第35話
そろそろダンジョン編も終わりですかね
僕たちが坂を下った先には死神がいた。
彼女は黒一色の巫女服のような服装で、その上から真っ白な羽織を着ていた。また、ナイトメア・ロードのものよりも1回り程大きな大鎌を持っており、身長は僕より高かった。もしかして2メートル程はあるのではないのだろうか? 彼女は白い長髪を首の後ろでまとめており、切れた赤目のお姉さんという感じだった。
なんだろう、一言で言うならば、
『張り切って新撰組のコスプレをしたアルビノのお姉さん。ただし、衣装と持っている武器がおかしい』
うん、そんな感じだ。
「おいおい、流石にこの声でこの喋り方だから男みてぇにおもうかもしれねぇが、俺様が直々に加護をやった奴が間違えるか? 普通よぉ?」
いや、間違えるでしょ、普通は。
というか、思わず『女の人だったの?』とか言っちゃったからブチ切れるかと思っていたけど、案外普通だったな...。性別を間違えられる事は慣れているのだろうか?
『それにしても貴方が管理していたんですね...』
「ん? おお! 教本じゃねぇか! お前も久しぶりだなぁ! っても今は恭香っていう名前だっけかぁ?」
やっぱりこの2人は知り合いだよなぁ......。
一緒にブラッドメタル作ったらしいし......。
「って言うか死神! お前っ、何でこんなところに!?」
「あぁん? 神様に向ってなんて口を聞いてやがる? てめぇも前回とは違って俺の正体分かってんだろ。もう少し敬ったり出来ねぇのか?」
「確かにあの時は助かったがっ、そもそもお前はそれ以前に色々とやり過ぎてんだろうが! 僕をこっちへ拉致。その上このダンジョンの制作に加えて、きっと僕たちの監視までしていたんだろ? 普通はそんなヤツ敬えるわけがないだろっ!」
「あ、主様も容赦ないのう......そう言えば最近ご褒美をしてもらってないのうじゃが.....」
「空気読めよ、変態が。」
「うほぉぉぉぉっっ!! その久々の呼び方っ! 興奮するのじゃぁぁぁっっ!!」
「『「.........。」』」
『......確かに、死神様? マスターに色々と教えてあげてもいいんじゃないですか?』
何も無かったかのように話を進める恭香。
うん、正解だと思います。
「くっくっくっ、あぁ、もちろんだ。今回俺様がここに来たのはお前に色々と教えてやるためと、俺様のダンジョンの攻略した褒美をやるためだからなぁ」
「「ご、ご褒美っ!?」」
褒美の意味が違う僕と白夜だった。
『...マスター? どうしてこっちに連れてこられたのか、とか色々と聞きたいことあるんじゃ......』
ふっ、甘いな。僕はそんな細かいこと気にするような男じゃないのさ。確かに少し、ちょっとばかし、ほんっの少しだけ気になってはいるが、そんな事よりも今はご褒美の方だろうっ! さぁ、どんなアイテムをくれるんだっ!?
「......まさか俺様もそっちに反応するとは思わなかったぜ......。まぁ、それを渡すのは最後にするか。じゃないと話を聞かねぇだろ?お前ら」
もちろんです。
「...まぁ、そういう事で最初は、俺様が何故お前をこの世界に連れてきたか、だ」
「なに? やっぱり理由とかあったの?」
コイツのことだから『面白そう』とか言って勝手に拉致したのかと思ってたんだけど。
『マスター? 流石に理由くらいあるよ。例えそれが1人だったとしても、世界間の移動なんて、かなりの魔力が必要だからね。少なくとも下級神じゃ不可能だよ』
「うむ、妾も時空間魔法を持っておるから分かるのじゃ。通常なら条件でも決めて、その上でランダムで召喚するのじゃろ?」
「くっくっくっ、お前の仲間は本当に優秀だな! そいつらの言う通りだ。お前をピンポイントで召喚なんて、人間や下級神にはまず不可能だぜ! 俺様だって創造神のジジイに手伝ってもらったからなぁ......屈辱だったぜ...」
うはぁ、その光景が目に浮かぶようだ
『おいジジイ、召喚するから手伝えよ』
『うぬ? 何じゃかのぉ、最近耳が遠くなってのぉ。きちんとした頼みでないと聞こえないのじゃ、ほっほっほっ!』
『くっ! こんのクソジジイっ!!』
『ん? 用が無いのであればとっとと帰るのじゃな。まぁ、お主のような上級神、ワシに頼む事など、無いとは、思うがのう?ほっほっほっ!』
『くっ......、がい......ますっ!』
『なーんじゃ? 聞こえんのぉ?』
『くぅぅぅっ! お、お願いしますっ!』
『仕方ないのぉ、ほれ、とっとと済ませるぞ?』
きっと、こんな感じだったのだろう。
この想像通りだったのならば、僕はきっと、創造神様とは仲良くなれる気がする。
「御愁傷様です」
「くっ、敬語なんて使うんじゃねぇ! なに知ったような口聞いてんだ! ってそんな事はどうでもいいんだよ! 今はお前をこっちに呼んだ理由だっ!」
顔を真っ赤にして怒り出した死神さん。
やだ、可愛いじゃないですか。
だが、それも長くは続かなかった。
すっと顔の赤みが抜け、一気に真剣な表情となる死神。
「そう、俺様がお前を呼んだ理由だ...」
死神は先程とは売って変わって、悲しそうな、申し訳なさそうな、それでいて今にも泣きそうな顔をしていた。それはまるで、許されぬ罪を犯した罪人が、自らの罪を清算しようとしているような、そんな顔だった。
「それは...ただの罪滅ぼしだ」
彼女はそうして語り出した。
