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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
竜国編Ⅱ
508/671

第215.5話 朱雀との契約

影編ラスト

「シッ――」


 刀身から赤い輝きを放つ『ブラッディウェポン』が、虚空にその軌跡を描きながらリザードマンの首を跳ねた。

 ドシャッとその体が地に沈み、徐々に広がってゆくその血の池を眺めながら、ふぅと荒い息を吐き出す。


『大丈夫か?』

「あ、あぁ……」


 そうは言うが、実際のところかなり限界も近づいている。

 ――雪国ホワイトベル。

 現在の首都から離れた場所に存在する、旧王都の古城。

 修学旅行の最終日、自由時間を使って僕はそこまでやって来ていた。

 というのも――


「僕が死んだ時のため、とか言ってたけど、この僕がそうそう死ぬとは思えないんだけどさ……」

『そういう奴ほど意外と早く死ぬもんだぜ』


 再度、頭の中に声が響く。

 声の主は僕の持つ神器・炎十字(クロスファイア)に宿る魂の持ち主――聖獣、白虎。名前をクロエという。

 彼女は『用事がある』といい僕をここまで連れてきたわけだが、正直僕としては修学旅行を楽しみたいというのが本心なわけで――


『その修学旅行? なんざ生きてりゃいくらでも出来んだろうが。死んじまったら元も子もねぇ。だからこそこうして【可能性】を探りに来てるわけだ――っと。おい、ここだここ』


 どうやら目的地に到着したようだ。

 視線を上げれば、そこには軽く見積もっても十メートルはあるだろうと思われる巨大な扉が存在しており……、間違いない、この『熱さ』の正体は間違いなくこの奥にいる。


『その通りだ。んで、今回はその野郎に用事があってきたわけだが――おい玄武』


 僕の羽織っていた常闇のローブが巨大な『手』を形作り、その巨大な扉を押し開けてゆく。

 ギイイイイ――……。

 徐々に開いてゆくその扉。

 そして――荒れ狂う膨大な熱気。


「ぐぅ……ッ!?」


 体を襲った熱気に思わず顔を歪める。

 暑いを通り越して既に『熱い』空気に汗すら蒸発する。

 息を吸えば喉が焼けてしまいそうだ。

 今の僕じゃ――ここには、到底居られない。

 思わず後退り、踵を返そうと考えて――



『なるほど、貴方達でしたか』



 凛とした声が耳朶を打ち――直後、その熱さが消失した。

 変わりに僕の体を包んだのは、優しくて暖かい、逆に傷を癒してさえくれるような、そんな紅蓮の炎だった。


「な――」


 けれどその炎に驚くよりも先に、その存在に愕然とした。

 扉の先は――謁見の間。

 朽ち果てた古城の中、謁見の間には奥まで薄汚れたレッドカーペットが敷かれており……、奴は、その最奥に居た。


『それが、貴方達の新たな主ですか? 白虎、玄武』


 そこに居たのは――燃え盛る、巨大な火の鳥。

 体中からは紅蓮の炎が迸り、その金色の瞳は優しい色をその奥に秘めている。

 敵では……ない。

 それどころか――



「せ、聖獣、朱雀……?」



 そこに居たのは五聖獣が一角。

 不死の炎を司る――朱雀だった。




 ☆☆☆




『自分が死なないと考えるのは、愚か者のすることです』


 開口一番に、そんなことを言われた。

 今さっき、僕が黙っている間にもクロエが色々と朱雀さんへと言ってくれちゃってたわけだが、それを聞いた朱雀さんの第一声がそれだった。


「え、えっと……まぁ、分からなくもないけど」

『分からなくもない、ではなく分かりなさい。仮にもこの二人を従えているお方が賢くないわけがないでしょう』


 毎度思う。

 賢いとか言われたら、僕はどう答えたらいいのだろうかと。

 正直僕は賢い。ぶっちゃけるとそれが事実だ。

 だが、それを表立って言ってしまえば『何あいつ? めっちゃナルシストじゃん』ってなる。

 それは嫌だ。

 なので――


「いやいや、そんなことないですって」


 そんな感じでとりあえず謙遜してみる。

 しかし、朱雀さんはため息を漏らした。


『初対面の、私のような者に褒められて、表情一つ変えていない時点でかなりのものだと思いますが……、まぁ、今はそこら辺はどうでもいいのです。本題は――』

『あぁ、この馬鹿が死んだ場合の保険だ』


 ――僕が死んだ場合。

 僕が死ぬだなんて……というか、誰かに殺されるだなんて全く想像がつかないが、確かに二人の言うとおり、自分が殺されないとタカをくくるのは馬鹿の――愚か者のすることだ。

