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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
森国編Ⅱ
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焔―011 魔導の王様

 並び立つ三人の王。

 国王ギルバート・フォン・エルメス。

 獣王レックス。

 魔王ルナ・ロード。

 それぞれが三年前からは比肩できないほどに力をつけ、全盛期の彼らをも上回る――いうなれば、今この瞬間こそが全盛期、グレイスも含めると、紛うことなき三大国が誇る最強の者たちである。

 その三人に相対するのは赤い外套に身を包み、仮面と天蓋を被った白髪の男。


「なるほど……獣王に魔王か。確かに貴様らならば襲撃の報告を受けてからでも十分に駆けつけられるか」


 男は瓦礫の山から立ち上がる。

 肩についた瓦礫が小さく落ちてゆき、小さな物音が鳴り響く。


「ほう? 我らのことを知っているとは……どこかで会ったことでもあるか?」

「私もこんな男記憶にないけれど……」


 思わず眉をしかめる二人に、男はくくっと肩を震わせる。


「なに、貴様らと俺は初めて会ったよ。あくまでも、俺が裏から知っていた、という話だ」


 ――裏から。

 その言葉が二人の脳裏に拭いきれない違和感を残してゆくが――直後、男が両手を構えたのを見て、咄嗟に戦闘態勢へと入る。


「おいおい……一人を相手にそこまで警戒することもないだろう? なあ、国王ギルバート」

「いいや、悪いけど十分すぎるほどに警戒させてもらうよ。君はこの世界を滅ぼしきれるほど強くはないけれど……それでも、僕からすれば十分に強敵だからね」


 ――強くはない。

 ――この世界を滅ぼしきれるほどに強くない。

 その言葉に男は仮面の下で――小さく、ため息をついた。


「……まあ、()()俺を見て貴様らがそう思うのも仕方がないか」

「……今の?」


 その言葉に、ギルバートは思わず問い返す。

 確かに、男はさほど強くはない。それこそ、ここにいる三名ならばなんとか撃退できてしまうほどに。

 だからこそ、ギルバートには違和感があった。

 ――何故こんな相手に、これほどまでの危機感を覚えているのかと。


「――何か、ネタがありそうね」


 魔王が小さく呟く。

 耳ざとくその呟きを聞き取った男は小さく肩を震わせて。


「さてな。知りたければ俺を倒してみればいい」


 ――もしも、出来るものならばな。

 そう続けた――次の瞬間。

 彼の構えた両手に、二振りの鎌(・・・・・)が生み出された。

 刀身の先から、柄にかけて黒一色に塗りつぶされた――大きな鎌だ。

 大きさはギンや死神の用いていた鎌と比べれば数段小さく、その分小回りが利きそうな雰囲気を感じさせる。

 そして、それら二つの鎌を柄の部分で繋いでいるのが――黒光りする、禍々しい鎖だった。


「どうやらここには探し物は『無い』らしいが、かと言って、ここまで愚弄されて帰るのも気に食わん。故に――余興を始めよう」


 ――余興。

 その言葉に三人は小さく眉を寄せる。

 対して、それを楽しげに見つめていたその男は両手を広げ。


「さて、かかってくるがいい、三人の王よ。貴様らごときに本気など出す気にもならぬが、裏舞台を飾るにはいい余興だ。手を抜いて良いのであれば、俺が付き合ってやろう」


 ――手抜き。

 その言葉が響いた途端、三人は一斉に駆け出していた。




 ☆☆☆




「兵士達は下がっておれ! ギルバート!」

「はいっ!」


 獣王の伸ばした手にギルバートが手を伸ばす。

 現状、この中でステータスが最も劣っている存在、それが他でもないギルバートである。

 そんな彼がその強大すぎる力を十分に活かすには――まず、『足』を得なければならないのだ。


「申し訳ないです!」

「ぐははっ! 良い良い! 我でよければいくらでも足になろう! その代わり――」

