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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
森国編Ⅱ
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焔―006 樹海にて

 目の前に広がるのは大樹林。

 先程までいた『奈落』とは一変した環境に思わず周囲を見渡して――


「……」

「うおわぁっ!?」


 すぐ隣で、見たこともない人物が俺の顔をじっと眺めていたことに気がついた。

 思わず変な声を漏らしながらも後退り、今さっきまで(おそらく手抜きされていたとはいえ)強敵と戦っていた仲間達もすぐさま武器を構える。


「な、何者だよコイツ……」

「月光眼発動してたのに……、写りもしなかった」

「……こちらもです」


 凛ちゃんの言葉に思わず目を見開く。

 ――月光眼に映らない。

 確かに凛ちゃんの『眼』はオリジナルと比較すると幾分が性能的にも落ちているのではないかと思う。正確には凛ちゃんが銀ほど使いこなせていないだけだと思うが。

 それでも彼女の『眼』の持つ空間把握の力は、御厨が神々から授かった『空間把握』の力にも迫り得る。

 それに……映らなかった?

 それは一体どんなバケモノだ。大悪魔メフィストフェレスか? 狡知神ロキか? ……いや、それ以上も十二分にあり得る。


「……」


 身長は花田と張るレベルか。黒色の鎧に身を包み、後頭部からは艶やかなピンク色の髪が溢れている。背の高さから男性と見るべきか、髪の感じから女性と見るべきか……。どうしよう、非常に悩む。

 その人物は首を傾げながら顎に手を当て。


『なんだお前ら。不審者か?』


 という文字の書かれたプラカードをどこからか取りだした。


「ふ、不審……、し、失礼なッ! これでも――」

『はいはい分かってるって。どーせタルタロスが簡単な試練でも与えて乗り越えさせたんだろー? 例えばここに通じる通路の守護者に手加減させたとか』

「うぐ……」


 連続で繰り出されるプラカードに思わず言葉を詰まらせる。

 しかしなんだろう、このおちょくられてる感じ。

 思わず睨み据えると、ヤツはおどけたようにオーバーリアクションを取る。


『おおっと、こわいこわい。おれっちそんなに強く設定されてねーんだよ。そう睨むな、怖いんだからさー』

「そんな高位の気配隠蔽できてる人にそんな事言われても……」


 凛ちゃんが小さくツッコミを入れたがどうやら奴の耳には届かなかったらしい。


『まぁ、恭香嬢も、あの人が認めたアンタらなら通ってくるだろうっていってたし、出口であるここで待ってたってわけだが……、とりあえず確認ってことで。久瀬竜馬、ってのはアンタか?』


 シリアスなムードを醸し出しながら。

 奴が視線を向けていたのは――花田だった。


「へ? いや、俺は違うっすよ。花田っす」

『……は? いや、どっからどう見ても一番強そうだろ。一番イケメンだしよー』

「へ、へへへ……」


 満更でもなさそうな花田、後でぶん殴ろう。

 すると奴は今度こそ俺の方へと向く――かと思いきや、通り越して御厨の肩へと手を置いた。


『待ってたよ久瀬竜馬。君ならここに来るだろうと思っていた』

「……いえ、私も違うのですが」

『……は? え、お前も違うの?』


 思わず額に青筋が浮かび上がるのを感じる。

 なんだろう……ものすごくぶん殴りたい。

 奴はキョロキョロと周囲を見渡して――ふと、俺の方へと視線を向ける。


『……え、まさかとは思うけど、男子勢の中で一番イケメンじゃない上に一番パッとしておらず、それどころか今どき黒い着流しとか着ちゃってるこの中二病(笑)……、コイツが久瀬竜馬?』

