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影―030 二、三匹目

シリアスは決まって長続きしない。

『貴様らが秘宝は頂いた。取り返したくば万物惑わす夢幻の森、その奥地に佇む世界樹。そこで待つ我らが袂まで来るがいい』


 そんな事が『日本語』で書かれているその手紙。

 村長とまだ見ぬ国王はその言語がこの大陸に存在するどの言語とも違うことを知った後、もしや異世界語なのでは、と思い至って僕を頼るという結論に至ったのだそうだ。

 と言ってもそのこと自体は内密にことを進めていたため今回のようなことになった訳だが――


「本当に済まない執行者殿、なんと礼を言ったらいいものか……」

「いえいえー、全っ然キニシテマセンヨー」


 僕はカチコチと引き攣った笑みを浮かべてそう告げた。

 まさか自分もこんな奴らに敬語を使うなど思ってもいなかったが……、何故だろう。今すぐに泣き叫んでどこかへと逃げてしまいたい。

 僕はチラッと恭香へと視線を向けると、全てわかっていたのだろう。気まずげに視線をそらす恭香。これは後でお仕置きだな。


「ちょ、な、なんで私までお仕置きされ――」

「はいはい、話は署で聞きましょうかー」


 僕は恭香の言葉をそう聞き流すと、長老へと向けてグッと拳を握ってこう告げた。



「任せてください長老さん! そんなふざけた手紙を送ってくるような野郎ぶん殴って、秘宝を必ずや取り戻して見せますから!」



 本当に、泣いてしまいたい僕がいた。




 ☆☆☆




 かつて、ぼっちと言っても過言ではないほどに友達が少なかった僕には、一人の親友がいた。

 と言っても親友というか、単純に腐れ縁といっただけかもしれないが、何をどうしようと僕と彼女が離れるようなことはなく、いつしか僕らはお互いがそばに居るのが当たり前だと考えるようになっていた。


『我が神界(ヴァルハラ)の門を守りし戦乙女(ヴァルキリー)が破られただと!? き、貴様何者だ!』

『はい、青眼の白竜でダイレクトアタック』

『ちょ待っ!? た、頼むから待ってくれ! そ、そうだ! 一日奴隷になってやるから一ターン巻き戻そう!』

『なにカードゲームで連敗してるからってムキになってんだよ』


 ふと、そんなやり取りを思い出す。

 けれどもその後、僕は火事に巻き込まれて肉体的には本当に死んだらしく、元々の死体は今も死神ちゃんの所に安置されているそうだが、そんなことを知らなかった彼女はそれはそれは悲しんでくれたとか。


