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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
森国編Ⅱ
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焔―007 黒鎧

※かなり質問多かったので補足しておきます。


~灰の世界~

太陽と影を失い、自然物が全て灰色と化した世界。

逆に、人工的に作られたもの(服や武器)や、生命体や魔力なども元々の色は保持している。

 ――悪魔界。

 その中心に位置する居城の一室にて。

 頭を抑え、膝をつくその男を眺めながら、その大悪魔――メフィストフェレスは口元に笑みを浮かべていた。


「おやおや、どうしました? 貧血ですか?」

「……メフィスト、か」


 赤い外套に身を包んだその男は、小さく振り返るとそばに置いてあった仮面をかけ直す。


「……何の、用だ」


 その声から滲み出る『苦悩』に、メフィストはさらに笑みを深くする。


「いえいえ、ただ暇だったので遊びに来た迄ですよ」

「……俺と貴様、それほど仲が良かったとは記憶してないが」


 冷静に。

 淡々と告げられたその言葉に――メフィストは、鼻で笑った。


知ったかぶり(・・・・・・)、お上手ですね」


 愉悦に塗れたその言葉に、彼は小さく反応する。

 けれどもすぐにそんな事実などなかったとばかりにため息を吐くと。


「一体なんのことだ。俺と貴様の仲は決して良くないだろう」

「ええ、そうですね。あの方が居ない今、貴方は私からすれば最も興味深い娯楽対象なのですが……、貴方は私のことを嫌っているようですし」

「よく知っているじゃないか」


 彼はそう呟いて――直後、姿が掻き消えた。

 気がついた時には、メフィストは背後から黒い鎌を首に添えられており、背後から男の声が響き渡る。


「そうだとも、俺は貴様が嫌いだよ、メフィストフェレス。あの偽善に塗り固められた神々、その王の眷属よ。そして、あの男をモチーフとし、その人生をより良いものとするためだけに作られた人形よ」


 ――メフィストフィレス。

 神王ウラノスの眷属にして、彼と同じ容姿を持つ者。


「俺は神が嫌いだ。人が嫌いだ。物分りが悪く、自己中心的な考えしか持つことの出来ない、あの腐った出来損ない共が大の嫌いだ」


 ――知ってます。

 メフィストはそう言おうとして、その前に首元から鎌の存在が消失する。


「俺は世界を破壊する。この愚かな世界を、愚かな人類と神々を、一片残さず滅却する。故にメフィストフィレス。貴様の力を利用させてもらう。何か情報を吐け、貴様はすべて知っているのだろう?」

「ええ、まぁ。私は未来を知ってますので」


 メフィストは彼へと向き直ると、わざとらしく咳払いをしてその名を口にする。


「――久瀬竜馬。知っていますよね」

「……あぁ、あの雑魚か」


 ――雑魚。

 彼が呟いた言葉に「違いない」とメフィストも肯定する。


「私が今教えられる情報としては、とりあえず久瀬竜馬とその一行が森国にて恭香殿、そして影の眷属たるオートマタに邂逅いたしました」

「……はぁ、そんな事か」


 つまらなそうに呟いた彼――ギルは、手に持っていた天蓋を被り直すと、出口へと向かって歩き出す。


「そんなどうでも良いことを伝えてくるということは、つまり今すべきことが何一つとしてないということであろう? なれば良い」

「――警戒を怠れば、痛い目に遭うかも知れませんよ?」


 背中に向かって投げかけられたその言葉に。

 ギルは仮面の下で嘲笑すると。


「ハッ……、黒炎以外に魔法も使えぬ、近接戦闘もせいぜいが中の上。あのような雑魚、気にするだけ時間の無駄だ」


 ――それに。

 そう続けたギルは。



「安心せよメフィスト。もう既に、大悪魔達を動かしている」



 その頃。

 森国と、そしてエルメス王国には。

 それぞれ大悪魔と、戒神衆の筆頭が迫っていた。




 ☆☆☆




 《警告! 警告! 侵入者発見!》


 アラームが響き渡り、丁度話を聞き終えた所だった俺達は思わず目を見開いて周囲を見渡した。


「な、何が……」

「あー……、とうとうここにも来ちゃったか」


 疲れたように呟く恭香さんへと視線を向ける。

 彼女は大きくため息を吐くと、困ったように顎へと手を添える。


「今のはね、多分、大悪魔かそれに相当するレベルの敵対者がこの森に迷い込んだ、って警報だと思う。警報の音量からして……、たぶん、今の貴方達が頑張ってなんとか倒せるかな、ってレベルの相手だと思うよ」

「そ、それって不味いんじゃ……」


 す、少なくともこんな所で気を抜いていられるほどの事態じゃないだろう……。

 咄嗟に机に立てかけていた刀を手に取り――



「いや、貴方達には王国に戻ってもらうよ」



 瞬間、俺達の体は森の前にまで転移させられていた。

 それには思わず目を見開き、頭の中に楽しげな九尾の笑い声が響いてきた。


『ふははっ。これまたとんでもない【隠し玉】を抱え込んでおるな! これはお主らの出番は無いぞ、久瀬竜馬』

「な、何をいきなり――」


 ――ふざけたことを言ってるんだ。

 そう続けようとした俺に被せるように、頭の中へと恭香さんの声が響く。


『これはおよそ一時間前に確認したことなんだけれど、王国へと向かって巨大な【蝿】の群れが移動しているのが確認されたんだ。そしてこの世界中に、そんな蝿の魔物なんて存在しない。つまりは――』

