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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
箸休め編 ~無神世界~
475/671

幕間 勇者コメディの大冒険 ⑦

早く本編書きたくなってきました。

 森の北部に住まう狼の一族。

 彼らには代々『(おさ)』という者が居り、一族の進退をたった一声で決められる絶対者たる長は、狼の中で最も強い者がなるという習わしがあった。

 その雄の狼は、長を除けば、自他ともに群れの中で最強だと認めるような実力者だった。

 しかし、そんな彼にも悩みがあった。


『グルルル……』


 ――つまらない。

 吐き捨てるように彼は言った。

 彼はあまりにも若く、そして強すぎた。

 今の長は今年で齢十七の老狼であり、強さこそその雄狼すら上回るものの、とてもじゃないがこれ以上前線で戦えるほどに体力は有り余っていなかった。

 長を除けば、彼とまともに戦える者は年長組にすらおらず、同年代は以ての外。これで未だ若いというのだから、彼は正しく『天才』というものだった。

 だからこそ感じる、退屈さ。

 競い会える相手がいない。それは若い雄狼にとってとてつもないストレスであり、なによりも苦痛であった。


『ヴルル……』


 言って、星が散りばめられた夜空を見上げた。

 夜空には大きな満月が浮かんでいた。

 よる年波にはかなわぬと、現在の長が引退すると表明してはや数日。明日は、狼たちの次の長が決められる戦いの日だ。

 果たして、血沸き肉踊るような戦いは待っているのだろうか?

 そう考えて――


『グルグ……』


 ――小さく、独りごちた。




 ☆☆☆




 それは、颯爽とした登場で。

 ――刹那の、出来事だった。


『ガッッ!?』


 何が、起きた……?

 雄狼は地べたに四肢を投げ出しながら思考する。

 体中にズキリと痛みが走っている。

 視線を上げれば――そこには見覚えのない一体の狼が。


『ガァ……』


 気がつけばそう呟いていた。

 言ってから自分は何を言っているんだと焦って口を閉ざしたが、その大きく、気高く、何よりも美しい狼は口元を緩めて見せた。

 彼女はなかなか強かったと励ますように言った。思わず胸が高鳴り、耳が熱くなってしまうのを感じて雄狼は顔を背ける。


 ――一目惚れ、だった。


 その強さに、憧れたのもある。

 才能に傲り、天狗になっていた鼻をへし折られた。それも圧倒的な力をもって、だ。

 生憎、その雌狼とて神話級やドラゴンとまともに戦いあえるような化け物では無かったが、それでも同じ狼として憧れないわけがない。

 そしてやはり、その美しさに惚れてしまった。


『グガ! グルルグガァ!』


 現在の長がそう叫ぶ。

 途中参加の一匹狼、素性も知れない。

 しかし、その強さはその得体の知れなさを鑑みても魅力的で、次代の長はその雌狼に決定した。

 悔しさは、不思議となかった。

 逆に自分の力で彼女を支えてやろうと。

 そしていつの日か――この思いを打ち明けようと。

 そんな想いを秘めて、彼は長の座をその雌狼に譲ったのだった。


 しかし、圧倒的な力と美しさを誇る雌狼に言い寄る狼は大勢居た。雌狼は旅のさなか故特定の相手を作るつもりは無いと、そう言って止まなかったが、けれどもそれしきで諦められるほどに彼女の魅力は小さくなかった。