「分かってます!」


 魔王の魔力を纏った獣王が一気に加速する。

 その速度は既に近接最強を地で行くグレイスのソレすらも上回り、さしものその男も「ほぅ」と声を漏らす。

 ――だが、所詮は少し驚いただけ。


「フッ――」


 瞬間、黒い鎌が一閃される。

 それはタイミングを外すことなく。

 寸分違うことなく二人の体へと迫り来る。

 そして――


「『強奪(テイク)』」


 ギルバートが手をかざし、そう呟く。

 次の瞬間、その掌に触れたその大鎌は――その威力を消失させる。


「……なに?」


 それはまるで――攻撃そのものを奪い取られたような感覚。

 拭いきれないその『違和感』に思わず眉を寄せ――次の瞬間、獣王の拳が迫っていることに気がついた。


「フン――ッ!」


 拳が空気を切り裂くように唸りをあげて迫り来る。

 ――あぁ、これは効くな。

 思いながらも、まぁ耐えられる範疇かと、軽く腕を上げて防御姿勢に入り――


「!?」


 その刹那、気がついてしまう。

 その拳に、嫌な魔力が纏われている事実に。


「くっ……!」


 すんでのところで身を揺らして拳を躱す。

 その勢いのまま数メートル後方へと跳び退り、今放たれたその拳へと視線を向ける。


「なるほど、これは厄介だ」


 その拳には紛うことなき――斬撃の魔力が纏われていた。

 そして男には、その斬撃に見覚えがあるわけで。


「聞いたことがある。『強奪と贈物(ギブアンドテイク)』……攻撃を吸収し、そして放つことが出来る、紛うことなき最上級クラスに属するスキル。なるほど、所持者は貴様か、国王ギルバート」

「まぁご覧の通り、正確には吸収した攻撃を放つか、誰かに渡すことの出来る能力、なんだけれどね」


 その本質については今の攻防で男も確信していた。

 最初、自らの鎌による攻撃を吸収。

 そしてその際に出来た僅かな隙を、魔王の補助を受けた獣王が突く。そしてその拳にギルバートは、先ほどの斬撃を贈った(・・・)のだ。

 見れば被っていた天蓋の端が斬撃によって切れてしまっており、男はその天蓋を投げ捨てる。


(実力だけならば俺に及ぶべくもないが……、どうやら、その力を生かすために必要な『目』と『早さ』だけは持ち合わせている様子)


 ならば。

 内心で続けた彼は、パチンと指を鳴らす。

 すると次の瞬間、彼の背後に現れる無数の魔法陣。


「こ、これは……」


 それら一つ一つが膨大な魔力を帯びており、その光景に、獣王はその事実を今になって思い知る。


「なるほど……、違和感の正体はこれか」


 ――違和感。

 佇まいと、自分たちが直感した危険性の差異。

 それはこの男が近接戦闘に慣れていない上に、隠蔽術に長けた後衛だったと考えれば全て納得が行く。

 しかしながら、この程度の魔法ならば――


「さて魔王、そろそろ仕事してはどうか?」


 瞬間、彼の背後から膨大な魔力が迸る。

 その魔力は圧倒的にして絶対的。

 御厨の総魔力を優に超え、それは――壁を越えたギンのソレにすら匹敵している。


「……これは、また」


 男もその魔力量に思わず苦笑し、振り上げた腕を振り下ろす。

 同時に無数の魔法陣から幾つもの魔法が飛び出し、空を切り裂いて三人へと迫り来る。

 ――しかし。



「――『原始魔法・・・・・オールバニッシュ』」



 瞬間、全ての魔法が――消失した。

 男の放った魔法は全て、白い煙となって消失し、それにはギルバートも目を見開き、獣王も思わず苦笑する。

 ――原始魔法。

 それはこの世界でも数少ない者しか扱うことの出来ない、言うなれば『全ての【不可】を【可】へと変える魔法』である。

 現にその魔法を持ち得ているのは三人の世界神に加え、最古から存在する創造神、大地神、原初の悪魔バアル。そしてギン、白夜の八名。

 しかしながら、この魔法は限りなく奥が深く、あの後衛として絶対的な力を誇っていた神王ウラノス、並びにギン=クラッシュベルでさえ、その力を引き出すことは出来ていなかった。

