幕間 勇者コメディの大冒険 ①
一応ギン主人公のお話ですが、数分で考えた設定ハチャメチャな箸休めです。頭を空っぽにしてお読みください。
※本編には全く関係ないので読み飛ばしてくれても構いません。
※作者、リハビリなう。
――目覚めよ。
声が響いた。
微睡みの中にあった意識が急に覚醒してゆく感覚があって、僕は重く閉ざされた瞼を開く。
――目覚めよ、勇者よ。
目を覚ます。
未だ覚醒しきっていない意識に思わず頭に手をやりながら上体を起こすと、周囲に広がっていたのは暗闇だった。
――暗闇。
吸血鬼の、月光眼を持った僕でさえ見通せない真っ黒な闇。
――目覚めたか、勇者よ。
ふと、さっきからずっと聞こえてるオッサンの声が響く。
っておい、さっきまで僕、けっこうな感動的なシーンの一場面を演じていた気がするんですが。え、なに、あれって夢だったりしないよね? これが夢なんだよね?
――勇者よ、今こそ時が来
「あ〜すいません、今ちょっと考えてるんで黙ってもらっていいですか」
――あれっ? あ、はい。分かりました……。
大人しく黙るオッサンの声。
意外と大人しい顔も知らないオッサンだった。
という訳で、思う存分思考をしてみよう。
まず、ついさっきまで僕は白夜と一緒にいたはずだ。
あの後『竜王ぶっ潰しまぁーす』とかやったり、恭香に『ねぇねぇ、あの時のセリフもっかい言ってみ』とか言ってからかって遊んだり、色々やろうと考えていたのだが……。
「え、マジでどういう事だよ。なんにも聞いてないんだけど」
――うぉっほん! ごほっごはっ! ぐぉっほん! ンンッ!
ふと、物凄くわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
物凄い自己主張に呆れたように虚空を見上げると、姿も見えないオッサンが嬉々として話し出した。
――目覚めたか勇者よ! お主には異界に存在する魔王シリアスを討伐してもらおうと思う!
「……魔王シリアス?」
なんだそのふざけた名前は。
おちょくってんのかこのオッサン。
――ふむ、魔王シリアスとは、コメディ調の作品を、何故か終盤にかけてものすごくシリアスにしてしまうという悪の権化なのだ。代わりに『あれっ、今回誤字少なくね』と読者の感情を操作してくれる特性を持つが、コメディが生き絶え、読者が思わず涙ぐんでしまうという、小説には切っても切れない縁のある天災なのだ。
しかし真面目な雰囲気でそんなことを言い出すオッサン。
え、何マジなのそれ。
小説とか、今回はメタ発言無しなんでちょっと何言ってるか分からないけど。
「でも、小説にもよりけりだけど、ずっとコメディの作品ってのもなかなかないんじゃないのか? どんな物語も最後はきちっと締めないと。じゃないと完結しないでぐだぐだくだぐだ、読者が飽きるまで続――」
――このバカモンがあああああああッッ!!
……何故だろう、怒られた。
当然のことしか言ってないのに受けた理不尽な仕打ちに、少しオッサンへの好感度を下げながらも虚空を睨み据える。
――確かにっ、確かに物語の最後には彼奴の存在は必要不可欠だ! だがしかし、それで物語が締まり、いい感じに終わったとしても、魔王シリアスの力が強すぎればそれだけで読者がきえてゆくのだ! 特にシリアス=つまんねぇ、とか思ってる奴らから先にな!
「……なぁ、読者に恨みでもあるのか?」
まぁ、オッサンの言うことも一理あるのだ。
いきなりコメディ調の作品がシリアス気取っても『は? この作者なに考えてんの馬鹿なの?』ってなる時あるし。
投げかけられた疑問に正気を取り戻したのか、オッサンは咳払いをして。
――という訳で、お主は今より『勇者コメディ』と名乗るが良い。これより異界へと旅立ち、巨悪の根源たる魔王シリアスを討伐してくるのだ! この先のシリアスに読者が耐えられるように!
瞬間、青色の光が迸った。
「なっ!?」
見れば、僕を中心に青色の魔法陣が展開されていた。
その魔法陣は内から外には決して出られない仕様になっており――しかも厄介なことに、今まで見たことがないレベルのクオリティを誇っていたのだ。
それこそ、数分じゃ破れない程度には。
「クソッ!」
ガンッ! 魔法陣によって出来た壁に拳を叩きつける。
青色透明な壁を一枚挟んだ向こうからはオッサンの高笑いが聞こえてくる。
――フハハハっ! それでは勇者コメディよ! 魔王シリアスを討伐するまで、さらばだぁぁぁぁっ!!
「まっ、待てこのクソジジイイイイイッッ!!」
本音丸出しの絶叫が響き。
僕の視界が、真っ白な光で溢れた。
☆☆☆
「――はっ!」
風が頬を撫でる感覚を覚えて、目が覚めた。
目の前に広がっているのは、草原だ。
視線を下ろすと、見覚えのありすぎる『ザ・勇者』といった旅の服装に身を包んでいる僕の体。
マフラーのように喉のあたりまで覆い隠すような赤いマントに、その中に着用している革の鎧。
左腕には盾が、背中には一振りの長剣が装備されていた。
「あれ、マジだったんだな……」
今更になって、あのオッサンが言っていたことがマジだったんだと確信する。
思わずシワが寄った眉根を揉んでいると、ヒラリと、一枚の紙が舞い落ちてきた。
「ん……? これは――」
空中でなんとかキャッチする。
どういう訳だろうか、物凄く体が重い。
と言うか月光眼すら発動できている気がしない。
ものすごーく嫌な予感を覚えながらも、手に取った紙へと視線を下ろす。
なになに……?
