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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
和の国編
412/671

影―053 時空神と地獄神

 さらに上空へと登っていくギンと、その腰のベルトについているその本型の恭香を見送って、白夜はその男――ガイズへと視線を向けた。


「止めなくても良かったのか?」


 輝夜がそう言った。

 けれどもそれを受けたガイズは、その言葉を一笑に付した。


「止める? 悪いけど俺は自分の実力は見誤らない主義なんでね、アンタら二人を相手取りながら、あの執行者を止める――だなんて、そんなのは無謀ってしか言わねぇのさ」


 その言葉に、白夜は内心でこの男の評価を改めた。

 実力だけならば白夜よりも、輝夜よりもさらに上。けれどもその性格は『おちゃらけた』の一言に尽き、彼女はそこに自分たちの勝機があると、そう思っていたのだが――


「馬鹿を装う天才……じゃな?」

「それはお互い様でしョうよ? 時空神竜」


 気がついた時には白夜の右眼は赤色に染まっており、その身体からはチリチリと、銀色の魔力が溢れ出している。

 それは輝夜も同じことで、ドラゴンゾンビの背に乗る彼女のからはドス黒い、闇よりも濃いオーラが溢れ出していた。


「『時空神』」

「『地獄神(・・・)』」


 そう唱えると同時に白夜の身体が時空神のソレへと変換され、輝夜の身体もまた、新たな肉体へと変換されてゆく。

 漆黒の、闇をモチーフとしたようなローブに身を包み、その胸元からは地獄の炎のような、紅蓮色の鎧が見て取れる。

 その手にはニメートル近い錫杖が握られており、彼女から感じ取れる威圧感は、白夜から感じられるソレに匹敵していた。

 それには「ヒュゥ」とガイズも口笛を鳴らし、背中に冷や汗が流れるのを感じた。


「おいおいおい……、執行者よりもコッチの方が強いんじゃァないですかね?」


 そんな言葉に、二人はニヤリと笑みを浮かべてこう言った。



「これより、執行を開始するのじゃ!」

「これより、執行を開始するッ!」




 ☆☆☆




 最初に動き始めたのは――輝夜だった。


「クハハハハッ! 我が真の力、今こそご覧に入れようぞ!」


 そう言って彼女はタタンっと空を蹴って(・・・・・)ガイズの方へと駆け出すと、カァンッと虚空に錫杖の石突を叩きつけた。


「ゆくぞ!『奈落の門(ザ・タルタロス)』ッ!」


 瞬間、彼女の背後に現れたのは――漆黒色の門だった。

 その門が放つ圧倒的な死の気配。それにはガイズも思わず全身に怖気を走らせ、考えるより先に距離をとっていた。

 だが――


「逃げられるとでも思ったかの?」


 そんな声が聞こえて、次の瞬間、彼の眼前には再び輝夜の姿が迫っていた。

 ――時間停止ストップ・ザ・ワールド

 格上には聞き辛いその能力ではあれど、今回はその能力を一点に凝縮して使用した。

 故にガイズにとっては『自分の時が止まっていた』ことにすら気がつけず、ただ現状に困惑するのみ。

 そんな中、輝夜はニマリと笑みを浮かべてその名を呼んだ。


「さぁ! 毎度の如く我らが主に取り付く悪鬼よ! 今ここにその姿を知ら示せ!」


 ギィィィ……

 そんな音とともにその門が開き――直後、その奥から巨大な黒色の腕が飛び出してきた。


「うぐっ!?」


 その腕は真っ直ぐにガイズへと伸びてゆき、ガシッとその身体を掴み取る。


『全くヨォ……、アンタといいアイツといい、俺様の扱いってのがなってねェよ。もう少し崇めてくれたっていいんだぜェ?』

「ふん、我らに使いこなされる悪鬼が何を今更」


 輝夜の声に『つまんねぇ女』と返したその悪鬼は、その門から徐々にその姿を現していく。

 刃物でも傷一つつかないだろうと、そう感じさせるほどに強靭なその筋肉。

 身体中からは漆黒のオーラが吹き出しており、その威圧感は、ギンが使用するあの技に瓜二つであった。

 そんな悪鬼は、虚空を踏みしめると、ゴキゴキと首を鳴らしてこういった。


『ふぃー、ひっさびさに出たな、地上にヨォ。ま、全体の一パーセントくれぇしかこの門じゃぁ呼び出せねぇみてぇだが、この俺様が来てやったんだ、余程の奴が相手でも無けりゃ、大体は勝てるってもんだ』


 その鬼の名は――悪鬼羅刹。

 かつて魔物の頂点として君臨した円環龍ウロボロスでさえ絶対に怒らせぬようにと注意した、奈落に住まう、文字通り――最強の悪魔。

 その本体は遥か昔、全盛期たる神王ウラノス、獄神タルタロス、寵愛神エロース、時空神クロノスらの手によって奈落に収容されているが、その体の一部をこうして召喚することは可能。


