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影―010 予選へ向けて

《宣伝》

『silver soul online~もう一つの物語~』の連載を開始しました!

これは『いずれ最強へと至る道』のアナザーストーリーで、主人公はもちろんギン君です。

この『影編』が終わった直後のお話ですので、お暇な時にでもご一読お願いします。

 ハンバーガー。

 この世界にはパンに肉を載せて食べたりする風習はある。

 けれども意図的に挟んだものを売るような文化はなく、ハンバーガーというのはこの世界で見たことも聞いたこともない。

 それは『理の教本』である恭香も『ない』という意見だったため、メフィストやロキ、エルザクラスがハンバーガーの隠蔽をしているわけもなければ、この世界にハンバーガーが無いのは確実であろう。


 ──だからこそ、好機なのだ。


「三年間は母さんやミコちゃんが料理作ってくれたから大丈夫だったけど、お金があって困ることもないしな。優勝の賞金は全部取られるわけだし……」


 そう、この三年間の修行期間は僕らは完全に修行へと明け暮れ、その代わり母さんの死神ちゃん──改め、ミコちゃんが三食を用意してくれていた。

 まぁ、あのガサツそうなミコちゃんが予想以上に料理できたことに最初は驚いた僕ではあったが、


『馬鹿、料理できる女って方がポイント高ぇだろうが。俺様はそんなプライドが持てるような域は天元突破してんだよ』


 との話を聞いて涙を流した。

 もう、誰かはやく貰ってあげて。

 たぶん人間の範疇に収まる程度ならどんな不細工野郎でもいけるから。ほんと誰か貰ったげて。

 と、僕がそんなことを考えていると、早速試作品ができたのか、暁穂がハンバーガーをさらに乗せて歩いて来た。


「マスター、とりあえず受け取ったオーク肉とアスタさんのバンズ? とかいうもので、言われた通りに作ってみたのですが……」

「おう、ありがとな」


 そう言って僕は彼女から皿を受け取り──そのハンバーガーを見て目を剥いた。

 中には先程買ってきたばかりの瑞々しい野菜が。

 そしてとろけるようなチーズに、いかにも肉汁が詰まっていそうな大きなハンバーグ。


(こ、これを聞いただけで作ったとはな……)


 流石は文字通りの神の料理人。

 存在だけじゃなくその腕前も『神』の域に達しているのであろう。っていうか絶対料理スキルカンストしてるよな、コイツ。

 僕は内心でそう呟き──


「う、美味そうなのじゃあ……じゅるっ」


 至近距離から聞こえてきたその声に、思わずピクリとも身体を震わせた。

 気がつけば僕の両肩には小さな手が置かれており、僕の耳元からは「はぁ、はぁ」と声が聞こえてくる。

 僕の耳をその銀色の髪がくすぐり、僕は頭を彼女の顔から遠ざけながら口を開いた。


「お前なぁ……、前から言ってるけどこんなことに能力使うなよ。素の僕でも分からないとか絶対時間止めてるだろ」

「こんなこととは何じゃ! 妾にとっては一に主様、二に主様、三四が無くて五が食べ物なのじゃ! 主様とはいえど食べ物をこんなこと扱いは許さんのじゃ!」


 そう言って彼女はその手を首へと移動させると、ぎゅっと抱きつくように軽く首を絞めてきた。

 正直『僕の方が上じゃないか』と言いたいところだが、食べ物に目が眩んだ白夜には何を言っても無駄だろう。

 僕はパンパンと彼女の腕を叩く。


「はいはい、降参降参。見事僕に勝利した白夜にはこのハンバーガーを贈呈しよう〜」

「なぬっ!?」


 次の瞬間には白夜は僕の膝の上に座っており、いつの間にか僕の手にあった皿は彼女の太ももの上に乗っかっていた。


「ぬほぉぉぉ! 流石は主様が教えて暁穂が作った料理なのじゃっ! 見るだけでわかるこの旨さ! わざわざ時間停止まで使って強奪した甲斐が有るというものじゃ!」


 もうアレだな。本当に白夜には何を言っても無駄だな。

 僕はそう確信すると、恭香へと視線を向けた。


「恭香、とりあえず予選じゃどれ位量が必要なんだ?」

「うーん……、私たちの場合食材を自給してるからあんまり値段は高く設定しないで、今は五百Gって仮定するよ。人気店って言ってもあんまり大きいお店──それこそ日本でいうラーメン店程度の広さが殆どだから、一日の売上が多いところでも五十万G。二日間だと百万Gくらいかな」


 百万G。日本円でそのまま百万円。

 ハンバーガーにして二千個くらいだろう。

 日本にいた頃の僕ならばたいそう驚き焦ったことだろうが、ただまぁ、今の僕は、

『ぐへへへへっ、それじゃあ約束の三億G! 今すぐに出してもらおうかぁ! ぐへっ、出せるわけがね……』

『ん? あぁ、はい、三億G』

『……はい?』

 というようなことも出来るレベルで金がある。それこそ一生遊んで暮らせるレベルで。


「まぁ、それも白夜たちのせいでどうなるか分からないんだけどねぇ……」

「そうなんだよなぁ」


 僕は恭香のその声を肯定して膝の上に座っている彼女へと視線を向ける。

 白夜は丁度ハンバーガーをかじろうとしていたところらしく、不思議そうな顔で僕のことを見上げてきた。


「ふむ? 何か用かの?」

「いやいや、何でもないよ」


 お前のせいで食費がとんでもない事になって一度は赤字になりかけたんだぞ? ハンバーガー食ってる暇あったら自分で食費稼いでこいこのタダ飯喰らいが!