【ひゃっほー! みんなの狡知神ロキちゃ――】
――そこまで読んで、破り捨てた。
いやー、いい仕事した。
アイツ最近出てきてないから、そろそろなにかかんかやらかしてくるだろうな、って思ってたけど、まさかここでぶっ込んでくるとは。
その仕事を邪魔してやったんだ。これを言い仕事と言わずなんというだろうか。
と、考えているとさらにもう一枚上空から紙が落ちてくる。
先ほどと同じように手に取ると、再度その紙に書かれている文章へと視線を下ろす。
いや、もうロキとかみんな存在ごと忘れてるって。
覚えてたとしてもせいぜい名前だけだって。キャラとか髪の色とか身長とか覚えてないって。
っていうか、そんなこと僕でもあんまり覚えてな――
【※次破いたらその世界に取り残すから】
――いやー、紫髪ショートの、スーツ姿(黒色パンツタイプ)の狡知神ロキさん。見た目は中学生くらい。けっこうロリっ娘のイメージあるし、もう間違いなくファン沢山いるだろうなー! っていうか僕もそのファンの一人だしー?
最上級の賞賛を送りながらも、冷や汗混じりにその先の文章を目で追ってゆく。
【いやー、どうもどうも。まさかギンくんが私のファンだとは思ってもいなかったなー……って、多分ものすごーく光の消えた、死んだ魚のような瞳でこの文章見てると思うけどねー】
この上なく正解ですよ、何故か会話通じそうな手紙送ってきてる狡知神ロキさん。
【ってな理由で、そろそろそっちの世界の説明しちゃうね? その世界は私達神々がいうところの『無神世界』ってやつみたいでね。全ての世界を創造した時、エウラスのおじいちゃんが作り出した幾つかのイレギュラー。そのうちの一つがその世界、って訳なんだよー】
――ふむ、全くわからないな。
詳しく説明を求めようとすると、事前にそう思うだろうなって思って書いたのか、それについても詳しい説明が書かれていた。
【無神世界の特徴としてはね、決まってその世界を調停する神様がいないってこと。そして、その世界を調停しようと神々が赴いても、十中八九それすら出来ずに退散してしまうってこと。その二つがあげられるんだ。君の今いる世界で言うと『他の世界線から来た存在の力の消失』が世界のルールになってる。だから、ステータスも一般人……って程じゃないとは思うけど減ってるだろうし、アイテムも神器も魔法も、何も使えない。腕だけはなんとか影の腕をそのまま送れるように頑張ったけどね……】
その説明に、思わず冷や汗が流れた。
――無神世界。
神のいない世界。
神々が世界の調停をしていないということは……、それはつまり、今の僕でも勝つのが難しい敵や、混沌クラスの化物が彷徨いている可能性のある世界、ってことだ。
「お、おい! そんな世界にステータス減らされて送られてきたら――」
【そこら辺は大丈夫だよ、そこの世界はあの世界よりも全体的に『弱い』方の無神世界。もちろん君が想像したように、純粋な戦闘能力じゃあの混沌すら上回る化物が、生態系ピラミッドの底辺、とかいう意味不明な世界もあるにはあるけれど、そういう世界は決まって魔法って概念がないから、世界を繋げたりしなければ絶対に逆流したりはしないよ】
おうっふ……。
その知らしめられた事実に思わずこんなことを思った。
――もう、その世界に混沌放り込んだら勝てるんじゃね?
【出来たら、楽なんだけどねぇ。少しでも繋げちゃったら身体能力お化けの奴らが数体逆流してきちゃう可能性があってさぁ……】
その文字に思わずため息が漏れる。
……まぁ、この際その『上』の世界に関しては放置しておこう、間違っても今の僕が手を出していい存在じゃないだろうから。
――問題は、この世界だ。
【そう。今回君は、私たち神々と似たような存在。けれど神々よりも遥かに高位に存在する何者かの手によってそっちの世界に送られちゃったみたい。その上、君が元々いた世界の時間は完全に止まっちゃってるし、君の仲間も何人かその世界に送られちゃってるみたいで……もう私たちとしても大パニックな訳なんだよ!】
「はぁ!? あ、あいつらもこっち来てんの!?」
【うん、何人か、だけどねー】
その何人かについて詳しく聞いてみたい僕ではあったが、手紙が残り数行しか残されていないことに気がついていた。
【今の私たちに出来ることは説明と、ほんの少しの補助くらいのものだから……。あとは、分かるよね?】
その言葉を最後に終わっていたその手紙。
裏っ返しにして見ると、そこにはただ一言【がんばって。byゼウス】と書かれており、思わず口元に笑みを漏らす。
「つまりは、あとは独力でなんとかしろ、って訳だな」
言って手紙を破り捨てると、背負った長剣の柄へと手をかけた。
視線を上げる。
そこにはこちらへと威嚇してくるゴブリンが一体佇んでおり、魔物という存在だけはどちらの世界も共通なのだと理解出来た。
まぁ、確かに能力完全無効にステータス激減。武器も短剣じゃないと来たら、かなりピンチなことには変わりないが――
「……さて、これでも最終決戦を眼前に控えてる身だからな。ウォーミングアップ位には、役立ってくれるんだろうな無神世界」
言って、背中の剣を抜き放つ!
そして――ッ!
「…………あれっ?」
半ばで折れた剣を見て、口から間抜けた声が漏れた。




