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記録―03 魔王と英雄

記録03!

これから記録系が増えるかもです。

 これは、ギンとアルファの戦闘が大陸中で放送されていた頃。

 その映像を見あげていた彼女――桜町穂花は、身体中に寒気にも似た鳥肌が走るのを感じていた。


「な、なに……あれ?」


 視線の先にいるのは、目で追うのも難しい――正しく天上の戦い。

 三年後の彼からすればそんなものは『はっ、あんなの耳かきしながらでも出来るわ』と言った程度でしか無いのだが、その当時の彼女からすれば、それはあまりにも高すぎる壁でしかなかった。

 そして、それを見ていた他二名も。


「……す、凄いわね。本当に……それしか言葉が出てこない」

「ほ、ほんとに……あれって人間なの?」


 鮫島美月がそう呟き、それに対して堂島紗由里がそう一人、疑問を口にした。

 ――アレが、人間かどうか。

 その質問に『そんなわけが無い』と答えたいところではあったが、けれどもその質問に答える者が一人。


「人間……なはずですよね? 私の記憶が正しければ、確かあのギンという方は迷い人のはず……」


 そう答えたのは、金髪ショートのシスターさん――元聖国の司祭であったマリアであった。

 彼女はかつて狂乱した聖女ミリアンヌがヒステリックの果てに追い出した――とされている人物であった。

 けれどもその実は。

『こんな腐った国で育ってどうしてあんなに純粋でいられるのかしら……? 気でもトチ狂ったのかしら?』

 と内心で思いながらも、

『才能はあるみたいだし……ここで使い潰すのは勿体ないわね』

 という本心のもと、ミリアンヌが聖国から半ば強制的に追い出した人物でもある。

 と言っても、あの一連の行動に隠されたミリアンヌの本心は彼女たちにとって知る由もない事なのだが。


 閑話休題。


 そんな彼女らは、皆一様にその上空の映像を見上げながらも、そんな言葉を紡ぎ出す。

 と、そんな時だった。


 ヒュゥゥゥゥゥゥ――……


 どこからかそんな音が聞こえてきて、彼女らは思わず周囲へも視線を巡らせた。


「えっ!? な、何この音っ!」


 穂花が思わずそう口にして。

 その数瞬後、周囲へと巨大な破壊音が響き渡った。

 バリィィィィィィンッッ!!

 ドゴォォォォォォォォンッ!!

 二連続で起こったその別種な音。

 見れば最初の一回目で上空のスクリーンが粉々に砕け散り、ギンが左手に銀色の魔力を纏ったところでズザザっと映像が切れる。

 そして二回目で、穂花たちの目の前に巨大なクレーターが出来上がった。

 場所はエルメス王国の最北部。

 今から魔国に入ろうと考えていた彼女らは、スクリーンの破壊とその巨大なクレーターに思わず目を見開き――


「いたた……、テキトーに飛ぶのは失敗だったかしらね」


 ――瞬間、その膨大な魔力に思わず身を竦ませた。

 歯がカチカチと音を立てて震え、穂花たちは思わず自分の武器へと手を伸ばした。

 考えるまでもなくわかる――勝てるはずないということは。

 ならば逃げる選択肢しか残っていないのだろうが、生憎とこれほどまでの魔力量をもつ者だ。そう簡単に逃がしてくれるはずもない。

 その上――


(こ、この魔力……、あの時のギン……いや。あのルシファーっていう大悪魔よりも多い――いや、桁が違う)


 穂花は内心でそう呟いた。

 それと同時にそのクレーターの中から一人の女性が姿を現す。

 大人にしては小さなその身長。眩いほどのその金髪に、爛々と輝くその紫色の瞳。

 風がそのローブをバサッと揺らし、その小さなはずの姿をより大きく見せている。

 その容姿は見方によっては『子供』のように見えてしまうかもしれないが。それでもその佇まいから考えられるその正体はただ一つ。

 それを見た彼女らは、思わずこう、呟いた。



 ――ま、魔王……? と。




 ☆☆☆




 魔王。

 その名前は日本では『魔族の王』や『魔物の王』といった、どちらかと言えば『悪』としての印象が強い。

 だからこそ、元聖国の聖女様は『なんか悪者っぽいし、あの人敵に回したらすぐ死ねそうだし、そうすることにしましょうか』と考えて彼女を『魔物の王』と定めた。

 故に聖国の民は『魔王』を毛嫌いし、その国の民たる魔族をその手したということで拒絶した。

 だが、その実は全くの逆。


 ――魔王ルナ・ロード。


 彼女は『魔法の王』である。

 魔力制御に関して並ぶ者はおらず、その魔力量は他の追随を許さない。

 かつて所属していた冒険者パーティ――『時の歯車』のメンバーたる、リーシャ、グレイス、エルザ、ドナルド、カネクラ、レックス。それら全員の魔力を足して二で割った。そんな表現がふさわしいほどに馬鹿げているその魔力量。

