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影―078 諸刃の剣

この章の本編最後です。

 気絶した二人を見下ろして、僕は『生への渇望』を解除した。

 ――生への渇望。

 開闢(ジ・オリジン)のLv.2の能力であり、父さんから基本的に使用を禁じられている能力。

 かつて、サタンと戦った際は脊髄を抜かれ、発動に時間がかかったために、助けるのが間に合わなかった。

 けれど――


「今回は、間に合ったみたい、だな……」


 周囲からは戦闘音は完全に消え失せており、周囲を見渡しても……うん、死んだ奴はいないみたいだ。


「……にしても、凄いな、この能力は」


 最後の一瞬。

 あの時の速度は、間違いなく『血濡れの罪業ヴァンプオブ・ネメシス』を発動している時の僕よりも早かった。

 つまりは、聖獣化二枚がけよりも、さらにこの能力は強力だということである。

 Lv.2でこの強さ……。もしも、もしも万が一Lv.3の能力を使ったらどうなってしまうのか。考えただけで震えてくる。


 しかしまぁ、今回は少しヤバかったけど、今回も誰も死なず、大した怪我もなく終わっ――




 ☆☆☆




「ギン様ーっ!」


 私は何故か体を硬直させたギンから視線を切ると、こちらへと駆け寄ってくるオリビアへと視線を向けた。

 その背後には、アイギスに肩を貸してもらいながら歩いているマックスや、ボロボロになって疲れたようにため息を吐くお姉ちゃんたち、それに気絶したネイルを背中に載せた藍月の姿もあった。


「クハハッ、どうやら一件落着、というヤツらしいな!」

「……これ、もう終わってるのよね?」


 ボロボロになって気絶したゼロたちを担いだ無傷な輝夜、それに今まで隠れていたらしいミリーもこちらに歩いてきて、どうやら本当に誰も死ななかったのだと、改めて安心した。


「うっ……」

「ぬぉあ……」


 足元からも声が聞こえてきた。

 どうやらエロースはまだ気絶しているみたいだけど、了と白夜が気絶から回復したみたいだ。にしても……結構強く叩き込んだんだけど、この短時間で起き上がれる白夜の耐久力には脱帽するばかりだ。


 先程まで、お互いが敵だったのに。

 けれども気がついたら、私たちの間にはいつもの、暖かな雰囲気が漂っており、皆が皆笑っていた。

 けれど。


「ちょ、と、トイレ……」


 そんな声に、思わずその空気が凍りついた。

 その声の主――ギンは腹を抱えて冷や汗をかいており、それを見た輝夜が「クハハッ」と笑い飛ばす。


「相変わらず空気が読めぬ主殿だ! よほどキツイと見える、とっとと行ってこい」

「あぁ、すまん」


 そういったギンは――チラリと、私と了の方へと、視線を向けた。

 それは、長年付き添っている私や、向こうの世界での付き合いが長い彼女だからこそ、初めて読み取れる程度の小さなサインで、それを見て思わず了と視線を交差させた。


 ――頼む、付いてきてくれ。


 頭の中に、声が響いた。

 私と了だからこそ読み取れるそのギンの脳内。

 もう既に歩き出している銀の背中から読み取るに、今は……隠蔽されているみたいだけれど、その言葉だけはしっかりと届いた。


「……私も、ちょっとトイレ行ってくる」

「くく、私もちょうど行きたいと思ってたところだ」


 我ながら『女の子』のセリフじゃないとは思うが、これだけ長く一緒にいる彼女らだ、何ら疑問も持たずに私たちを見送ってくれた。

 彼の背中が城の影へと隠れ、その後を急いで追った私たち。

 そして、そこで見たのは――



「あがッ――ぐっ……、ぐぁっ……ッ!」



 胸を掻きむしり、必死に悲鳴を抑えている彼が、そこにはいた。


「なぁっ――」


 驚いたような声が隣の了から上がるが……、けれど、私はその光景を見て、さして驚きはしなかった。


「……この、馬鹿」


 地に伏す彼の隣に腰を下ろし、ぎゅっとその手を握りしめた。

 私の手を握り返す手が、とても冷たい。

 壊すつもりなんじゃないか。そう思えるほどにその冷たい手が私の手を握りしめる力は強かったけれど、私は痛みなんかよりも、悲しみしか感じなかった。


「き、恭香ッ! こ、これは一体――」

「さっきの能力。その副作用だよ」


 淡々とそう告げた言葉に、彼女は愕然と目を剥いた。


開闢(ジ・オリジン)のLv.2の能力――『生への渇望』。この能力は自らが死地に追いやられているほどに自身を強化する、相手がギンを追い詰めれば追い詰めるほどに強くなる。使い方(・・・)次第じゃ格上すらも簡単に打倒できる能力」


