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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
竜国編Ⅰ
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影―079 破った約束

コメディ書きたい症候群。

「あの男、開闢の能力を使用したぞ?」


 その言葉に、彼女は愕然とした。

 信じられるはずがない。

 自分と彼は、約束をしたのだ。

 絶対に、何があってもあの能力だけは使わないと。


「嘘だ、とでも言いたそうな顔だな? 我が力を継承したドラゴンよ」


 言葉は返さない。

 あれだけ鮮烈な宣戦布告をして行ったラスボスが、わざわざ気配を消してまで自分のところへと訪れたのだ。そんな相手と会話してやるほど彼女は甘くなかった。

 だが、それを見抜いているのか彼女は尚も言葉を続ける。


「メフィストは今回の戦い、完全に観戦へと回るとほざいてやる気を見せていなかったがな。それでもこれだけは聞いているぞ。貴様は修行期間、開闢の能力を知り、それをあの男に使わないようにと約束をした。違うか?」


 違わない。

 だからこそ信じなかった。

 その、約束が破られたということを。


「……ふっ、信じはしない、か。なるほどお前達の絆というものは本物らしい」


 そう言って彼女はその腕を振るうと、それと同時に空間が喰われ、異界への扉が生み出された。


「まぁ、私は信じ込ませたくて来た訳では無い。あの男を殺すにあたり、最も簡単なのは、あのそばに居る少女を壊すこと――だが、それはもう試した。だからこそ、二番目にあの男に近いお前を揺さぶることにした」


 彼女は楽しげに肩を震わせながらその扉の中へと入ってゆき、それと同時にその喰われた空間が元へと戻ってゆく。

 その刹那。



「信じるかどうかは貴様次第だが――せめて、本人に確認しておくことをお薦めするぞ。時空神竜スペースドラゴン」



 そんな声が、聞こえた気がした。




 ☆☆☆




 さて。

 そんなこんなで混沌へと喧嘩を売った僕。

 本音を言うと。


『……あれっ、僕これ死んだんじゃね』


 って感じである。

 いや、どう考えても勝てないでしょ。

 サタン一人でも多分勝つのは難しいし、明らかにアイツ、僕と戦った時は本気じゃなかったろうしさ。

 それに加えて混沌の蘇生術により、アスタロトと……あと、何故か生きてるアスモデウス以外はまず間違いなく蘇っている。

 それに加えて、単体でもルシファーと互角というバケモノ集団――戒神衆。そしてそれを束ねるバカ強悪魔、ガイズ。更にはあのメフィストもだ。……アイツはもしかしたら参戦しないかもしれないけれど。

 そして何より――アポロンがいる。

 そいつらを全員打ち倒し、混沌まで打倒しなけりゃならないってんだから。もう絶望以外することがなさそうに思えてしょうがない。本当に嫌になってくる。

 だが――


「別に手が打てないわけじゃない、って感じかな?」

「……ん?」


 聞きなれた声が耳朶を打ち、座り込み、魔力を高めていた僕は瞼を開いた。


「また、あの呪文(・・・・)の準備?」


 そこに居たのは、寝起きなのかパジャマ姿の恭香だった。

 ピンク色の寝間着に、腰まで伸びるその黒髪は尚一層彼女の可愛らしさを引き立てている。


「まぁな。手札が多くて困ることはないだろう」


 僕はまだ、死にたくない。

 なにせまだ童貞である。こんな状態で死んだらまず間違いなく化けて出てくる自信がある。根性で蘇ってやるさ。

 だからこそ、今できるだけの手札は整えておくつもりだ。

 その中でもこの『呪文』は、まず間違いなく混沌にすら通用する一撃だろうと思われる。

 なにせ修行を始めた三~四年くらい前からずーっと準備してきた、開闢を抜かせば完全なる奥の手だ。サタンやアポロンでも一撃で倒せるだけの自信はあるつもりだ。


「その分、普段は魔力ほとんど枯渇状態みたいだったけど」

「戦闘時はきちんと回復してたから大丈夫だって」


 そう言いながらも「よっこらせっ」と立ち上がると、パンパンとズボンについたホコリを払った。


「って訳で、朝ご飯食べに行こうぜ。魔力使ったせいかめちゃくちゃ腹減った」

「呑気なものだね……」


 恭香は苦笑しながらため息を吐くという奇妙な技を披露して、すぐに踵をかえした。


「十分でいいから待ってて。着替えてくるから」


 女の子なんだからもうちょっと時間かけてもいいんじゃないか? とは思うけれど、恭香は毎度毎度、女の子とは思えないほどに準備に時間がかからないのだ。

 もしや男か?

 とも思ったが、思った途端に鎖が飛んできたので、それ以降は疑うようなことはしていない。

 僕は苦笑しながら手を振ると。


「んじゃ、王城出たところで待ってるからな」


 そう言って、彼女の背中を見送った。




 ☆☆☆




「いやー、経験上昨晩にでも来るんじゃないかなー、とは思っていたんですが、今回は珍しく朝ですね!」


 そう言いながらも慣れた手つきで店の準備をしているのは、勇者召喚されてこの世界へとやってきたらしい波山徹さんだった。

 彼の言う通り、毎度のことならばここで最後の会談をやる予定だったのだが、流石に今回ばかりはおでんを食いながら和やかに、とは行かないだろうと思っていたし、実際にそうなってしまった。

