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影―024 冤罪

新章開幕!

冤罪? 何それ重いの?

 罪がないのに罰せられること。

 それを俗に、冤罪という。

 僕はその冤罪まっしぐらな言葉を聞いてため息を吐くと、その男へと視線を向けた。

 まるでどこかのカカ○先生のように口元を隠すその黒い布地と、暗い中で輝いて見えるほどに白いその肌。そしてなにより、その長い耳。


「妖精族――エルフ、か」

「ふん、知っているだろうな。何せ貴様は我らが秘宝を盗んだのだから」


 そう言って彼はキッと僕を睨みつける。

 月光眼を通して見た彼の身体からは『悪意』のオーラがバリッバリ感じられたが、けれどもそれは嘘をついているもののオーラではなかった。

 つまりは――


(この男は……本当に僕が盗んだと思ってるのか)


 僕はそう確信した。

 そもそも僕からしたら妖精族の秘宝って一体なんだ、という所から質問を始めたいところだが、その行為が火に油を注ぐ行為であるのは火を見るよりも明らか。

 ならば。


「まぁ、アンタが僕を犯人だと思っているは分かったし、きっと誰かからそう伝え聞いて、証拠も確認せずにここに来たのだろう、ってことも分かってる」


 その言葉に、カレは思わず「む」と声を漏らし、図星を付かれた不快感からか眉根をにシワを寄せた。

 僕はそれを見てハッと鼻で笑ってやると、両手を動かした。

 それには彼ら彼女ら五人が全員ビクッと体を跳ねさせて弓を引き絞ったが――


「おい、それ以上はやめておいた方がいいぞ」


 瞬間、彼らの背後から強烈な殺気が溢れ出し、そのあまりの威圧感に彼ら彼女らは気絶することも出来ずに立ち尽くす。

 見れば、その背後にはワープゲートを潜ってこちらへと来たのであろう、白夜、暁穂、エロース、ソフィアの姿があり、それぞれがリーダー以外の後頭部へと爪や弓を向けていた。


「主様よ、なんの遊戯かは知らぬが、今はまだ恭香も眠っている時間じゃぞ」

「そんな朝早くからこんなにも楽しそうなご友人を連れて――一体なんの冗談ですか?」


 今の言葉を訳すとすると。

 ――何故反撃しない。やろうと思えばこんな連中コンマ数秒もかからずに皆殺しに出来るだろう。

 だろうか? まぁ、そんなものだろう。

 僕は四人へとヒラヒラと手を振ると、気負うこと無く口を開く。


「何でもかんでも殺せばいいってわけじゃないんだよ。今回だったらこいつらの後ろ――恐らく僕を犯人にしたてあげようとしたその糞野郎をとっちめる必要がある。殺すとしたらそいつだけで十分――」

「き、貴様っ! 我らが長老を愚弄するか!?」


 僕の言葉に、後頭部が無事なリーダー格がそう叫ぶ。

 だが――


「へぇ……、長老、ねぇ?」


 僕はそう呟いて、凄惨な笑みを浮かべた。

 それには彼もしまったというふうに口を押さえたが、そんなことはもう今更だ。言ってしまったからには――暴露してしまったからには仕方がない。


「いやぁ、僕って色んなラノベ読んでたから、主人公が冤罪をかけられて投獄されたりとか、それで重い展開とかになるのってあんまり好きじゃないんだよねぇ」


 僕はベットから立ち上がると、リーダー格の方へと歩いてゆく。

 顔に浮かべるは、我ながら悪魔のような笑み。

 瞳は赤く爛々と輝いており、それを見た彼は「ひぃ」と歯の隙間から悲鳴を漏らす。

 瞳の奥に灯るは恐怖の炎。

 けれども彼は何とか腰のその短剣へと手を伸ばすと、悲鳴のような声を上げて僕へとそれを抜き放った。

 だが――


「おいおい、まだ裁判もしてないだろうが。エルフさんよ」


 僕はその刃を、指の先で受け止めた。

 それには彼も思わず目を見開いてその短剣を落としてしまう。

 僕はその短剣が床に落ちる前にスッとすくい取ると、右手でそのナイフを握り、左手の手のひらへとその切っ先を向けた。

 そして――少し力を込めて、押し当てる。

 ガキッ、バキッ……ガキャッ!

 瞬間、そんな音を立てながら曲がっていくその短剣。


「ひ、ひぃっ!?」


 響く悲鳴。

 床に広がってゆくその汚い水溜り。

 頬を伝うその涙。

 僕はそれらを見て嘲笑すると、


「さぁお巡りさん。どうぞ悪しき容疑者を連行してくださいな」



 ――まぁ、僕が無実だった時……どうなるかは知らないけどな。



 僕は彼らの背後の四人を見て、そう呟いた。




 ☆☆☆




 数時間後。

 あの後哀れなあの妖精族たちに。

『もちろん朝食食べてっていいよな? え、だめ? あー、白夜今の話聞いてた? こいつら未開地の奥深くに放置してきて。……そうだな。大型の芋虫が闊歩してるような秘境ね』

 って言ったら快く僕達の朝食が終わるのを待ってくれるとのことだった。いやはや、来たのがいい人たちで良かったよ。


「……何がいい人達さ。見てよあれ、絶対悪口言ってるよ」


 けれども恭香はそんな感情なんて微塵も思っていないようで、クイッと顎でそちらの方向を示した。

 そちらへとチラリと視線を向けると、そこには顔を突き合わせてコソコソと話しているエルフ五人組。

 おおよそ長老とやらの悪口を言った僕のそれまた悪口を言っているのだろう。悪口言ってる時点でその対象である僕と同じってことが分からないのかね。

 それに――


「あ、あのっ、ぎ、ギンさんっ? な、何か変なことでも……ひっ、さ、されませんでした……?」


 僕はその言葉に、思わず額へと手を当てた。

 隣へと視線を向ければ、そのエルフの五人組をチラチラと見ながら身体を震わせているネイルの姿があり、僕の腕をギュッと抱きしめてくる。……こんな状況で『役得だぜ! ひゃっほい!』とは言えない。口が裂けても言えない。

