影―051 化物兄妹
さて、妹ちゃんルートは無いのですか? と感想欄に書かれまくっていたのを思い出し、急遽凛ちゃん秘話を入れてみました。
その後、部屋からロビーへと降りてきた僕の視界に入ったのは、ロビーで寛いでいる久瀬たちだった。
「おう、朝早くから痴話喧嘩か?」
「いきなりゲーム機渡されて爆破されるような喧嘩を痴話喧嘩と呼べるならな」
僕はそう言いながらも、なんだかチリチリとして軽くアフロ化している髪の毛をかいた。
僕としたことが寝起きということで頭が働いていなかった。アイツらが僕の性格を矯正するだなんて考えるはずもない。やるとすれば力技で仕返しする、とかそんなのだ。
僕は溜息をつきながらも――ふと、久瀬がここにいる現状を思い出した。
「っていうか久瀬。お前なんで生きてんの?」
「……生きてちゃ悪いみたいな言い方だな」
……まぁ、僕でさえ混沌に片腕奪われたんだ。そんな奴が混沌の魔力をその体に引き入れてピンピンしてる――だなんて知ったらイラッと来るだろ。
そんなことを考えていると、久瀬の近くにいた凛ちゃんが僕の方へと駆け寄ってきた。
「兄さん、久瀬竜馬、鼻水垂らして頑張ってた。あと他にもいろいろ体液ぶっしゃーして――」
「……凛ちゃん? 久瀬くんが殺意を帯びた視線を向けてきてるからそろそろ辞めとこうね?」
僕は内心冷や汗を書きながらそう言った。
今の久瀬のステータスは、おそらく僕よりもさらに高い。
それが青龍だけじゃなく九尾までその身に宿し始めたのだ。そろそろチャ○ラとか螺○丸とか使い始めてもおかしくない。あと尾○玉。
その上いつの間にか『焔神』なんて『影神』のパクリ技も使い始めていたし……。
『血濡れの罪業』や『月光眼』をフルで使えば余裕で勝てるだろうが、それでも正直相手にはしたくない。
と、そんなことを考えていると、僕の裾をクイクイっと凛ちゃんが引っ張ってきた。
「ねぇ、兄さん。今日って、暇?」
「ん? 今日か……」
別にやるとすれば爆発物置いて逃げ腐りやがったアイツらに一発ヤキを入れに行くくらいだが……、まぁ、暇と言っても差し支えないだろう。
また怒られそうな気もするが、まぁ、どうせ明日以降は暇なんだ。後々に時間を取ればいいだろう。
「まぁ暇だね」
「……そう」
凛ちゃんはそう呟くと、少し頬を赤く染めて僕の服の袖を握るその手に少し力を入れた。
なんだか普段とは違うその様子に困惑し――
「兄さん、き、今日……、で、デート、しない?」
思いもせぬその言葉に、僕は思わず愕然とした。
☆☆☆
僕の妹――正確には義妹、凛ちゃんは、紛うことなきヒキニートである。
部屋から……というか、自宅から外に出ることは滅多になく、外で凛ちゃんを発見した日には空から槍どころか、宇宙人(美少女)が降ってくるんじゃないかとソワソワしたものだ。……まぁ、それも今では黒歴史だが。
というわけで、彼女が僕をデートに誘うことなんてそれはそれは珍しい事なのだが――
「こんな事だろうと思ったよ」
僕は、そのベットの端に腰掛けながらそう呟いた。
彼女の言うデートとは――つまるところお家デート。
今僕がいるのは、彼女が寝泊まりしている部屋――は他のメンバーも使っているらしいので、僕の部屋だ。
そんな僕の部屋で、彼女は――
「すぴー……、すぴー……」
普通に寝ていた。しかも僕のベットで。
僕はさも当然とばかりに行われているその暴挙に苦笑いを浮かべながら、久しく見たその寝顔に、少し懐かしさも感じていた。
「もう、何年も会ってなかったんだよな」
そう言って僕は、起こさないように気をつけながらも彼女の頭を軽く撫でた。
サラサラとした白い髪が指の間を抜けてゆき、彼女はくすぐったそうに、そして嬉しそうに笑みを浮かべる。……寝てるはずなんだけどな。
僕は凛ちゃんへと毛布をかけてベットから立ち上がると、一人がけの椅子へと腰を下ろした。
「よくもまぁ、ここまで……」
僕は、一応彼女の能力を知っている。
きっと彼女を除けば誰よりも知っている。
