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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
竜国編Ⅱ
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影―119 生命の燈

 夢を見た。

 それは、とても楽しい、幸せな夢だった。


 僕がいて。

 恭香がいて。

 白夜がいて。

 皆がいて。


 みんなで馬鹿やって、その度に腹を抱えて笑って。

 楽しくて楽しくて。

 そして、幸せだった。


 ――けど。

 何でだろうか、振り返れば、闇しか見えないのは。


 前を見れば、その幸せな夢が。

 けど、振り返れば、そこには今にもその夢を喰らい尽くしてしまいそうな【闇】が、迫っていた。


 ――止めろ。


 叫ぶ。

 声の限り、止めてくれと叫ぶ。


 ――止めてくれ!


 されど【闇】は止まらない。

 叫ぶ僕を嘲笑うかのように迫り来る。


 そして――




 ☆☆☆




「……」


 ふと、目が覚める。

 鉛のように重くなった瞼を開き、目の前の光景に愕然とする。


「――これ、は……?」


 目の前にあったのは、巨大な川だった。

 その前に僕は立っていて――気がついた時には、僕はその川へと向かって歩いていた。


「ちょ、ま――ッ」


 焦る僕を他所に、肉体がその川へと向かって歩いてゆく。

 ――行きたくない。

 本能が――魂が、あの川を渡るのを拒絶している。

 けれど、肉体が――器が、その川を渡ろうとして止まないのだ。



「私は、君はもう、頑張ったと思うよ」



 ふと、背後から声が響く。

 されど歩みは止まらない。

 徐々に、少しずつ、その川を渡らんと歩き続けている。


「お、お前は……」

「久しぶり。三年か四年か前に、一度だけ話したことがあったけど、忘れちゃったかな」


 忘れるはずがない。

 この感覚――間違いない。


「神剣、シルズオーバーの……」


 彼女は答えない。

 ただ、背後で笑ったような、そんな気配がした。


「君をずっと見守ってきた私だからこそ、自信を持って言える。君は頑張った。きっとどの世界の誰よりも、たった一人で、頑張ってきた」

「さ、さっきから、何を言っ――」

「だから、もう終わってもいいんじゃないかな」


 ――終わってもいい……?

 その言葉に、思わず言葉に詰まる。


「私はね、君の味方なんだよ。恭香さんがいれば私と同じことを言うと思うけど、ここには居ないから」


 ――だから、私が代弁する。

 そういった彼女は、迷うことなく。



「君は混沌に殺された。だからもう、楽になっちゃっていいと思うよ」



 その言葉に、全てを思い出す。

 直前に割り込んで――否、混沌の命令により僕の邪魔をしに入ったルシファーの姿。

 そして、僕へと向けて放たれた、あの拳。


「殺、された……?」

「そう、君は死んだ。それは、君の世界では三途の川っていうのかな」


 その言葉に愕然とし、咄嗟にその川を見渡して――その後ろ姿に、目を見開いた。


「アルファに……サタン!? な、なんでお前らが……」


 声は届かない。

 ただ、並んでその川を渡っている二人の姿が、ここから遠くに見えた。

 それどころか、その他の大悪魔の姿までチラホラと見えている。

 もしも、もしもここが三途の川だと言うのならば――


「アイツらも……」

「うん、死んだよ」


 僕をここまで送り込んでくれたアルファ。

 そして、命を賭けて混沌に尽くしたサタン。

 二人が……死んだ?


