焔―004 レプリカ
ギンで慣れてるから物凄く書き辛い。
そこに広がっていたのは――鉄の壁によって囲まれた、ドーム状の部屋だった。
そして、その中心には大きな台座が。
「ここが……」
『そう、試練の部屋だ』
――そして。
そう続けた彼女。それに伴って、その台座の上へと巨大な闇が集い始める。
……いや、闇というよりは――影、だろうか。
影という概念の消失したこの世界において、その影はあまりにも異質極まりない。
が故に、俺はそのレプリカが何者か、すぐに直感することが出来たのだ。
「――ギン=クラッシュベル」
そこに居たのは――紛うことなき、銀だった。
☆☆☆
銀は――否、銀のレプリカは、感情の見えない虚ろな瞳で虚空をただ見上げているばかり。
レプリカは台座に片膝を付き、何も動かずにその場に居る。
――そんな中、俺と凛ちゃんはほぼ時を同じくして、銀の体の変化に気がついていた。
「……あれ、本当に兄さん、なの……?」
闇のような漆黒色をしていた髪は薄く赤色に染まり、表が黒く、裏地が赤かったローブは赤い面が表となっている。
そして、その双眸は――銀色に、染まっていた。
『あぁ、この姿こそが死んだ当時のギン=クラッシュベルその人だ。紛うことなき、本当の最強へと至った、陽を司りし影の姿』
その言葉と同時に、レプリカは動き出す。
膝をついていた姿勢から立ち上がり、スッと俺達の方を見据えてくる。
――そして、身が竦むほどの殺気が迸る。
「――ッ!?」
『安心してほしい。所詮はレプリカ、コピーした当時の彼の、おおよそ半分も実力はない。まぁ、彼でいうところの影分身の分体と言ったところかな』
――けれど。
そう続けた彼女が、きっと次にいう言葉。
その言葉を、多分俺達はみんな分かっていた。
『――けれど、仮にも最強の分体。能力も何から何まで瓜二つ。さて、君たちはこの試練、乗り越えることが出来るかい?』
銀のレプリカが駆け出したのは、それと同時のことだった。
☆☆☆
レプリカが駆け出したのを見て、俺と花田は同時に前へ出る。
「俺と花田が最初は相手取る! 優香と妙は凛ちゃんの護衛、御厨、愛紗、京子は後衛を頼む!」
俺とタンク最強クラスの花田が、最初はこの銀のレプリカの相手をする。
そして司令塔の御厨、一度見た生物を召喚でき、さらには魔法を吸収できる愛紗、そして魔法全般に関して最も力量が高い京子が後衛として援護。
そして――
「凛ちゃん!」
「分かってる!」
凛ちゃんの能力は、銀の能力を読み取り、我がものとするというもの。それは今、レプリカの銀だったとしても変わりはない。
だからこそ、近接戦最強の優香と、自由自在に相手の位置を固定できる妙を護衛に回す。
今回、勝機はどれだけ早く、凛ちゃんが銀の――今の、最強へと至ったという銀の能力、その全貌を明かせるかにかかっている。
腰に差していた剣を抜き放ち、花田はガッシリと盾を構える。
そして――目の前から、銀の姿が消えた。
『――ッッ!? う、後ろだ久瀬竜馬!』
「!?」
青龍の声に、咄嗟に背後へと剣を振り抜く。
ギィンッ!
