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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
森国編Ⅱ
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焔―009 師の力

 拳と拳が激突し、周囲へと重低音を鳴り散らす。


「この……ッ、なんでこう言う変態に限って強いのぞよ!」

「それが世界の理よぉんっ♡」


 ――暴食の罪、ベルゼブブ。

 かつてはギンの『肉』を食ってしまったが故に敗北を喫したが、その実力はサタン、メフィストに次ぐ。

 さらに今の彼は混沌の力によって強化されているため、その力は以前のサタンにさえ匹敵する。


「まぁず一発っ!」


 ズンッッ!

 グレイスの腹部へと拳が突き刺さり、彼女の口から大量の鮮血が吐き出される。


「が……ぐぅッ!」


 体の芯に響くような痛みと衝撃。

 けれどグレイスは――拳を握りしめる。


「……なるほど、分かり易い、ぞよ」


 グレイスの拳が、ベルゼブブの横腹に突き刺さる。

 しかし、ベルゼブブの体に、衝撃は走れどさほど痛みという痛みは訪れない。


「……貴女、一体――」


 ――何をしたの?

 そう言おうとして――ぐらりと、視界が歪んだ。


「ぁ……」

「見たところ、お主はどうやら近接戦闘に特化しているよう。つまり、ワシと同じく魔法を使えぬ脳筋タイプ」


 ――なればこそ。

 そう続けたグレイスは口元の鮮血を拭うと。


「勝負の決め手は、いかに早く、少ない手数で――相手の肉体を壊せるか。その一言に尽きるぞよ」

「――ッッ!?」


 ベルゼブブの背筋に冷や汗が伝い、咄嗟に背中に蝿の翼を生やして大きく後ろへと飛び退る。

 直後、先程までベルゼブブの後頭部があった場所へとグレイスの肘打ちが通り抜け、思わず引きつった笑みが漏れてしまう。


「や、やーだ……、何この子……」


 強い。それこそ自分と同格か、それ以上に。

 けれど――強いってこと以上に。


「さて、始めようか大悪魔。ワシの体と貴様の体。どちらが先に壊れるか……。あぁ、ちなみにワシの特技だが――」


 気がつけば、ベルゼブブは少し後ずさっていた。

 視線の先には、指を鳴らしながら獰猛な笑みを浮かべる、幼女の皮をかぶった何者かが佇んでおり。

 その笑みに、その瞳に、その、身に覚えのある雰囲気に。



「――人体壊し(ひとごろし)。ワシはあの性格の悪い弟子よりも、遥かに上手いと自負しておるぞ」



 かつて自身を殺したあの男に瓜二つなその威圧感に、理性よりも先に本能が、恐怖してしまったのだ。




 ☆☆☆




 ――恐怖。

 久しく忘れていたその感情に。

 彼――ベルゼブブは……歓喜せずにはいられなかった。


「フフッ、フハハッ……、アハハハハハハハハハ! 何なのかしら貴女! 私を殺したあの坊や……、彼と同じく感覚……匂いがするわ!」

「……ほう? あの馬鹿は一度貴様を殺したのか。なのに何故生きているのかは甚だ疑問だが……、まぁ、ようやったと褒めてやるぞよ」

「ええ、存分に褒めて頂戴! あれほどまでの力……」



 ――それを、私に喰れた、あの坊やにね♡



 瞬間、彼の体から銀色の炎(・・・・)が立ち上がる。

 彼の力――暴食の罪。

 それは七つの大罪スキルの中でも異質中の異質。