 ふと、川の前に二つの人影が見えた。

 そしてその瞬間、僕の足はピタリと止まっていた。


「ま、まさか……ッ!?」


 それはもう、忘れたはずの二人の姿。

 混沌に奪われたハズの。

 死んだはずの――



「お父さん……、お母さん……?」



 僕の、両親の姿だった。




 ☆☆☆




 止まらないはずの、足が止まった。

 それには背後の彼女からも驚いたような声が響く。


「な……!? 死んだはずの魂を、その場に留めるだなんて……。一体どんなに力を――」

『君は……ちょっと黙っておこうか』


 懐かしい声が響き、背後から息を呑むような声がした。


『君がこの子のことを思って色々言ってくれているのは分かる。いつもこの子を支えていてくれているのも知っている。感謝もしている。けどね、どこまで行っても、この人生は銀のものだ。それを手助けするのは良くても、口出しすることは誰にもさせない』


 威圧感が吹き荒れる。

 背後から怯えるような気配がし、咄嗟にその片手を広げる。


「ま、待ってくれ! コイツだって悪気があったわけじゃないだろう!」

『……まぁ、そうなんだろうけどね』


 言った彼は、スッと瞼を閉ざして息を吐く。


『銀。……今はギン=クラッシュベル、だったかな。僕らも君たちの暮らしをすべて見れているわけじゃないからうろ覚えなんだけど――』

『やぁね、ずっとあたふたしながら見てたじゃない』

「……」


 思わず沈黙が流れる。

 彼……お父さんは『ゴホン』とわざとらしく咳払いをすると、改めて僕へと視線を向ける。


『銀、色々と疑問は尽きないと思うけど、まずは謝罪をしておきたい。僕達は君の中からずっと君のことを見てきた。君の持つある力を代償に、君の中に留まっていた』

「な――」


 何だってと、驚くよりも前に背後から声が響く。


「……禁呪『魂となっても(オンリーソウル)』――かつて時空神クロノスが混沌へと成った際に用いられた禁呪」

『正解。僕らみたいな魔法を少し齧った程度の低級魔術師じゃ、混沌と比べればかなりクオリティの落ちたものしか使えなかったけどね』


 それでも禁呪を使えている時点で間違っても『低級』などとは呼べないだろうに……。

 そんな僕の考えを他所に、お父さんは再度咳払いをする。


『そして本題はここからだ。銀、僕らは死の間際、全ての命を君の中に閉じ込めた。魂となって、君の中に二つ分の命を封じ込めた。その際に――』



 ――君の『才能』を、犠牲にしてね。



 思わず目を見開く。

 僕は今まで、才能がないと思っていた。

 ……けど。


『銀は昔から天才だったものね。悪いとは思っていたけれど、貴方ほどの才能があれば少しくらい才能を失っても十分すぎると思ってたから』

「……天、才?」


 普段から感じる才能の鎖。

 シルズオーバーで全ての才能を引き出してもなお、それでも尚先が見えるという絶望的な状況。

 見えてるのに進めない。

 それが、もしもこの事実によるものだったのならば。

 ならば僕は――



『――そう。君はまだ、先へ行ける』



 ――先。

 今よりも、さらに先へ。


「け、けど、僕はもう――」

『それについても問題は無い。君には僕ら二人の【命】がある。混沌だって一度生き返ってる。なら君も一度くらい、生き返ることなんて目じゃないさ』


 思わず唖然とする。

 なんて言っていいか分からない。

 どう、返事をすれば分からない。

 されど彼は、僕へと黙って視線を送ってくるばかり。

 まるで『君はどうしたい?』と、そう言わんばかりに。


『銀? 私たちはね、基本的にはその子と同じ意見なのよ。あなたは今まで頑張った。お母さんが一番わかってる。ここで折れたって、きっと誰も文句は言わないわ。私が言わせない』


 ――けれど。

 けれど僕は……それで満足なのか?

