影―049 九尾の指輪
グループディスカッション。
舐めたらそこが命取り。
※履歴書は数日前には書いておきましょう。
『悪いが、お主らの味方にはなれそうにない』
僕の言葉に、九尾のはそう返してきた。
僕は内心分かっていたその返答にため息をつくと、その杖を前に出して構えた。
「言っとくが、お前死ぬぞ?」
『知っとるさ。お主はそこまで甘い男には見えんからな。そちらの焔の方は別だがな』
そう言って狐は久瀬の方へと視線を向けた。
そこには何か言いたげな久瀬の姿があり、僕はその様子を見てため息を吐いた。
「ちょっと? アンタこんな狐拾ってちゃんと飼えるの? 餌毎日きちんとやれるの? 散歩連れてってあげられるの? 無理でしょ? なら諦めなさい」
「何でちょっと子犬拾ってきた子供を言いくるめるお母さん風なんだよ」
そんなことを言ってくるが無視だ無視。
「真面目な話すると、まず助ける方法が見当もつかない。魔力供給で混沌の魔力をすべて僕へと移動させたら勝てるかもしれないが、そんなことをしてまで救いたいとは思えない。その上コイツは死んでも一応はこの国の守り神、お前が拾って仲間にするのは自由だが……その時はこの国に縛られることくらいは覚悟しとけよ?」
僕はそう言って久瀬を睨みつけた。
けれどももう彼の答えなんて分かってる。分かりきってる。
分かりきってるからこそ――迷いなくそう言えるからこそ、僕は彼を評して『ラノベ主人公』と呼ぶのだ。
「覚悟なんて出来てないさ。でも、だからって言って今ソイツを助けないってことには繋がらないだろ? 助けたいから助ける、方法もその後のこともそれから考えるしかないだろ」
まったく綺麗事にも程がある。
きっと彼は『汚れて』いないのだろう。僕のように地獄を味わった経験もなく、強いて言うならばチョチョイと解決できる程度のイジメを受けたくらいだ。
だからこそ純粋。何事にも綺麗事を根幹に考える。
故に悪い馬鹿に騙されたり、こうして悪魔みたいな吸血鬼に恩を感じてこんなところにまで来ちゃってるわけだが。
「やっぱ僕、お前のこと嫌いだわ」
僕はそう、堂々と言ってのけた。
それにはショックを受けたように久瀬も固まり、他の面々も馬鹿のように口を開いている。
それらを見て僕はハッと鼻で笑うと。
「大言壮語、お前は昔から出来もしないくせに大きなことを言ってのける。結果としてやっぱりできなくて、いっつも僕と浦町がその尻拭いをしてた。……違うか?」
「うぐっ……、そ、そうだけど……」
久瀬は僕の言葉に反論の余地すら見当たらなかったのか、ガクッと項垂れてそう言った。
久瀬の起こした面倒ごとは沢山ある。
一番最初は古里さんがヤクザに拉致され、それを「お前らは来るな!」と言って一人で助けに行った時のこと。
その時は案の定、久瀬は一方的にボコられ、その場に浦町の造り上げた破壊兵器――『スーパーレボリューションジェットハイドロメダ砲』をぶっぱなし、イチャついてた久瀬や人質の古里さんごと病院送りにしてやった。
二番目は確か……そうだ、かつてのイジメっ子たちと久瀬が再開したはいいが、そのイジメっ子たちがかなり凶悪なヤンキーグループの配下になってたらしく、久瀬は手出しも出来ずにボコられる。……こう考えるとボコられてばっかりだな久瀬よ。
そんで、それを聞きつけて激怒した小鳥遊お馬鹿がヤンキーグループに特攻し、それを聞いた久瀬も足を引きずりながらその場へと特攻。結果として二人してボコられたため、またまた浦町の開発した対国家用破壊兵器――『ジャパニーズデストラクションジェットハイドロメダグリムダムヒーローズ砲・改』をぶちかまし、その周辺一帯を更地としたこともあったな。
……へ? どっちが悪役か分からない? はっはっは、僕が悪役っぽいのはもう十分すぎるほど知っているだろう?