 本来ならば一つの力しか持てない大罪スキルの中で唯一――能力を増やすことの出来る力。

 その力は一度喰らった者の力をコピーし、新たな力として【暴食の罪】に書き加える。

 言うなれば――何者にも化け得る力。

 そしてベルゼブブは、彼を――ギン=クラッシュべルを、喰らったのだ。


「その力は……」

「そうよぉ? あの坊やのチ・カ・ラ♡」


 ――他にもあるのよぉん、と。

 彼の右腕から血色の魔力が吹き上がる。

 左から吹き上がるのは銀色の――白虎の力。

 右から吹き上がるのは――ウロボロスの力。

 ベルゼブブは口元をその長い舌でべろりと舐め取り、その動作を見てグレイスは眉を寄せた。


「……喰らうことで強くなる力。噂には聞いていたが、まさかこんな所で出会うとはのぅ……」

「ええ……、まさかこんなにも多くの力を持っているだなんてぇ、流石は混沌ちゃんと肩を並べた男だけ」


 ――あるわ。

 そう続けようとして――けれど、背筋を怖気が登ってきた。

 まるで、なにか致命的なものを見落としているような。

 咄嗟に周囲を見わたして――視界の隅の空間が、小さく歪んだのを視認する。


「な――」


 それは、ほんの僅かな歪み。

 今までに多くの『魔眼』使いを喰ってきたが故の、月光眼を持つギンを少量とはいえ喰ったが故の、辛うじて見えたその姿の片鱗。

 しかしそれを発見するには、少しばかりタイミングが遅すぎた。



「――『氷影の女王(コンクビナット)』」



 グレイスが呟く同時。

 彼の前に――グレイスが現れた。


「な、なんで――」


 先程まで数十メートルの距離があったにも関わらず、突如として目の前に現れた彼女にベルゼブブは愕然とし。

 その拳を見て――喉の奥から悲鳴が漏れた。


「い、『位置変換』ッ」


 瞬間、彼の位置が遠く離れた場所の眷属と入れ替わり、グレイスの拳がその蝿の眷属へと叩き込まれる。

 そして、一瞬で氷となり、砕け散ってゆく眷属の姿。

 鮮血など舞い散らない。

 触れた瞬間に全てを凍りつかせるその拳は、血も、肉も、命も、全てを一瞬で奪い尽くした。


「……化物」


 ベルゼブブが小さく呟いたその言葉。

 なるほど確かに化物、その通りだろう。

 時の歯車副リーダー、グレイス。

 驚異的な速度で成長し続けたギンが、ついぞ一度として勝つことが出来なかった唯一の存在。

 もちろん壁を越えた後はその『ついぞ』に含まれてはいないが、それでも。


 全能神ゼウス。獄神タルタロス。

 神の側についている人間の中で、その二人に今、最も近い存在は誰かと聞かれれば――



「悪いのぅ、言われ慣れとるぞよ」



 背後から、声が響いた。

 ベルゼブブの背筋に恐怖が走り抜け、咄嗟に背後を振り返る。

 その先には、先程までとは比べ物にならないほどの冷気を纏ったグレイスが存在しており、その口元は――凄惨に歪んでいた。


「あ奴はまだまだ成長する。その前に死んでしまったようだが、どうせすぐ生き返ってくるぞよ。そんな可愛い弟子に敵対する害虫。それが貴様なのだとすれば――」


 構えた拳から冷気が迸る。

 その冷気は周囲の環境にさえ影響を与え始め、パチパチと大気すらも凍り始める。

 ――あぁ、これはまずい。

 そう今になって思ったベルゼブブだったが、それは時すでに遅し。


「ワシは、その敵を尽く排し、せめてもの力となろう」


 その一撃が、ベルゼブブの腹へと突き刺さる。

 超殲滅魔法――氷魔絶拳(グレイシスブロー)

