影―012 予選
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『silver soul online~もう一つの物語~』が連載を開始しました!
一応ギンが主人公ってことで3回連続で宣伝しました、宜しければご一読お願いします。
その後、オークデァ・トートの死体をアイテムボックスへと入れた僕は、その足で港国へと戻ることにした。
正確には再びワープホールを開いたため『その足』というより『その眼』という方が正しいのだが、それはともかくとして。
僕は予想以上に早く帰ってきたことに驚きを見せた暁穂たちへとことの顛末を伝えたわけなのだが――
「「「それ、食べれるんですか(かしら)?」」」
暁穂、ネイル、ミリーから全く同じことを言われた。
いや、確かに調子に乗って『これは神の毒だ』的な事言ったけど、実際は僕の魔力だからね? 普通に解除したら無毒だからね?
ちなみにだが、それを教えて納得してくれるまでに数時間がかかった――全く失敬な奴らだ。
というわけで、僕の仕事は終わり、残りを暁穂たちへと一任してから数日が経った。
そして――今日。
ドンッ、ドンッ、ドンッ。
昼の空に無色の花火が数発上がり、それと同時に周囲の店が慌ただしく動き始める。
「準備はいいか?」
「はいマスター。ストックも沢山ありますよ」
僕の声にそう返したのは、鉢巻をまいた暁穂。
彼女の服装はメイド服からネイルがデザインした専用の料理服へと変わっており、それは一緒に店を経営する僕も同じこと。
もう既に五百個以上のハンバーガーをアイテムボックスへと保存してあるし、それ以外の準備も完璧と言っていいほどに揃っている。
なればこそ、後は売るのみ。
『そっれでは今年度の料理大会! 予選開始でぇっす!』
そんな声とともに、僕らの料理大会――その予選が開始した。
☆☆☆
今回の予選の作戦はこうだ。
まずハンバーガーを作るのは僕と暁穂。一番料理のスキルレベルが高いであろう暁穂をシェフとし、僕がそのアシスタントとしてつく形だ。まぁベストだろう。
次に客寄せ。
これに関してはネイルとソフィア、ミリー、そして恭香にお願いした。
ネイルに関しては大丈夫だろう、僕も彼女とはなんだかんだで長い付き合いだ。きちんと仕事をしてくれることは分かっている。
ソフィアはお色気&護衛要因だ。彼女の轡を握るのは難しいが、それでも『褐色女騎士』というのは魅力的だ。それに、三年間一緒にいたネイルやミリーが一緒ならば暴走もしないだろう。まぁ、僕からもしっかりと言い含めておいたけど。
また、ネイルとミリーは僕らやソフィアと違って体力がない。だからこそ交代交代で客寄せをお願いすることにした。
そして最後に――
「……いらっしゃいませーっ」
初めて聞いたよ恭香のあんな猫なで声。
その声に引き寄せられて髭を生やしたおじさん達が大勢集まって来る。
そう、恭香には『ロリコンホイホイ』の役目を担ってもらうことにしたのだ!
正直白夜では元気すぎるし、お客様に無礼を働いてしまうかもしれない。
その面恭香に関していえば全く問題皆無だろう。三年前にあれだけの仕事量をこなし、その上多種多様な人との対談をもこなした彼女だ。そうそう本音をボロ……ごほん。失礼な態度は取らないだろう。
「……にしても、流石はマスターの街ですね。ここまでロリ……恭香さん一人におびき寄せられてくるとは」
「おい、今『ここまでロリコンが多いとは……』とか言おうとしなかったか? 後ここはそのマスターとやらの街じゃないからな?」
「いえいえ、気のせいですよ。マスター」
暁穂は僕の言葉をはぐらかすと、やっと客が集まってきたのを見て鉄板に熱を加え始める。
それを見た僕は台の裏から取り出しているかのように見せかけながらもアイテムボックスから、日本にもあった某店の包み紙のようなもので包まれたハンバーグをいくつか取り出して並べる。
「それではマスター、行きますよ?」
「おう、いったれいったれ!」
暁穂は僕の合図に笑を浮かべると、オークデァ・トート五割、通常オーク五割のあら引きハンバーグを鉄板に乗せる。
ジュワァァァァァッ。
瞬間、鉄板とハンバーグの隙間から水蒸気が溢れ出し、それに乗って暴力的なまでの香りが周囲に拡散される。
「「「――ッッ!?」」」
それには周囲で行こうか行くまいか悩んでいた客たちも思わずと目を見開き、こちらに目もくれずに歩いていた人達はビクンと体を硬直させて立ち止まる。
その予想通りの反応を見た僕はニヤリと笑みを浮かべ、恭香たち呼び込みの面々へと視線を交差させる。
そして――
「「「いらっしゃいませ!『影の神腕亭』のハンバーガーはいかがですかーっ!」」」
――さぁ、僕は行動を開始したぞ。
この名前に秘められたそんなメッセージは、果たしてあの馬鹿どもに届くだろうか?
