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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
王国編Ⅱ
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焔―016 パシリアの街

『君は……なんというか普通だよね』


 昔言われたその言葉が、その光景が、未だに脳裏にへばりついたまま残っている。

 ――普通。

 その言葉を、苦笑いしながら告げられた。

 遠慮がちに、それでいて突き放すように。

 淡々と告げられたのだ。

 果たしてそれは、いつの事だったか。

 中学時代、部活のレギュラーから外された時。

 アルバイトの面接で落とされた時。

 あぁ、思い返してみればいつも言われていたか。

 普通で一般的でありふれていて、普遍的。

 どれだけ努力しようと決して『普通』の域から脱することの出来ない男。

 それこそが俺――久瀬竜馬だった。


『やーいやーい! このマヌケー!』

『悔しかったらかかってきなー!』

『きゃはは! こんな弱虫ががそんなことできっかよー!』


 小学校時代、いじめられたのを覚えている。

 いじめっ子は三人。

 それらをクラス中の同級生が見て見ぬふりをし、教師はそれを注意したが、三人が反省しないことを察すると同時に注意することも止めた。

 そして俺は――一人になった。

 クラスメイトは共にいじめられるのが嫌で俺を避け、教師は俺に相談されることが嫌で俺を避け、残ったのは孤独と、三人の悪魔だった。


 ――地獄、と。

 ああ言うのをそう呼ぶのだろう。

 死すら生ぬるい、誰にも頼れない地獄。

 孤独という名の、生き地獄。

 死んだほうがマシだと、何度そう思ったかしれない。

 けれども俺には両親がいた。おじいちゃんも、おばあちゃんもいた。だからこそ『死』を望むことを許容できなかった。皆を悲しませる結果になるから。

 だからこそその地獄の中で俺は停滞し続け――


 ――そして、アイツに出会った。


『お前、ダサイな』


 そう言われたことを覚えている。

 その言葉はいじめっ子たちのどんな言葉よりも重く、鋭く、心に突き刺さり、涙目になってしまったのも覚えてる。

 そしてそんな俺を見て、彼は苦笑したのだ。


『ほら、すぐ泣く。そんなんだから舐められて、結局はこういう地獄が完成する。誰にも頼れず、誰にも助けを乞えず、孤独という地獄に停滞する』


 然して彼は口の端を吊り上げてニッと笑うと。


『だからさ、弱虫なんてやめちまえ。お前が弱いのは、周りから劣ってると思われてるのは、全てひとえに【お前が弱虫だから】って理由に収束する。故に、いつの日か、って話で十分だ。いつかお前は、弱虫から卒業しろ』


 そう言って彼は、俺の前から去っていった。

 初めての友達になれるかもしれない相手。

 そんな相手は、ゆらゆらと手を振って俺の前から消えていった。


 その時の光景を、未だに覚えている。

 どうせまた明日会える。そう思って見送った彼の背中。

 当時の俺よりも身長としては低かったと思う。にも関わらず彼の背中は大きく、偉大で、輝かしく、最高に格好よかった。

 だからその背中に憧れた。

 羨望し、憧憬し、勝手に目標にした。


 いつかこの人に認められるような男になりたい。

 俺はこの日から、そう思うようになっていた。




 ☆☆☆




「……くん! 久瀬くん!」


 名前を呼ばれて目が覚める。

 もうちょっと寝させてくれ。そう告げる重い瞼を無理やりにこじ開けて視界を開くと、目の前には愛紗の顔が映り込んでいた。


「……なにしてんの」

「起こしに来たんだよっ! もうパシリアの街に着くって!」


 彼女は怒ったように頬を膨らませる。なにこれ可愛い。

 と、なんだか寝ぼけているような頭を振って眠気を追いやる。何か、懐かしい夢を見ていたような気もしたけれど、起きてみれば何一つとして思い出せない。……一体なんの夢を見ていたのだろうか。