 ――君は私の命よりも大切な存在だ。死ぬことは許さない。


 だったろうか、かつて彼女が僕へと言った言葉は。

 それはプロポーズのようにも聞こえるが、けれども当時の彼女からすれば僕らあくまでも唯一の友人であり、最高の研究材料でしか無かったのだろう。

 ……まぁ、当時は、っていう但し書きは必要なのだろうが。

 僕はため息一つ吐くと、その手紙へと視線を下ろした。

 そこには何百何千と見てきたその見慣れた文字列が。


「まさか、こんな所に居るとはな……」


 良くもまぁこんな気分の悪い国に滞在しているものだ、とか。どんな成長をしているのだろうか、とか。

 そんなことは考えつくが、それよりも先に。

 僕は草木をかき分けながらもその大きな魔力が感知できる広場の中へと足を踏み入れた。

 最初は何となく魔力を感じる程度で、国宝でもあるのかな、という感じだったが、けれども空間把握を広げてみればそれが違うことが理解できる。

 僕は視線を上げる。

 そこには見上げるほど大きな木が存在しており、その青々と茂った木の上から二つの影が地面へと降り立ってくる。

 片や白いローブを纏った仮面野郎。片や背中から天使の羽を生やした仮面野郎。


「ふはははははっ! よくぞ来たなエルフの使いよ! 貴様らが秘宝を返して欲しくば我らを倒してみることだな!」

「ふはははははっ! ちょーぜつ暇だったからとりあえず面白そうなものを盗んでみたのだ! 返して欲しくば我らを――」


 そんな二人に、僕は――



「この馬鹿共がァッ!!」



 思いっきり拳を振り下ろした。


「「ぐほぉぁ!?」」


 二人は同じような悲鳴をあげて頭から地面へと突き刺さり、ピクピクと身体を痙攣させる。

 見れば白ローブの方は少し髪を伸ばしたのだろう。肩までの長さだった髪は背中の途中まできており、もう一人の天使の方は目に見えて身長が伸びている。

 僕は二人の後頭部をガシッと掴みあげると、二人の顔を僕の目の前まで上げてこう告げた。



「ねぇ君たち。こんな所で何してるのかなー?」



 僕の顔を見た二人――浦町と藍月は目を見開いて驚いたが、僕の笑っていない瞳を見てガクガクと震え始める。

 ――答え、暇なので秘宝を盗んでました。

 きっとそんな感じの答えが帰ってくるのだろうが、とりあえずもう一発くらい殴っておこうかと思ってる。




 ☆☆☆




 頭に幾つかの大きなたんこぶを作った浦町と藍月は、目尻に涙を貯めながらも、頭を擦りながら僕のあとを付いてくる。


「全く……君は感動の再会というものを知らないのか? 三年だぞ三年。ワ○ピースでも二年だったというのに……、こういう時くらいは久しぶりだねッ! とか言って熱い抱擁、果てはキスから一線を超えるくらいはしてもいいんじゃないだろうか」

「……へぇ、まだそんな冗談を言えるとは、よほど顔面に拳によるあっついキスを受けたいらしい」

「ま、待て! 冗談だ冗談! 君の拳はかなり痛いんだから少しは手加減をしてくれ!」


 銀炎を拳に纏わせ始めた僕を見て浦町はズザザっと後ずさると、それを見計らったかのように藍月が口を開いた。


「にしても、あるじはすっごく大きくなったのだー! 私も成長したけど、身長差が全然縮まってないのだー」

「そりゃそうだ。僕は永遠の成長期だからな。藍月が僕の身長に追いつく日はまだまだ遠いさ」


 とかいって、多分藍月が『ペガサス・ロード』とやらになったら抜かされるんだろうけど。

 僕はそんなことを考えながら苦笑すると、そういえばと浦町がアイテムボックスから一つの球体を取り出した。

 それはなんだ?

 そう聞くよりも先に。


「これは少し拝借してきた妖精族の秘宝というやつだ」


 おっと、どうやらそれが事の原因らしい。

 僕はガシッとその球を浦町から取り返すと、そのままアイテムボックスの中へと放り込んだ。

 のだが――


「あ、言い忘れていたが今の宝玉、対象の精神を崩壊させる最悪の魔法が封印されていたぞ。あんなものを秘宝とか、エルフたち頭逝ってるんじゃないか?」

「早く言えよ!?」


 今触った時に発動してたらどうするんだ!?

 それに対して『ふむ』と頷いた浦町は。


「それについては問題あるまい。君ほどの『精神力お化け』だ。その秘宝を受けたとしても数週間落ち込み続ける程度で済むだろう。その間に私が慰めに入り、そのまま流れで……」

「おいこの煩悩エロ女。僕が数週間落ち込み続けるとかシャレになってないぞ……、そんなモン、僕のクランメンバーでも耐えられるヤツ限られてるだろうが……」


 一体何故そんなものがこの国に……。

 僕は『なにが煩悩エロ女だ!』と突っかかってくる浦町の頭を手で抑えながらもそんなことを考えていると、ガサゴソと木々をかき分けるような音が聞こえてきた。

 一瞬、あの集落に置いてきた恭香たちかな、とも思ったがその考えは外れていたらしく、その先から現れたのは軽く武装をしたエルフたちだった。

 もしかしてやる気か? そんなことを思ったが、彼らは引き返してきている僕を見て目を見開くと、その場で敬礼をし始めた。


「ぎ、ギン様! 長老の命令によりやって参りました!」


 その敬礼、その呼び方。

 その敬礼は僕が教えたものだし、長老たちは僕を『執行者殿』と呼んでいる。

 つまりは――


「なるほど、お前らあそこの看守か」

「はいっ! 長老から『あの者を監視しておけ』との指令を受けやって参りました! 折角なので手助けを、と思っていたのですが、まさかもう引き返しているとは……」


 ……監視、ねぇ?

