第39話
お馬鹿さん
テイムのスキル入れるの忘れてたぁぁぁッッッ!!!
馬鹿がいた。
というか、僕だった。
「そもそもテイムのスキルを持ってたとしても、お前みたいなLv.1がどうやってエンペラードラゴンをテイムすんだよ。それに、なにか? この森で出会ったのか? そこのドラゴンの嬢ちゃんとはよぉ?」
エンペラードラゴン。
その名を彼が口にした時、騎士たちが一斉に騒ぎ出した。
それもそうだろう。僕の隣にいる女の子がSランクの化け物だと言うのだから。
「えっ? よく分かりませんけど、ステータス? って何ですか? え? ドラゴン?? 僕、何か変なことしました?」
なんとか感情を表情に出さなかった僕を褒めてやりたい。それにしても、向こうで培ったポーカーフェイスがまさかこんな所で役に立つとは思わなかったぜ......。
(さ、流石だね。この状態で言い訳をするとは...)
(白夜っ! 絶対に顔に出すなよっ! これ終わったらとことん褒美をやるからっ!)
(!? わかったのじゃっ!!)
「ほう、この状態で言い訳するか......。まぁいい、ひとつずつ聴いていくからしっかり答えろよ?」
くっ、ニヤニヤしやがって!
「ひとつ、お前はステータスを隠蔽しているな?」
「よ、よく分かりませんけど、してないと思います」
ちりーん♪
「......ちなみに今のは、とある魔導具でな。嘘をつくと音が鳴るって言う優れものだ。くくっ、さぁ、尋問を続けようか!」
彼はニヤニヤと満面の笑みを浮べていた。
☆☆☆
そうして奴の尋問が始まった。
「ひとつ、お前は何者だ?」
「...迷い人だ。名前はギン=クラッシュベル」
「...お前の種族とレベルは?」
「吸血鬼の52...」
ちりーん♪
「......真祖の789です」
瞬間、騎士たちがさらに大きく騒ぎ出す。
流石に目の前の人物がそこまで強そうには見えていなかったのだろう、全員が、目を見開いて驚いている。
「ベルが鳴らないってことは......お前マジかよ?」
「マジ」
やはりベルは鳴らない。
ああ、やっぱりこの魔導具、本物なんだな......。
なんだか予定がすべて崩れていくぜ......。
「お前、迷い人なのになんでそんなにレベル高いんだ?」
「くっ......ダンジョンで鍛えたからね」
あぁ、何だかもうこの後の展開が読めてきたぞ。
「そこまでレベルが上がるとなると......いや、そんな所存在しねぇ。それは何処のダンジョンだ?」
ほら来たよこの質問。
それにあんなクソダンジョン、やっぱないらしい。
あんの死神っ、次会ったら文句言ってやろうかっ?
「...転移陣で出てきたから正確な場所は知らんけど、恐らくはあの森の真下だと思うよ」
「ベルは鳴らないか......これは単純な俺個人の疑問なんだが、そこにはどんな魔物が居たんだ?」
「......はぁ、名前は言わないけど、少なくともボスが全員AA以上のダンジョンだったよ」
そう答えた瞬間、またもや騎士たちのどよめき......
なんだかうるさくなってきたな、潰すか?
(ま、マスター!? そ、それはまずいって! 今の2人ならこの国も潰せると思うけど、それでも今は我慢だよ我慢っ!)
ちっ、命拾いしたな。
はぁ、なんだか心が荒んでいく。
なんか悪いことしてるみたいで嫌な気分だ。
「......そうか、それじゃあ次で最後だ」
おっ、次で最後のようだ。
これ終わったらどうしよっかなぁ?
街に行って素材売って...いや、ここで売っちまうか?
そんなことを考えているとコイツはよりにもよってまた答えづらい質問をしてきた。
「そこの嬢ちゃん、エンペラードラゴンじゃねえだろ? まるで威圧感が違う......一体何者だ?」
奴の視線の先には卵を大切そうに抱えたまま能面のような顔をして仁王立ちしている幼女がいた。その様子はまさに、"圧巻" の一言だった。
あ、そう言えば顔に出すなって命令中だったっけ?
くっ! 策士策に溺れるとはこのことかッッ!!
この人は頭が良いのか悪いのかどっちなのだろう?
そんなことを思った恭香だった。
くっ、どうするっ!? もし本当のことを答えたら僕は間違いなく面倒な目に遭うぞ!?
(き、恭香っ、ど、どうするっ!?)
(し、仕方ないよっ、しばらくはゆっくりするんでしょ? だったらしばらくは流れに身を任せてもいいんじゃない? この国が嫌になったら他の国に逃げればいいし....)
た、確かにな...。僕はもう人間じゃないんだし、生き急いでも仕方ないか......。
「はぁ、分かった、言うからまずは場所を変えよう」
結局僕は、条件を幾つか付けることにしたのだった。
☆☆☆
①この国につくつもりはありません。かと言って敵というわけでもありません。僕たちは私情で動きます。
②ある程度は融通はさせますが、それでもこっちの事情を優先させます。ご了承ください。
③こちらに手を出さないで下さい。
「あなたの騎士団と国に出す条件は今の3つだけですね。あなたが誓うならステータスを、国が誓うなら教えられる範囲でなら教えるよ」
以上が恭香と話し合って決めた条件だ。
簡単に言うと『うるさいと潰すよ♡』という事。
簡単でいいねっ!
恭香曰く、この国に白夜より強い人物は存在しないらしいし、現国王も聡い人物なのだとか。ついでにステータスも送っとけば手出しなんて出来ないだろう。ま、スキルとかは一切送らないけどさ。
また、こっちでの僕は、相手が信用出来るか確認できるまでは敬語を使う、ということも決めておいた。第一印象だけでも随分と違うからね。
「......俺はこの条件を呑もう。と言っても、上から命令が下れば破らざるを得ない状況になるかもしれん。それは了承してくれ」
「ええ、まぁそれで充分ですよ。あなたも国に仕える騎士ですからね。それくらいは分かっています」
まぁ、仕方ないだろう。
彼にも妻や子供たちが居るのだろう、仕事を辞めてでも約束を守れ、なんて言うほど僕も鬼畜じゃない。
「...だだ、お前達ほどの力を持つ奴らがこの国にいるんだ。流石に今の国王でも幾つか条件を出してくると思うぜ? 例えば騎士数人を連れていってくれー、だとか、こっちに喧嘩は売らないでくれー、とかよ?」
『監視と不戦条約みたいなものだね、それくらいなら大丈夫何じゃない?』
まぁ、恭香も言っているのだし、それくらいならば別に構わないだろう。そう思って彼を見たのだが......
「な、な、何故本が喋っているッッ!?」
『「あ。」』
2時間後、ブルーノをなんとか落ち着かせた僕たちは、必要最低限のことを教えた後に騎士に案内してもらって街へと向かった。
その後、僕たちの本当のステータスを確認したブルーノは、1人頭を抱えるのだったが、それは僕たちには知る由もないことであった。
次回!パシリアへ!




