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影―034 暴走

 彼女――ネイルの中には力が眠っている。

 それはギン=クラッシュベルのような『神剣』ではなく。

 それは久瀬竜馬のような『聖獣』でもなく。

 それはアルファのような『人造能力』でもない。

 言うなれば――父から受け継いた『才能』だ。


 母親の名はエルザ。

 ギンをして敵に回したくないと言わしめる最強の妖精族にして、絶対に怒らせてはいけないと各地に言い伝えられている最凶の人物でもある。

 その母親からは影が薄いという地味なステルス能力と、いずれ彼女にすら届きうるだろうという潜在能力(ポテンシャル)を受け継いた。

 それに関しては元々戦いを好まなかったネイルは今日に至るまで一度と実感していなかったし、それはギンでさえ察しとるとの出来なかった――正しく眠れる才能である。


 それに加えて受け継がれたのが、父親の能力。

 その父親は元々は神界に住まう神であったが、とあるレズな狂った神によって奈落へと落とされ、助けられたものの神界への信頼を失い、下界で暮らし始めた変わり者の神だった。

 伝承には『女神』とされているその神ではあるが。けれどもその実は全くの逆。

 その神は神王ウラノスを父に持ち、ギンやカオスとは一応兄弟の関係に当たる。

 ギンはその事実こそ知らなかったものの、その変わり果てたネイルの姿を見て――



「め、メデューサ、なのか?」



 その自らの義兄の名を、口にした。




 ☆☆☆




 僕はその姿を見あげ、そう呟いた。

 緑色のその髪は緑色の蛇へと変化しており、その瞳は理性がなくなったように光を失っている。

 ――暴走。

 そんな二文字が頭を過ぎるようだ。

 服装はいつの間にか緑色を基調としたものへと変化しており、その下半身は人のソレから蛇のそれへと変わっている。

 それに加えて身体も少し大きくなっているのだろう。蛇の下半身も相まってネイルの身長は五メートル近くまで大きくなっており、彼女は――


『GUAAAAAAAAAAAAAAA!』


 瞬間、耳をつんざくような絶叫が響き渡る。

 それには僕も思わず耳を塞ぎ込み、僕はその中でも聞こえるよう、大声でエルザへと話しかけた。


「お、おいエルザ! 一体どうなってんだ!?」


 けれどもエルザは一瞬僕へと視線を向けて悔しそうに顔を歪めると、周囲へと視線を向けた。

 周囲には耳を塞ぎながらも唖然とし、ぼうっとネイルのことを見上げている妖精族の姿があり、それは主犯たるそのエルフや、長老、エルフリーダーも例外ではなかった。

 僕はその様子をみてチッと舌打ちをする。


「チッ、コイツら助けてからにしろ、ってことか!」


 瞬間、僕の周囲に銀色の炎がチリチリと燃え、直後に僕の身体が影神&聖獣化モードのソレへと変化する。

 それには流石のエルザも目を見開いていたが、今はそれどころではないだろう。


「『時刻変化《夜》』ッッ!」


 ゴーン。鐘の音が鳴り響き、周囲一帯の時刻が真夜中のソレへと変化する。

 影神Lv.3で使用可能となったこの能力。これは指定した周辺の時刻を夜へと変化させるという、影魔法と相性抜群の能力だ。

 続いて僕はパンっと手を合わせると、この広場を囲うようにぼうっと幾つもの銀色の炎が燃え上がる。

 それによって他の者からすれば暗すぎた周囲は視覚可能な程度まで照らされたことだろう。

 さらに加えて――


「『影の軍勢(オンブラズ・アルマ)』!」


 瞬間、僕の周囲へと多くの鬼が召喚され、ネイルの周囲へと竜、蠍、骨の三体が。そして僕の近くに人形が召喚される。

 エルフ達はいきなり現れたそれらに恐怖したようであったが、そんなことは知ったことではない。


「影機王、鬼たちの指揮を執りエルフたちを全員があの炎の外まで連れてゆけ。終わり次第あの炎を起点に結界を貼る」


 僕は早速走り出した影機王を見送ると、そのままネイルへと視線を向けた。

 彼女は理性の消えた瞳であの三体へと襲いかかっており、攻撃するなと条件をつけて召喚した三体は、そのネイル自身の呆れた身体能力も含めて防戦一方である。


「月光眼を発動した僕を数メートル吹き飛ばし、その上であの三体圧倒するか……。一体どんだけ力を隠してたんだよ」


 間違いなく根源化する前のルシファー以上――いや、根源化した時のアイツにすら匹敵するだろう。

 そんな相手に僕の眷属とはいえ彼らが攻撃を封じられて勝てるはずもない。せいぜいが足止めが精一杯だろう。

 そんな中、僕は地面に転がっていた石を軽く上に投げつけると、それと同時にそのエルフとその石の位置を変換した。

 ガシッ!