今回の異世界転移の真相を。
そして、僕の家族の終わりの始まりを。
☆☆☆
これはおよそ100年前まで遡る。
当時の俺様の部下の1人に、人族から神格を得て神へと成り上がってきた小僧がいた。そいつは神格を得るにあたって多くの人を殺めてきたそうでな、死神である俺様の管轄になっちまったんだ。
そいつは成り上がってきただけあって、実力だけなら当時の中級神と同格だった。そのせいか、奴はかなりの自信過剰癖を持っていていたんだ。しかもそれだけに留まらず、奴はかなり傲慢だったんだ。そのためか奴は、常に他の下級神共を見下していた。
『お前たちは神のくせに弱い』『元人族の俺の方が圧倒的に強いじゃないか』『お前たちみたいなゴミは俺の部下にすら相応しくない』『とっとと失せろクズ共が』
とか、そんな事を言っていた気がするな。
まぁ、そんな事を言っていたのはいいのだが、その小僧がゴミだのクズだの言っていた相手は神の子供たちでな。大の大人が子供たちに向ってそんな事を言っていたのだから、それは酷い嫌われようだったぜ、もちろん俺様も嫌いだった。
そうして数10年後、奴はまんまとその子供たちに実力を追い抜かれてな。完全に天界での居場所が無くなった。奴は限界までレベルを上げていたのだろう。そりゃいつかは追い抜かれてしまうわけだ。
それに、中級神が奴の限界、って意味でもあるしな。
奴の同期の子供たちが中級神にまで成り上がり、やつの自信は完全に砕けてしまった。今度はその中級神たちに酷い言われようを受けた。もちろん誰も止めなかった。あの他人に激甘な運命神や魔導神でさえも、だ。
そうして奴は完全に心を閉じてしまった。
人族から神格を得たのだ。
とてつもない才能を持ち、それでいて血の滲むような努力をして来たのだろう。確かに奴は下界の中では間違いなく最強だった。さっきの骸骨くらい簡単に倒せるくらいにな。
だが、奴は俺様たちを舐めていた。
あの程度の才能の持ち主など当たり前に存在するし、奴なんかと比べるのも烏滸がましい程の努力をしている神だってザラにいる。
神と人は違う。
それも圧倒的に、だ。
人の頂点が神の最底辺なんだ。
お前たちも、いずれは神にも届きうるだろう。
その時まで今の言葉は覚えておけよ?
話を戻そう。
落ちこぼれた奴は考えた。
なぜ自分はこんなことをしている。
誰のせいだ?
神のせい?
それはもちろんそうだろうが、復讐なんてできねぇ。
自分が自信過剰だったのは誰のせいだ?
ならば自分は誰を恨めばいい?
それはもちろん人間を、だ。
そして奴は、俺様が管轄している異世界に目をつけた。
それがお前のいた世界だ。
俺様はこの世界を主にしているが、それでもほかの世界も幾つか管轄しているからな。それを知っていた奴はこの世界の人間に復讐するのでなく、違う世界の人間に復讐しようと考えたわけだ。そうすれば俺様にもバレにくいしな。
そうして技術が一番発展していた地球の。
それまたたまたま目に付いた小さな孤島の。
それまたちょうど生まれてきた子供に目をつけた。
奴はその子供に3つの呪いをかけた。
『10歳を過ぎた頃から挫折を何度も味わう』
『親しい人達が成功するのを見ると殺意がわく』
『心が壊れやすい』
それがちょうど今から40年程前のことだ。
「お前なら、もう分かったんじゃないか? 銀......いや、今はギン=クラッシュベルだったか?」
それは正しく僕の叔父のことだった。
☆☆☆
「その後はもうお前も知っているとおりだ」
呪いを受けた叔父が10歳を境に心を壊していき、
最終的に僕の家族を皆殺しにした。
そういう事だろう。
「そしてその数ヵ月後、事件に気づいた俺様たちがそのクソを引っ捉えて、その被害者であるお前を探したら、ちょうど火事で死にそうになってたんでな。咄嗟に隔離したってわけだ」
死神はそう言い切ると、僕の前に膝をついた。
「こんなことで許されることじゃないのは分かっているっ! 俺様の部下がお前の家族を滅茶苦茶にした。あまつさえこの俺自身がお前をこの世界に呼んでしまったっ.....。とても、許させることじゃあないが、せめてこれだけは言わせて欲しいっ! 誠に、誠に申し訳ありませんでしたっ!」
死神は頭を下げた。日本で言う土下座だ。
いつもふざけている彼女が。
いつも上から目線の彼女が。
上級神である死神の彼女が。
そんな彼女が恥も外聞も捨てて僕に頭を下げているのだ。
僕はしゃがみこんで彼女の肩に手を置いた。
「うん...いいよ。許した」
僕だって、許さないわけにはいかないだろう?
「し、しかしっ......って痛っ!」
尚も続けようとする死神の顔を思いっきりつねり上げた。
「確かにお前の配下がやった事だし、責任はお前にあるのかもしれない」
その言葉に泣きそうな顔になる死神。
「だけどな」
コイツは白夜と出会った時に命を救ってくれた。
このダンジョンを造って僕を鍛えてくれた。
そして、僕が向こうで死にかけていた時、助けてくれた。
「お前は僕を救ってくれただけだろう? なら、お前を尊敬する理由はあっても、僕にはお前を恨む理由は見当たらないよ」
その言葉を聞いた死神は、声を押し殺して泣いていたのだった。
律儀な死神さんでした。
ちなみに主人公が吸血鬼の真祖になった理由は、その時の火事の怪我が真祖レベルの回復力でないと治せなかったためです。