 皆が皆、躍起になって彼女の気を引こうと努力し、強さを求めてひたすらに研鑽した。

 そしてそれは、天才の上に胡座を書いていた雄狼も例外ではなく――


『グルルルアァ! ヴルル! ヴルルアア!!』


 研鑽を初めて数日。

 たった数日間でも成果が見え始めてきた頃、狼の村へと一通の吉報が流れ着いた。

 曰く、人間たちが村から退避したそうだと。

 ――これはチャンスだ。

 他の狼と比べて頭もキレた雄狼は内心でほくそ笑むと、他の狼たちへと声を上げる。


『ガウゥ、ガルルルル! グルルルアア!』

『グルルッ!?』


 彼の発した言葉に誰もが目を見開いた。

 普通ならばその村に赴き、食料など好き勝手に漁ってくるべき絶好の機会だ。しかしこの男は、村人が居なくなったのは罠だと声高々に宣言したのだ。


『グルルァ、グルルルル……ッッ!』


 しかしそんな言葉はすべて嘘っぱち。

 罠などある可能性の方が低い。

 故にこうして先手を打って先入観を持たせながらも、自分が偵察として危険な地へと赴くと言ってのけた。

 これで勇敢さが雌狼の元へと伝わり、そしてさらに村での成果をでっち上げれば彼女も認めてくれるかもしれない。

 そう考えて、『仲間を騙す』ことを、そして何より『抜け駆け』することを決めた雄狼は、数名の『話のわかる』部下を連れて人の気配の消えた村へと直行する。


 ――自分が、愛しき長の隣にあり続けるために。




 ☆☆☆




 雄狼は、村の中心部に直行した。

 確かに人の気配もなく、匂いも殆どが残り香。

 だが、ここにだけは未だ、数名の気配と匂いが感じられた。


『グルルル……』


 小さく唸る。

 おそらく気配から、向こう側の馬鹿な標的はこちらの気配には未だ気がつけていない。

 なれば、今こそ勝機。先手必勝だ。

 狼は徐々に入口へと近づいてくる気配を感じるとともに、部下達へと警戒命令を小さく出して駆け出した。


『ウオオオオオオオオオンッッ!!』


 大きく声をあげ、扉をぶち破る勢いで突進を繰り出す。

 もちろんその扉一枚向こうにいた標的は巻き込んで――と、そこまで考えてふと気がつく。

 ――躱されたという、事実を。


(グルルッ!? グ、グル……)


 信じられないとばかりに目を見開き、内心で驚きを顕にする。雄狼は狼の中で雌狼を除けば最も強く、奇襲攻撃に関しても十分に得意分野と言って差し支えなかった。そんな天才の、完全な不意をついた一撃を躱すとは……もしかしたらとんだ格上に勝負を挑んでしまったのかもしれない。

 冷や汗を流しながらも、躱したばかりで体勢の整わない標的へと視線を向けて――


(グプッ……)


 ――あまりにも地味な顔を見て、思わず内心で吹き出した。

 狼の自分でもわかる。コイツはモブだ。強さの欠片も感じられないし、その他大勢のうち一人といった表現が良く似合う。

 ちらりと他へと視線を向ける。

 他に二名、その小屋の中には存在していたが、片や、狼からすれば金色の髪が綺麗なだけで雌狼には遠く及ばない女。

 そしてもう片方は、赤ん坊などその顔を一目見ればショック死するだろうと思えるほどに、顔だけがものすごく怖い大男。


(グルルル……)


 注意して損した。そう言わんばかりに内心で盛大に溜息を吐く。こんなモブ共、正直まともに相手する価値もない。一人は不細工って訳では無いがごく普通なモブ。一人は雌狼よりも遥か下に位置するブ女。一人は鬼みたいな形相の木偶の坊。

 正直、負ける気がしない。

 雄狼は口元に嘲笑を貼り付け、生意気にも剣を抜き放ったモブ①へと視線を向けて――




 ☆☆☆




「「「バ○ス」」」


 ブシャアアアア!!

 ナレーションの途中で手が滑った。

 思いっきり突き出した剣が狼の頭蓋を砕き鮮血が吹き出す。

 顔をあげれば、どうやら二人も同じタイミングで手が滑ってしまったらしい。サタンはその胴体を間違って握りつぶし、輝夜は杖の壊れて鋭く、危なくなってた方を首に思いっきり突き刺している。


「……」

「……」

「……」


 顔を上げた二人と目が合った。


「いや、すまん。ナレーション聞かなきゃなー、とは思ってたんだけど……、なんだっけ? ほら、バトルシーンあっただろ? ゴ○ラVSモ○ラみたいな。アレで手に汗握っちゃって。気が付いたら背中の鞘に戻してたはずの剣を滑らせちゃたみたい」

「いや、今回は俺の落ち度だ。モ○ラを応援していたのだが、予想以上にゴ○ラがしぶとかったから、思わず近くにあったものを握りしめて熱中してしまった」

「いや、今回は我が悪い。ちょっと何の話してるのかついていけなくなって、イライラしてしまった末に、壊れて危なくなった杖の鋭い方を八つ当たりとばかりに近くのものに突き刺してしまった」


 僕らはお互いの言い分を聞いて確信した。

『コイツら、なんにも話聞いてなかったな』と。

 ちなみに僕はナレーションが始まった時点で少しうとうとし始めてた。あの映画館は行ったはいいけど予想以上に暗さが心地よくて寝ちゃう現象だ。アレでいい感じに寝かかってたんだけど……何でだろうな。手が滑るちょっと前に眠気ふっとんだわ。


 ふと視線を扉の外へと向ける。

 もうそろそろ、逃がした狼はあとを追い掛けられていないとわかって油断しているだろうか。

 そう考えて――ニヤリと、口の端を吊り上げる。

 そしてたった一言。



「――さて、行くか」



 どこに?

 そんな野暮なことを聞く奴は、ここには一人としていなかった。

⑩くらいまではあるかもしれません。

予想以上の大編になってます。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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