第44話
とうとう彼の奥義がっ!?
時と場所は変わり、ギルド地下の訓練場。
そこはおよそ直径一キロ程の円形をしていて、四方は石の壁で覆われていた。
あの後何だかんだで集まった野次馬冒険者たちに見守られる中、訓練場の中心に立つギルドマスターが声を張り上げた。
「これよりッ! 処刑を開始するッ!!」
うぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!
「公開処刑だぁぁっ!」 「この日を夢にまで見たぜっ!」
「やっちまえ!」 「ぶっ殺せっ!」 「頑張れよ新入りっ!」
「クソイケメン死ねっ!」 「迷惑なんだよっ!」
「この糞ナルシストがっ!」 「悔い改めろっ!!」
「頼むッッ! ワシの長年の悩みを消してくれぇッ!」
「死に晒せぇッッ!!」 「聖騎士もどき死ねっ!」
「勇者(笑)......ぷっ!」 「お、おい、笑うなって!」
「お前だって笑ってんじゃねぇか!」 「お前だって!」
「ぷークスクスっ!」 「ひーっ、笑い死ぬぅっ!!」
「......はぁ、はぁ...カッコイイ....ッ!」
おい、冒険者たち、それでいいのか?
そう問い質したかった。
それにしてもこれだけのの罵詈雑言。
嫌われ過ぎじゃないか? コイツ.....
と言うか、領主っぽいの入ってたよな......?
あと、最後のヤツ。 お前男だろ。
頼むからそれは相手に向けたものであってくれ。
今、僕はギルマスを挟んであのゴミと対峙している。
あ、何か嬉しそうな顔をしてる......?
──ッッ!?
ま、まさかっ!?
まさか、この大罵声を.........
コイツの耳には大歓声に聞こえているというのかッ!?
「くっ! 僕はまだ見くびっていたようだッ!!」
『もう、なんだか面倒くさくなってきた』
「あぁぁぁっっ! なんだかムズムズするのじゃぁっ!」
それはたぶん嫌悪感だよ。
いや、間違いなくそうだろう。
ルールは結局、あの通りになった。
「ルールを発表するっ!
ひとつ! 一対一でやれっ!他は手を出すなっ!
ひとつ! 自己責任だっ!
ひとつ! 負けたら全財産没収だっ!
ひとつ! 私がスッキリするか死ぬまで終わらん!
ひとつ! 何でもありだっ! 好きにやれっ!
最後に! これは"迷い人"ギン=クラッシュベルの入団テストも兼ねるッ! この結果によって開始時のランクが変動だっ!よく心得ておくようにッ! 以上だッ!」
うおおおぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!
大・歓・声!
何か増えてたけど、まぁいいか。
因みにあいつは、なんだか誇らしげな顔をしている。
....これってお前が殺られることを期待してます、って言う歓声だからね? そこんとこ分かってる?
でも、まぁ。
いつまで余裕でいられるかな....?
そうして決闘が始まったのだった。
☆☆☆
「お前みたいな外道! この聖剣で倒してやるっ!」
そう言って彼は、腰の剣を抜いた。......鑑定。
鉄の剣 品質 E
初心者向け装備。
そこら辺の鍛冶師が鋳造して作ったもの。
この品質なら初心者でも作れる。
.........はぁ。
開始早々、彼は最終奥義を使ってきた。
「最終奥義ッ! エクスカリバーッッッ!!!」(偽)
突如彼の聖剣が形を変え、強烈な光を放つ。
光が収まり、その剣の変化に、僕は驚愕した。
先程までの雑魚みたいな聖剣とは打って変わって、その剣は伝説に語り継がれているような、そんな剣になっていた。僕は日本に居たから知っているが、それはまるで、『アーサー王伝説』の騎士王アーサーが所有する、宝剣エクスカリバーそのもののようだった。
な、なんだってぇッ!? ......鑑定。
エクスカリバー(偽)
騎士王の勝利の剣、エクスカリバーを真似る。
剣がエクスカリバーに似る。
真似るだけで他は何も変わらない。
........................はぁ。
「お前は吸血鬼だろう! これでもくらえっ! 光魔法、奥義ッッ!!『ライトボール』ッッッ!!!」
因みに奥義二つ目である。
これを使うならエクスカリバー使う意味無かったんじゃないか?と思ったが、僕には予想もつかない理論が、きっとそこにはあったのだろう。
光属性Lv.1
『ライトボール』
魔力で作った光の球体を相手へと発射する。
威力は低い。
「.........『マジックキャンセル』」
「──ッッ!? ほう? 魔導か......」
驚愕に目を見開くギルドマスター。やはりというか何というか、流石はダークエルフの最上位種。魔導の事も知っていたみたいだ。
魔導Lv.1
『マジックキャンセル』
相手の魔法に使われた魔力より大きな魔力をぶつけて相殺する技術。因みに自作。
瞬間、ただでさえ弱々しかった彼の魔法が、ボフッ、と音を鳴らして消滅した。
.......................................はぁ。
「なぁっ!? 僕の魔法を消した...だとっ!? くっ! だがそれは、くらってはまずいという証拠っ! 『ライトボール』ッッッッッッ!!!!!」
今度はライトボールが三十発程飛んで来る。
......Lv.2のライトアロー使えばいいのに。
ばこーーーーん!
