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影―037 血濡れの罪業

 その巨大な腕を振りかぶり、メデューサは叫んだ。


「さぁ黒きナイト様! あれだけカッコつけたんですから少しは粘って見せなさい!」


 直後、僕へと襲来するその腕のなぎ払い。

 それに対し僕はスッと瞼を閉ざすと、身体のうちに溜め込んだその魔力を解放した。


「『獣型モード』ッ!」


 瞬間、周囲へと黒い光が迸り、コンマ数秒後、その黒色の光の中から巨大な亀が姿を現した。

 ――聖獣化・獣型モード。

 影のような黒い魔力を身体中へと纏ったその亀――つまりは獣型と化した僕は、その腕のなぎ払いを無視してメデューサへと突撃する。

 圧倒的質量による、体重をのせた一撃。

 それには流石のメデューサも焦ったようにもう片方の腕でガードするが、そんな腕一本で耐えられるほど常闇は弱くない。


『グラァァァァァァッ!』

「ぐぅ!?」


 メデューサは直前で後ろへと飛んだもののその攻撃をノーダメージで済ませることなど出来るはずがない。

 彼女の身体はものすごい速度で吹き飛ばされてゆき――ピタッと。空中でその勢いが殺された。

 それには僕も目を見開き、直後に自らの右脚へと巻きついているその蛇の尻尾の存在へと気がついた。


『チィッ!』


 僕は咄嗟にその前脚を尻尾から解放するべくと暴れ出すが、けれどもそれを見逃すメデューサではない。


「なかなか……効いたわよッ!」


 直後に身体中を馬鹿げた衝撃が突き抜け、この巨体がまるで打ち返された野球ボールのように吹き飛ばされてゆく。

 何度も地面をバウンドし、その度に砂煙が上がり大地が揺れる。

 その様――正しく大怪獣決戦。

 僕は数百メートル吹き飛ばされてやっとその勢いを殺しきると、口の端からカハッと血を吐き出した。


『クッソ……、やっぱ強いなおい……』

『お久しぶりですギン様。久しく会話ができるようになったと思えば、とんでもない方と戦っておられますね』

 

 頭の中に常闇の声が響き渡り、僕は思わず苦笑する。


『そう思うなら、ちょっと打開策考えてくれませんかね?』


 僕はそう言いながらもスゥと息を吸い込む。

 ボゥンッ!

 瞬間僕の胴体が一気に膨れ上がり、高密度に練り上げられたその影の魔力が……今放たれる!


『真影の咆哮ッ!』


 視界を埋め尽くすその赤い影色の咆哮。

 けれどもそれと同時に向こうでも巨大な魔力が膨れ上がり、その轟音の中確かなその言葉を伝えてくる。


「『蛇神の咆哮』ッ!」


 瞬間、その『真影の咆哮』に超高威力の何かが激突し、周囲へと赤と緑、二色の魔力が吹き荒れる。

 ネイルの入っていた鳥籠がその魔力によって悲鳴をあげ――僕は、その相手側の威力に悲鳴をあげたい気分になった。


『ぐっ、……ぐぬぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


 次第に押し込まれてゆき、大地を踏みしめる四肢がどんどん背後へと追いやられてゆく。

 どんどん魔力を込めてゆくが、それでもほんの少し向こうの勢いが弱まるだけ。

 僕はクッと声を漏らすと。


『耐えろよ常闇ッ! 無壊の盾(オーバーシェル)ッ!』


 僕の前にその障壁が展開されたと同時に、緑色の光線が視界を多い尽くした。




 ☆☆☆




 強すぎだろオイ。

 そう思わずにはいられない。

 そんなことを考えながらも、僕は人型の状態で何とか上体を起こす。

 ……まぁ。耐えたには耐えたのだ。死ぬことは無かったし、ダメージもじきに回復するだろう。

 だが――まさか獣型を解除するハメになるとは思いもしていなかった。それだけ『無壊の盾』に集中しなければ止めることも出来なかったと、単純に言えばそういう事だろう。


「だから言ったでしょう? 貴方じゃ私には勝てない、って」


 遠くの方からそんな声がかかり、僕はその言葉にククッと肩を震わせた。


「もしも……、もしも万が一お前が現実世界にいたら……。そんなことを考えたら寒気が止まらないな」


 一体今のコイツに太刀打ち出来るものがどれだけいるだろうか。少なくとも僕はゼウス、父さん、母さん、獄神タルタロス、ロキ、混沌、メフィスト、……と、両手で数えられるくらいしか知りはしない。

