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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
竜国編Ⅱ
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影―120 その先へ

影編、本編としてはラストです。

 瞼を閉ざせば、頭に声が響く。


『いいかい、銀。僕らが君に干渉できるのはこれが最後だ。僕らが君に分け与えられる命は燃え尽きる寸前のほんの一握り。その力を使い続ければ死ぬ事実も変わらない。そして死ねば、ここに君の肉体がある以上、君は混沌の手に落ちる』


 あぁ、分かってるよ、お父さん。

 瞼を開く。

 そこは僕の心の中にある、ウルの部屋。


「……もう、来るところまで来たという感じですか」


 笑っていたが、何処か寂しそうなウルに思わず苦笑いする。


「なに、まだ死ぬと決まったわけじゃない。そんな顔するのは僕が死んだって決まってからでも遅くないだろ」

『なーに縁起でもねぇこと言ってんだこの野郎。これが終わったらたらふく暁穂のメシ食わしてくれる約束だろうが』

「……は? 何その約束」


 聞き覚えもないんだけど。

 思いながらも、しゃがみ込み、足元に寄ってきた小さなクロエの頭を撫でる。


「まぁ、いいか」

『あぁ、いいんだよ。だから生きて帰ってこい』

「うい、分かった」


 立ち上がると、クロエが離れていくと同時にウルが僕の方へと近寄ってくる。


「ご主人様。これが最後じゃないとは思いますが、なにか質問とかありますか? 私はこれでもミステリアスキャラですから」

「お前、結局性別どっちなの?」


 即答する。

 コイツに関して一番気になるのはそれである。

 美女なのか、男の娘なのか。

 あるいはそれらを超越した何者かなのか。

 真面目に質問した僕に対し、ウルはクスクスと笑うと。


「それじゃ、すべて終わったら一緒にお風呂にでも入りますか」

「え゛」


 硬直してしまっている間にもウルは離れていってしまい、入れ替わるように不機嫌そうなアポロンが歩いてくる。


「この変態」

「おい、酷い言い草だな。頑張って助けてやったのに」


 元はと言うと僕が約束破ったせいなのだが。

 そんな感じの返事が来るかと思ったのだが、少し頬を赤らめたアポロンは。


「……だから、御褒美ってことで、私も一緒するわ」

「……お前、変なもの食った?」

「食べてないわよ!」


 思いっきり叫ぶアポロン。

 いつもの様子に思わず笑い、手を掲げる。


「まぁ、それに関しては後々、ってことで」

「ええ、後々(・・)ね」


 パアンッとハイタッチを交すと、アポロンもまた離れてゆく。

 そして最後に現れたのは――小さな光。


『最後まで、ごめんね。あんまり役に立てなくて』

「いやいや、お前が役に立ってなかったら他の奴ら、ほとんど全員役立たずになるだろ」


 彼女――神剣シルズオーバーに宿る何者かは、必ず必要なところで僕のことを支えてくれた。

 まぁ、神剣シルズオーバーがウルの『月蝕(イクリプス)』と同じ類の存在で、実力如何によっては複数召喚も可能だということはさっき知ったばかりだけど。

 それでも。


「お前が居なかったら、僕はここまでこれなかった。だから、改めてありがとう」


 彼女はやっぱり答えない。

 けれどその光は、少しだけ嬉しそうに輝いていた。


 ふっと、意識が浮上する。

 ローブが風にはためき、少し口元を緩める。


 ――お前もだな、常闇。あんまり喋れなかったけど、お前のこと、多分あいつらの誰よりも頼りにしてた。だから、今までありがとう。


 一体何度、彼に命を救われたか。

 彼がいなかったら、多分僕はずっと前に死んでいた。

 だから、常闇にも感謝だ。

 けど、悪いなお前ら。

 もう一仕事終えて帰ってくるから。