 その最たる理由こそが――魔力量の不足。

 壁を越えたその二名の魔力量を持ってしても使いこなせない、それこそが【原始魔法】であり。


 ――その例外こそが彼女、魔王ルナ・ロード。


「私は生まれながらにして特異体質でね。どれだけ使おうが、どれだけ浪費しようが――絶対に、魔力が尽きない(・・・・・・・)


 恭香は大気中の魔素を魔力に変換し。

 輝夜は奈落に漂う魔力を使用することが出来る。

 しかし彼女はただ純粋に――無限の魔力を、その身に宿しているのだ。

 それ故に幼き頃――魔力制御を知らなかった彼女はそこにいるだけで周りを傷つけ、忌み子として悲惨な目に遭ってきた。

 ――だが、それを一人の女性が救ってくれた。


『うはぁ……、スゴイのぅ、その魔力量。ワシのかるーく百倍くらいはありそうぞよ』


 その言葉を思い出して苦笑する。

 視線の遙か先には、その恩人が戦っているのか、巨大な氷の柱が現れている。

 ――氷魔絶拳。

 アレを使うということは――彼女も、本気だということ。

 なればこそ。


「三年前は原始魔法も使えなかったけれど……、あの人が本気を出している以上、私も本気で――新しく覚えたこの力を使わせてもらう」


 更に膨大な魔力が放出される。

 衝撃波すら伴うその魔力量に男も咄嗟に大地を踏みしめ――直後、背後に移動していた魔王の姿に目を見開いた。


「な――」

禁呪(・・)――『空間移動』」


 尽きぬ魔力。

 それはつまり――禁呪を使えるということ。

 魔王は男の背中に小さく、その魔力を帯びた手を添える。



「――禁呪『地縛獄鎖』」



 瞬間、周囲の空間が大きく割れ、その中から禍々しいオーラを纏った鎖が召喚される。

 禁呪――地縛獄鎖。

 それは最上位の禁呪――ギンの使用した『黙示録』などに比べると幾分か下位に存在する禁呪ではあるが、その性能は正しく【反則】と呼べるもの。

 その力は単純明快。

 触れたものを――その場所に縛り付けること。


「チィッ!」


 黒い鎖で縛り付けられた自らの体へと視線を下ろし、男は初めて焦ったように声を上げる。

 確かに力量は離れている。男と魔王、真正面から戦っても勝つのはおそらく男の方だろう。

 ――だが。



「貴方がどこの誰かは知らないけれど。私は魔王――魔導の王様。後衛ならば、私に止められない相手はいない」



 ギンやウラノスを最強の後衛と称すならば。


 彼女は正しく――魔導の王様。


 味方全ての力を引き出す後衛ではなく。

 膨大な魔力を解放するだけで味方全てから『魔法』を奪う、孤高の王様。

 けれど――


「良くやった! 魔王ッ!」


 白い煙の向こうから、拳を構えた獣王が飛び出す。

 たしかに彼女は、そこにいるだけで魔法を奪う。

 誰かと戦う上では致命的なその欠陥。


 けれど世界には、そんな欠陥など気にしない馬鹿たちが。

 ――そんな欠陥魔法使いとパーティを組むような愚か者たちが、存在するものである。



「砕けろ概念! 唸れ筋肉! ゆくぞ!『獣王拳(エンペラーブロー)』ッ!」



 轟音が鳴り響き、男の腹へとその一撃が叩き込まれた。

魔王さんは禁呪が封じられたアイテムを常時複数身につけてます。

また、黙示録は他の禁呪を圧倒するほどに膨大な魔力を必要とするため、魔王でも数分間は貯めないと発動できません。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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