 自分が殺されるビジョンが見える奴なんていない。

 自分が死ぬ未来を想像出来る奴なんていない。

 つまりは――そういう事だろう。


「で、僕が死んだ場合どうするんだ? 不死鳥……朱雀さんなら、僕を生き返らせることでも出来るとか……」

『残念ながらそれは出来ません。私は確かに不死。存在そのものが反則と言ってもいい、【死】という概念を超越した存在。現に五聖獣の中で存命しているのは私一人のみ。ですがそれはあくまでも私個人でのことで、この力を他人に分け与えることはできません』


 ……何気にすごい事言ったなこの人。

 もしかしなくても、この人なら混沌に喰われたって平然としているんじゃなかろうか。

 思わず頬を引き攣らせていると、朱雀さんは小さく息を吐き出した。


『私に貴方の死を防ぐことは出来ない。だからこそ、白虎――クロエが貴方をここへ連れてきたのは、貴方が実際に死んだ後、死霊術やその類に利用されるのを防ぐためでしょう』

「……死んだ、後?」


 その言葉を復唱する。

 僕が死んだ時のため。そう聞かされてきたから、自分の中でその死を防いだり、あるいは生き返ったりする方法があるものだと思っていた。

 だが――死んだ、あとの話?


『ええ、この世界には死体を利用する能力が多く存在します。死霊術はその代表例ですが、その他にも死体を操る能力は多岐に渡り――中には、魂すら無理矢理に引き戻し、生き返らせた上で配下に置く、なんて能力もあるかもしれません』


 もしもそんな能力があったら……。

 ふと考えて、すぐにやめた。

 そんなチート極まりないクソ能力あってたまるか。もしもそんな能力持ちが敵として現れたのなら、きっとそいつがラスボスに違いない。


「まぁ、最後のはないとは思うが、たしかに死んだ後、僕の肉体を操られるってのはその後の人たちからすれば厄介極まりないだろうしな……」


 今の僕はまだまだ弱いが、それでもそれは『今』の僕だ。

 僕はまだまだ強くなる。

 もしも、そんな強くなったあとの僕が支配されてしまったら……きっと、厄介って言葉じゃ済まないだろう。


『だからこそ、こうして朱雀ん所訪ねてきたってわけだ。朱雀は生と死を司る不死の鳥。時間だけでいえばお前のところの死神よりもよっぽどそこら辺に熟練してる。コイツなら、お前が死後、操られた時も被害を最小限に留められる』


 クロエの言葉に改めて朱雀さんを見上げる。


『……そうですね。私と契約してくだされば、少なくとも貴方の【魂】だけ、死後に完全保護することができます。さすがに肉体はどうにもなりませんが、死霊術にとってかけがえの無い魂をこちらで保護できる。それはつまり、死体を操られたところでその脅威は半減するということ』

『ちなみにだが、私はお前の【魂】に住んでるからな。意識は一種の冬眠みたいな状態になっちまうだろうが、それでも死ぬことはねぇって訳だ』


 二人の言葉に、思わず顎に手を当てる。

 たしかに、二人のいうことは一理ある。

 どころか一見、正しいようにも思える。

 けれど――


「……自意識過剰、かもしれないけど。もしも、もしも僕の死体がさらに『強化されて』死霊術にかけられたとしたら……。その時は、魂が無いだけじゃ焼け石に水ってものじゃないか?」


 魂がこちらで保護されるということは、つまりは魂に刻まれた武具や存在――僕で言うところの『神器・炎十字(クロスファイア)』……クロエの力も僕の死体からは消失するということ。

