表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
竜国編Ⅱ
501/671

影―115 黙示録

ここまで長い戦闘を書いたのは初めてです。

 ――禁呪。

 それは、禁じられた呪文。

 禁じられた理由の殆どは『危険極まりないから』だけれど、中には使い物にならないから、という理由からの欠陥品も含まれている。


『禁呪、って言うのは元々あの種族のユニークスキルみたいなものなんだけれどね。時間をかければ何個かくらいは使えるようになるんだよ。……まぁ、中には使った瞬間に魔力足りなくて死ぬ、見たいのもあるけど』


 かつての父さんの言葉を思い出す。

 まぁ、それは数年前に一度、ある人物のステータスを見た時に『禁呪』との表記があったので知っていたが、まさか僕自身も覚えられるだなんて思いもしていなかった。


『……そういうってことは、何かしら僕に覚えさせたいってわけなんでしょ?』


 刻印まで刻まれて、逆にそれ以外の考えは出てこない。

 しかし、父さんが示したのは否定だった。


『詳しくは違うよ。禁呪は生まれつき使えるかどうかが限られる。その面、君やその他大勢の人たちは生まれつき使えなかった。だから君に覚えさせるんじゃない。禁呪を封じ込めた、魔導具を作り上げる』


 ――最高級の、僕でさえ作るのが難しいほどの、使い捨て一回限りの魔導具をね。


 そういう父さんではあったが、その眉には大きなシワが寄っていた。


『ただ、魔導具が魔導具だけに、かなり製造工程がシビアでね……。一番の問題は何を媒体にするか、なんだけど。銀、君がずっと肌身離さず持ち歩いているもので、更にはかなり愛着のあるものってあるかな? 出来れば常闇のローブとか、服とか、布系じゃなく、魔石みたいな魔法を封じ込めておける石タイプがいいんだけど……。そんな都合のいい話は――』


 ――その実、あったのだ。

 そんな都合のいい話がちょうどあった。


 常に肌身離さず持ち歩いていて。

 好きな人から貰ったから愛着もあって。

 それでいて――綺麗な雫の形をした宝石。



『……ねぇ、これなんて使えないかな』



 脳裏には、どこかの王女様の姿が映っていた。




 ☆☆☆




「……禁呪?」


 呟いた言葉に。

 明らかに、覚悟を決めた様子の僕に、混沌はそう呟いて立ち止まる。

 ――禁呪。

 その言葉くらいは、彼女も聞いたことがあるだろう。


「禁呪、と言ったか? あれらは威力は確かに果てしなく高いが、その代わり今の貴様の魔力では到底発動することも出来ない欠陥呪文だったはずだ。それこそ最低位の、先ほどの一撃にも及ばない禁呪ならば使えるかもしれないが――」

「それも、お前を倒すには力不足」


 だから、今から使う禁呪は――紛うことなき最高位。

 禁呪の中の禁呪。

 対象を必ず――殺し尽くす。

 最強にして、最悪の呪文。


「――さて、この一撃、間違っても喰い尽くせるだなんて思うなよ?」


 口の端を吊り上げ、獰猛に笑う。

 双眸は混沌の姿を見据え、影の腕と炎の腕を体の前で交差させ――



「禁呪――発動」



 両手を大きく広げると同時。

 身体中から、漆黒の瘴気が吹き荒れた。


「――ッ」


 混沌が、驚愕に目を見開くのを感じる。

 見れば彼女の頬には冷や汗が流れており、その肩は確かに――恐怖に震えていた。


「な、なんだ……、そ、その、力は……ッ!?」


 戦慄きながら叫ぶ彼女を他所に。

 僕は淡々と、詠唱を開始する。


「『闇を照らせ。万物に在りし闇を照らし、全ての力を指し示せ』」


 胸へと右の影の腕を伸ばし、首から下げていた水玉のネックレスを鎖を燃やして掴み取る。

 その中に描かれているのは――最強の術式。

 父さんから受け取った、僕の奥の手。


「『啓示する。此の先に待つのは破滅なり。絶対不変の破滅なり。恐れることなかれ、その死は既に確立された』」


 混沌は膨れ上がる魔力に、握りしめた拳が放つ光に――危険性に、今がどういう状況なのか完全に理解したようだ。


「クッ……! ここに来てそんなものを――ッ!」


 瞬間、奴の姿が掻き消え、僕の目の前へと現れる。

 ――視認するのも難しい速度。

 なるほど、確かにもう、単純な戦いじゃあ勝てなさそうだ。


「――死ね」


 呟きと共に膨大な魔力が纏われた腕が僕の胸を貫き、鮮血が周囲へと舞散ってゆく。

 けれど、詠唱は未だ止むことはない。


「『指し示す力、全てを以て末路へ導く。死を招き、破壊を招き、破滅を行使する』」


 全く変わらず詠唱を続ける姿に、混沌は目に見えて狼狽し――そして、僕の左眼を見て、愕然と目を見開いた。


「まさか――幻術ッ!?」

「ご名答」


 笑ってそう返した幻術は――ブワッと、周囲へと煙幕を巻き散らせて霧散する。

 ここまで、混沌に気付かれぬよう、着々と、少しずつ掛け続けてきた月光眼の幻術。

 即席のものだと混沌相手には通じない。

 だから一発にのみ、全力を尽くした。

 アポロン戦が始まる前から。

 白夜が脱退する前、三度目に邂逅する前から。


 ――初めて出会ったその時から、仕込み続けてきたもう一つの奥の手。


 これだけ掛けて作り上げた幻術世界――そう簡単に抜け出せるとは思うなよ?