彼女の能力――『寄生』は、おそらく日本にいた頃から培われたものであり、それが偶然にこの世界に来て開花しただけの話。
「頑張って、きたんだよな」
僕は窓から空を見上げる。
そこには雲一つない青空が広がっており――僕は、少しだけ昔のことを思い出していた。
☆☆☆
それは、僕が鐘倉ではなくなり、凛ちゃんと出会ってから数年経ったある日のこと。
僕は今のように自室の学習机の前に座り、その日も雲一つなかったその青空を見上げていた。
「……お兄、ちゃん?」
そんな、遠慮気味な声が背後から聞こえてくる。
振り返れば、そこには部屋の扉を軽く開け、その隙間から軽く顔を出している凛ちゃんの姿があった。
伸びっぱなしになっているその長い白髪に、その髪の隙間からは透き通るような青い瞳がこちらを覗いている。
「……どうした?」
僕はそう興味なさげに返す。
その家の家主は神王ウラノス。母親は歯車の長リーシャ。そしてその娘が彼女――凛で、僕はその家の異物でしかなかった。
故に僕は三人との距離が離れ気味になってしまい、当時の僕からすればその家もまた――安心できる場所とは言えなかった。
「んと、ね? その……お父さんも、お母さんもっ、その……で、出かけてる、でしょ? だから……」
そう言って彼女はモジモジとし始めた。
見れば彼女は両手で何かを持っているようで、それを見た当時の僕はため息を吐いた。
ビクッ、そう体を震わせる凛ちゃん。
「……遊んでほしい、って?」
彼女の持っていたものは、当時僕が暇つぶしとして、与えられていた僅かなお金を用いて買っていたカードゲームのデッキだった。……まぁ、名前まで言及しないが、エルフの里でハッチャケていた奴の原型、そう言えばお分かりいただけるだろう。
「……う、んっ、こ、これっ、おこづかいで……集めた、のっ。お兄ちゃんと、遊び、たくてっ……」
もしもそこに居たのがこの僕だったらソッコーで抱きしめてるね。そう言っても過言ではないほどに天使な凛ちゃん。もう可愛すぎて鼻血が出そう。
そんな凛ちゃんには当時の僕も「うぐっ」と声を漏らす。
当時の彼は小学生の癖して中二病真っ盛り。なんだか孤高な感じに酔っていたのかもしれないが、それでも妹が大切なお小遣いに手を出してまで買ってきたのだ――自分と遊ぶためだけに。
これで動かなければ男じゃない。
「……はぁ、分かったよ。何回でも付き合ってやるから部屋の中入ってきていいぞ」
「……! わ、わかったっ!」
そうして易々とロリコン……じゃなかった、新たな扉を開いて新たなる道を歩き始めた当時の僕は考えてもいなかった。
その――妹の才能に。
☆☆☆
「えーっと……その……、だ、ダイレクトアタック」
僕は、遠慮気味にそう言った。
チラリと視線を彼女へと向けると、そこにはプルプルと震えながらも涙目になっている凛ちゃんの姿があった。
「ま、負け……た」
結果は僕の勝ちだった。
しかも僕のフィールドには攻撃力三千オーバーのモンスターたちが揃っており、マジックトラップゾーンにもありとあらゆる戦況に耐えられるようなカードたちが並んでいる。
その上僕のライフはMAXで――対して、凛ちゃんのフィールドにはカードは何もなく、その上ライフはゼロ。
多少……いや、かなりやり過ぎた結果がこれだ。当時の僕も何気に初めてこのゲームで対戦したから興奮していたのだろう。
そして周りが見えなくなって――気がついた時には手遅れだった。
「えっと……その、まぁ、アレだって。マグレだよマグレ。……そうだ、デッキ交換してやってみるか?」
「……ぐすっ、うん……わかった」
何とか彼女の機嫌を直そうと尽力した当時の僕はそんなことを言い出し、実際に二人でデッキを交換して再戦してみることにした。
彼女の使っていたデッキは、可もなく不可もなく、そういった感じの、なんの改良もされていない構築済デッキそのものだった。
