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影―015 傲慢の襲撃

 僕の言葉に、茶髪はクハッと笑みを浮かべた。

 その笑い方――その気配の希薄さ。

 たとえ姿形は違えど一目見ればわかるというもの。


「クハハッ、久しいですねギン殿」

「……やっぱりお前か、メフィスト」


 瞬間、その茶髪の姿が歪み、その姿を僕のよく知る『メフィストフェレス』へと変化させる。

 僕は両手をロープのポケットに入れると、メフィストへと睨みをきかせる。


「最初のヒュドラといい、あのオークといい、そして今のコレといい……お前はなんでこう手間暇かけてまで僕にちょっかいをかけたがるんだ?」

「いやですねぇ、あのDランク冒険者を襲っていたヒュドラも、突如として未開地に現れたerror級のオークも、なにも私のせいだとは限らないではないですか」


 それに関わっていないやつが何故そこまで詳しいことを知っているんだろうな。

 僕は「ふぅ」とため息を漏らすと――



「まずは、その手を出して頂けませんか?」



 メフィストは僕の両手を指さしてそう言った。

 僕はその言葉に眉をピクリと反応させてやると、それを見たメフィストはすべて知ってるとばかりに笑みを浮かべた。


「今の貴方の戦い方は『後衛』でしょう? 圧倒的破壊力と密度の弾幕をはり、それをなんとか切り抜けてきた相手を――ソレでズドンです」


 僕はため息混じりに左手をポケットから取り出す。

 その手の周りには銀色の魔力が漂っており、メフィストはそれを見て「ヒュゥ」と口笛を鳴らす。


「全くとんでもない怪物に育ったものですね。後衛として今や並ぶ者が居ないほどの高みに居るくせに、その上で近接戦闘も完璧にこなす――文字通り死角のない怪物だ。一体どうやったら勝てるんですか?」

「世界の時間を止めるか、僕の弾幕すべてを相殺できる前衛がいれば勝てるんじゃないか?」


 僕はメフィストの言葉に興味なさげにそう返すと、その手を軽く振ってその神剣を顕現させる。

 漆黒色の柄に白銀色に輝くその刀身。

 刀身には見たこともない文字が綴られており、その神剣からは銀色のオーラが立ち込めている。

 ――神剣、シルズオーバー。

 僕はその切っ先をメフィストへと向ける。


「んで? わざわざ僕の平和を邪魔する羽虫を僕が生かしておくとでも思っていたのか?」

「羽虫とは……、貴方も言うようになりましたね? ――ぶち殺してほしいのですか?」


 瞬間、僕らの間にピンと張り詰めた緊張感が漂い始め、魔力も威圧感も、何も感じられない『裏』での攻防がはじまる。

 そして――


「……はぁ、今回は別に争いに来た訳では無いんですよ」


 その言葉と同時にその緊張感は霧散してしまい、その一気に緩んだ空気に僕はその切っ先を下げた。

 けれどもメフィストの事は基本的には信用しちゃいけない。してもいいのは明らかに悪意の欠片も窺えない時だけだ。

 僕は神剣を銀色の魔力に戻してポケットに手を突っ込むと、黙ってその話の先を促した。

 のだが――



「実はですね! 私の貴方がたへの仕返し、まだ終わってないんです……って危なっ!?」



 ――おっと。手が滑った。

 僕は気がつけば神剣シルズオーバーで切りかかってしまっており、その神剣からはダークレッドと銀色を混ぜたようなオーラが吹き出していた。

 にしても酷い偶然もあったものだな。はっはっは。


「いやー、すまんすまん。手が滑っちゃって」

「そ、それ、脚を銀炎で強化してる人のセリフじゃ……っと、なんでもありませんよ。だからそのオーラとりあえず消して貰えませんかね?」


 メフィストはそのウルの力が付与された魔力を指さしてそう言うと、僕は呆れたようにため息を吐いて証拠隠滅とばかりに両足の銀炎とシルズオーバーを消した。

 今の攻防でわかった。やっぱりこいつ、今は僕と争う気がないようだ、と。

 僕はたまたま近くにあった椅子を引いて腰掛けると、メフィストへと視線を向ける。


「んで? まだ仕返し終わってないってどういうこと? そもそも僕は仕返しされるようなことしたっけ?」

「……まさか、覚えてないとでも?」

「いや、多すぎてどれだか分からない」

「私の知らないところでどれだけ悪口言ってるんですかね!?」


 メフィストは僕の言葉にそう叫ぶ。

 見ればなんだか目尻に涙が溜まっているようで、彼はそれを拭うとグスッと鼻を鳴らした。


「お前……こんなので泣くキャラだったか?」

「……い、いえ。おたくのエロース様と全能神様、神王様にこちらの混沌(カオス)から……、いえ、何でもないです」


 僕はそれを見て内心こう思った。

 ――コイツも苦労してるんだなぁ、と。

 ついでにあれだ。なんだか混沌とは気が合いそうな気がする。って言っても生みの親殺されてるわけなんだがな。

 僕は内心でそう呟いて背もたれへと体重をかけると――


 ドガァァァァァァァァッンッッ!!