 両親がここで終わってもいいと言った。

 シルズオーバーが、それに肯定している。

 僕がここで折れても、きっと誰も文句は言わない。


 だけど、僕は――



「――僕は、ここで終われない」



 終われない、終わりたくない。

 僕はまだ――幸せになってないんだから。

 これだけ頑張ってバッドエンドだなんて有り得ない。


「ハッピーエンドを掴むまで、僕は終われない。死んで、歩みを止めることなんて出来やしない」


 方法があるなら、それがたとえどんな方法だったとしても掴み取ってやる。

 そして今、そのチャンスが目の前に転がっている。

 ――なら、拾わないなんて有り得ない。


『君が生き返るとなると、僕らは君の中から跡形もなく消えるだろう。もう、会うこともないと思う。……それでも君は、その道を選ぶのかい?』

「……あぁ、選ぶよ」


 知っていた。

 僕が生き返るということはそういう事なのだと、僕はどこか、直感していた。


『その道の行く先が、地獄だったとしても?』


 地獄だったとしても。

 僕は、その先へ行くよ。


「死ぬなら寿命か――自分の信念を貫き通して死ぬ。そう、大切な人から学んだし」


 僕はいつものように、口の端を吊り上げて。



「そっちの方が、カッコイイだろう?」




 ☆☆☆




「はぁ、はぁっ……、やっと、沈んだか……」


 私は、膝に手を当てて荒い息を吐き出した。

 ――殺した。

 心音はもう聞こえない。気配も魔力も感じない。

 紛うことなく――私の弟は死に絶えた。


「悪いな弟よ。貴様とて聖獣白虎、聖獣玄武、円環龍に、果てはアポロンまで使ったのだ。卑怯などとは思うなよ」


 といっても、私が向こうに回した中で、ルシファーのみが存命していると知ったのはつい先ほどのことだったがな。

 それどころか――


「あの小僧……サタンを、殺したというのか」


 サタンの姿も、このクレーターの下からでは見えやしない。

 けれど、魔力も気配も感じなければ、戦闘音も無く、姿も見えないとなると……つまりは、そういう事なのだろう。


「サタン……。私は、勝ったぞ」


 だが、私は勝った。

 あの強敵を見事打ち倒した。

 アイツらの想いを、未来へ繋げることが出来た。


 その事に、今だけは少し、気を緩めてもいいだろうか。


 天を仰いで息を吐く。

 息が白く色付いた。今まで気がつきもしなかったが、少し肌寒いような気もする。

 残った左腕をだらんと下げて――



「『生命の燈』」



 周囲へと、銀色の魔力(・・・・・)が迸った。


「な――ッ!?」


 背後を振り返る。

 ――間違いなく、死んだはずだ。

 なのに、何故……ッ!


「悪いな混沌。僕を倒すには、まだ骨が折れるぞ」


 そこに立つのは、先ほど跡形もなく頭を吹き飛ばしたはずの、弟だった。

 体中からは、見たこともない銀色の魔力が迸っている。

 そして――


「ば、馬鹿な……!?」


 その瞳を見て、愕然とした。

 ――月光眼。

 左眼のみでさえ、私にとっては驚異的なものだった。片目だったからこそ、私はこの男を倒しきることが出来た。

 それが――


「なぜ、両眼に……!?」


 奴は、銀色の双眸(・・・・・)を煌めかせながら、腕を軽く広げ、両手を大きく開く。



「神剣――シルズオーバー」



 ――直後、奴の両手(・・)に、銀色の光が煌めいた。

 生み出されるは二振りの短剣。

 白銀色の刀身に漆黒の柄。

 それら二つの短剣からは絶え間なく銀色のオーラが吹き出しており――その光景に、思わず絶望すら覚えた。



「『生命の燈』……自らの命を燃料とし、少しの間だけ、今までの力すら超越する絶対の力を手にする能力。そしてこの能力は――『生への渇望』と、この上なく相性がいい」



 彼の体から更なる威圧感が吹き荒れる。

 思わず冷や汗を流す。

 ここに来て、勝利を確信してもなお。

 お前はまだ……私の邪魔をするのか。

 殺意すら込めて睨み据える私に、奴はスッと、右手に握りしめた短剣の切っ先を向けて。



「――これより、執行を開始する」




詳しくは『遠い日の夢』を参照。

次回、その先へ。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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