効果音からしてもう既に酷かった。
確かに三十発は全て僕に命中した。
というか、外れてたから当たりに行った。
「ふっ! まさか避けた先に魔法が来るとは思うまいっ!! 僕の全魔力を込めた奥義の連発だっ! ギルドマスターっ! これで僕の勝ちだよなっ!?」
「...お前は何を言っている? あっちはまだ無傷だぞ?」
「またまたぁ、そんなわけない......っええっ!?」
当然の様に無傷の僕。
昼間歩くの辛かったから、全属性耐性を上げようと思ってたんだけど......多分上がってないよなぁ......。
何故反撃を一度もしていないのか、と疑問に思う人もいるとおもう。それは今回、相手を僕に譲る代わりに、ギルドマスターはとある条件を出してきた為だった。因みにその条件とは......
『しばらくは攻撃するな。相手の精神を叩き潰せ』
との事だった。
ちらっと彼女の顔色を伺うが、まだまだ満足してい無さそうだ。うん、もっとやれってことかな?
「おい、ポンコツ。お前の奥義はそれだけか? ん? あぁ、僕が怖いから苦手な遠距離攻撃をしてたのか? ...すまなかったな、気づかなくて。でも安心しろよ、僕はお前如きに接近戦する気も無いからさ。そもそもお前にそんな価値ないし」
煽る煽る。
「それにしてもそのエクスカリバーも残念な奴を主にしちまったよな? 勇者かと思ったらそのパチモンだったとは、流石の伝説の剣も気づかなかったろうに。まぁ、お前は見た目だけは優れてるからなぁ、そりゃ勘違いもするさ。あぁ、エクスカリバーもパチモンだったか。それならお似合いだなっ。ぷークスクスっ!」
更に煽る。
「ん?どうした? 早く魔法で攻撃........あぁ、どうやらお前は魔力量『も』ゴミ以下だったみたいだな。 すまんすまん、僕はまだまだ有り余ってるから勘違いしていたようだ、やはりと言うか何というか、僕とお前を比べるのは、あまりにも酷だったようだな......あれ、僕は何でこんな格下に喧嘩を売ったんだったか......あぁ、その格下が僕を貶してきたからだったか?」
顔が真っ赤になってきた。
よし、もう一押しだ。
「えーっと......Fランク冒険者の......名前なんだっけ? よく分からないけれど、お前みたいな弱者が冒険者ギルドに所属しているだなんて、人族だけじゃなく、ギルドの恥だな。くっくっくっ、改めて考えると、お前の長所は顔面だけだな。なぁ? 顔だけのポンコツさん?」
「黙れぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」
よし! 引っかかった!
ギルドマスターを筆頭とした野次馬たちがとってもニヤニヤしている。白夜も満面の笑みだ。
(やっと終わるんだね......)
恭香もなんだかスッキリした声を出している。
「馬鹿にしやがってぇぇぇッ!! ぶっ殺してやるッ!」
おい、勇者がそんなこと言っていいのか。
彼はそのエクスカリバーを構えてこちらへ向かってくる。
目は血走り、口からは涎が垂れている。
彼は唾を飛ばしながら罵声を吐き出し続けており、あまりの怒りで顔を赤く染めている。
その姿は、初めて見た時の『聖騎士』のような印象はまるで感じられず、服装と武器さえ変えれば『山賊』にしか見えないだろう。
ちらっとギルマスの方を確認する。
満面の笑みでサムズアップする彼女。
その後ろの野次馬たちも、一人残らず同じポーズだった。
どうやら許可が出たようだ。
それじゃあ始めよう。
「執行開始だ」
☆☆☆
「うぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!」
彼が剣を振り下ろしてくる...が、
「『影蒼牙』」
腕に作ったその蒼い牙によって簡単に受け止められる。
「なぁっ!? 何だその魔法はっ!?」
「戦闘中だぞ? そんなこと喋る余裕あるのか?」
「なんだとっ......グハァッ!?」
僕は彼のガラ空きの胴に回し蹴りを撃ち込む。
かるーく撃ち込んだつもりだったが、それでも彼の身体は十数メートル弾け飛ぶ。
「ぐふっ......、な、なんて威力だっ...!?」
流石に防御特化ステータス。かなりのダメージはくらったようだが、それでもまだ余裕そうだ。手加減し過ぎたか?
「お、お前っ! 一体何者....ぐあッッ!?」
一瞬で距離を詰めた僕は奴の顎を蹴り上げる。
「お前、僕を相手にまたもやお喋りとか、随分と余裕なんだなぁ......ならもっとやっても大丈夫だろ?」
「──ッッ!? ま、まっ....」
ガラ空きになった鳩尾にコークスクリューを一発。
くの字に曲がった身体。顔面にアッパーを1発。
仰け反る身体、弾ける鮮血、後ろに倒れる身体。
「おい、まだ終わってないぞ」
倒れる前に鎧の胸ぐらを掴み上げる。
「ぐっ......はぁ、はぁ、こ、こんなッ!」
はぁ、まだまだ余裕そうだな......
肘打ち、膝蹴り、金的、投げ技と、僕の『執行』はまだまだ続くのだった。
そうして、僕の執行が終わったのは───彼にとっての地獄が終わったのは、それから一時間後の事だった。
撃・沈!
容赦ないですねえ......