 その時まで、また一緒に笑える日が来るまで。


 ――笑顔で、待ってて欲しいんだ。



「――これより、執行を開始する」



 さぁ、やろうか混沌。

 今の僕は、世界中の誰よりも強い。




 ☆☆☆




「この……ッ! 死に損ないが!」


 混沌の悲鳴にも似た声が響く。

 彼女は目尻を鋭く吊り上げ、歯を軋ませる。


「何故、貴様はなぜそこまでして立ち上がる! 殺した、殺したはずだ……ッ! なのに、何故――」


 混沌は顔を歪ませる。

 今にも泣きそうな、それでいて膨大な憎悪を孕んだ表情で。


「何故、そこまでして私の邪魔をしたがる!?」


 ――何故。

 そう聞かれれば……どうなんだろうな。

 正直よく分からない。

 まぁ、それらしい御託ならばいくらでも並べられるんだけれど、それでも一番、その中で本心に近いものを言うとすれば。


「――お前が、先に行くのに邪魔だから」


 邪魔だから、退いてもらう。

 その結果、相手の邪魔になっていたとしても……そんなこと、お互い様だろうが。


 混沌は一瞬目を見開いたが、もう僕らは、相手を言葉で動かせるだなんて思っちゃいない。

 だからもう、ここから先は――


「ならば、殺し合うか」


 混沌の体から膨大な魔力が吹き荒れる。

 今までの数倍、数十倍、いや、それ以上にも思えるほどの膨大な魔力の奔流にローブが音を立ててはためく。


「【混沌】という存在は、その場に存在しているだけで莫大なエネルギーを消費する。だからこそ、普段は力の過半を自身の維持に使用しているが――それも、もう止めた」


 絶望、憎悪、嫉妬、怨嗟……、そして虚無。

 あらゆる悪感情が詰まったような膨大な魔力が吹き荒れ、周囲を一瞬にして侵食してゆく。


「もはや互いに万策尽きた。今のコンディションがベストで、これ以上は、どうなろうと強化することなど出来やしない」


 互いに復活の手を使い、奥の手を用い、それでもなお、僕らの実力は拮抗している。

 混沌の言う通り、今の状態がお互いのベスト。

 ならば、今度こそ――



「「今度こそ、全てを終わらせよう」」




 ☆☆☆




 互いの姿が一瞬にして掻き消え、直後、僕らの立っていた中心部で重低音が轟く。


 ――たった一撃。

 神剣が混沌の腹を抉り。

 混沌の拳が僕の頬を抉った。


 たったそれだけで大地が粉々に砕け散り、周囲を余波だけで破壊し尽くしてゆく。


「が……ッ!?」

「グッ……ッ!」


 混沌の口から大量の鮮血が吹き出し、僕の上体が逸れるように吹き飛ばされてゆく。

 ――が、互いにその場から動くことは無かった。

 流された上体を戻しながら、口の端に伝う血を拭う。

 そして、鮮血を吐き出しながらも未だ眼光の鈍らない混沌に――思わず口元を緩める。


 ――あぁ、そうだよ混沌。

 もう、僕らは引けないんだ。

 互いに命を削り、限界まで力を強めた最高の状態で、全力で殴りあっている。殺し合っている。

 ここまで来るのに沢山のモノを見捨てただろう。

 僕は青春を捨て、仲間とのただ幸せなだけな暮らしを捨て、ただひたすらに走り続けた。

 混沌は仲間を捨て、家族を捨て、体を捨て、ただひたすらに走り続けてきた。


 だから、もう引けない。


 もうここからは――意地の、ぶつかり合いだ。


「ウオオオオオオオオオオッッッ!!」

「ハアアアアアアアアアアッッッ!!」


 混沌は拳で、僕の体を。

 僕は剣で、奴の体を。

 お互いに自分が持ち得る最強の矛で。

 目の前の相手を――叩き潰す。


 鮮血が舞う。

 もう何度斬りつけた。

 もう、何度『勝利』を確信した。

 けれど混沌は立ち上がる。

 何度だって立ち上がる。

 その瞳に――覚悟の光を灯しながら。


「が……ッ!?」


 混沌の拳が鳩尾を深く抉る。

 思わず息が詰まり、直後に混沌の背中から現れたのもう一つの腕が頭部を横薙ぎに振り払う。


「うぐ――」