「ぶっ殺すッ!」


 刀を構えて駆け出す。

 その足に迷いはなかった。

 もう言われ慣れてきたことだったが――だがしかし、こう改めて言われると無性に腹が立つ。

 俺の振るった剣は真っ直ぐ奴の首元へと吸い込まれてゆき――


「――はい、そこまで」


 瞬間、虚空から召喚された金色の鎖が刀を縛り上げる。

 この刀は神器――黒刀べヒルガル。

 俺の血を用い、銀が作り上げた紛うことなき最強の矛。

 それをいとも簡単に止められる人物など――そんな人物が所属する所など、俺は一つしか知らない。


 声の方向へと視線を向ける。

 そこに居たのは、魔力を帯びた片手を掲げる一人の少女。

 未だあどけない顔立ちに、首の後ろで纏めた腰まで伸びる長い黒髪。

 そして、全てを見通すような金色の瞳。

 彼女は大きく息を吐き出すと。



「ごめんなさい、久瀬竜馬とその一行。うちの一番の馬鹿が馬鹿しちゃったみたいで」



 そこに居たのは間違いなく。

 俺達の探していたその人――恭香さんだった。




 ☆☆☆




 恭香さんに案内されたその先にあったのは、樹海の中にぽつんと佇むログハウスだった。


「ごめんね、今はみんな出払っちゃってて」

「あ、えっと、お気づかいなく……」


 あんまり面識のない友達の彼女(子供)と話している事に、なんとも言えない緊張感が走り抜ける。

 言い換えれば気まずさだろうか。どっちにしろ心地いいとは言い難い。

 ――のだが。


「ひゃーっほーーうっ!」

「ゆ、優香ちゃんっ! そんな人様の家で……」

「え? さっきあの子、自分の家だと思って……的なこと行ってなかったかしら」

「言ってないよっ!」


 普段通りの馬鹿に青筋を浮かべていると、ポンと肩に手を置かれる。

 見ればそこにはサムズアップしている黒鎧が立っており。


「……」

「なんだよその無言の視線は!」


 叫んで肩に置かれた手を振り払うと、呆れたようなため息が聞こえてくる。


「……ちょっと? あんまりお客さんにふざけた態度取らないでくれる? また白夜に殴られるよ」

『ひぃっ!?』


 体を震わせ、プラカードで悲鳴をあげた奴は角っこに身を寄せて蹲る。……よっぽど酷い目にあったんだな。

 と、それはともかくとして――


「それより――」

「分かってる。けど、それよりも先に貴方達には、ギンがどういうことをして、その末に死んだのか、知っておいてもらいたい」


 ――死。

 その単語を改めて突きつけられ、思わず言葉に詰まる。

 分かってはいた。分かってはいたんだ。

 けれど、こうして彼の相棒に改めて突きつけられると、どうしようもないやるせなさに襲われる。


「……どうして自分はその時、ギンの側に駆けつけられなかったのか、とか。もしもそう思ってたりするなら」


 ふと、彼女が呟いた言葉に拳を握りしめる。

 思わず歯を食いしばり……、そして。


「――それは、こっちのセリフだよ」


 思わず、目を見開いた。

 顔をあげれば、目の前には悲しげに窓の外へと視線をやる彼女が佇んでおり、その姿はとても……儚げだった。

 ――理の教本。

 確か、主との契約さえなければ一切力を使うことの出来ない、正しく誰かに仕えるためだけの存在。

 けれどしっかりとした自我を持ち、今までアイツの仲間として……相棒として、生き続けてきた。

 それが、何故そんなにも悲しげな――


 それこそ、まるでその時、その場にいることが出来なかったとばかりに、悲しそうな表情をしているんだ。


 思わず声をかけようと口を開き――直後、声を出すよりも先に俺の横を大きな影が通り過ぎていった。


「……お前」


 俺の横を通り過ぎ、彼女のそばまで歩いていったその黒鎧は、彼女の頭に優しく手を伸ばす。

 ――一瞬、その黒鎧の姿に、銀の姿を重ねてしまう。

 けれどもすぐに頭を振ってその考えを放り投げる。

 そんな訳がないだろうと。

 銀は、死んだんだ。

 恭香さんだって言っていたじゃないか。

 そう思う反面、どうしても今見た光景が忘れられない。


「……この、馬鹿」


 拗ねたようにそっぽを向く恭香さんに、黒鎧は笑っているのか、大きく肩を震わせて――



「ああああああっっ!! やっと見つけたわよこの木偶の坊! どこほっつき歩いてるかと思えばよりにもよって恭香さんにセクハラ!? このスケベ大魔神があああっ!!」

『!?』



 ――ログハウスへと、嵐が訪れた。

 音を立てて開かれた扉の方へと視線を向けると、そこには悲壮感を漂わせる多くのエルフたちを連れた一人の少女が佇んでおり、彼女は顔を真っ赤にして黒鎧へと向かってゆく。


『ひ、ひぃっ!?』

「ひいじゃないわよ! タダでさえアンタのところの頭おかしい連中が私達の仲間をみーんな使い物にならなくさせちゃったんだから、今は少しでも人手が欲しいところなの! 特にアンタみたいに怪力(ステータス)以外なんの取得もないスケベ大魔神はね!」


 なんという事だろうか。

 さっきまでめちゃくちゃそれらしい雰囲気醸し出していた黒鎧が、小さなエルフ少女に引っ張られて家の外へと連れ出されてゆく。


『いやだあああああ!! き、恭香嬢、助け――』

「あー、目にゴミが……」

『ふざけんなああああああ!!』


 プラカードで絶叫をあげていた黒鎧はログハウスの外に放り出され、疲れたようなエルフの兵士達がその両脇を抱えて逃げられないようにしている。


「お邪魔したわね、恭香さん! 一応ここは貴方達の国のようなものだし、何かあったら気軽に言ってちょうだいね! あ、あと……」

「分かってるよ、ネイルに遊びに行くよう伝えとく」

「そ、そんなこと頼んでませんことよっ! そ、それじゃあねっ!」


 顔を真っ赤にしながらも、微笑みながらさってゆく嵐。

 思わずポカンとしていると、んんっと、わざとらしい咳払いが聞こえてきて正気に戻る。


「とまぁ、邪魔者もいなくなったところで、そろそろ本題に入らせてもらうけれど」

「はっ!? そ、そう言えば……」


 すっかり今の嵐の影響か、頭から抜け落ちてたぜ。

 思わず冷や汗を拭う俺へ。



「とりあえず、ギンがどうして死んだのか。それ【だけ】教えてあげるよ」



 すべて見通されていることに、さらに冷や汗が溢れ出してきた。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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