「おいおいおい!? なんでアンタがここにいるだ、悪鬼羅刹ヨォ!」

『んぁ? おお、お前は確か……戒神衆の餓鬼か!』


 その言葉にギリッと歯噛みするガイズ。

 自分のことを『餓鬼』と呼べるものは多くない。それこそ並の大悪魔でさえ自分よりも弱いのだから当たり前だ。

 だからこそ、迷いもなくそういったその鬼が本物であると、嫌という程にわかってしまう。

 だが――


「悪鬼羅刹! 言っちゃ悪いが、本体でもないアンタじゃ今の俺は倒せないさ!」


 瞬間、悪鬼羅刹の握っていた手が爆発し、それには思わず『ぬぉ』と声を漏らす。

 そう、易々とその手から逃れたガイズではあったが、彼はその悪鬼羅刹を召喚した輝夜に対する危険度を見直すことにした。


「負けるとは思えないが……厄介なことには変わりないわな」


 そう言って彼はコクリと頷いた。

 けれども彼は忘れていた――もう一人の存在を。


「『ドラゴンブレス』」


 背後からそんな声とともに、息を大きく吸うような音が聞こえてきた。


「なっ!?」


 ガイズは驚いたように背後を振り返った。

 果たしていつの間に背後まで回り込まれたのか。その理由は単純明快――ギンという騙しのプロフェッショナルと三年間も共にいれば、嫌でもミスディレクションの一つや二つ、会得してしまうものである。


「ガァァァァァァッ!」


 瞬間、白夜の口から白銀色のブレスが放出された。

 それは一瞬にしてガイズの視界を埋め尽くし、彼は咄嗟に両腕を前にガードしようとして、その事実を思い出した――


「――ッッ! じ、時空間魔法――」


 時空間魔法。

 その魔法属性の付与された攻撃の前には――どんな優れた防御とて無意味と化す。

 全ての防御ごと時空を切り裂き、ありとあらゆる敵を討ち滅ぼす強大にして凶悪な魔法――それこそが時空間魔法。

 そんなものを司る神に対し、防御などというものが通じるか。

 そんなことを考えて、ガイズはそのブレスに飲み込まれた。


「うっ、ぐぅぅぅぅぅぅっ!!」


 もちろん、その答えは――否である。




 ☆☆☆




 ポタッ、ポタッ……。

 両腕をだらんと下げたガイズ。右腕は完全に折れてしまったのか、もはや感覚すらなくなっている。


「一撃で、このザマかよ……」


 ガイズは自らの弱さを再確認するとともに、その少女――白夜の厄介さを嫌という程に理解した。


「さっきの変な感覚……まるで自分だけ残してほかの時が流れたみたいな感覚も、多分お前だろ? その上攻撃一つ一つが防御不可、全て躱さなきゃなんねぇとは……、執行者もとんだペットを勝ってるもんだ」


 もしもその場にギンがいたら、首が取れるんじゃないかという程に首肯することだろう。いやマジで白夜強すぎるよな、と。

 しかも、今回相手せねばならないのはそれだけではない。


「クハハハハッ、これは案外――早く終わりそうだ」


 そう言って全く笑っていない瞳を向けてくるのは輝夜。

 彼女はまだ一度として自身での攻撃をしていないが、その佇まいからも戦闘能力の高さが窺える。まず間違いなくあの悪鬼羅刹よりも厄介だろう。


「ったく……、旦那は楽をしすぎなんだよ。俺にこんな化物たちを引受させてよぉ……」

「カカッ、その旦那とはサタンのことかの? ならば今頃、サタンも主様の前にひれ伏している頃じゃ」


 ガイズの言葉に、そう白夜は口にした。

 けれどもその言葉にガイズは……。


「……は? え、何言ってんの、アンタ?」


 心底不思議そうにそういった。

 その顔からは『冗談』と言った表情は窺えず、彼はさも当然とばかりにこういった――


「いや、そろそろ終わる頃だとは思うけどよ」


 そう言った次の瞬間、上空から白夜と輝夜の間を通り抜け、黒色の物体が地上へと落下していった。

 咄嗟のことに輝夜はその正体がわからずにその地上を振り返るが――けれども、魔眼の最高位たる太陽眼を持つ白夜は、その正体が自分にとって最も予期していないものであると知っていた。


「あ、主様ッ!?」

「何っ!?」


 白夜の叫びに、輝夜は信じられないとばかりに目を剥いた。

 地上へと視線を向ければ、身体中から血を吹き出しながらも呻いているギンの姿があり、その姿は既に『血濡れの罪業ヴァンプオブ・ネメシス』モードへと変化していた。

 その状態で――――負けた?


「やっぱり、もう終わってたかい、旦那……って、どうしたってんだその傷は!?」

「……あぁ、なかなかに手強かった」


 その声に、白夜と輝夜は背後を振り返った。

 そこには目を見開いているガイズの姿と、片方の角をその半ばから失ったサタンの姿があった。

 その身体には幾筋もの傷がついており、かなりの激戦があったのだと思い知らされる。

 けれども――



「だが、俺の勝ちだな、少年よ」



 サタンは地上を見下ろしてそう言った。

 その身体からは、未だに衰えぬ威圧感が迸っており、それを見た二人は――絶句する他に無かった。

ギン、敗北です。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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