そんなこんなで、久瀬はあまりにも主人公らしすぎる。それは苛立ちを覚えるほど(主に既に出来上がりつつあったハーレムに)だったが――
「だけどまぁ、もう慣れた」
――けれどもその純粋さに、憧れもした。
僕はそう言って少しだけ頬を緩めると、九尾の方へと視線を向けた。
「すいませんねぇ、九尾さん。何だかうちの純粋プュアなチェリーボーイがおたくのことをハーレムに入れたいらしくて……」
「おいおいおい! そんなこと一言も言ってねぇだろ!」
そんなことを言ってくる久瀬に向けて。
「おい主人公、助けたいならその言葉が大言壮語じゃないって証明してみろ」
そう言って、思いっきり突き放してやった。
☆☆☆
僕が行きと違い、独りで階段を降りてきたのを見たスメラギさんが、安堵したような笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
けれども。
「ギン様っ、よくぞご無事で……って、残りのモブ共はどうしたのですか? ……あっ、なるほどどさくさに紛れて暗殺――」
「してないからな?」
いきなりそんなことを言い出したスメラギさん。
……いや、何があったか知らないけど久瀬のこと嫌い過ぎだろ。僕も嫌いだけどさ。
「まぁ、しつこいから手助けだけして帰ってきた」
「……これはまた、ギン様らしいテキトーさですな」
そんな言葉を聞きながらも、僕はその山頂の方へと視線を向けた。
誰ひとりとしてあの場を去ろうとしなかったが……きっと、彼らには彼らの友情のようなものがあるのだろう。
……まぁ、友情でアレを耐えきれたら尊敬するがな。
そんなことを思って、僕は少し笑った。
「まぁ、九尾っていったら、封印するしか無いわな」
ま、それこそロマンだ。
僕がしてきたことは単純明快。
エナジードレインで九尾の身体をすべて魔力に変換して僕の中を経由、そのまま受け流すように久瀬の体へと魔力供給で流し込んだのだ。
もちろん『開闢』を持つ僕だからこそ混沌の魔力を経由できたものの、あの力になんの耐性もない久瀬がそんなものを受け取ってしまえば――
「……どうしたのですか?」
ふと、スメラギさんがそんなことを聞いてきた。
そちらへと視線を向ければ、何だか心配そうなスメラギさんがそこに立っていた。
僕は「何でもないよ」と返す。
本当になんでもないのだ。
ただ……。
「ただ、ここで死んだら、本当にモブになっちゃいかねないな、とか思ってただけ」
ま、ここで死ぬ様な器でもないか。
それに、大きな成果もあった。
僕は内心でそう呟くと、踵を返して歩き出した。
「ちょっ、ギ、ギン様!? 私としては一応生死の確認をしたいのですが!」
そう叫びながらもあとを追ってくるスメラギさん。
僕も途中で降りてきたから分からないが、それでもまぁ、主人公ならご都合主義パワーでラスボスの耐性でも作り上げるだろ。
そんなことを思いながら。
「なぁスメラギさん、今なら機嫌いいからデートしてやってもいいよ」
「さぁ行きましょう!」
スメラギさんが引っ張った僕の左手の指には、紅色の指輪がオレンジ色に染まった夕日を反射していた。
☆☆☆
その後、僕は今回の依頼――つまりは九尾の状況を報告するため、何故か王宮へと連れ込まれて行った。
もちろんスメラギさんも誰にも何も報告しておらず、突如として姫様が男を連れてきたということもあり、かなりワタワタとしている中。
「それでですね、その時はリリーが……」
「はいはい、面白い面白い」
そんなテキトーな言葉を返しながらも、僕は目の前の料理へと視線を向けていた。
目の前に広がるのは豪華絢爛な料理の数々。
香ばしい、腹が空くような匂いが立ち込めており、思わず口の中に唾液が溜まる。
――この視線さえなければ。
「誰だあの男は何様だ一体我が娘といい感じにイチャイチャしおってぶっ殺されたいのか処刑されたいのかと言うかなんだあの目はチャラすぎるだろというか見覚えあるんだけど気のせ――」
――以下略。
その声に視線を向ければ、そこには玉座の背もたれからちろりと顔を出しているオッサンがおり、その視線に気がついたスメラギさんが恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「お、お父様っ! ギン様に失礼ですよ!」
「ギン様だとっ!? こ、この男っ、まさかオウカに様つけで呼んでもらっているのか!? なんと破廉恥な!」
破廉恥なのは様付け如きで破廉恥な想像してるお前の頭だと思うがな。
もちろんそんなことは言わなかった。
僕は無言で目の前のスープを口にすると、それと同時にその王様らしきオッサンが高笑いし始めた。
「フハハハハっ! 飲んだな、飲んだなそのスープを! そのスープには事前にヤマガミアラシの毒を仕込んでおいたのだ!」
「なっ!? な、なな、なんてことをッ!? ぎ、ギン様大丈夫ですか!? 今すぐ解毒魔法を――」
とまぁ、そんなシリアスな雰囲気ではあったが。
「あ、そのヤマガミアラシってEXランクの奴だろ? その程度の毒今更効くはずがないだろ」
そう言って僕は、ゴクゴクとそのスープを飲み干してやった。
それには二人も驚愕したように目を見開いていたが、直後、僕の指を見た王様は、限界まで目を見開いて絶句した。
「な、あ、……なぁっ!? そ、その指輪はっ!」
そう言って僕の方を指さす王様。
その視線を追ってみれば、案の定そこには先ほど九尾から受け取ったこの紅色の指輪が存在しており。
僕は、その炎をモチーフとした指輪を見せびらかしながら。
「あぁ。なんか炎系統の技能の威力が爆発的に上昇する指輪、だってさ。さっき九尾から貰ってきた」
その指輪の名は『九尾の指輪』。
今回、この依頼を受けてよかったぁ、と思えた唯一の戦利品である。
最近つまらなかったらすいません。
超絶忙しくて。




