記録―08 偽物勇者と暗殺者
《重要なご提案》
影編も終盤に突入し、次の章が影編のラストとなる訳ですが、影編以降、今連載中(止まりかけ)の番外編、『Silver Soul Online』の方が本編に絡んでくるシーンがあります。しかも結構重要なところで。
ですが、その作品自体まだ全然進んでいないというのが現状で、このまま行くと番外編既読者でさえ意味不明な展開になりそうな気がします。
ので、二つほどご提案が。
①このまま本編を毎日投稿する。
②本編を二日に一度投稿にして、その分空いた日に番外編を投稿する。
個人的には②がオススメですが、皆様的にはどちらがいいでしょうか?
アーマー・ペンドラゴンが砂国へと入国して少しした頃。
「……ほう、侵入者か」
彼女は、その砂の舞う夜空を見上げながらそう呟いた。
黒い軍服姿に、黒い軍帽を頭に被ったその姿は一見男のようにも見えたが、けれどもその前で傅くその悪魔は目の前の存在が女だということは分かりきっていた。
――否、正確には性別などという概念は存在しないのか。
「はい、つい先程連絡が入りました。侵入者は二名……片方がつい先日召喚魔法の生贄となった司祭の息子、『緑金の勇者』ことアーマー・ペンドラゴン。もう片方はその侍女との情報が……」
「緑金の……、聞き覚えがあるな」
彼女――混沌はそう呟いた。
緑金の勇者。
彼は執行者や黒炎、英雄などと違って表舞台に立つことこそ少ないが、それでもその実力は紛うことなき怪物クラス。
それこそ、大悪魔と同クラスと言っても過言ではない。
流石は件の執行者が『見逃した』器だけある。そうでも無ければ彼がそんなことをするはずも無く、今や彼は大陸でもトップクラスの強さを誇っていた。
そんな男だ、最近はこの大陸にご執心の混沌が聞き覚えがない、などというはずもない。
「それなりに……たしか、ルシファーと同じくらいは強いだろう、と聞いているが。何故こんなところに……と、その質問の答えは分かりきっているか」
「はい、勇者と名乗るほどですから、大方この国を牛耳っていたあの男を倒しに、あるいは説得しに来たのでしょう。一足遅かったというのが現状ですが」
男はそう答えると、彼女はその男へとつまらなそうに視線を向けた。
「私が行ってもいいのだが、だとしたらあまりにも一方的な抹殺になってしまうだろう、だからお前、責任をもって止めてこい」
「……本音は」
「決まってるだろう、こんな夜遅く、残業代も出ないなら働く価値無し、だ」
そう言って彼女は疲れたように肩をゴキゴキと鳴らすと、見下したようにその男――否、その大悪魔へと視線を下ろした。
「こちとらお前の蘇生で疲れてるんだ。お前みたいな雑魚、蘇らせてもらっただけ良かったと思え。それと――」
そう言って彼女はその真紅の瞳を爛々と輝かせると。
「一度目の敗北は運が悪かったと見逃そう。だが、二度目はないぞ、獄東の大悪魔――バアルよ」
その言葉にその老人――バアルは、その薄く閉ざされた瞼を微かに開いて頷いた。
☆☆☆
「……敵、いないね」
「いませんね……」
二人は、そのがらんどうな王城の中を歩きながらそう呟いた。
その二人がこの王城へと侵入してから、既に十分近くが経っている。
当初は『夜襲』ということで、最新の注意を払い、見張りがいないことを確認してから侵入した二人ではあったが、徐々にその城の異常さが目に付いてきた。
「敵……どころか、人影の一つもありません。それどころか気配も……」
アーマーの侍女――マルタがそう囁き。
次の瞬間、彼女はその腰から短剣を抜き放った。
「ハァッ!」
ガキィィンッ!