「……ま、どうでもいいか」


 呟くと、ググッと体を大きく伸ばす。

 あれから少しだけ月日は流れた。俺達はあの後、王都の復興に少しだけ手を貸し、すぐにパシリアへと発つことにした。

 その際に依頼料としてちょっと手にしたことがないレベルの金額を手渡されたわけだが、うちのパーティメンバーを鑑みると、どうしても『こんなにいりませんよ!』という言葉は出てこなかった。なんだかすいませんギルバートさん。


 王都から発つときにグレイスからは『次はワシより強くなってくるのぞよ。もうせっかくだから、おっちんだあのバカすら超えてこい』との言葉を受け取った。無茶にも程がある。

 思わずため息を吐いて外を見ると、そこには見覚えのある平原が広がっており、向こうの方には懐かしい町並みが見て取れた。


 ――パシリアの街。

 ギンの初めて立ち寄った最初の街であり、彼の伝説が語り継がれるようになった始まりの場所である。




 ☆☆☆




 パシリアの街へと到着した俺たちを待っていたのは、青い瞳を煌めかせ、銀色の髪を風になびかせるダークエルフだった。


「やぁ、待っていたぞ久瀬竜馬」

「お久しぶりです、レイシア(・・・・)さん」


 彼の女の名はレイシア。

 ダークエルフにしてあのエルザさんの愛弟子。

 この街のギルドマスターでもある女の人だ。


「驚いたよ。いきなり緊急通信で王様から連絡が入ったからな。まさかお前があの二人に会いに来るとは……、私としてもどう接していいか分からなかったから助かった」

「あの二人……」


 思わず呟いたその言葉に、レイシアさんは疲れたように苦笑して、黙って俺の背後を指さした。

 それに驚き、背後を振り返るよりも早く。

 俺の肩に、どかっと二人分の体重がのしかかってきた。


「はっはっはー! 君が噂の久瀬君かー! 銀からいろいろ聞いているよー! なんだかいつまで経っても弱虫やってるイラつくやつ、だってさー!」

「そうねそうね! いつも銀がお世話してましたー。貴方が銀が居なくなって初めて焦って私たちを頼りに来た久瀬くんね? どうもはじめましてー!」


 ――初っ端から失礼度MAX。

 思わず肩口を振り返ると、俺の両肩から退いたその二人が満面の笑みでピースする。


「初めまして! ウラノスだよー!」

「その妻のリーシャでーす!」

「ど、どうも……」


 そこに居たのは、銀と同じくらいの身長をした黒髪のイケメンと、長い白髪を風になびかせる女性であった。

 なんだかびっくりするほどに脳天気な二人に思わず苦笑しながらも、全く気配が無かったことに思わず一抹の疑惑を覚えてしまう。

 そして、その疑惑を確信へと変えるように。


「つんつん」


 酷く棒読みな声が背後から響き、肩がとんとんと叩かれる。

 首を回して背後を見るが、そこにはレイシアさんが笑っているばかり。嫌な予感がして視線を戻そうとした瞬間、今度は真正面から頬へと指が捩じ込まれる。


「まだまだですねー。最初から目の前にいましたのに」

「……冗談、ですよね」


 頬を引き攣らせながら目の前へと視線を向けるとそこに居たのは見覚えのあるすぎる緑髪エルフ。

 彼女は金色の瞳を楽しげに揺らして。


「お久しぶりです。エルザです」


 ギンと同等、あるいはそれ以上。

 そう言わざるを得ない隠蔽のプロフェッショナル。エルザがそこには立っていた。

 彼女にはグレイスに師事する前までは俺達の先生として色々と稽古をつけてもらっていた。故に顔見知りではあるのだが……改めてこの面々を前にすると緊張せざるを得ない。

 その証拠にいつもうるさい俺の仲間達は全員口を開くこともせずに黙って――


「あ、お父さん。お母さん」


 ――いると思っていたのだが、残念ながら一人違った。

 普通に凛ちゃんがそう呟き、ウラノスさんの前へと突き進んでゆく。

 そしてその姿を見てぱあっと顔をほころばせる二人。


「おお、凛ちゃん! 久しぶりー!」

