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影―025 森国

 ピヨピヨと。

 ピーピーと。

 森の中からそんな小鳥たちのさえずりと。

 ピギャァァァァ!? と。

 グオァァァァァ!? と。

 そんな断末魔のような叫び声と。

 そんな相対する二種類の音が耳に届き、僕は思わずエルフリーダーへと話しかけた。


「……何この森、もしかしてここだけ白亜紀なの?」

「……ハクアキ? なんだそれは」


 彼は僕の言葉にそう答えると、ハンっと僕へと嘲笑を向けてきた。


「よく分からぬが無様だな執行者。かつて大勢の者を助けた真の英雄。生ける伝説。それが今やただの盗人ときた。似合っているぞ、その鉄格子」


 そうして彼が指を向けるは、僕を入れたまま運ばれているその鉄格子。

 曰く、オリハルコンの鉱石とナイトメアの骨を組み合わせて作り上げた『秘宝』に次ぐ『宝』なのだそうだ。ご立派なこって。

 僕は存在を示すかのようにゴロンとその檻の中で横になると、かなり重いのか檻を持ち運んでいた四人のエルフが『うぐっ』と声を上げる。


「いやー、たまには鉄格子ってのもいいよね。そういうのはよくわからないけど、最先端のファッションを行ってるようでなんか優越感」


 そう言って僕はコンコンと檻の床を叩いて見せた。

 あれから一週間と少しが経ち、ここはエルメス王国と未開地の間に存在する『妖精の森』という場所だ。

 そして森国ウルスタン――正確には『集落』というのが相応しいのかもしれないが――は、この森の中心地に存在しているのだとか。

 まぁここまで早く来れて居るのは(ひとえ)にこのエルフたちが『エリート』だからであり、ここまで傲慢そうな性格をしているのだ、さぞかし実力の高いエルフなのだろう。

 ――まぁ、あくまでも『普通』の範疇でなら、という話だが。


「ねぇー、まだー? まだつかないのー? 僕いい加減お尻痛くなってきたんですけどー? ねぇねぇエリートさーん!」

「う、うるさい黙れ! 貴様が我らにちょっかいをかけたり脱走して仲間に会いに行ったりしてなければもう既に着いていたのだ!」


 僕の挑発百パーセントの言葉にエルフリーダーはそう唾を飛ばす勢いで怒鳴り散らす。

 なので僕は。


「えー? 逃げる意志のないただの吸血鬼もまともに護送できないんですかぁ? 一応はエリートなんですよね? エルフリーダーさーん?」


 ニタニタと笑いながらそう言ってやると、彼は返す言葉が見つからないのか悔しげに顔を逸らした。

 そして、それを見た僕は鼻で笑ってこう告げた。


「なるほどコレがエリートか。こんなのを代表に送ってくるとは、……集落のそこが知れるな」


 ガシャァァン!!

 瞬間、檻のへと拳が叩きつけられ、エルフリーダーが憤怒に歪んだ顔を限界まで押し付けてくる。

 その瞳は真っ赤に充血しており、彼は歯をギリギリときしめながらもこう告げる。


「あまり調子に乗るなよ、劣等種族。貴様は犯罪を犯し、いま我らに捕まっているのだ。貴様のような犯罪者、今この場で斬り捨ててやっても良いのだ」


 それに対してククッと肩を震わせると、檻にガンッと拳を叩きつけ、彼の顔へと自らの顔を近づけた。

 檻はいとも簡単に形を曲げ、威力が強すぎたのか檻を持っていた四人が思わず膝をつく。

 檻の床が地面へと激突し、そして僕は。


「自分が弱くて傷つけられないからどうぞ自害してください、の間違いだろう? プライドと寿命だけの劣等種族。まぁ、物理攻撃力では獣人族、魔力量なら魔族、寿命なら吸血鬼に負けてるんだ。そりゃあ他人を見下してないと自らの存在意義を見いだせないわな?」


 そう言って、嘲笑を浮かべてやった。

 僕の言葉に折れるんじゃないかという程に歯をきしませた彼は、数秒の沈黙の後、フンッと鼻を鳴らして檻から離れた。


「確かに貴様の言うことは正しい。だが、俺の言っていることは『知性』での話だ。我ら妖精族は知性に秀で、貴様ら雑種は野性に秀でた。単純に人か獣か、その違いだ」


 彼はそう言って『勝った』とばかりに笑みを浮かべると。



「貴様らよりも我らの方が賢く、知性と理性を兼ね備えている。貴様らのような獣を下に見て何が悪いというのだ」



 そう言って、ドヤ顔を浮かべた。




 ☆☆☆




 その十数分後。

 僕らは森国ウルスタンへと到着した――らしい。

 らしい、というのも未だに木々が鬱蒼と生い茂っている森の中を運ばれているからで、運んでいる四人に聞いたところ、もうすぐだ、とそれだけ言葉が返ってきた。

 のだが、どうやらその言葉は正しかったらしい。


「ん? 森が……」


 僕は思わずそう呟いた。

 視線を前へと向ければ、徐々に森の木々が開けてゆき、その先から光が溢れ出してくる。

 そして――木々が開けた。


「ようこそ、とだけ言っておこうか犯罪者。ここが貴様の死に場所だ」


 エルフリーダーがそう言ってくる。

 けれども僕はその言葉を無視して視線を巡らせた。

 そこに広がっていたのは――正しく妖精の国だった。

 背の高い木々に囲まれ、ひっそりと佇んでいるような、それでいて広大なその集落。

 どういう原理か、周囲にはフワフワと光が漂っており、僕は何故か、デジャヴを覚えた。


(どこかで……見たような)


