影―031 化物共の逆襲
そういえばこの物語もとっくに残り半分切ってるんですよね。そう考えると少し寂しく感じます。
その後、国へと戻った僕達を待っていたのは――
「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
――歓声だった。
それには僕も思わず困ったように頬をかいてしまい、その大衆の中から恭香たちがこちらへと歩いてきた。
エロースがネイルとミリーを脇に抱えており、どこかネイルを守るかのように配置されたその陣形ではあったが、彼女らは皆額に青筋を浮かべていた。
――あぁ、こりゃ想像した通りになりそうだ。
そんなことを考えたが。
「執行者殿! 素晴らしいお手際、感服致しましたぞ!」
それよりも先に僕の方へと駆け寄ってくるは長老だった。
どうやらステータス的にはある程度高いらしく、あくまでも『歩いている』彼女らよりも先にこちらへと到着した。
「いえいえ、たまたま盗賊が留守にしていたのでそこを取り返してきただけですよ」
僕がそう、あえて伝わっているであろう情報とは違う形で言葉を紡ぎながらもアイテムボックスからその秘宝とやらを取り出すと、彼は一瞬困惑したように視線を虚空へと漂わせたが、彼は謙遜だと思うことにしたらしい。
「またまた……、きっと貴方様の事ですから倒してきてくれたのでしょう。報酬をどうするかも決断いたしました、きっと貴方様もお気に召すはずだと思いますぞ」
報酬か……。
何だか嫌な予感しかしないのだが。
まぁ、少なくとも僕には害のあるものではないだろう。
そんなことを思いながらも僕は彼にその秘宝を手渡すべく近づいてゆく。
のだが――
「どうも、ありがとうございます」
秘宝を受け取った村長の、その言葉を聞いたその時だった。
僕の背筋に虫が這いずり回っているような怖気が走り、僕は間近でその長老の瞳を見て思わず眉を顰める。
そこにあったのは、どす黒く曇ったその瞳。
僕はその瞳に、どこか聖国に住んでいた者達の姿を思い出し、何よりもあの男――水井幸之助のような、考えも及ばない『未知』に対する恐怖のようなものを覚えた。
――どうか、普通の報酬であってくれ。
そう願った僕ではあったが、運命神は僕へと更なる試練をお与えになるようだった。
「今回の報酬はワシの孫、リーアと執行者ギン=クラッシュベル様との婚約でございます! 挙式の準備も既に始めております。あのリーアが第一夫人になるので――」
「お断りする」
僕は、その反吐が出るような報酬に、思わず怒気を含ませてそう告げた。
その言葉に先程まで鳴り止まなさったその歓声はピタリと止まり、いつの間にか近くへと寄ってきていたリーアとやらは完全に硬直していた。
「第一夫人? 報酬が婚約? しかも本人に何の確認もなしに挙式の準備だと……? 舐めてるのか貴様ら……ぶっ殺すぞ?」
瞬間、周囲へも膨大な殺気が吹き荒れ、それを真正面から受けた長老はその足をガクガクと震わせた。
けれども流石は長老、プライドの塊。
彼は意味が分からないとばかりに口を開く。
「な、なにを言い出すのですか!? このリーアとの婚約を認めると言っているのですよ! そのような他種族のものではなく、誇り高き純血種のリーアと!」
その言葉に、リーアよりも恭香たちを下に見ているその言葉に僕はギリッと歯を食いしばったが。
けれども――
「何よりも! そのような薄汚れた混血の屑よりも! 我らが純血種の姫君、リーアの方が優れているのは自明の理でありまし――」
――けれども。
彼がその言葉を最後まで言い終わることは無かった。
「おいジジイ……、今なんつった?」
気がつけば僕は長老の首筋へとその銀色に輝く短剣を添えており、怒りのあまり軽く食いこんだのだろう。彼の首をツーっと赤い線が伝ってゆく。
「僕のところのネイルがソイツ以下? その言葉を丸まんま返してやる。家の看板娘をそんな奴と比べてんじゃねぇよ」
確かにリーアは可愛いと思う。
僕みたいな顔面偏差値中の中が何を言う資格もないのも分かっている。
けれども、あんな腹黒い見知らぬ姫君と、うちの心優しく気配りもできる看板娘とを比べられ、その上劣っているとまで言われたのだ。
こんな屈辱――我慢することができようか?