対して僕のものは未だに誰も考えついたことのない最強のデッキ。過去未来現在含めてこれより強いデッキなんぞ現れないだろう――制作会社がふざけたカードでもださない限りは。そう思えるほどの完成度を誇っていた。
それに加え――
(この子自身も、あまり上手くないんだよな……)
当時の僕は、内心でそう呟いた。
当時の凛ちゃんは、あとから聞いた話によると、少しでも早く僕と遊びたかったのか、軽くルールを覚えた段階で僕の部屋へと来てしまったのだとか。そのデッキがどんな戦法をとったら勝てるのかなど一切わからない状態だ。そりゃ上手くないと思うのも仕方ないだろう。
そんなことを思いながらも、僕はまた、そのような腕でそのデッキを扱いきれるはずがないと、そう思っていた部分もあった。
故に、このデッキでもそのデッキに勝てるんだぞー、と思わせながらも、年長者であり……一応、形だけは兄である自分の威厳を守ろうとして――
その数分後、愕然とした。
「ダイレクト、アタック……?」
「……あれ?」
僕は、十分も持たずに敗北していた。
いや、もしかしたら五分も持っていなかったかもしれない。
とにかく今のデッキで最善を尽くした。何手も先を読み、先読みに先読みを重ねて――それでも敗北した。
――先ほど、僕が使ったのと同じ戦法で。
「か、勝った……? わ、私、勝った! や、やったぁ!」
そう言って小躍りしている彼女を見て、僕は初めて、自分よりも上位の怪物を目撃したような、そんな感覚を覚えた。
と言っても、あの世界に生まれたごく普通の人間の中で最も化物だったのは浦町だったが、それでもこの子――凛ちゃんの才能は僕にとって恐ろしく。
それ以上に――嬉しいものだった。
「くくっ、ふっ、あははははっ、凄いなお前! そのデッキを見ただけで使いこなせるとか! どういう頭してんだおい!」
「ふぇっ? そ、その……お兄ちゃんのを、真似した……だけ、だねど」
その言葉により一層心が踊った。
化物は、自分だけではなかったのだと。
この世界には僕以外にも、化物が存在するのだと。
そう、僕は彼女に――救われたのだ。
当時の僕は満面の笑みで彼女の頭をくしゃくしゃと撫でると、その顔を覗き込んだ。
すると彼女は照れたように顔を赤く染め、何かに耐えるように口をむにむにと動かしたが、当時の僕はそれには気づけない。
「うーん……、可愛いんだけどな。その髪、ちょっと長すぎやしないか? もっと短く……そうだな、肩くらいまでにしたらめちゃくちゃ可愛くなると思うぞ?」
そんな無責任な言葉によって、翌日彼女が床屋に髪を切りに行くとは思いもせず。
こうして、僕と彼女は――兄妹になった。
☆☆☆
「んっ……ふぁぁあ……、あれ? 痛くない」
起きて早々、何故か自分の下半身へと視線を向けながらそんなことを言い出した凛ちゃん。
彼女は焦ったように体中をペタペタと触っていくが、何もされた形跡がないのを見て疲れたように肩を落とす。
「今日は……純潔を捧げるつもりで、勝負下着付けてきたのに」
「……なに、もしかして誘ってたの?」
「もち。目の前で寝てる妹がいたら、手を出すのが兄の役目」
そんな歪んだ兄は僕は兄とは認めないがな。
僕はそう考えながらも苦笑すると、立ち上がって凛ちゃんの方へと歩いていった。
「でもまぁ、うまくやってるみたいで安心したよ」
「……ん。本当は、兄さんと今すぐウエディングしたいけど、今は、久瀬竜馬が、ちょいと心配だから」
「分かってるって」
彼女は、いい所も悪い所も、すべて僕の背中を見て育った。
だからこそ仲間は大切にするし、自分の恋愛感情は二の次にする。そんな仲間のために自己犠牲を厭わない――僕と同じように、人として狂った女の子。
「個人的には、僕と結婚するのは諦めてほしいんだけどな」
「や、それは無理」
僕の言葉に即答した彼女は。
「久瀬竜馬が自立したら、兄さんの所に戻るから。だから、私の居ないところで、無茶するのは、め、だよ?」
そう言って、ニコリと笑って見せた。
ちなみに、久瀬と結婚して慰謝料ぶんどって離婚、というのは冗談です。