☆☆☆
「はっ、ハンバーガー二つ下さいっ!」
「はーい、千Gになります」
「ベル〜、ハンバーガー三つ追加ねー」
「……それいう意味あるか?」
僕――ギン改めてベルは、客を捌きながらも恭香のそんな声にそう問い返した。
そんな三つ追加と言われてもアイテムボックスには腐るほど――実際には腐らないけど――ある訳だし、恭香もノリで言っているだけだろう。
僕の名前については単に『ギン』という名前を口にしたらイヤでも狂徒らがやってくるため、ギン=クラッシュ『ベル』からベルをとったわけだ。
まぁ、その他にも『ギル』やら『シル』やら、僕の偽名は色々とあるわけだが、今回はなんとなく『ベル』を使ってみた。出合い系ダンジョン風味だ。
「マスター、新しく四つ出来ました」
「おう、了解」
僕は暁穂が作ったハンバーガーを包装紙に包むと、保温効果のある魔導具の板の上に乗せてゆく。
そしてそれを見てゴクリと喉を鳴らす行列。
みればもう噂が広まりつつあるのかとんでもない行列が出店の前には並んでおり、周囲の店は『なんであんな安っぽい移動式の店が人気なんだ……?』と首を傾げている。
それもそうだろう。なにせ今使ってるこの店はどこにでもある馬車の壁に穴を開けて台を取り付け、その上で『影の神腕亭』との旗を立てただけなのだから。
そりゃあなぜこんな店が人気なのか疑問に思うだろう。
だからこそ人々は注目し、そのハンバーガーなるものを食べた人々を見て興味をそそられる。
「な、なんだこれはっ!? う、美味すぎる!」
「一見肉をパンに挟めただけの手抜き料理かと思えるが、なんだこの見事すぎるバランスはっ!」
「噛んだ瞬間にパンの小麦のいい香りが鼻の奥まで突き刺さり、直後に訪れる圧倒的質感のこの肉!」
「それだけじゃないわ! まるで飲み物が中に詰まっているのではないかと思えるこの肉汁! 絶対食べたら太るのに止められないわ!」
「ほっほっ……ワシくらいの歳になると油っこい肉はくどいのじゃが、そのくどさを感じさせない爽やかな野菜類に、なんといってもこのソースじゃ」
「まるで黄金比! なんてものをなんて値段だ販売してるんだこの店は! 普通に買ったら一万……いや、十万Gでも足りないぞ!?」
ちなみにこの中に影分身は混ざっていない。
今の人たちは皆興味本位で好奇心からハンバーガーを買った人たちであり、そして今やハンバーガーの虜である。
みれば二巡目に突入している人たちもおり、今買ってった男の子なんてハンバーガーを持ったまま列の最後尾に並んでいる。きっと食べながら次の順番を待つのであろう。
「ま、わかってたけどね」
小細工しなくてもこんなことになるだろう、ってことは。
なにせこのハンバーガーの材料は一般人なら一生巡り会うことのないであろうerror級――オークデァ・トートの肉であり、なによりも、その食材を使っているのはあの暁穂なのだ。
これで人気が出ないはずもなく、今もその声に感化された人たちが更なる行列を成そうと動き出している。
と、そんなことを考えていると、目の前には見覚えのある筋肉が現れた。
「ふははははははっ! 先日ぶりだね……ベルと呼ばれていたかな? まぁ何でもいいが食べに来たよ! その『神の料理』とやらをッ!」
この街の料理ギルド、そのギルドマスター、ウミンチー。
水色と白のストライプ柄タンクトップが、ぴちっとその筋肉に張り付いており、彼はニカッと笑ってサムズアップした。その驚嘆に値するほど白い歯が眩しいぜ。
「あぁ、こんちにはウミンチーさん。貴方は一応ギルマスで開催者側なんですからわざわざ並ばなくても言ってくれたら……」
「ノンノン! こういうのはズルして食べるものではないのだよベル君! 開催者だろうと一般客だろうと、実際に列に並んで『売り切れないかな? 自分の分まで残ってるかな?』とドキドキワクワク、時にはイライラする時もあるだろう! だがそうして並んで手にしたものは何物にも変え難い達成感がある! そうだろうベル君!」
「は、はぁ……」
さっすがウミンチー。
人の善意を正論で無効化してくる。相変わらずの暑苦しさだ。
けれどもそろそろウミンチーの背後から『早くしてくれ』との催促の視線がうるさくなってきた。
コホンコホン、数回咳をして空気を変える。
「それではお客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
「ふむ! ハンバーガー、とやらを六つくれるかな? 我がギルドにて執務に励んでいる部下達にも渡してあげたいのでね!」
そう言って彼は優しげに頬を緩める。
僕はそれを見てニカッと定員としてのスマイルを決めてやると、
「畏まりました! 暁穂、取っておきを六つ頼む!」
「はい、了解ですマスター」
味は変わらないとは分かっていても、僕はなんとなく、作りたてのものを渡したくなった。
そろそろ掲示板回入れますか。