けれども、僕の言葉に心底不思議そうな顔を浮かべるは長老。
「な、何を言っているのです……? 混血の屑と純血の姫着……どちらが優れ、どちらが劣っているかなど聞くだけでわかるでしょう……?」
僕はその言葉に、全てを察した。
その首元へと当てていた短剣を退いて長老の胸倉をつかみあげると、そのまま数メートル先へと投げつける。
すると地面へと激突する直前に入り込んできたエルフたちによって長老は回収されたようだったが。そんなことに別段興味があるわけでもない。
「今になって、やっとあの違和感の正体が分かったよ」
きっとあの違和感の正体。
それは、価値観の違いから来るものだったのだろう。
――価値観の違い。
僕らにとっては『腹黒い性格でプライドが高く、容姿が少し劣っているエルフ』と『優しい性格で包容力もあり、容姿が優れているエルフ』と。どちらが嫁に欲しいかと聞かれば余程の物好きでもなければ後者を選ぶだろう。
に対して彼らは全くの逆。それらのことをすべて度外視して『血筋』でのみ判断しているのだ。
ここまで考え方が異なっているのだ。ならば僕と彼らが相入れる時なんて永遠に訪れるわけがない。
だから、僕はこの種族を改心させる道は諦めた。
「なぁ長老さんよ。報酬の件だが、負けたら相手の言うことをなんでも聞く、ということを賭けたゲームをしないか? ……そうだな、両チーム五人ずつ、それぞれ姫さんとネイルを入れたチームで勝負を行う、ってはさ?」
「なぁっ!? そ、そんな!? 我らが貴方がたに武力で勝てるわけがないでしょう!」
おお、どうやらそこに関しては分かっているようだ。
ならば。
僕はククッと笑みを浮かべると。そのどの他の種族よりも知性に長けていると自称する彼らへと向けてこう告げる。
「何言ってんだ。ゲームだよゲーム。頭を使って考える、そういう事が一切介入しない、そんなゲームだ」
その言葉に、僕の近くにいた三人がニヤッと凄惨な笑みを浮かべる。
「さっきの第一夫人って言葉に怒ってくれた事は素直に嬉しかったしね」
「ククッ、まさか再会して早々にこんな活躍の場を与えられるとは……。いい機会だ。本物の『知性』というものを見せてやろう」
「これでも私、ネイルとは親友のつもりなのよ。親友を馬鹿にされて怒らないほど……私も落ちぶれては居ないつもりよ」
そう言って僕の方へと歩き出すは、皆僕と同等の頭脳を持った怪物たち。
全能神から『天才』と断言された――恭香。
僕の親友にして『神童』の称号を持つ――浦町。
僕も脱帽したもう一人の『化物』――ミリー。
僕はニヤリと笑みを浮かべると、近くにいたネイルを抱き寄せてこう告げた。
「まぁ? 知性ある種族様が混血エルフ率いる僕らのチームに負けるのが怖いー、とかいうなら? べっつに見逃してあげてもいいんですがね?」
僕のドヤ顔と、僕の背後でそれぞれ頭良さげなポーズをしている彼女らを見た彼らは。
迷うことなく、ノッてきた。
☆☆☆
今回のゲームは、単純にカードゲームとなった。
どうやら浦町がこの街に来た時、少し金銭面で困っていたらしく、昔僕とよく対戦した『遊○王』のようなカードゲームを作り出したのだとか。
するとなんとそのカードゲームに爆発的な人気が出始め、今やこの国では誰もが知るホビーなゲームになっているのだとか。
閑話休題。
「む、向こうには創始者のウラマチさんが居るぞ!」
「だ、大丈夫だろ! 一人は狂ってることでお馴染みだった聖国の聖女だ、頭がいいわけがねぇ……」
「それに何よりあの男と混血よ! 私のプライドをズタズタにしたその罪! この勝負に勝った暁には奴隷として一生こき使って上げるわ!」
「あれ? もしかして姫様、久しぶりに対等に話せる人が出来てちょっと喜んでません?」
「よ、よよ、喜んでないわよ!」
そんな話し声が聞こえてくる中、僕はそのカードゲームのルールについて学習中のネイルとミリーへと視線を向けた。
のだが。
「む、難しいですけど……この四千? だかあるHPを削りきれば勝ちなんですよね?」
「そうみたいね。他にはデッキ? とかいう山札が無くなってカードが引けなくなったりしても敗北みたい……。なかなか奥が深いゲームじゃないの……」
流石はパシリアの街でエースを張っていたギルド職員と、かつての僕すらもまんまと騙しきったミリーさんだ。もう既にルールを覚えつつある。
その上――
「ねぇ、ここはもっと、ほら。シンク○モンスターとか、ナン○ーズとか入れた方が良くない? ナンバ○ズの先はちょっとよく分かんないけど」
「待つのだ恭香よ、奴らにはまだナ○バーズまでは浸透させていない。ここはフェアにシン○ロモンスターをメインにしたデッキにするべきではないか? 私もナンバーズの先はVRとか始めてて意味が分からないが」
「なるほど、あの何故か主人公達がバイクに乗り始めた辺りのデッキだね?」
そんな色々と危ないことを話しながらも、その白いカードをエクストラデッキとして積み重ねていっている恭香と浦町の二人。
見ればその全てが文字も絵もキラキラと輝いている最高品質で、いっそエルフたちが哀れに見えてくるほどである。
って言うか二人共。僕もバイクに乗り始めたあたりから「あれ? これって遊○王だよね?」とか思ってたけど、そういうのは思っていても口にしちゃいけないと思うんだ。
僕はうんうんとそう頷くと。
「とりあえず、レットデーモンズとブラックローズはいれるんだよな? 僕ってあの二体結構好きだったんだよね」
そう言いながらも、懐から二枚の白いカードを取り出した。
さて、次回も引き続きネタ回です。