 まぁ、白夜なら時を止めてフルボッコにできるかもしれないが、それでもかなり苦戦を強いられることだろう。

 僕は口の端から血を流しながらも立ち上がると、キッと彼女へと視線を向ける。


「ったく……これでもかなり強い自信、あったんだけどな」

「確かに強いわよ。それこそ大悪魔にも勝てるくらい。最高神すら倒せるくらい。……けれども所詮はその程度。混沌や世界神はもちろん、その程度じゃ大悪魔の上位数名にも勝てはしないわよ」


 僕はその言葉に少しため息を吐く。

 大悪魔の上位数名。

 まだ見ぬ強敵――序列一位サタン。

 底が見えぬ怪物――序列二位メフィストフェレス。

 もしかしたら三位四位もかなりの怪物なのかもしれないが、おそらく現時点の僕が決死の覚悟をしなければいけないのはこの二人。


「やっぱり、上には上がいる、ってやつなんだよな」


 その言葉にメデューサはつまらなさそうに嘆息したが。



「じゃ、ここからは本気で行くとするよ」



 瞬間、今までとは比べ物にならない程に莫大な魔力が、周囲へと迸った。

 それには先程まで余裕だったメデューサも目を見開いて一歩後退り、その頬を一筋の汗が伝う。


「まぁ、これには詠唱も何もなくてさ。僕が持つありとあらゆる能力をごちゃ混ぜにしただけなんだけど……だからこそ強い」


 僕はそう言って左拳を前へと向ける。

 神器・炎十字(クロスファイア)――クロエの力。

 常闇のローブ――常闇の力。

 月蝕(イクリプス)――ウルの力。

 そして影神の――僕の力。

 僕は先程までの姿から一転、ニヤリと笑みを浮かべると。



「発動――『血濡れの罪業ヴァンプオブ・ネメシス』」



 周囲へと、赤、黒、銀、血色の魔力が吹き荒れた。




 ☆☆☆




 その光が止んた先。

 彼女がそこへと視線を向け、一番最初に見えたのは風に揺れるその赤いマフラーだった。

 肩からは赤色のマントが風に揺れている。

 その体は赤と黒、二色の鎧で覆われており、唯一その左腕のみが銀色の鎧に覆われている。

 髪の色は黒と銀、二色が混じったようなモノへと変化しており、その背中からはマントを突き破ってダークレッドの炎に燃える一対の翼が生えている。

 ――血濡れの罪業ヴァンプオブ・ネメシス

 彼が誇る最終奥義にして、彼がその低いステータスで強敵と渡り合うために編み出した最高傑作である。

 その技を一言で表すならば――無敗。

 今までに幾度かこの技を発動してきたギンではあるが、その度に必ずしも勝利を手にしてきた。

 それは時には楽勝、時には辛勝でこそあったが、けれども恭香、白夜、リーシャ、死神――そしてなにより、あの神王ウラノスにさえ勝利してきた。

 彼はぐっとその左拳を握りしめると、何かを確かめるように軽く腕をブンっと降った。

 たったそれだけ。それだけで猛烈な風圧が荒れ狂い、その腕を振った先の地面を蹂躙した。


「んなっ!?」


 それにはメデューサも目を見開く。

 あれだけ軽く振ってもアレなのだ。

 もしも全力で放たれたあの拳に、もしも直撃してしまったら……。そう考えると寒気が止まらない。


「悪いなメデューサ。お前にこの力を使うべきか考えてたんだが……どうやらお前はそこまでしないと勝てない相手みたいだ」


 そう言って彼は拳を開くと、その手の中に銀色の魔力が生み出される。

 ――神剣シルズオーバー。

 彼はその柄を握りしめると、スッとその切っ先を軽く払うように切り下ろした。

 その、まるで血を払うような行動にメデューサは一瞬困惑したような表情を浮かべたが、次の瞬間焦ったように緊急回避に移った。

 直後、ズザザザザッと地面が切り裂かれ、先程まで彼女がいた場所へと致死の斬撃が通り過ぎる。


「うおっ、今のを躱したか……」

「……でないと、死んでたわよね?」


 そりゃもちろん。

 彼は迷うことなくそう答えた。

 その『狂気』にもにた何かに当てられた彼女は思わず一歩後退り、それを見た彼はニヤリと笑みを浮かべる。


「これは、影の神による罪の審判。耐え切れれば見事と賞賛し、罰を与えよう。もしも耐え切れなければ――お前に待つのは、ただの“死”だ」


 直後、メデューサの背後に膨大な殺気が膨れ上がる。


「クッ!?」


