閑話 ヒカリちゃん
目が覚めたら、僕は縛られていた。
「……へ? 何これ」
宿のベットの上なのだろう。動く度にギシギシと音が聞こえる中、いきなりの超展開にそんな声を出すと、カツカツと周囲からいくつかの足音が聞こえてきた。
「やぁ、お目覚めかな。浮気性な執行者くん」
そう言って現れたのは、何故か白衣姿にサングラスをかけた恭香だった。
他へと視線を向けると、同じようにサングラスをかけた白夜や暁穂、浦町、藍月やエロースの姿まであった。
「え、いや何やってんの? 朝っぱらから人のこと縛って……あぁ、もしかしなくても発情期か?」
「もしかしなくても違います」
僕の言葉に即答する恭香。
なんだ発情期じゃないのか。白夜とかソフィアあたりならそう言われてもなんの疑問も覚えないのだが。
なら――
「なら一体どういうことだ? なんで僕は縛られてるんだよ?」
しかも極めつけはソフィアが隠れて能力を使っているのだろうか、僕の能力が一切使えないという現状だ。なんだかいつになく本気加減が伝わってくる。
だけど、僕……なにかしたっけ? あの後普通に宿に帰ってきてそのままベットに横になってそのまま寝た。
――特に何もした覚えはないんだけど……。
「この人……、何もした覚えないとか思ってるんですけど」
「特に何もしていないから縛られてるのじゃ」
そう言ったのは額に青筋を浮かべた恭香と白夜。
特に何もしていないから? なんだそのよくラノベのヘタレや鈍感主人公が言われてそうなフレーズは。
まぁ、その面でいえば僕は大丈夫だな。鈍感じゃないっていうか、もう他人の気持ちに敏感すぎて疲れるくらいだし。
だからこそ。
「……ねぇ、なんかみんな怒ってない?」
その事実にも気がついていた。
僕の言葉に恭香たちとは反対側にいた浦町が「んんッ」とわざとらしく咳をした。
「この度の君の失態は私のせいと言っても過言ではない。だからこそ私が説明しよう、私たちを放っておいてどこかへと出かけてゆき、帰ってきたと思えばそのまま私たちに一言もなく眠りにつき、あとから調べてみれば違う女の父親の元へと挨拶に行っていた女たらしよ」
「あ、もうだいたい分かったんでいいです」
僕は物凄くわかりやすいその説明にそう言葉を返すと、浦町は悔しそうにこう言った。
「くっ……。君がデリカシーに欠ける男だということは、出会った頃から重々知っていたのだ……。それを『まぁいいか』と放置していた、この私の責任だ」
「おい待て、なんだその遠回しな性格批判は」
何がデリカシーが無いだ。なら逆に聞くがここにデリカシーに気をつけるべき『女性』がいるのだろうか?
僕はチラリと白夜の方へと視線を向けると。
「――要らなくね?」
「待てぇぇぇい! 何故、何故今妾の方を見てそういったのじゃ! 流石に傷ついたのじゃぞ!」
サングラスを外して涙目になった白夜が縛られた僕の体を揺すってくるが、如何せん色々と白夜の痴態を目の当たりにしている僕としては……その、意見を変える気分にはなれなかった。
「……すまん」
「なんで目を逸らしながら謝るのじゃああああ!?」
そんなやり取りをしていると、浦町は注目を集めるべく、再度わざとらしい咳をついた。
「というわけで、君がデリカシーがない……というか、あるくせに使っていないということは重々承知している。そのため、君には私たちの考えたデリカシー訓練講座を受けてもらう!」
そう言って彼女は、懐から一台のゲーム機を取り出した!
☆☆☆
ドキドキっ♡ ヒカリちゃんと秘密の特別訓練っ!
両手を開放された僕の目の前には、そんなちょっとアレな文字列が浮かんでいるゲーム機の画面が。
そんな題名を見て、僕は浦町へと視線を向けた。
「……え、これってもしかしてエロ――」
「ギャルゲーだ」
「いやどっからどう見てもエロ――」
「ギャルゲーだ」
頑なにその真実を認めようとしない浦町。
いや、いきなりP○Pみたいなゲーム機与えられて、その画面にいきなりそんな文字書かれてたら……そりゃ、ねぇ?