 ──などと言えるはずもない。

 まぁ、三年前なら言ってたかもしれないが、今の僕は違う。

 どうせ金はあるんだし、稼ごうとでも思えば短期間だけ執行機関を元のあの場所へと戻せばいい。

 それに──


(まぁ、僕は白夜の悲しんでる顔よりも笑ってる顔の方が好きだしな)


 瞬間、げしっと蹴られる僕のスネ。

 気がつけば恭香がぷくぅと頬を膨らませてそっぽを向いており、それを見た僕は苦笑して頭を撫でてやる。


「まぁ、恭香も難しい年頃だもんな」

「……知らないっ」


 あら可愛い。

 僕は頬から耳にかけて真っ赤にしている恭香を見て頬を緩めると、それと同時に身体中にジトっとした視線が突き刺さった。


「……マスター、正直そろそろ私とも付き合ってくださってもいいんじゃないですか?」

「……いいですねぇ、リア充って」

「くぅっっ、私なんて一回も頭撫でてもらったことないのにっ!?」

「くっ……余の輪廻計画はまだまだということかッ!」

「ふ、ふん……、私はアレよ。別に貴方のこと好きでもなんでもないけれど、ただ他人の目の前でイチャつくのは褒められたものではないわよ?」


 そちらへと向けば暁穂とネイルが光の消えた瞳でこちらの方を眺めており、エロースは悔しげに歯を食いしばり、ソフィア……はもうどうでもいいとして、ミリーは絶賛ツンデレ中である。

 特にネイル、その調子だとクリスマスに何処かの聖獣にまた飲み込まれるぞ。またあの悲しいクリスマスソングを歌うハメになってしまうぞ。


 閑話休題。


 僕は膝の上の白夜の両脇に手を入れて地面へと下ろすと、よっこいしょと立ち上がる。


「ま、とりあえず暁穂はハンバーガーの改良、ネイルとミリーはそれの手伝い、それ以外で予備のオーク肉狩ってくるか」

「「「「無視……」」」」


 はい無視ですとも。

 僕は内心でそう言ってうんうんと頷くと、それと同時にちょんちょんと、裾を引っ張られるような感覚を覚えた。

 そちらへと視線を向けると、ハンバーガーをむしゃむしゃとしている白夜がこちらを見上げていた。


「ふぁふりあは、ぶぁらわあばんばー……」

「ちょっと何言ってるかわからない」


 が、全く何言ってるかわからない。

 僕は白夜の手からハンバーガーを取り上げると、それを見た白夜は急いで口の中のものを飲み込んだ。


「あ、主様! 妾はハンバーガー作りを手伝いたいのじゃ! じゃからハンバーガーを取り上げるのはダメなのじゃっ!」


 彼女そう言って、ぴょんぴょんと僕の手のハンバーガーを取り返そうとしてくる。

 僕は素直に彼女へとハンバーガーを明け渡すと、彼女は満面の笑みでそれに齧り付く。なんて単純なやつだ。

 僕はため息混じりに彼女から視線を外すと、恭香とエロース、ソフィアへと視線を向ける。



「それじゃ、僕らでオーク肉狩りに行こうか」

「「「おー!」」」



 という訳で、僕、恭香、エロース、ソフィアと、珍しい組み合わせでオークを狩りに行くこととなった。




 ☆☆☆




「……おい、なんだこいつ」


 僕は、目の前の巨体を見上げてそう呟いた。

 場所は未開地。

 月光眼で空間を繋ぎ、擬似的なワープホールを作り出した僕はメンバーを連れて未開地へと訪れたのだが、待っていたのは予想だにしない怪物だった。


 ドスゥゥゥン、ドスゥゥゥン。


 奴はこちらの存在に気がついたのか、その巨体を揺らしてこちらへ歩み寄ってくる。

 一歩、一歩。

 歩く度に地が揺れ、それを見あげていた恭香が引き攣ったような笑みを漏らした。


「いやぁ……、これは自然発生とか、有り得ないでしょ。絶対意図的に生み出されたか、もしくは召喚されたか……」


 そう、こんな怪物自然に生まるわけがないのだ。

 生まれるとしても百年、千年、一万年……いや、それ以上の年月を経て、それでも生まれる可能性は一割にも満たない。

 それに加え、ただのオークがそこまでの年月を生き続けられる訳もなく、あるとすれば僕のように順調に進化し続け、寿命を伸ばし続けてきた可能性くらいだろうが──そんなことが有り得たらきっとこの大陸はとうの昔に滅んでいる。


「っていうか、こいつ一体だけでもやばいんじゃないのか?」


 僕がそう呟くと同時。


『BUOOOOOOOOOOOOOOOO!』


 奴の咆哮が轟き、それだけで周囲の木々がへし折れてゆく。

 そこに居たのは、二足歩行の豚──オークだった。

 けれどもその全長は優に三十メートルを超えており、その身体から放たれる威圧感はEXのそれを凌駕している。

 それを見て、恭香はこう呟いた。


「『オークデァ・トート』──死神の名を冠するオーク種の最上位。そのランクは……」



 ──error級。



 何故だろう。

 その時の僕の頭の中には、メフィストの笑い声が響いていた。

次回、VS死神オーク!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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