 メデューサは今になって思い出す――ネイルの中で見た彼の戦い方を。

 彼の最も得意とする戦法。

 それこそが――誘導と騙し。

 会話や動作によって相手の注目を何か別のものへと集め、その裏で秘密裏に、敵味方誰一人にすら気付かせることなくことを進める。

 それは戦闘には限りなく向いていない才能と言えようが、けれどもそれを知性の化物が使ったとしたら。

 きっとそれは――何よりも厄介な武器と化す。


「『暗殺(アサシネイト)』ッ!」


 瞬間、背後からその影分身であろうもう一人のギンがメデューサの首へと襲いかかり、その黒色の長剣を振り払う。

 メデューサはそれを直前で避けることに成功したが、けれどもその完全な不意打ち。完全に見切ることは出来なかった。


「うぐっ!?」


 弾ける鮮血。

 その首元には真一文字に刻まれた赤い傷が存在しており、彼女はすぐに魔力を集めてその傷を修復し出す。


「これでも回復力にかけては最強クラスなのよ! そんな攻撃で私を殺せ――」

「殺せるなんて、思ってないさ」


 彼女の声に被せるようにそんな声が響き渡り、彼女の背中になにかワイヤーのようなものが当たった。


「ま、まさかっ!?」


 目を凝らせば分かる。

 メデューサを中心として周囲の空間には黒色の糸が張り巡らされており、それは無理に動けば肉を裂くのではと、そう思えるほどに危険に思えた。

 だが、彼女の直感が告げる――ヤバイのはこれからだ、と。


「『神判(ジャッジメント)』ォッ!」


 瞬間、周囲に幾筋もの銀色の線が舞った。

 ――神判。

 かつてヤマタノオロチさえ葬ったその技は、影で作り上げたワイヤーを使用した、超高速『暗殺(アサシネイト)』を連続で放つという技だ。

 メデューサは両腕を身体の前で構えて丸くなっているが、それでも次第にその体には赤い切り傷が刻まれてゆく。


「ぐっ、くぅぅぅぅぅっ……」


 耐えるメデューサ。

 一太刀加えられる度に意識が飛びそうになる。

 二太刀加えられると身体から力が抜けてゆく。

 もう、この男の力を認めてしまいたくなる。彼女を預けてしまいたくなる。

 けれども。


(私はッ! もうあんなに苦しむあの娘を見たくないッ! 誰かに渡して傷つかせるくらいなら、私が責任をもって守ってみせる!)


 ガキィンッ!

 瞬間、彼女の腕がその銀色に輝く刃を弾き、それを受けたギンは驚いたように声を上げる。


「なっ!?」

「私もッ! 負けるわけにはいかないのよ!」


 彼女はその石へと変形させた手刀を振り抜くと、ギンは勢いそのまま数十メートル先まで飛ばされる。

 それを見たメデューサは。


「はぁっ、はぁっ、そんなにこの娘が欲しかったら、私を殺して奪ってご覧なさい。騎士なら時には女を殺す気概ってのも必要よ」

「当たり前だ。女に手をあげないってのは平和な世界に住んでるリア充の戯言か、もしくは本当にそんな言葉を実行しても生きていける。そんな怪物みたいに強いヤツの言う事だ」


 その言葉にメデューサはククッと肩を震わせる。


「あら? 私としてはあの娘を預ける相手は化物みたいに強いナイト様の方がいいのだけれど?」


 それを受けたギンはフッと笑みを浮かべ――次の瞬間、彼女の背後の落ち葉と、自らの姿を入れ替えた。

 メデューサはすぐにその事実には気がつき、対処しようとした。

 けれども――


(用意周到、ってわけね)


 彼女はそう苦笑して体を見下ろした。

 見れば身体中の『後ろを振り返って攻撃する』という選択肢を選び、実際に行動に移すのに必要な筋肉、そして筋がすべて断ち切られており、自分に成すすべがないことは簡単にわかった。

 だからこそ――


「だから安心しろ。僕はそこまで強くないから、どんな姑息な手を使ってでもネイルを守ってやる」


 彼女は笑って、その一撃を背中に受けた。



「――『神罰(バニッシュメント)』」



次回『地獄を味わえ、エルフ共』です。

メデューサさんいい人でしたね。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] いきなりでてきた知らん神に最終奥義使ったww
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