 僕はその言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべると、僕の背後から浦町が不思議そうに声を上げた。


「なんだ? お前達は妖精族――つまりはあちら側であろう? 何故ギンの味方をする?」

「なっ、あ、貴女はウラマチ殿! いつの間にか国を去ったと思っていたのですが……、もしやギン様のお仲間でしたか?」

「……うむ、そうだな」


 今コイツ『私はこんな真面目そうな奴らの秘宝を奪ってしまったのか……』とか思ったな。後なんで名前知れ渡ってんだよ。

 と、そんなことを考えていると、頬を緩めたそのエルフは一片の嘘もなくこんなことを言い出した。


「私達看守の妖精族は皆ギン様から大切なことを教えてもらいました。人は皆平等であり、生涯でただ一人心に決めた者に仕え続けることこそ、格好のいい生き様なのだと。だからこそ差別など以ての外ですし、何よりも我らはギン様、貴方に忠誠を誓うと決めたのです。このような腐った国などいつでも捨ててやりますよ!」


 その言葉に満面の笑みで頷く面々。

 そして、それを見ていた藍月がこんなことを呟いた。


「あるじは、洗脳の達人かなにかなのだ」

「ちょっと? なんの根拠もないこと言わないでくれます?」


 まぁ、少しばかり洗脳ということで『あの教徒ども』をモチーフにしてしまった感はあるが、それもこれもすべて事を上手く運ぶため。僕がなんの理由もなしにこんな困った集団を生み出すはずもない。

 それに早速、彼らは僕へとその有力な情報を教えてくれた。


「やっぱりあの狸ジジイ……、僕のこと内心で下に見てやがったな?」


 僕はニヤリと笑ってそう呟いた。

 と言っても最初に会った時点で、月光眼越しには彼からは悪意は見れなかったが誠意のようなものも見えなかった。

 だからこそ、僕はそんな者が長老をやっている国を好きになれなかったし、仲良くなろうとも、長居しようとも思えなかった。

 大方浦町たちがこの国を去ってあんな森の奥の方で暮らしていたのも、あの分厚い面の裏に隠れた感情を察したからであろう。


「まぁ、了解したよ。今から僕は少し時間を潰してから国に戻るから、お前達は先に帰って『見事盗賊を倒して秘宝を取り返していました。彼はそのまま引き返してきたので、まもなくこちらに到着するでしょう』とでも伝えてくれ。恭香たちに襲われそうになったら『ギン様が浮気してました』とでも叫べば止まるから」

「おい、その止め方はどうかと思うが?」


 いや、だってあいつらを止めるのにはそれが一番早いんだから仕方ないでしょ。

 ま、その後きっと『去勢じゃぁぁぁぁぁ!!』と白夜が突っ込んでくるだろうが、せっかく顔見知りになれたコイツらが死ぬよりはマシだろう。たとえ去勢されても生えてくるだろうしな。何がとは言わないが。

 僕の言葉にコクリと頷いた彼らは、ビシッと敬礼した後に周囲へと視線を向けて踵を返した。大方見られていないか探っていたのだろうが、既に周囲には誰もいないことは僕が調べ済みだ。

 僕はフゥと息を吐いて木々の隙間から見えるその青空へと視線をあげる。

 今日は大悪魔なんかが出てきそうにないような快晴であり、ましてや今回ばかりは混沌も出張ってこないだろう。

 何よりも僕の超直感がそう告げている。

 僕はニヤリと笑みを浮かべると。



「さて、愚かなるエルフたちよ。せいぜいこの掌の上で無様なダンスを見せるがいいわ!」

「おい、そこは僕のセリフじゃないのか? なぁ?」



 いきなり変なことを言い出した浦町に、僕はそんな言葉を投げかけた。


次回、化物共の逆襲。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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