 そして――

 私は瞼を閉ざす。

 彼の姿を見ていたら、泣いちゃいそうになるから。

 だから今だけは――ごめん。

 貴方のこと、見ていられない。




「この能力は――命を奪う」




「…………はっ?」


 彼のその手に、額を当てた。

 強く強く、押し付けた。

 歯の隙間から嗚咽が漏れ、彼にこの能力を与えたあの人を、恨みたくなってくる。

 けれども、それも彼が選んだ道なんだ。

 だから私は、その道に文句を言う権利は――ない。


「馬鹿……だよね。こんな能力使わなくっても、すぐに戦いなんて終わるのに。仲間を助けるためだけにこんな能力使って……。本当に、馬鹿だよ……」


 頬を熱いものが伝い、私は顔を上げた。

 了は愕然と、目を見開いたまま固まっており、そんな彼女へと、深く、額を地面に押し付けるように、頭を下げた。


「お願い、このことは、誰にも言わないでほしい。ギンも、貴女には隠し通せないって、そう分かっていたからこうして連れてきたんだと思う。だから――」



 ――何でもするから、ギンの好きに、させてあげて。



 嫌われる覚悟で、彼の生き方を否定するか。

 彼を甘やかして、その生き方を支えるか。


 どっちも正しくて、多分どっちも間違っている。


 だからこそ、私にはどうしてもわからないんだ。


 ねぇギン。

 私は一体、どうすればいいのかな?




 ☆☆☆




 夜、目が覚めた。

 知らない天井だった。

 体中に痛みが走るが……、正直、こんな痛みももう慣れた。何度も即死級の攻撃をくらい、生き延びて、生き長らえて来たのだから、これくらいの痛みは大丈夫だ。


「……はぁ」


 悲鳴を上げる体にムチを打って上体を起こす。

 そうして初めて気がついた。この部屋には、自分以外にも知り合いが居るということに。


「すぅ……」

「……恭香」


 そこに居たのは、恭香だった。

 彼女はベッドの端で頭を腕にのせ、眠りについていた。

 もしも、もしも万が一僕の能力が公になっていれば、間違いなくこの部屋には他のメンバーも勢ぞろいしていたことだろう。

 それが無いということは――


「……いつも、ありがとうな」


 普段は恥ずかしくて言えたもんじゃないけれど。

 そう苦笑しながらも優しくその頭を撫でる。

 こんなにも小さいのに、僕は彼女に甘えてばかりだし、助けられてばかりだ。


「本当に……、情けない」


 僕は、弱い。

 弱くて、愚かで。

 そんな自分が、僕は大嫌いなのだ。

 友を殺され、仲間を操られ、恋人を泣かせた。

 そんな自分が、情けなくてしょうがない


「力が、欲しい」


 全てを守れるような、絶対的な力が。

 皆が幸せになれるような。

 悪いヤツらを全員倒してしまえるような。

 仲間達が平和に過ごせるような。

 そんな、力が欲しいのだ。


 ――その結果、この身が滅び、誰かを泣かせる結果になったとしても。多分僕は……止まらない。


 もしもこの力を使わなかったら、きっと数年もしないうちに、世界は混沌の手によって滅ぼされる。僕も死ぬ。皆も死ぬ。生き残るやつなんて多分、存在しない。

 その未来には『虚無』しか有らず、そこには平和も幸せも悲しみも、何も無い。


 もしもこの力を使えば、きっと僕は混沌を倒せる。世界に平和を取り戻せるし、ゼウスのことだ、残党の悪魔達を悪くは扱わないだろう。

 その未来には仲間がいる。友がいる。恋人がいる。平和も幸せも悲しみも、すべて揃っている。



 ――ただその未来に、僕は居ない。



 今の僕じゃ、混沌には勝てない。

 きっと、操られているアイツも救えない。

『生への渇望』を使ったところで、まだ足りない。

 だからこそ僕は、あの能力をきっと使用するだろう。



「――『生命の燈』」



 絶対に使用するなと言われたこの能力は、単体でさえ爆発的な――それこそ、混沌の脅威になり得る力を得られるが。その本領は……『生への渇望』との同時発動。

 そしてそれは、僕の命を――狩り尽くすだろう。


「死にたく、ねぇなぁ……」


 死にたくない。

 その気持ちはずっと変わらない。

 けれども。


「全員が平等に死に、悲しみすら無い未来と。僕だけが死に、皆が悲しむ未来と」


 さて、【知性】ならばどちらを選ぶ?


 ……何度問うても、その答えは変わらないのだ。



「悲しんでも、生きてなきゃ幸せなんて掴めない」



 だからこそ、僕は必死に足掻き苦しもう。

 皆が、平和を掴めるように。

 皆が、いつか幸せになれるように。


 あわよくば、僕がその【末路】へ辿り着かないように。



「僕はいつまでも、足掻き続ける」




貴方は、どちらの選択が正しいと思いますか?

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