 それに加え、僕の代名詞たる『影』の力も魂が消えることで半減するに違いない。

 ――けれど。


「例えばこの左眼……月光眼。それにこの常闇のローブ。今まだ全然使いこなせてないけれど、これらは間違いなく僕の切り札にもなり得る力。……こういうのは、死体に残るってことなんだよな?」

『……まぁ、そうなりますね』


 そう、問題はそこだ。

 僕の肉体はそのまま残る。

 半分とはいえ影の力も残るし、ブラッディウェポンもまた、魂に統合されるなんてご都合主義なことにならない限りは残ってしまう。

 きっとあの厄介な二つの武器――アダマスの大鎌、そしてグレイプニルだって残るだろうし。

 そして何より……『常闇』と『眼』が残る。


 常闇は……どうするか、肉体が着ている以上は多分どうすることも出来ないんじゃないか?

 眼は……死の直前で都合よく潰せればいいが、きっと、死の間際にそんなことをしている余裕はないと思う。

 ならば――



「――誰かに、受け継がせる……?」



 ふと、その言葉が脳裏に浮かんだ。

 ――月光眼。

 空間を司りし万能の魔眼。

 世界三大魔眼が一つで、全てを見通し、全てを操り、戦闘を尽くサポートする、それ一つで戦況をひっくり返すような力はないが、その代わりに持ち主の力を、ポテンシャルを、何倍にも引き上げるだけの力を持つ。


 これを、もしも誰かに……そうだな。

 例えば、月光眼と同程度の力を秘めた『右眼』を持つ者に受け継がせることが出来れば。


 その時、きっとこの左眼は――更なる進化を遂げる。


 今の僕を……いや、きっと未来の僕をも超える絶対的な力を誇る――本当の最強が、完成するかもしれない。


『……確かに、そんなことが出来りゃ理想的だが、お前はいつ死ぬとも分かんねぇんだぞ? それとも何か? 先に左眼だけ抉りとってこれから戦力落とした状態で生きてくってのか?』


 クロエの言うこともまた正論。

 確かに現実的に見ればそうだ。

 だけどここは、現実的という言葉が、時に酷く薄れる――ファンタジーだらけの、異世界じゃないか。


『――加護』


 ふと、朱雀さんの声が耳朶を打つ。


『加護、なんてどうでしょうか。神々の加護は基本的にその神によって設定が可能となってます。例えば一人に絞って強大な力を与えるか、多くの人に与えるために力を分散させるか。そして何より、加護の力は、どんな無理をも突き通る』

『おい! 加護ってのは本物の神じゃねぇと使えねぇ代物だろうが! こんな神と人の間をうろちょろしてる奴が――』


 咄嗟に反論したクロエに、朱雀さんはピシャリと言い放つ。


『――出来ますよ。今よりも遥かに、それこそ、大悪魔だって片手間で倒せてしまうほどに、どんな挫折すらも乗り越えられるほどに、力、精神力、共に強くなることが出来れば』


 ――それはきっと、到達困難な場所なのだろう。

 だからこそクロエは無理だと言おうとした。

 僕だって、その言葉を聞いただけでため息が盛れそうになる。


 ――けれど。


「僕の死と同時に、僕の力を――この瞳を、加護を与えた何者かへと受け継がせる。僕の死を前提とした加護……。恭香にバレたら怒られそうな内容だな……」


 困難でも、不可能じゃない。

 不可能じゃないなら――可能ってことだ。


「いいよ、朱雀さん。契約しよう」


 言って彼女へと左手を差し出す。



「僕が死んだ時、僕の魂を隔離してくれ。そしてあわよくば、その時点において最も強い【味方】に、その魂を預けてくれないか」



 ――僕がまた、戻ってこれるように。




 ☆☆☆




 これは、誰も知らない小さな物語。


 彼と彼女の。


 小さな――契約の物語。



次回から新章突入!

果たしてギンは戻ってこれるのか!


そしてシロちゃんをお待ちの皆様お待たせしました! 影編が終了したことにより、こっちが二日に一日投稿へ、そして空いた一日に番外編を執筆します!


〇ギンの冒険を見たい! →番外編へ。

〇続きが気になる! →本編の続きへ。

〇仕方ねぇ、付き合ってやるか→両方読む。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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