 突如として、爆発音が響き渡った。


「んなぁっ!? ……っとととっ!」


 ガタンっ!

 僕は思わず身体をビクッとさせてしまい、体重を掛けすぎたのか椅子ごと後ろに倒れてしまう。


「痛っつー……」

「だ、大丈……ぷっ、大丈夫……ぶふっ……ですかっ?」


 メフィストが口を片手で隠しながらもそう手を伸ばしてきたため、僕はそれを無視して立ち上がる。

 僕はパンパンと埃を払いながらため息を吐くと、先ほどの巨大な爆発音を思い出す。


「にしても今の音なんだっ……」


 ――仕返し、まだ終わってないんです。

 ふと、頭の中に先ほどの声が響き渡る。

 僕はガバッとメフィストへと視線を向けると、いつの間にか彼は壁際まで移動しており、こちらへと満面の笑みで手を振った。


「いやはや、読者からしたらerror級といえど、オーク如きでは些か不満というか力不足感が否めないと言いますか」

「おいちょっと待て、読者ってなんだ?」

「いやだなぁ、私とロキさん、あと全能神様に決まってるじゃないですかー」


 どうしよう、そいつら全員ぶん殴りたい。

 ちなみにゼウスだけは軽く拳骨だけで、あとの二人には『正義の鉄拳(シルバーブロー)』だ。容赦はしない。

 僕の不穏な空気を察したのか、メフィストは焦ったように冷や汗を流すと、その壁の中へと入ってゆく。


「ま、まぁ、今回はあくまでも私は手助けをしただけですよ。最近悪魔内でも人気が下がり出したあのクソ悪魔が、なんとか人気を取り戻したいと焦りだし、私がそこへ『昔取り逃がしたネズミでも討伐したらどうですか? ちょうど力をつけて厄介になってきていたので』と言った迄です」

「結局原因お前じゃねぇか!」


 僕は思わずそう叫ぶと、彼は焦ったように壁の中へと消えてゆく。

 全く、壁の中に入り込むとは厄介な能力だ……。

 僕は内心でそう呟いてため息を漏らすと、それと同時に先程眠らせたメイドの女性が「ううっ……」と声を漏らす。


(そろそろ潮時か……)


 僕はそう考えると、街の時計塔の屋根。そのレンガの一枚と位置変換を行った。

 一瞬にして僕の視界は薄暗い部屋から青い町並みへと変化しており、僕は先ほどの爆発音の在り処をさがして――



「見つけたぞッ! この蚊虫めが!」



 瞬間、聞き覚えのある言葉と同時に僕へと巨大な火の玉が落ちてくる。

 僕はため息一つで片手を上げる。


「『無壊の盾(オーバーシェル)』」


 瞬間、僕の手のひらから無数の六角形が飛び出し、何重にも重なり合って黒色透明な円の一部を作り出す。

 ドガァァァァァァァッ!

 火の玉と衝突した『無壊の盾』はパリィンとその一番外殻に位置する第一層のみ割れてしまったが、二層目にダメージが入るよりも先に炎の玉が爆発した。

 結果、僕無傷。向こうは心に大ダメージ。

 僕は上空へと視線を向ける。

 そこにはギリギリと歯ぎしりをすふ一人の男の姿があった。


「き、貴様ァァァァッ! 蚊虫の分際で我が一撃を受け止めるとは何様だッ!?」

「なーに馬鹿な貴族みたいなこと言ってんの? って言うか何様って今言ってたじゃん。蚊虫に攻撃止められた馬の骨」

「貴様ァァァァァァァァァァ!!!」


 こいつのボキャブラリーには『貴様ァァァ!』しか相手を呼ぶ言葉がないのだろうか? あと『蚊虫』か。

 僕はため息をついて右前方へと視線を向ける。

 そこには跡形もなく破壊されたこの街の防壁があり、先ほどの爆発音、先ほどのメフィストの言葉、先ほどの火球。だいたい話は読めてきた。


 僕は再び視線を上げる。

 そこに居たのは、全身に白い衣服を纏った一人の男。

 以前見た時よりも伸びたのか、ポニーテールにしているその赤い髪に、その背中からは二対の漆黒の翼が生えている。


「なるほど……コイツなら悪魔内でも人気が落ちそうだ」


 僕はそう呟いてスっと目を細めるとその大悪魔様へと向かってこう告げた。



「要らない国とはいえど僕の滞在国を破壊しやがって……。覚悟はできてるんだろうな? ルシファー(・・・・・)



 そこに居たのはかつて僕よりも遥か格上だった、大悪魔ルシファーであった。

さて、この章のラスボスの登場です。

ルシファーさんは序列五位ですからね、これは期待できるのでは……?

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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