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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
竜国編Ⅱ
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影―101 心強い味方

 上空から、一つの人影が現れた。

 虚空から現れたその男は紫色のマントを風になびく。

 色素の抜けた紫色の髪、魔族特有の紫色の双眸。

 そして、僕へと向けられる敵意にも似た感情。

 男は僕の目の前へと着地すると、背を向けたまま。


「ピンチだな? 借りを返しに来たぞ執行者」


 ――全く一ミリもピンチじゃねぇよ。

 そう言ってやりたかったが、改めて現状を見ればそんな言葉は嫌でも言えない。

 風穴の開いたままとなっている腹部を抑えながら苦笑して。


「あぁ、助かったよアルファ」


 ――情は人の為ならず。

 今回ばかりは、目の前のフカシ野郎が救世主にも見えた。




 ☆☆☆




 混沌たちは、ベルゼブブの死に加えてアルファの登場に、少なからず驚愕し、困惑し、警戒しているようであった。

 ので、今の内に少し話しておこうかと思う。


「……よくここまで来れたな。今回は流石に絶望的だと思ってたんだけど」

「ん? あぁ、確かに『加護』で世界の特定ができて、前に掻っ攫った嬢ちゃんとの繋がりで場所の特定ができたんだとよ。んで、全能神の嬢ちゃんと俺、あとお前の所の嬢ちゃん二人の計四人で来たんだが……運良く入り込めたのは俺だけみたいだな」


 瞼を閉ざして集中してみれば、確かに結界のすぐ外には見覚えのある魔力が三つ感じられた。外から内は探査できないがその逆は違うみたいだ。


「つーか、お前よくまぁここまで色々残しておいたな……。全能神の嬢ちゃんが一つでも欠けてたらたどり着けなかったって言ってたぞ。もしかして読んでたのか?」

「いや全く」


 即答に思わず肩を落としたアルファ。

 僕が白夜に加護を与えたのはこの後のことを見通して、だ。決してこの最悪の状況を見通せてたわけじゃない。

 ……まぁ、最悪の状況の一つとして『孤立』は考えてはいたけど。

 けど、孤立ではあったけど無援ではなかった。

 こうして、かつて僕を死の淵まで追い込んでくれた『野性』が追いついてきたのだから。

 小さく安堵の息を吐くが、すぐに気を引き締めて奴らの方を睨み据える。

 ゼウスは多分、この世界に来るだけで大半の魔力を使い切ってしまっただろう。今の恭香や白夜にこの結界をどうにかしろと言うのは難しいだろうし……、しばらくは増援は望めないだろう。