瞬間、腕へと硬い衝撃が響き、火花が散る。
「――そういや、位置変換、とか。そんな能力も持ってたんだったか?」
目の前には、黒十字の短剣を握りしめた銀のレプリカの姿があり、その銀色の瞳と視線が交差し――直後、ぐらりと、脳が揺れる。
『チッ……! 位置変換に円環龍の武器、さらには幻術とは……なんと厄介な小僧だッ!』
『ふははっ、流石だな。以前戦った時よりもさらに強くなっておるわ』
強くなっている。
それはつまり――あの頃の銀よりも、このレプリカの方がさらに強いということでもある。
ならば、本物の銀は――一体どこまでの高みまで上り詰めたのだろうか。
そう考えて……少し、頬が緩む。
「少し、燃えてきた」
身体中から黒色の炎が燃え上がる。
――幻術。確かに本物の月光眼相手に幻術をかけられればかなり脱するのに時間はかかるが、それでもこの月光眼は偽物だ。魔力さえしっかりと保てば、この程度の幻術なんてすぐに抜け出せる。
なにせ俺は常日頃から、お前と同じ能力持った子と模擬試合してるんだ。それくらいはこなして見せる。
それにさ、銀。
「お前が俺のことをどう思ってるかは知らないけどさ。お前は俺の憧れでもあると同時に――俺の、ライバルでもあるんだ。そんな奴に思いっきり先越されて……燃えないわけがないだろう?」
その時。気のせいかもしれないけれど、その銀のレプリカが……少しだけ、笑ったような気がした。
見間違いだってわかってる。
けど、ここの本当のアイツがいたら――きっと、いつもみたいに口の端を吊り上げて、ラスボスみたいに笑っていたんだと思う。
剣を振り、銀の体を押し飛ばす。
「……フゥ」
大きく息を吐いて、黒刀の切っ先を奴へと向ける。
強さが半減したレプリカ。
それでも強いっていうんだから、本当に呆れを通り越して、尊敬するばかりだよ、お前には、さ。
けど、俺は追いつきたい。
追い越せなくてもいい。
ただ、お前に追いついて、肩を並べて笑ってやりたいんだ。
俺も、ここまで来てやったぞ、って。
だから――
「最強まで至るまで、俺は誰にも殺されない。こんな所で、負けてられない」
銀がかつて至ったように。
今度は俺が――その、頂へと至るんだ。
そのためならば、目の前に立ちはだかる全てを燃やし尽くし、灰を喰らってでも生き続けよう。
「――さぁ、焼却開始だ」
いつかまた会った時に。
今度こそは、自分を誇れるように。
☆☆☆
ぎゅっと、黒刀べヒルガルを握りしめる。
同時に黒刀から青みを帯びた黒色の炎が吹き上がり、視線の先にいたレプリカが、初めてピクリと反応を示す。
「行くぞ花田、目指すは凛ちゃんがアイツの能力を読み取るよりも早い決着だな」
「そ、それはそうっすけど……、大丈夫っすか? 相手はあの――」
不安げに言葉を紡ぐ花田ではあったが、俺の顔を見て言葉を詰まらせる。
分かってる。相手はレプリカといえど、あの銀だ。
アイツの活躍ばかり知っているからか、勝ち目は薄いように思える――けれど、俺達だって、アイツと同じだけの時を修行に費やしてきたんだ。
確かに一人で戦うことに特化したアイツのレプリカに、一対一で勝つにはまだまだ力が足りないだろう。
――だが。
「大丈夫。俺達には、仲間がいるさ」
俺達は一人じゃない。
なら、これだけの仲間が集まってるんだ。
レプリカくらい簡単に倒せないと――それこそ銀に鼻で笑われちまうだろう。
『あっるぇー? もしかして、だけど。そんなに人数揃えておいて僕のレプリカにすら勝てないの? あれあれ? 久瀬くーん、主人公みたいな声してるんだからしっかりしてよぉー?』
もしもそんな所をアイツに見られたら、きっと、そんなイラッとくることを言ってくるに違いない。
何が主人公の声だ、何が勝てないだ。
「――うるせぇ、勝ってやるよこの野郎」
獰猛に笑って、走り出す。
「『焔神』ッ!」
唱えると同時、俺の体を纏っていた黒い着流しが姿を変え、体そのものが再構築されてゆく。
神になれない人間モドキ。
人間でありながら神になり得る力を得た『神化』スキル所持者。その中でもランダムに、或いは必然的に、内一握りのみが取得できる固有の神化スキル。
銀でいう『影』。
俺で言う『焔』。
その力はその他の神化スキルとは一線を画し、世界にすら影響を与える力を誇る。
銀は……たしか、世界を部分的に夜へと変化させるとかいう、常識をぶち壊したような力を持ってたはずだ。
まぁ、あれは俺達特殊な神化スキル所持者の中でも別格と言ってもいいだろう。吸血鬼って種族と影の神っていう概念が上手く組み合わさって、常識破りな能力が出来上がったに違いない。
その面、俺の能力は単純明快。
まぁ、他にも色々と能力はあるのだけれど――それでも、一番強くて、使いやすい能力はこれだろう。
「――『モード・剣聖』」
瞬間、俺の周囲へと六つの刀が召喚される。
それらは全て、高密度の黒炎によって作られた、防御不可避の壊れぬ黒刀。
防ごうと思えば炎と化してそれをすり抜け。
壊した所ですぐさま元へ戻る。
――その上、全てが自由自在に操作可能。
視線の先では、やっと本格的に構えをとった様子のレプリカがおり、その姿を見て思わず頬を吊り上げる。
「さて行くぜ! 最初っからブッちぎるッ!」
六つの刀が、一斉にレプリカへと襲いかかった。