 そんなものを『隠蔽の達人』でもない彼女が隠し通せるはずもなく、基本的に彼女はその魔力を垂れ流しにしているわけだが。


「だからこそ、いつの間にか魔族たちに国王へとでっち上げられてた訳なのよね……」


 彼女は、ぷはぁとビールを飲み干してそう呟いた。

 その話に思わず元聖国の司祭たるマリアは頬を引き攣らせ、対して穂花はパァァっと顔を輝かせた。

 だが――


「す、すごいっ! よく知らなかったけどルナさんってすごい人なんですねっ!」

「あぁ、敬語は要らないわよ。桜町穂花。いや……魔王を前にしてるってことから言えば『英雄』の二つ名で読んだ方がいいかしら?」


 ――真の勇者さん?


 ルナのその言葉に、穂花は思わず顔を引き攣らせた。

 額からは冷や汗がダラダラと吹き出してきて、彼女は無言のままに顔を俯かせる。

 そして、それを見た美月は思わず額に手を当てた。


「はぁ……。敬語は使わないわよ、ルナ・ロード。穂花をいじるのがこの上なく楽しいのは分かるけれど、あまり私の仲間にちょっかいをかけないでちょうだい」

「くふっ、いやいや、ただそんな弱々しい隠蔽で格上を誤魔化せるとでも思っていた彼女が面白くて……」

「く、くぅぅぅぅっ!? ふ、二人とも私の扱いがひどいよっ! あんまりだ!」


 二人の言葉に思わず声を上げる穂花。

 ルナと言い、美月といい、ミリアンヌといい。

 このような口調の人物は決まって口が悪い。あるいはかなりのドSである。

 そんなことを今更になって実感した穂花であった。

 穂花が机に顔を押し付けて撃沈し、それを見ていた二人がニタニタと笑う中。今まで黙っていた紗由里が、すこし勇気を振り絞って声を上げた。


「そ、そう言えばっ! 魔王さんはどうしてあんな所に落ちてきたんですかっ?」


 その言葉に、美月は「そう言えば」といった表情を浮かべる。

 今穂花たちがいるこの場所は、先ほどルナと邂逅した場所から最寄りの街。そこにある小さな食堂である。

 そして、なんだかんだで流していたものの、この魔王ルナ・ロードは上空からスクリーンを割りながら墜落してきたのだ。この中で最も『普通』な彼女がそこに触れないわけがない。

 対して、それを聞いたルナは「あぁ」と声を上げると、苦笑いを浮かべて口を開く。


「あぁ、その事ね。実はどこぞの恐竜馬鹿の酒に付き合わされて、つい先程までエルメスの王都に滞在してたわけよ。で、ちょっと時間がまずくなってきたから補助系から体重減少系までありとあらゆる魔法を全部使ってジャンプしたんだけど……やっぱり酒が抜けきってなかったみたいね。大幅に外れちゃったわ」


 そう言って「ビール一本追加でー」と声を上げるルナ。

 酒を飲みすぎた、と。そんな言葉が聞こえてきた気もしたが、どうやら気のせいだったらしい。

 そんなことを鮫島は考えて――


「「「たたっ、た、体重を減らす魔法!?」」」


 そんな声が、響き渡った。

 気がつけば穂花、紗由里、マリアの三人は机に手をついて立ち上がっており、それには思わずルナも目を見開いた。


「ん? 私、今何か変なことでも言ったかしら?」

「「「うん(はい)っ!!」」」


 即答する三人。

 その様子には思わずルナも頬を引き攣らせる。

 ――え、まじですか?

 ルナが内心でそんなことを思い。

 そして彼女らは、ルナへと熱い視線を向けてこう告げた。



「「「で、弟子にしてください!」」」



 かくして体重が気になるお年頃の三名+巻き込まれただけの一名の真の勇者パーティは、魔王ルナ・ロードへと弟子入りした。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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