 その一撃は一瞬にしてベルゼブブを文字通りの永久凍土の中へと封じ込め、地上から遥か上空にまで大きな氷柱を召喚する。

 氷の中で、目を見開いているベルゼブブに。



「それが、師匠、ってやつの役目ぞよ」



 グレイスは、小さく笑ってそう言った。




 ☆☆☆




「す、すげえ……」


 遅まきながら登場した俺は、目の前の氷柱を見上げて思わずそう呟いた。

 トンッ、と足音が聞こえる。

 音の方へと視線を向ければ、見たこともない氷の翼を生やしたグレイスがそこにはいた。


「なんぞよ、帰ってきたのならそう言って欲しいぞよ」

「……いや、急いで帰ってきた意味なかったかな、って思い始めてるんだけど」


 俺達が転移門から出されたのは、王都のかなーり円周部に位置する場所だった。

 そこかは蝿の魔物を倒しながらなんとかここまでたどり着いて――そして、その先で待っていたのがこの惨劇。


「で、大悪魔は……」

「倒した、と言いたいのだが、なんだか嫌な予感がするのぅ。一度、大悪魔と戦って失敗しとるわけだし」


 グレイスがそう言った、次の瞬間だった。

 ――ピチャリ。

 俺達の間になにか赤い液体が上空から落ちてきて、俺達は一斉にその氷柱を見上げる。

 そしてその視線の先にいたのは――共食いを始めた、億を超える蝿たちの姿だった。


「「ひぃぃぃぃぃッッ!?」」


 見れば、愛紗と妙が顔を青くして悲鳴をあげている。というか俺もあげたいところだった。

 なにせ、距離が離れているとはいえ視線の先で行われているのは、空を埋め尽くすような大群が、それぞれに捕食をしている姿なのだ。……気持ちが悪くないはずが無い。


「うわぁ……、気持ち悪っ」

「京子さん……、俺も同感っす」


 京子さんと花田が頬を引き攣らせ。


「……大丈夫ですか、凛さん」

「ん、ああいうのは、比較的平気」


 御厨と凛ちゃんがそんな会話を繰り広げ。


「バトルロワイヤルねっ!」


 ちょっと難しい単語を使って自慢げな優香が、体の前で両拳を握りしめている。


「にしても、何してるんだ……、アレ」


 言いながらも隣のグレイスへと視線を向けて――その頬に、冷や汗が伝っていることに気がついた。


「……本っ当に、ワシは大悪魔っていうのと相性が悪いのぅ。超殲滅魔法を使ってもなお生きとるとか……、バケモノはどっちぞよ」


 徐々に空を覆い尽くしていた蝿の数が減ってゆく。

 そしてその代わりに――蝿一体一体の大きさが、強さが、威圧感が、増してきていることに俺は気がついていた。


「ま、まさか――」

「――暴食の罪。まさかこんな使い方もあったとはのぅ?」


 気がついた時には、既に時は遅かった。

 視線の先には、最後の片割れを食い散らかした巨大な蝿が存在しており、奴は氷柱の頂きに立ち、大きな咆哮を上げる。


『PIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 不快感を駆り立てられるような不気味な咆哮。

 冷えた大気がビリビリと音を立てて震え、その蝿の瞳が俺達の姿を捉える。


『さぁて、よくもまぁ、私をまーた殺してくれたわねぇ? 殺されるなんて二度目だけれど……、案外、私ったら生存能力が高いのかもぉ♡』


 高いなんてものじゃない。

 見たところ、あの蝿一体一体がその大悪魔の眷属――いや、ギンで言う影分身、混沌でいう分体といった、そっちの類の存在。

 言うなれば――大悪魔本人の劣化版。

 それら一体一体はさほど強くない。

 けれどもし、それら全てが再び『一』へと戻ったら。


 上空の蝿は大きく翼を羽ばたかせると、喜色に塗れた言葉を投げつける。



『改めて自己紹介っ。私の名は大悪魔序列三位、暴食の罪を司るベルゼブブゥ……、根源化――モチーフ【腐蝿虫】』



 濁った空気が体に吹き付け、この場にいるだけでも精神的な苦痛が襲ってくる。

 そんなベルゼブブは、確かに口元へと大きな笑みを浮かべて。



『さぁて、捕食の時間よぉ♡ 私に食べられたい子から、順に前にいらっしゃぁい♡』



 ――未だかつてなく、鳥肌が立った。



ベルゼブブ、瞬殺されてたから分かり難いですが、かなーり強いです。

なにせ序列三位ですから。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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