 一瞬にして視界は流れ、直後には僕の体は遠く離れた場所にある岩石へと叩きつけられていた。


「く、クソ……」

「どうやらその力、まだ使いこなせていないようだな」


 混沌の声が響く。

 口元を拭うが、もう血は付着しない。

 どうやらもう……血も、尽きたようだ。


「どんなに強大な力とて、使いこなせなければただの無駄遣い。さて、貴様の命、あと何秒持つ?」


 もう息が荒い。

 視界は霞む、頭は鈍い痛みを放ち始めている。


 ――ほんの一握り。


 二人が――僕の両親が、いつかのためにと僕へと残してくれた二人の命。

 思わず胸を握りしめる。

 僕は一体、あとどれだけ生きていられるだろうか。

 感覚的には……、もう――


「フゥ――」


 瞼を閉ざして、大きく息を吐き出した。

 まだ、こんなもんじゃない。

 父さん(ウラノス)のくれた力が。

 お父さんの残した、その命が。

 体の全てが、うるさい程にこう告げるのだ。



「――もっと、先に行けるだろうが」



 左手のシルズオーバーを返還し、右手に構えた神剣を顔の横に構える。


「やる気になったところで悪いが弟よ、貴様はここで、お終いだ」


 混沌の掌の上には、巨大な魔力球が浮かんでいた。



「我が力、全てを込めた一撃――【破滅球(ザ・デストロイ)】」



 それは、混沌が自らを維持できる必要最低限のモノを残し、それ以外の力をすべてつぎ込んだ最強の一撃。

 その力は――かの『黙示録(デス・フィナーレ)』にも比肩するかもしれない。


「本当に、お前はすごいよ」


 まさか、四年かけて作り上げた一撃と同規模の攻撃を、こんなにも容易く作り上げてしまえるんだから。

 だけど僕は――


「けど、悪いな。僕はもっと――先へ行く」


 瞼を閉ざす。

 身体中を縛るような感覚を覚え、すぐに瞼を開くと、そこには僕の体中を縛り付ける無数の黒い鎖が存在していた。


 ――才能の鎖。


 それこそが、力を使いきれていない証拠。

 僕がまだ――先へ行けるという証拠。



「馬鹿が! この一撃は周囲の全てを【無】へと帰す! この世界ごと死に絶えろッッ!!」



 上空へと掲げた腕が振り落とされ、ゆっくりと、その【破滅】が迫ってくる。

 なるほど『無へと帰す』か。位置変換で逃げられるかとも思ったが、どうやら『能力の発動』すらも無効とされるらしい。

 ――放った瞬間に、勝利が確定する一撃。


 ……やっぱり、お前はすごいよ、混沌。

 凄くて、憧れて、やっぱり少し誇らしい。

 だからこそ。

 僕が――その凄いヤツの弟が、こんなところじゃ止まってられない。



「弟は、姉をいつか、超えるもんだ」



 体中から魔力が吹き荒れる。


 もう、これが最後だ。

 血は尽き、腕を失い、もう、命も後わずか。


 辛い、辛くてたまらない。

 だからこそ、辛いからこそ最後まで。


 命燃え尽きるその時まで……!


 信念くらい――突き通せッ!



「我が意志を、この名の元に執行するッ!」



 バキリと、鎖が砕ける音がする。


 ――もっと。


 連続して音が響き渡り、鎖が弾ける。


 ――もっと、ずっと先へ。


 壁の向こうへ。


 鎖に縛られ、届かなかった向こうへ。


 誰よりも先へ。


 誰も届かなかった――



 ――その先へ。



「全てを斬り裂けッ!『暗殺(アサシネイト)』ッ!!」



 その時、世界が――斬り裂かれた。


「な――」


 破滅球(ザ・デストロイ)は真っ二つに斬り裂かれ、その間を、力を振り絞って駆け抜ける。


 愕然と目を見開く混沌へ、剣を振りかぶる。



 そして――



次回、後日談『至りし末路』

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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