「お、王国にも、来てるって言うのか!?」


 ご明察、と声が響く。


『こっちは……まぁ、どうとでもなるよ。獄神様だっているし、奥の手だってスタンバってる。だから君たちには王国に向かって、その大悪魔を撃退してほしい』


 パチンっと、指を鳴らすような音が響き――直後、俺達の目の前へと空間の歪みが現れた。

 そしてそれは奇しくも、見覚えのある光景で。


「『転移門(ワープゲート)』……!? な、なんで……」

『はいはい、とっとと行った行った』


 ドンッ!

 恭香さんの声とともに、背後から蹴られたような衝撃が走り抜け、転移門の中へと吹き飛ばされる。


「うおあっ!?」

「きゃぁっ!?」


 ドドドドっと、リズムよく俺たち全員が吹き飛ばされる。

 しかし、転移門に飲まれるその刹那、俺達の背後に立っていた人物へと視線を確認することが出来た。

 そこには、軽い調子で俺たちへと手を振る、黒い鎧に身を包んだ男が立っており。



『せいぜい頑張りな、主人公』



 そのプラカードが、視界に映った。




 ☆☆☆




 戒神衆の筆頭たる俺――ガイズは、サタンの旦那から頼まれたっていうこともあり、森国の中へと侵入していた。

 俺の背後には総勢百名の戒神衆が存在しており、いずれも単体で大悪魔達ともまともに勝負できるような精鋭揃い。

 曰く、この森にはあの執行者の仲間達が潜んでいるらしいのだが――


「言うても、アイツらにここまでする必要があるのかねぇ?」


 かつて戦った時空神に地獄神。

 あの二人は確かに強かったが――けれど、だからといって、蘇ることで強くなった今のサタンの旦那たち、加えてあの良く分からない兄ちゃんには絶対に勝てない。

 どころか、本気の俺にすら勝てないだろう。

 なのにこれだけの精鋭を送るように頼んだということは。


「それ以外に……何かが居る(・・・・・)、ってことか」


 ――何か。

 その何かとは一体なんだろうかと考えて――


「……」


 目の前に、人影が立っていることに気がついた。


「――ッッ!?」


 ――一瞬。

 ほんの一瞬だけ、気を抜いた。考え事をした。

 確かにソレは隙だっただろうが、だからといってその一瞬を見計らい、突くことが出来るかと聞かれれば――迷うことなく否と答えるだろう。

 それほどまでに極限の――ほんの刹那に。


 奴は――目の前に現れた。


「……なぁるほどねぇ? これは確かに、あの嬢ちゃんたちとは比べ物にならねぇな」


 目の前に佇むのは、黒い鎧に身を包んだ一人の男。

 ヘルムの後ろからは長いピンク色の髪が伸びているが、よく見れば鎧の形状、そして背丈や骨格から男だってことがわかる。


 そして最も特筆すべきことこそ――その、気配の希薄さ。


 目の前に居る。

 そう分かっているにも関わらず、気を抜けば見失ってしまいそうになる。惚れ惚れする程に見事で、完璧すぎる気配遮断。


「……アンタ、一体何者だ?」


 これほどまでの実力者……、そうそう居てたまるかってんだ。

 まず間違いなくサタンの旦那と同格……いや、それ以上も十分に有り得る。

 もしかしたら……あの男にも――



「――はぁ」



 ため息が聞こえた。

 次の瞬間、俺の体は巨大な木の幹へと叩きつけられており、口から大量の鮮血が吹き出した。


「がは……ッ!?」


 目を見開く。

 ――なにも、見えなかった。

 これでも、今の大悪魔の連中にだって負けない力は持っているつもりだ。現に数名の大悪魔たちには模擬試合にて勝ってきた実績もある。

 にも関わらず、その一挙手一投足が、何一つとして見えなかった。

 その上――


「――!?」


 目の前の光景に愕然とし、目を限界まで見開く。

 先程まで居たはずの、総勢百名の戒神衆。

 いずれも、間違っても弱者などとは呼べない化物ぞろいだった彼らがいた場所には――大きな、血の池が広がっていたから。


「ば、馬鹿な……!?」


 有り得ない、有り得てたまるか。

 数人集まれば、この俺でさえ手を焼く怪物だぞ……?

 それを……一瞬で――


「……」


 ふと、視線を感じて視線を向ける。

 そこには、血の池の中心でこちらを見つめるその【黒鎧】が存在しており――その姿を見て、俺は、今になってやっと確信する。



「お、お前……! ま、まさか――」



 俺が最後に見た光景。


 それは――ヘルムの下で妖しく煌めく、真紅の瞳だった。



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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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