 僕はもう片方の手でネイルのおでこに軽くデコピンを食らわせると、彼女は「あいたっ」と両手でおでこを抑えた。


「まぁ弓を放たれて冤罪までかけられたけど、別に気にすることでもないだろ。あいつら如きに僕を殺すことなんて出来やしないんだから」


 心臓を銀の杭で串刺しにされようと、ニンニクを口に突っ込まれようと、陽のもとに晒そうと、身体中の血液をすべて抜こうと、どうせ今の僕は死にはしない。そもそも最初と最後に関しては前提から間違っているしな。

 簡単に言えばこうだ。


「どころか、傷一つも無理だろうな」


 僕は先程ぐんにゃりと曲げたあの短剣を思い出す。

 あのエルフのリーダー格――エルフリーダーの落ち込みようを見るに、あの短剣はエルフが持つ中でもかなり高品質のものだったのだろう。

 高品質なものであの程度だ。……魔力回路に魔力を流していない今の状況ですら傷一つも無理だろう。

 ……まぁ、本気で傷が付きそうだったら僕の内に眠る『マスターコンプレックス』二人が勝手に具現化してきそうな感じもするが。


『おい、誰がマスターコンプレックスだ。テメェの事なんざ好きじゃねぇよ。強いて言うなら……えっと……なんだ? 顔見知りか?』

『あらあら、クロエさんったらツンデレのあとはアホの娘枠でも狙いに行ってるんですか? 属性をあとから付け足すと人物像が崩壊しますよ? 小説なんかでは以ての外です』

『う、うるせぇ! ここは小説でもねぇし属性の後付けもしてねぇよ! これが私の素だ!』


 いきなり頭の中に響き渡る二人の言葉。

 あの部屋で椅子に座りながら小型の虎を撫でている彼女の姿が目に浮かぶようだ。

 僕は相も変わらぬ二人の仲に頬を緩めると、ネイルへと視線を向けてこう告げた。


「まぁ、多分森国ってネイルの故郷なんだろうし、かなり酷い過去を持ってるのもなんとなく察してる。だけど、昔は一人だったかも知らないけど今は違うだろう?」


 その言葉に、ネイルは思わず顔を上げた。

 すると僕とネイルは至近距離で向き合うような格好になってしまい、思わず二人して動きを止めてしまう。

 だが――


「私と付き合うことになった翌日に、なに他の女の人を誘惑してるんですか、マスターは」


 瞬間、僕とネイルの間に手を挟めて、僕らの間に割り込んでくる暁穂。その頬は少しだけ膨れており、僕は思わずこんなことを問いかけてしまった。


「なんだよ暁穂、嫉妬か? 嫉妬なのか?」

「違います。単純に見てて腹が立っただけです」


 基本的にそれを僕は嫉妬って言うのだが……、あれ、もしかして違うんだろうか?

 僕は思わず恭香たちへと視線を向けるが、恭香、白夜はぷいっとそっぽを向き、エロースは二人の様子を見てその真似を。ソフィアは肩を竦め、ミリーは口の端から純白色の砂糖を垂れ流している。


「甘い、甘ったるすぎるわよ貴方たち……。仮にも一国から罪人として連行されて行くのでしょう? そんな人間がなんでこんな所で、その国の人たちを前にしてイチャついてるのかしら? 馬鹿なの? 常識って言葉知ってる?」

「……ふっ、常識ってのは壊すものさ」

「きっとその時に思考回路まで壊してきたのね」


 僕の渾身のボケを簡単にスルーするミリー。

 辛口すぎる! 辛口過ぎるよミリーさん!

 そんなことを内心で叫びながらも、僕はコップの水をゴクゴクと飲み干して、フゥと息をついた。


「まぁアレだ。どうせいつでも脱獄できるんだし、ちょっと社会見学に行ってくる感覚で行ってくるわ」

「……ちょっと? 貴方いまとんでもないこと口走ってる自覚あるかしら?」


 僕はミリーの言葉を無視して立ち上がると、ネイルの方へと視線を向けてこう告げた。


「今のネイルには僕らがついてる。僕はちょっと社会見学行ってくるから留守にするけど、不安になったら皆を頼れ。この中に、お前が嫌いな奴なんて居ないんだから」


 その言葉にネイルは思わず口を手で押さえた。

 僕はその様子を見て頬を緩めると、踵を返してエルフたちの方向へと向かってゆく。

 今回僕が行く先は、エルフの国――森国ウルスタン。

 この大陸に存在する妖精族の唯一の住処であり、恐らくはネイルの故郷でもある場所。

 まぁ、今回は社会見学ということで投獄をお試ししてみるわけだが、僕の目的はもう一つある。


(エルフは滅多にその国からは出ないと言うし、エルフ以外をその国の中へと入れないとも聞いている)


 ならば、まだ居るはずだ。

 幼少期のネイルを虐めた――糞野郎共が。

 僕は手で口を隠しながらも、その下でニヤリと凄惨な笑みを浮かべると、森国ウルスタンへと想いを馳せてこう告げた。



「さて、どんな末路がお似合いだろうな?」



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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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