「きゃー! 凛ちゃん久しぶりねー! 元気してたー?」

「ん、元気してた」


 その姿を見てレイシアさんが疲れたようにこめかみへと手を添えてため息を漏らし、エルザが感情の読めない笑みを浮かべて微笑んでいる。

 しかしながらそんな光景も、ウラノスさんが凛ちゃんから視線を切り、俺へと向けたことで消え失せる。


「さて、久瀬、久瀬竜馬君。銀や凛の友人として良くしてもらって僕としては嬉しい限りなんだけれど、今回君が会いに来たのは恐らく『友人の父親』ではなく『神王ウラノス』だろう?」


 その言葉はまるで全てを見通しているかのように鋭く、底冷えするように冷たかった。

 これが――かつての最強の姿か。

 先程までとは一転し、圧倒的な存在感を放ち始めた彼を見て、冷や汗を流しながらも首肯する。

 すると彼はふむと顎に手を当てる。


「さて、君はどれだけの才能を、持っ――」


 然して彼は俺の方をじっと見つめ始めたが、すぐに言葉が詰まり、目を見開いた。

 その瞳には『驚愕』の色が浮かんでおり、思わず何かしくじっただろうかと不安になってくる。


「……君は、銀に会ったとき、何か言われなかったかい?」

「え? えっと……」


 ――いざって時は、殺していいから。


 ふと、その言葉が頭を過ぎる。

 果たしてこれは言ってもいいことなのか、思わず逡巡してしまったが、彼はニヤリと笑って口を開く。


「大丈夫。多分それは君に向けた言葉だろうけれど、それと同時にいつか君から話を聞くであろう僕にも向けた言葉だろうから。だから遠慮なく話してくれていい」


 この人は……人の心を読めるのだろうか。

 そう思わず目を見開くが、何も返事がないことを見るに心の中までは読めないのであろう。

 けれども彼が言ったことは的を射ている。正しいか正しくないかは別として、ピシャリと言い当てた事実は十分すぎるほどに信用できる印となる。


「『いざって時は、殺していいから』と、そう言ってました」

「……なにそれ聞いてない」


 凛ちゃんが頬を膨らませて不満を顕にする。そりゃあの場に『眠い』と言って行かなかった凛ちゃんが悪い。

 考えていると、ウラノスさんはフフッと顔をほころばせて口に手を当てる。


「いやー、殺していいから、か。なるほど流石は銀と言ったところかな。多分あの子は今この状況すら読んでいた。おそらく僕も知らないこの先の展開すら読んで、その上で必要最低限のことを済ませた上で君にその言葉を伝えた」

「全てを……?」


 銀を失った執行機関が森国へと逃げ込み、俺が森国へ行き、恭香さんに追い出され、王国で大悪魔と対峙し、そして、力を求めて彼の元までやって来る。

 これまでの展開を……読んでいたとでも言うのか?

 だとしたら、アイツは――


「あぁ、あの子と頭で勝負しない方がいい。こと頭脳に関していえば彼を上回る存在なんて存在しない。そも、自分が死んだ後の展開すらも読み、死ぬ前提で動くだなんて正気の沙汰じゃないからね」


 ――死ぬ前提で。

 そう呟いた彼は悲しさの欠片も見せずに笑ってみせる。


「さて、()()()()()()()()()()()()()()()理由がわかったところでだ。僕はこれより君を恐怖と絶望のどん底にまで突き落とす。なぶり、いたぶり、思いつく限りの方法で殺しにかかる。これでも元は神の王様。かつての銀でさえ僕のメニューには何度か死を覚悟しただろうさ」


 そういった彼はすっと目を細めると、冷たい眼光を迸らせてこう告げる。



「なぁに、()()()()()()()()()()さ。だから安心して僕も――君を殺すつもりで攻撃できる」



 次の瞬間――世界の時が停止した。

次回、唐突にウラノス戦勃発!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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