「クソッ……!」


 周囲を見渡しながら黒色のオーラを飛ばす混沌。

 徐々にその幻術は侵食されてゆき、数十秒もかからずにこの幻術もまた、解かれてしまうだろう。

 混沌相手には数十秒とは、長いか短いか、どちらとも取れる時間だけれど。

 ――数十秒残ってるなら、十分だ。



「『我望むは全ての力の解放なり』」



 拳を握りしめ、加速する。

 混沌は幻覚を見続け、僕の居もしない場所へとひたすらに腕を振り続けている。

 真正面からなんて行かない。

 狡猾に、ただひたすらに冷静に。


 こういう時こそ――不意を打つ。


 彼我の距離はもう既に数メートル。

 月光眼により瞳が捉える映像がスローモーションと化し、魔力を込めた拳を、容赦なく彼女の背中へと叩きつける。


 ――その、刹那のこと。


「――そこに、居たかッ」


 確かにそう聞こえた。

 確かに――振り返った彼女と視線が交差した。


「……ッ!」


 直後、体を衝撃が突き抜け――ネックレスを握りしめた影の腕が、視界の隅で宙に舞っているのが見えた。

 視線を下ろせば、混沌の腕が今度こそ間違いなく僕の胸を貫いているのと、僕の腕を切り飛ばしたであろう剣がもう片方の腕に握られていること。そして目の前立っている――頭から血を流す混沌の姿が目に入る。


「痛みで……幻術から抜け出したか」

「あぁ……、自らの頭を殴るのは、なかなかに強烈だったぞ」


 そう彼女は笑うが――直後。

 彼女の表情が、凍りついた。


「ば、馬鹿な――ッ!? な、何故止まっていない(・・・・・・・)!」


 その言葉に、凄惨に口元を緩める。

 逃がさぬようにと、開闢の魔力を込めた炎の左腕で混沌の腕をしっかりと握り込む。


「あのネックレスはあくまで発動の媒体。禁呪自体は、もう既に発動している」


 だから、今更ネックレスを握りしめた影の右腕を斬り落としたところでどうにもならない。

 それに何より――



「おい姉さん。アンタ、ここに連れてくる時に僕の胸を既に貫いてたこと忘れたか?」



 そう、彼女は何一つとして、貫いていない。

 何せそこにはもう、何も無いのだから。

 愕然と、今になって思い出したように目を見開く姉へ。


 ――【舌】に刻まれた刻印を、剥き出した。




「【黙示録(デス・フィナーレ)】」




 闇が溢れ、混沌は――絶命した。




 ☆☆☆




 視線の先で、黒色の光が集い出すのを視認していた。


「やっぱり、そうなるよなぁ……」


 大きく息を吐いて、天を仰いだ。

 おいおいどうするんだと。

 もう奥の手も、奥の奥の手も使っちゃったじゃないかと。


「いやー……、見事に詰んじゃったな」

『笑い事じゃねぇけどな』


 クロエの声が脳裏に響く。

 けどまぁ、これは、誇ってもいいんじゃないのか。

 なにせ、僕は今さっき――



「他でもない、混沌を殺したんだからさ。なぁ? 混沌」



 視線の先には、先程跡形もなく殺し尽くしたはずの、混沌が何事も無かったかのように佇んでいた。

 ――否、何事も無かったかのように、とは行かないか。

 肩は微かに震えており、彼女から感じられる威圧感は――先程よりも激減している。


「どうだ? 死の恐怖を味わった気分は」


 彼女は間違いなく、先程死んだ。

 なのに、なぜ今生きているのか。

 ――蘇ったのか。

 それはきっと、この結界のせいだろう。


「この結界……たしかアスモデウスと戦った時のモノの上位互換なんだろう? 結界自身が強くなってると考えると――生き返りの能力(・・・・・・)、受け継がれてないとおかしいよな」


 反則もいいところな、生き返る能力。

 この結界は一度だけ、使用者が結界内で死んだ場合蘇らせることが出来る――みたいだ。実際にアスモデウスは一度蘇り……二回目も殺したはずなんだけど、そういえばまだ生きてたなアイツ。


 閑話休題。


 最初、この場所に連れてこられて、ウルがこの結界がそういうものだと言った時点で、なんとなくこの状況は考えていた。

 考えられた中でも――かなり、最悪に近い状況として。



 ――あの男が言っていた『末路』に至るであろう道筋の一つとして、考えていたのだ。



「……まさか、この私を殺すとはな。お陰でこの通り、力が激減してしまったようだ。今のお前と同格、と言ったところか」

「そう、みたいだな。それについては嬉しい誤算だったよ。殺してもまださっきと変わらない力を持ってたら、って想定もしてたから」


 きっと、死ぬことで体の内に溜め込んでいたエネルギーが大気中へと逃げてしまったのだろう。

 だからこそ弱体化した。

 それこそ、今の僕でも太刀打ちできるほどに。


 魔力を練り上げ、先程切り飛ばされた右腕を元に戻す。

 影の腕――否、今はこちらの方がいいか。


「『ヌァザの神腕(アーガトラム)』」


 右腕部分へと、白銀色に輝く神腕が生み出される。

 こっから先は、小細工なしの殴り合いだ。

 技も、経験も、何もかも放り捨てた殴り合い。


 ――戦いのセンスがモノをいう泥死合。


 銀色の拳を混沌へと突きつけて。



「さて、やろうか混沌。後半戦だ」




『黙示録』

→めちゃくちゃ魔力を使うが、相手は死ぬ。


前半戦終了!

次回から後半戦です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