 もしもここであれだけの殺気を垂れ流しにしてたら、なんの力もない波山さんはそれだけでショック死しかねなかったろう。


「まぁ、色々あるんですよ。……色々と」


 そう言いながら席を引いて座ると、僕の後ろについてきていた恭香がジトっとした視線をこちらへ向けてきていることに気がついた。


「……なんだよ」

「……いや、おでんなんだなぁ、って」


 その声にピクリと反応したは波山さん。

 彼はチラリと恭香の方へと視線を向けると、驚いたように声を上げた。


「も、もしかして彼女さんですか!? な、何やってるんですかギンさん! 彼女さんとデートでおでん屋だなんて! もっとオシャレな店に――」

「そこは普通兄妹とか、訳アリの親子とか、そう思うんじゃないか? いやあってるんだけど」


 それと波山さん。

 多分そのセリフ、そのおでん屋の店主が最も言っちゃいけないセリフなんじゃないかと思うんだけれど。


「っていうか、個人的にはそこらの店よりもよっぽどここのおでんの方が美味いと思うんだけどな」

「へ? えぇー、そ、そうですかぁ? へへへっ」


 と、褒めてみたらデレ始めた波山さん。

 男だしヒロインでもないけれどものすごくチョロい。

 横目でため息混じりに席へと座った恭香を確認すると、僕はそんなに波山さんへとビシッとキメ顔でこう言った。



「それじゃあ、いつもので(・・・・・)



 彼女とはデートに行った際、このセリフを言ってみたかった僕である。




 ☆☆☆




 今回は、横からつくねをかっさらってゆく愚か者はいない。

 というわけで、今まで奪われていた分を取り返さんと言わんばかりにつくねを食いまくった僕だったけれど。


「……」


 背後から視線を感じて、思わず硬直した。

 多分、背後にいるのは僕の見知った人物だ。

 それこそ、恭香と同じくらい一緒に時間を過ごした相手で、僕が全幅の信頼を寄せている相手でもある。

 けれど、その視線から感じられる感情は――怒りと、悲しみ。

 僕は嫌な予感を覚えながらも背後を振り返ると、そこに居たのは――



「……何の用だ? 白夜」



 白い着流しを身に纏い、太陽眼を発動させた白夜が、そこには佇んでいた。

 その口は真一文字に結ばれており、普段から浮かべている元気な笑みは……どこにも、見当たらなかった。


「聞きたいことが、一つあるのじゃ」

「……なんだ?」


 そう問い返しながらも、その質問の内容について察してしまった僕がいた。

 今、このタイミングで。

 彼女が怒りを滲ませてこちらへ問いかけてくる質問など――僕は、一つしか思い浮かびはしない。

 彼女は覚悟を決めるように息を吐くと。



「主様よ。あの能力を、使ったのか?」

「あぁ。使ったよ」



 予想通りの質問に僕は即答し、彼女は怒りを堪えるように歯を食いしばった。

 白夜のそんな表情を見るのは、多分三年ぶりだろう。

 僕が二人へと開闢の能力を教えた時以来だ。

 張り詰めた空気を敏感に察したのか波山さんが慌てだし、恭香はため息を吐いて首を横に振った。これは恐らく、自分は誰にも喋っていないと、そう言いたいのだろう。

 ならば浦町か?

 そうも思ったが、僕の直感がそれも違うと言っている。

 ならば、他にこのことを知っており、白夜にそれを伝えることでメリットのある存在といえば――


「……メフィスト。いや、混沌にでも教えてもらったか?」


 目に見えて、白夜の肩が震えた。

 ――ビンゴ、と言ったところか。

 大方白夜を揺さぶることによって僕の精神面にダメージを与え、好調の状態で戦闘を始めるのを避けようと、そういう事だろうか。

 そう考えるとため息が出てくる。

 これしきで僕らを揺さぶろうとした混沌に。……そして、混沌と会っていた、白夜にも。


「……お前が僕の知らないところで混沌に会っていたことは、知らなかったことにするさ。お前が傷ついていたんなら話は別だが、今回は――」


 ――怪我も無さそうだしな。

 そう言って彼女の方へと歩いてゆき、頭へと手を伸ばした僕は――その言葉を、最後まで言い切ることが出来なかった。

 パシィンッ!

 そう、僕の左手に衝撃が走ったから。


「……へ?」


 見ればまるで叩かれたようにその手は赤くなっており、目の前には、僕のその手を払った白夜の姿があった。


「妾は、ずっと一人じゃった」


 まるで、世界中の音という音が消え失せたんじゃないかと、そう錯覚してしまうような静寂が占める中、彼女の独白が僕の耳に届いた。


「友人なぞ居た試しがない。恋人など以ての外じゃった。家でも外でも心を開けず、一人だけ仲間はずれにされているように感じた妾は、群れを去った」


 それは、かつて聞いた過去だった。

 彼女は一人きりだった。故に群れを抜け、様々な冒険を経て僕と出会った。


「じゃが、主様と出会って妾も変わったはずじゃ。友人ができた、好きな人ができた。心を開ける、居場所ができた」


 その頬を、涙が伝った。


「妾はな。主様と、皆と一緒にいられればそれで良かったのじゃ。誰ひとりとして、欠けたらダメなのじゃ。誰かが犠牲になって、その上にしか成り立たないのが平和というのならば――」



 ――妾は、平和など望まない。



 涙を流しながらそう告げる仲間に。

 僕は咄嗟に、かけてやる言葉が見つからなかった。

お察しかとは思いますが、今回の章のヒロインのうち1人は白夜です。

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