 状況も理解出来ていないそのエルフの胸倉をつかみあげると、そのエルフはそのまま宙ぶらりんの状態で止まってしまう。

 だが――


「……おいクソッタレ。もちろん殺される覚悟は出来てんだろうな?」

「ひ、ひぃっ!?」


 僕の言葉にそう悲鳴をあげるそのエルフ。

 彼は先程僕へと――ネイルへと秘宝を使用したエルフであり、僕が今殺すとしたら真っ先に名前をあげる人物でもある。

 男は浮いた状態で暴れ出すが、宙ぶらりんの状態から地面へと背中から叩きつけると、そのままカハッと吐血した。


「一度しか聞かないぞ。誰の命令でやった。あの宝玉は長老へと預けていたはずだが?」

「がホッ、ゴホッ……く、くくっ、死んじまえ、この劣等種族」


 僕の言葉にそう返すとそのエルフ。その言葉にはエルザが腰の短剣へと手を添えたが、僕はそれを手で抑えてそのエルフの頭をガシッと掴んだ。

 僕はフッと息を吐いて瞼を閉じると、次の瞬間、魔力を込めて左の瞼を開いた。


「時間の無駄だったな」


 瞬間、僕の左眼が銀色の光を放つ。

 三大魔眼が持つその能力――記憶の覗き見。

 一瞬でその人物の歩んできた人生を脳内へとインプットするのだ、並の頭脳を持っていたならば一瞬で頭がカチ割れるだろう。

 が。僕ならば話も変わってくる。

 能力発動とともに一瞬にして僕の頭の中へと大量のデータが流れ込み、彼の記憶が明らかになる。


『執行者め……いつか殺してやるぞ!』

『馬鹿な! なぜあの男が犯罪者ではないのだ!? ならば今まで俺は犯罪者でもない男に……いや! 我らが妖精族に失敗や間違いなどあってはならないのだ!』

『クックック、犯罪者でないのならばそう仕立てあげれば良いだけの話よ。あの汚らしい混血を嘘までついてこの国に入れたのだ。あの屑を使わぬ手はあるまい』

『長老よ。その宝玉はあまりにも危険すぎる。その身に万が一のことが起きるといけない。俺が預かっておこう』

『……良かろう。間違っても使うでないぞ? ――同族には、の話だがな』

『あの劣等種めが……ッ! おい貴様! あの劣等種にこの宝玉を使ってこい! この際あの男だろうがあの混血だろうがどうでも良い!』


 僕は黙って瞼を閉ざすと、その男の胸倉を話して立ち上がった。

 僕の方へとエルザがなにか聞きたそうな様子で視線を向けていたが、僕は彼女へと、たった一言こう告げた。



「エルフに抱いてた幻想、ぶち壊された気分だよ」




 ☆☆☆




 その後、影機王がエルフ全員の避難が完了したとの報告を待ってきた。

 さすがは僕の眷属たち、エルフ程度には遅れは取らなかったらしい。

 既に僕の周囲には仲間たち全員が集まっており、それを見た僕は再びパンっと手のひらを合わせた。


「『不逃の牢獄(デスマッチ)』」


 瞬間この広場を囲むように点在していたいくつもの銀炎を起点として結界が展開され、結界の中へと僕らごとネイルを閉じ込める――だが。


「本当にお前もこっち側で大丈夫なのか? ミリー」


 僕はこっち側――結界の中へと残ったミリーへとそう告げた。

 すると彼女はふんと鼻を鳴らすとさも当然とばかりに口を開く。


「いったでしょう? 私はネイルの親友よ。親友が馬鹿にされてたら腹が立つし、意味不明な状況下に陥って暴走してたら助けたくなる。それになにより――」


 そういって彼女は彼女――エルザをキッと睨み据えた。


「この三年間で全部聞いたわ。ネイルの言う母親のこと。頭の中にいた声のこと。彼女が、母親の顔も知らずにいじめられて生きてきたってことも。すべて説明してもらうわよ、エルザ」

「もちろん、分かってるわ。今日はそのために来たんですもの」


 ミリーの言葉に少し嬉しそうにほほをゆるめながらそう返すエルザ。

 けれども彼女はスっと視線をその当人――ネイルへと向けた。


「けれど、今日はそれをあの子に伝えに来たのよ。だから、あの子の聞いているところで伝えるとするわ」


 そういってエルザは一歩前へと踏み出した。

 それは自分で何とかするという意思表示――だったのかもしれない。

 だが、そんなことを黙って聞いてやる僕らでもないだろう。

 僕は前に立ちふさがったエルザを躱してその前へと進み出ると、それと同時に小さな影が二つ、僕の後ろへと追随してきた。


「別に僕に任せてもらってもいいんだぞ?」

「冗談。私たちが相手の言葉に黙って従うほど従順に見える?」

「カカッ、見えるはずがないのじゃ。なにせ妾たちじゃからの」


 その言葉に僕はにやりと笑みを浮かべると、たった今すべての眷属たちを倒した彼女へと視線を向けた。

 思い出すは彼女のあの言葉。

 ――助けられて……良かったです。


「なにが助けられてよかっただ……、ちょっと力が眠ってたからって調子にのりやがって」


 そういって僕は拳をギュッと握るとスッと目を細める。

 メデューサ――蛇と魔眼で有名なその神ではあるが。


「本物の蛇と魔眼ってのを、見せてやるよ」


 瞬間、僕の体から漆黒色の魔力が迸り、恭香からは黄金色の魔力が、白夜からは純白色の魔力が周囲へと吹き付ける。

 その膨大な魔力量にエルザたちも思わず目を見開くが、けれども驚きはそれだけでは終わらない。


「さて、頼むぞ常闇」


 今回力を借りるのは守護の王にして神王の片腕たる彼――常闇だ。

 こと戦闘力でいえばクロエのほうが強いとのことだったが、けれども今回のような状況下――相手を傷つけずに捕縛したい時に限っていえば、間違いなく彼のほうがすぐれている。

 僕はにやりと笑みを浮かべると――



「『聖獣化』」

「『執断羅剛』」

「『時空神化』」



 瞬間、三人の声が響きわたり、周囲へと光が弾けた。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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