「君には今日からそのゲーム。ドキドキっ♡ ヒカリちゃんとの秘密の(以下自主規制)をやってもらう」
「おい、今自主規制しなかったか」
内容はわからんがこいつも題名はやばいって分かってるんだろうな……。でないとこんなに顔赤くしないだろうし。
そんなことを考えていると、エロースが大きな白い板を取り出した。そこには可愛らしい少女が描かれており、その容姿は恭香たちと比べても遜色無いほどであった。
「えー、この方がこのゲームのヒロインたるヒカリちゃんです。種族は悪魔族。モチーフは『空亡』です。根源化したらめちゃ強い大悪魔、という設定ですが、あまりの強大さゆえに力を封印されてダンジョンの奥深くに閉じ込められていたー、という感じです」
「ふーん……っておい、なんだその空亡って、大悪魔? 大悪魔と恋愛シュミレーションしろって言うのか?」
冗談じゃない、こちとら大悪魔に喧嘩ふっかけたばっかりなんだぞ? そんなのやってられっかよ。
「ちなみにですが、ヒカリちゃんは全盛期の神王ウラノスに封印されたかつての悪魔の王、という設定です。全ての封印が解けたらめちゃんこ強いって設定にしようかな、と作者は考えているそうですが、本作で登場する予定は――」
「ちょっとお姉ちゃん!? それ言っちゃダメなやつ!」
「おっと。すいません言いすぎました」
……聞かなかったことにしよう。
僕は今の行を記憶から抹消すると、その画面へと視線を下ろした。
とりあえず納得するかしないかは別として、このゲームは恭香たちが僕のために作ってくれたもののようだ。なんだか画面に『ようこそギン君』って書いてあるし。
なら、やらないって選択肢はないだろう。
「とりあえずありがとな。デリカシーを使う気になるかは分からないけど、とりあえずやって見るよ」
そう言って僕はスタートするべくボタンを押し――
『私の名前は陽刈。太陽を刈り取ると書いて陽刈。私の目的はただ一つ――心から認めた相手に仕えること。私は貴方みたいな軟弱には仕えない。消えて』
――game over! ヒカリちゃんにフラれました。
瞬間、僕はそのゲーム機をぶん投げた。
「「「あぁぁぁっ!?」」」
浦町たちが焦ったようにそれをダイビングキャッチしているが、正直それどころではない。
「ヒカリちゃんって陽刈ちゃん!? なにあの子、めちゃくちゃ怖いんだけど!? っていうか選択肢の一つもなしにフラレたんですけど!?」
思い出すは先ほどのヒカリちゃん、もとい陽刈ちゃん。
その佇まいからしてもうなんかやばい。一目見た時点で『あ、コイツはやばいな』って分かったけど、それ以上にゲーム初めて数秒でフッてくる当たりがもっとやばい。
「ふっ、陽刈ちゃんはシャイだからな。めげずに何度もチャレンジするんだ。さすれば道は開かれ――」
「開きたくないんですけど!? 僕もっと幼なじみとかがいい! 毎朝起こしに来てくれる幼なじみがいい!」
そう、毎朝毎朝テンプレセリフを並べながら部屋まで起こしに来てくれる、そんな隣の家に住んでる幼なじみがいい。
すると浦町は困ったようにため息を吐くと、その懐から見たこともないような道具を取り出した。
「少し待っていろ、数秒でデータを書き換えるから」
そう言って彼女は僕へと背中を向けると、ジジジジッと機械音を鳴らしながらそのゲーム機を改造していく。数秒で終わるとか言ってたけど不安しか感じられない。
「よし、終わったぞ」
「……はぁ。そうですか」
そう言いながらも僕はそのゲーム機を受け取った。
画面に映っているのは相変わらずの題名だが、何となくその背景が変わったように思えた。
さて、それじゃあ幼なじみとラブってくるか。
そんなことを思いながらも僕はボタンを押し――
『起きて。でないと……殺すよ?』
瞬間、僕はそのゲーム機をぶん投げた。
「あぁっ!? またか! また気に入らないのか!?」
「うるせぇ! また陽刈ちゃんじゃねぇか! っていうか完全にヤンデレてるじゃん! 僕はヤンデレ嫌いだって言っただろ!」
そう、僕が女性の中で最も嫌いな種族――それがヤンデレだ。
嫌いというか苦手というか、普通に怖いから好きじゃない。
のだが、この陽刈ちゃんときたら完全にヤンデレである。もうやめた、もうやらないからね。
と、そう思っていたら。
「……全く、陽刈ちゃんはまだデレてないだろう? 今のは単純に君を殺そうとしただけだ」
「もっとタチが悪いわ!」
なんでゲーム開始して数秒で包丁を振りかざしてる奴と恋愛しなきゃいけないんだ。しかも彼女の目の前で。
そんなことを思いながらも、もうそのゲームはしないと心に決めた僕は――
「まぁ、陽刈ちゃんは攻略こそ難しいが、デレ始めたら一変するぞ。クールな従順タイプ、暁穂から変態性を抜いた感じだ。君のストライクゾーンど真ん中だろう?」
「よしやろうか!」
――なーんて、今まで心の中で言ってたことすべて嘘だったからね。何なら口にしてたことも全部嘘だったから。
「いやー、楽しみだなこのゲーム!」
そんなことを僕は口にして――
「……あ、そう言えばだが、そのゲーム機はかなり急いで作ったから、連続稼働時間が五分と短く、それが過ぎれば大爆発するように出来ている。それじゃ」
「……は?」
僕は逃げ出し始めた彼女らへと視線を向けながら、手元から溢れ始めたその光に包まれた。