 正確には、見たと言うよりは感じた覚えがあるような。そんななんとも言えない感覚。

 たしか、この感覚は――

 そう、僕が何か思い出しそうになったその時。どこからかコソコソと、話し声が聞こえてきた。


「見ろよ……あいつが――」

「チッ、この劣等種族……」

「……でもよ、証拠は……」

「長老がそう言ってるんだ、そういう事だろ……」


 見れば街中では多くのエルフたちがコソコソとこちらを盗み見ており、彼ら彼女らはそのような言葉を交わしている。

 あーやだやだ、この子達ってば『知性に長けてる』ーとか言っておきながら集団悪口ですかぁ?

 と、そんなことを思っていると頭の中に声が響き渡った。


『なんか、アレだね。思いっきり荒んでるね』


 それは恭香の声だった。

 まぁ、大方暇すぎてちょっと荒んできた僕の脳内を読み取ってのことだろう。


『だって仕方ないじゃん。コイツらこんな距離を移動するのに一週間も掛けてるんだぞ? 僕なら一分もかからない自信あるね』

『……普通の人と、ステータスに笑われるような人を比べたらいけないと思う』


 酷い言われようだった。

 いや、僕だって望んで笑われてるわけじゃないからね? ステータスの奴が勝手に……。


『でもアレじゃん。修行中のギンの成長速度とかお義父さんも焦ってたじゃん。最後の方とか「やっば……、もうぜんぜん勝てないんですけど……。一応僕神王ウラノスなんですけど」とか言っていじけてたし、笑われて当然でしょ』

『あれは息子に全力を出して負ける父さんが悪い。……あと、今父さんの事なんて言った? もっかいお願いします』

『……修行中の成長速度とか神王さまも焦って――』

『いや、さっきお義父さんって……』

『言ってない』


 僕は恭香の言葉を聞いてため息をもらすと、それと同時に恭香がこんなことを聞いてきた。


『あとさ、ネイルが死にそうなくらい心配してるんだけど、なんか変なことされてない?』


 死にそうなくらい心配してるってどういう事だろうな。

 そんなことを思ったが、僕はゴロンと横になった。

 苛立ちの混ざった視線が周囲から突き刺さるが、特に実害は無いと言ってもいいだろう。


『知ってのとおり、睨まれたり脅迫されたりしてるけど……正直怖くもなんともないんだよね』

『うん、知ってた』


 なら何故聞いてきた。

 そう問い返したかったが、きっとその答えは『話を逸らしたかったから』だろう。全く賢い幼女だこと。

 と、そんなことを思っていると、ガタンと音を立てて僕の檻が地面へと置かれた。


「おい貴様、手を出せ」


 もう寝ていることには反応しなくなったエルフリーダーがそう言ってきたので、何かくれるのだろうかと僕は両手を突き出した。

 ガチャンッ!

 瞬間、鳴り響くその機械音と、僕の両手首に感じられ始めたその冷たい感触。


「……ん?」


 見れば僕の両手にはガチッとした長方形の手錠がかけられており、それを見たエルフリーダーはニヤリと笑みを受けべた。

 だが――


「クックック……、それは使用者の魔力を拡散させる特別性の手錠。これで貴様は脱獄することも叶わなくなったというわけだ! 仲間に助けを請うことも難しくなっ――」

「……え、こんなゴツイ手錠、わざわざこの檻越しに付けたのか? ……普通に出てからつければ良かったのに」

「――き、貴様……、状況が理解出来ているのか?」


 彼は信じられないものを見たと言ったふうにそう呟いた。

 まぁ、彼の言っている事は本当だろう。かなり高位の魔導具なのか、見事に僕の魔力を散らせている。普段通りに魔法を発動することなんて出来ないだろう。

 まぁ、『僕は』の話なんだけど。

 僕の態度にこそ納得していないようだが、格上の後衛から魔法を奪ったということは大きかったのだろう。

 その檻がガチャンと音を立てて開かれ、エルフの指示に従うまま僕は檻の外へと出た。

 見れば僕の両脇には腰の短剣へと手を添えたエルフ二人が立っており、背後には弓を構えたもう二人のエルフが。

 そして僕の前に立っているエルフリーダーは、笑みを浮かべてこう告げた。



「貴様には、裁判が始まるまで我らが国の牢獄にて過ごしてもらう。脱走への対策は完全だ。今の貴様に出来るとは思えぬが、せいぜい大人しくしている事だな」



 僕はその手錠を見ながら、とりあえず頷いておいた。

次回からコメディ満載です。

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