――直後、一瞬にして景色が移り変わった。

 周囲に広がるのは巨大な神殿。

 純白の大理石が敷かれた巨大な床。白い柱が規則的に並んでおり、その幅はどれだけあるかも分からない。

 いつの間にかウラノスさんは少し高くなった場所に存在する大きな玉座に腰をかけており、足を組み、杖を撫で、こちらをじっと見下ろしている。


「今の僕は魔法が使えない。それは君も知ってのことだろう。だからこそ疑問に思う。先程から何故ウラノスは魔法を使えているのかと。当然の心理だ」


 言ってふむと頷いた彼は、パチンと指を鳴らしてみせる。

 次の瞬間、玉座の目の前に三つの巨大な光が浮かび上がり、その中から純白のフルプレートアーマーが三体姿を現す。


「教えよう――これは魔法ではない。世界の書き換えだ」


 ――世界の書き換え。

 彼が何気なく呟いた言葉に背筋が凍る。

 その言葉の意味が分からないほど俺は軽度のオタクではない。

 あらゆるライトノベルを読み、アニメを見て、多くのことを学んできた俺はその意味を一瞬で理解することが出来た。

 世界の書き換え、それはつまり――


 視線の先で笑った彼は。


「簡潔に言おう。神王ウラノスの神王たる所以。それはこの世界の――万物の【設定】を書き換え、操ることにある」



 ――その名も『万掌神訂(ロードオブ・ゴット)



 それが彼に許された、最強の能力であった。

これぞ神の王!

超絶馬鹿チートです。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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