瞬間、アーマーの背後で火花が散り、それを受けた彼は焦ったように背後へと視線を向けた。
するとそこには、何の変哲もない白髪の老人がたっており、タキシードスーツに身を包んだ彼はニコニコと、薄く閉ざした瞼の目尻の方を優しく緩めていた。
「おやおや……そこの勇者殿を倒せば後は『オマケ』、なのかと思っておりましたが……。なるほどそちらも厄介そうですな。あの忌々しい青龍の小僧よりも尚強そうだ」
「お褒めに預かり光栄ですね」
青龍の小僧――久瀬のことである。
アーマーの侍女、マルタは戦闘能力に非常に長けており、そのステータスはアーマーと互角であり、その上彼女が最も得意とする暗殺技術についてはギンのそれにすら匹敵するほどである。
「アーマー様、戦闘準備」
「は、はいっ!」
その冷たい声に彼も腰の剣を抜き放ち、その老人へと抜かりなく視線を向け始める。
けれどもその行動に老人はピクリと眉を動かし、その瞼を薄く開いてみせた。
その奥から除くのは紅蓮色の瞳。その瞳に晒された二人は思わず背筋を怖気が走り抜けたような、ゾッとした感覚を味わった。
「たしか、貴方は神剣使いだと聞いていましたが……舐められたものですね。この私を前にただの剣を構えるとは。私のことを知らないとしても、あまりにも――」
「……知っていますよ。貴方の正体くらいは」
彼の言葉に、そう言葉を重ねるはマルタ。
「貴方は少々動きすぎましたね。街で目撃されること三回。城の窓から姿を見せること五回。そして――岩国で市民に見られること、十三回。……私の情報収集能力、舐めないでもらいたいものですね」
「これはこれは……。私のストーカーか何かですかな?」
あまりにも正確にして完璧すぎるその情報に、思わずその老人はそう軽口を叩いたが――帰ってきたのは、反撃だった。
「シッッ!」
いつの間にか彼の懐にまで入り込んでいたマルタは、その握った短剣をその胴体めがけて薙ぎ払った――だが。
「これでも、あの頃よりも更に強化されているのでね」
その一撃を、片腕で受け止めた老人。
その腕は悪魔のようなソレへと変貌しており、それには彼女も驚いたように目を見開いて――
「だから、知っていると言っているでしょう?」
――ニヤリと、笑った。
バアルはその笑みに身体中の細胞という細胞が危険反応を示し、そして――彼が、アーマーの姿がないことに気が付いた。
「『我が呼ぶは太古の剣、我が願うは悪を滅ぼす正義の刃』」
背後から声が聞こえる。
――ッッ!?
バアルはとっさに背後を振り向き――
「『我が正義に従い顕現せよ!』」
そこにいた彼の右手が放ったその緑金色の魔力。それを見てその危険性を改めて察した。
「『草薙剣』ッッ!」
瞬間、その手に召喚されしは一振りの剣。
その剣から放たれる威圧感はかの『神剣シルズオーバー』と全くの互角。いや、純粋な戦闘のためだけに作られたこの剣の方が、幾分か上回る。
「チイッ!」
その神剣シルズオーバー(凛によるコピーだが)を実際に見て、食らったことのある彼は咄嗟に見をひねってその場から退避したが――それでも一歩、遅かった。
ズシャッ!
彼の振るった一閃が男の右腕を半ばから断ち切り、周囲へと鮮血が撒き散らかされる。
――腕一本。
前にも同じように片腕をもぎ取られるような場面に遭遇したことがあるが、厄介さでいえばこちらの方が上。
あの時は相手――『氷魔の王』の能力を熟知していただけあり、戦い方も絞られていたが、対してこの男は……。
「『完全なる未知』……というのも、面倒なものですね」
彼は「皆さん私の腕に何か恨みでもあるんですか?」と苦笑しながらもその二人へと視線を向ける。
二人は背中を合わせるようにしてこちらへと視線を向け、その剣の切っ先を真っ直ぐ彼めがけて向けている。
「知ってますとも、大悪魔バアル殿? かつて岩国を襲撃し、黒炎、氷魔の王らによって討ち滅ぼされたと言われる完全なるモブキャラ。何故何気なく復活しているのかは不明ですが、貴方はつまるところ私たちと同じく本編にも出れない半端者です」
その言葉の意味こそは理解出来なかったものの、バカにされていると察したバアルは眉根を寄せ、歯を食いしばる。
それを見た彼女は心底楽しそうに笑うと。
「行きますよ大悪魔、偽物勇者と暗殺者の組み合わせ、あまり舐めてもらっては困ります」
そうして異彩タッグと大悪魔の、誰も知らない戦いが幕を開けた。




