閑話 恭香の想い
ご要望にお答えしまして、恭香の閑話ですね。
これは、今は懐かしき骸骨が"悪夢の世界"を発動した前後のお話。
『──ッッ!? 白夜ちゃん! 空間の隔離が始まったよっ! 早くここから離れてっ!』
恭香は叫んだ。
それは、彼女は自らが"理の教本"であることを生かして、ナイトメア・ロードのユニークスキルについて完全に調べあげていたためだった。
"悪夢の世界"
かつて神々がこの魔物を封印するに当たって創造神様は、下級神10柱、中級神5柱、そして上級神の魔導神様を派遣した。1体の魔物を討伐するためだけにこれだけの神々を招集するなど正直、異常な事だったが、それでも創造神様は頑として譲らなかったそうだ。
その理由がこのユニークスキルだ。
当時も派遣した16柱のうち、中級神1柱と、魔導神様を除いた14柱が幻覚にかかってしまったそうだ。中級神すらも幻覚にかけるその恐ろしさは間違いなく厄介だろう。
少なくとも白夜では、間違いなく幻覚にかかってしまう。
そのため、その魔物に対するは自らのマスターただ1人。
恭香は不安で一杯だった。
確かに彼の実力ならば幻覚にも対処出来るだろう。
ただ、それは確実ではない。
失敗する可能性も充分にあるのだ
恭香が計算し尽くして出した確率は......
(20%......)
5分の1。
5回に1回は失敗する。
マスターや白夜ちゃんには不安を残したくない。
その一心で我が絶対の主にさえ嘘を付いた恭香。
(もしも少しでも不安が残ってしまえば、幻覚に陥ってしまう確率が上がるかもしれないし......)
だが、余りにも大きなリスク。
今からでも逃げるべきでは?
そんな事を思ってしまった白夜だが......
(でも、今のマスターなら、きっと......)
自分のマスターを見て思わず安心してしまう恭香だった。
その、無邪気に笑う横顔を見て。
☆☆☆
マスターが幻覚を見せられている。
そんな状態で、恭香は何も出来ない自分が悔しかった。
(なんで私には身体がないんだっ! もしも人間の身体になれたのなら、私だって...私だってっ! マスターの力になれるのにっ......)
そんな事を考えても自分にはそんな能力はない。
完全にサポートに徹した能力。
恭香は、そんな自分が少し嫌になった。
もう、彼が囚われてから1分近くが経とうとしていた。
『ま、まさかっ......いや、あっちも動いて無いみたいだし......多分大丈夫...だよね?』
流石に不安になってきた恭香だったが、ナイトメア・ロードも動く気配が無いので、恐らくは無事だろうと当たりをつける。
2分経過
まだ彼は動きを見せない。骸骨もだ。
『ま、マスター......大丈夫...だよね?』
既に不安を隠しきれない恭香だった。
まさかナイトメア・ロードは私の心が壊れるのを待っているのではないか!? マスターの精神はもう既に壊れていて、それを心配する私を見て笑っているのだとしたら...いや、マスターはそんなんじゃやられたりしないはず......だけど、20%の確率で......
そんな事を延々と考える恭香。
あと数分もすれば恭香の心は壊れてしまうだろう。
だが、そんな恭香を、彼が救った。
「これは夢だっ!」
聞きなれた彼の声。
それを聞いた途端、恭香の心を占めていた不安、恐怖、絶望といった負の感情が全て消滅した。
『ま、マスター!』
やはり、マスターは大丈夫だった!
私は何を心配していたのだろうか。マスターがやられるはずがないじゃないか!
思わず笑ってしまいそうになる恭香だった。
敵前だという事でなんとか気は引き締められたが、それでも相手の魔力は殆ど残っていない。マスターの勝利だ! そう確信して、また気が緩んでしまう恭香。
その間にも彼はナイトメア・ロードとの距離を詰めてゆく。
5メートル。
3メートル。
2メートル。
そして、
『え...?マスター....?』
彼の頭部が消滅した。
☆☆☆
何が起こったのだろうか。
私が思わず気を緩めている間に....マスターが死んだ?
目の前には頭部を完全に失ったマスター...の遺体。
『まっ、マスターッッッ!!』
彼女は思わず叫んでいた。
お願いですから...返事をしてくださいっ!
カタカタという骸骨の笑声が谺響する。
そして......
「え? なに?」
『『!?!?』』
マスターッ!? 思わず彼の方を見るが、今だ頭部は失われたまま......いや、なにかおかしい。
今も尚。彼の身体からは大量の魔力が吹き出していた。
ま、まさかっ!?
次の瞬間には彼の頭部は完全に復活していた。
(い、いつの間にこんな魔法を......)
恐らくは私自身も完全に把握しきれていない影魔法の能力なのだろう。全く、使うなら事前に教えて欲しいものだ。
気づけば彼は骸骨の四肢をまた新しい魔法で斬り飛ばしていた。
また新しい魔法......。
これが終ったらマスターの魔法を全て把握しておこう。
そんな風に思った恭香だった。
そして、
あぁ、マスター。
彼女はニヤニヤと悪い笑みを浮かべる、まるで子供のような主の姿を見て、改めて、こう想った。
一生あなたについて行きます。大好きなマイマスター。
彼女の明かせぬ秘密の想いであった。
恭香ちゃんの恋心。
果たして実る日は来るのでしょうか?