「……何体受け持てる?」

「少なくとも、あの女にだけは勝てそうにねぇな」


 アルファの見据える先には混沌の姿が。

 どうやら本能で悟ったらしい。今の(・・)僕とアルファが一緒になっても、混沌にはまだ及ばない。

 それに加えて大悪魔達、そしてアポロンがいるのだ。なんとかベルゼブブを倒したとはいえ……未だ劣勢な事実には変わらない。


「聞き方を変えるけど……あの二人を除いた全員、受け持てるか?」


 言って指さしたのは、混沌とアポロンの二人。

 つまりアルファには、大悪魔たち――バアル、ベルフェゴール、ルシファー、レヴィアタン、そしてサタンを任せたいと言っているのだ。

 正直、アポロンと混沌をこちらで持つと考えても絶望的極まりない――はずなのだが。


「にぃ、しぃ……、五体か。なんだか半分くらい物足りねぇ雑魚な気もしないでもな――」


 言って彼は、やつの姿を見て硬直した。

 短く刈られた白髪に真紅の瞳。

 肉体は極限まで鍛え込まれており、アルファは――ニヤリと口元に楽しそうな笑みを浮かべた。


「おいおい……なんだあの化物は」

「……あぁ。サタンか」


 その名を聞いたアルファはピクリと小さく体を震わせ、興味ありげに視線を向けてきた。


「アイツ……めちゃくちゃ強かったろ」

「あの中じゃ、たぶん二番目に強い」


 実力だけならば、混沌の蘇生によって強化されているアポロン以上だろう。前に戦った時のサタンは、明らかに本気じゃなかっただろうから。

 だから、もしもサタンが本気を出したのだとすれば。

 その時はきっと今の僕でさえ、『生への渇望』をフルで使わないと勝てないだろう。


「正直、お前が勝てる可能性は限りなく低いと思う。というか死ぬ可能性しか見えない。……けど」

「残りを相手するには、それくらいやんなきゃダメだってんだろ?」


 言ってアルファは大きく息を吐くと、スッと目を細めてサタンを見据えた。


「一つ、勘違いしてるみたいだけどな」


 ギュッと拳を握りしめる。

 後ろ姿からは心底嬉しそうな『歓喜』の感情と、炎のように燃え盛る闘志が見て取れた。

 ――どうやら、気の使いすぎだったみたいだな。

 思わず苦笑してしまった僕へと。


「ふざけんな。アイツよりも、俺が強い」


 淡々と、そう言ってのけた。




 ☆☆☆





 その男の登場に、俺は内心でかなり焦っていた。

 一目で分かる――あの男は強い。

 それこそ、俺が本気で相手をせねばならないほどに。


「……混沌様」

「あぁ。執行者程でなくともかなりのものだ」


 混沌様も彼の強さは感じ取っているのだろう。

 敗色や焦りは全く感じられないが、彼女からしてもそれなりに強いと言わしめる位置にあの少年は立っているのだと再確認する。


「……ふぅ」


 小さく、息を吐いた。

 ベルゼブブを殺されたことは想定内だが、それと同時に想定外でもあった。

 ベルゼブブはあれでもメフィストに次ぐステータスを誇る。俺やメフィストには遠く及ばないが、相手の肉体をくらって能力を増やす大罪持ちというのはそれなりに厄介で、おそらく終盤までは生き延びると考えていた。あくまでも終盤まで、の話だが。


 ――だが、それが一瞬で殺され、あまつさえせっかく奪ったステータスを奪い返された形になってしまった。


 といえども、ベルゼブブ如きではあの男の失った魔力量を補充することは出来ない。以前と比べれば明らかにパワーダウンしていることは確かなのだ。

 しかし、そこにあの男が現れた。

 本来ならば、力を失ったあの男を休む暇もなく攻撃し続け、勝機すら見せることなく殺害するのが当初の予定だった。

 しかし、あの男まで加わるとなると……。


「サタン、大悪魔達を引き連れ、あの男を殺せ」

「……は?」


 混沌様が言った言葉に、咄嗟に思考が追いつかなかった。


「執行者は私とアポロンで受け持とう。いずれにしても壁すらこすことが出来ない出来損ないだ。私の能力で潜在能力を限界まで引き出され、その上で強化されているアポロンがいるのだ。負けるはずがなかろう」

「し、しかし――」


 咄嗟に反論しようとして――その顔に邪悪な笑みが浮かんでいることに気がついた。

 その瞳に映るは何千、何万、何億年と経とうと消えることのない憎悪の炎。


「なに、我が弟に思い知らせてやるまでだ。――大切な存在に裏切られ、その手で傷つけ、殺さねばならない絶望を」


 実の妻に見放され、その手にかけた過去を持つ彼女。

 その原点は実にくだらない嫉妬だったそうだし、彼女自身、やり直せるとしたらやり直したいのかもしれないが。

 それでもきっと、その炎だけは消えないだろう。

 万物を焼き付くし、その灰を喰らって尚消えることはなく、誰しもが死に絶えた一人だけの世界で、彼女はきっと生き続ける。

 それはきっと悲しい生き方だ。

 個人的にはそんな生き方は止めて頂きたい。

 ――だが、それでも俺は。


「貴女がそう望むならば、私は全力を以て、貴女の生き様を肯定しましょう」


 俺は、絶対にこの方を裏切らない。

 ――あの涙を、もう二度と見たくないから。


「行くぞ、レヴィ、ルシファー、ベル、バアル」


 一歩踏み出す。

 黒いコートが風になびき、頬に冷たい風が吹き付ける。

 真正面から吹き付ける風は、まるで『行くな』と言っているようにも思えた。

 実際に、この先は地獄だ。

 勝とうが負けようが、きっと一生幸せになんてなれやしない。


 ――ただ、最近になって少し、違う未来を考えるようにもなっていた。

 もしも我らが死ぬことなく敗北し、執行者が我らを見事打ち倒したのだとすれば。きっと奴は、俺たちを殺すことなく配下に加えるだろう。監視目的と、保護目的で、だ。

 そうすれば、あの方はきっと幸せになれる。

 監視され、力を失い、自由などなくても。

 それでもきっと、その未来は幸せだ。

 と、そこまで考えて少し苦笑した。


「……全く、俺もまだまだ甘い」


 この思考は忠誠に反する。

 ただ、今回混沌様は、奴を殺せと命じられた。

 ならば、俺は全力を以てそれに従うまで。

 手足が千切れようと、心の臓を穿たれようと。

 死してなお、首だけになっても相手を殺す。

 その命令が原因で、もしも、世界中で彼女の味方が一人も居なくなったとしても。


「俺は、ただ味方であり続ける」


 さて、執行者。

 貴様のことを思い出すと、何故か『救う』と言ったお前の姿が脳裏に浮かぶのだ。

 その光景が一体何なのかは知らないが。



「救えるものなら救って見せろ。俺は貴様らを、命を賭して殺して見せよう」



 笑みを浮かべて、拳を握りしめた。

という訳で、アルファVSサタンです。

次回はアポロン戦入るような気がしますので、もうしばらくお待ちください。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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