影―007 料理ギルド
《実話》
映画館にて。
チャラ女「ねぇねぇ、傷〇語だってぇ〜」
チャラ男「なにそれw 俺〇語のパクリw」
ぶん殴りそうになりました。
※数ヶ月前の出来事。
「まずこの街を離れよう」
誰からも反論は上がらなかった。
という訳で、わざわざ港国の王都まで来て何もしないで帰るのか? と思われそうだし、新たに『王都に来て帰るまでの最短時間ランキング』を更新しそうな勢いだが──僕らは帰ることにした。
のだが──
「おやおやこれはこれはっ、先日の激似さんではありませんか。こんなところで会うとは珍しい」
その言葉に、その姿に。きっと僕の顔は不細工なぐらいに歪んだことであろう。
そこ──宿屋の入口にて『待ち構えていた』のは昨日出会ったあの神父であった。
なにが『こんなところで会うとは珍しい』だ、明らかに待ち構えていただろうに。
僕はそんな言葉をなんとか飲み込むと、その神父さんへとにこやかな笑みを浮かべた。
「えーっと、人違いではありませんか? 僕は貴方のことなど知らないというか知りたくもないというか、正直面倒くさいのでそこどかないとマジでぶっ潰すぞ」
「ちょっと。後半本音出てる」
おっといけない。ついつい本音が。
彼は僕の本音を聞いてほっほっと笑うと、気にした風でもなく笑みを浮かべた。
「流石は執行者さ……じゃなかった。その激似様。正直本気を出されれば我らとて相手になりそうにないですな」
その言葉に、僕はピクリと反応した。
──この神父……僕の正体に気づいてるな?
そんな確信にも似た考えを覚えた僕はため息を吐くと、彼はニヤニヤと笑みを浮かべ始めた。
「まぁ、もしもここに本物のあの方が来たとします。名乗り忘れていましたがこれでも結構位の高い神父でしてね。まず間違いなく一目見れば確信できますよ。例え片腕が治り、髪が短くなり、身長が高くなっていようとも、いくら隠蔽していようとも、です」
「……あぁ、そう」
僕はその言葉に疲れたようにそう返す。
なんとなく分かった。
とりあえずこの神父が僕の正体に気がついているのは間違いないことであり、きっと、この神父はそれを交渉代になにか僕へとさせようとしているのではないか。そんな気がしてならない。
僕は神父へと視線を向ける。
すると彼は何を思ったか、唐突に見え透いた演技をし始めた。
「あぁ、最近我らが教団は財政危機に陥ってしまいました! その理由は単純明快、アダマンタイト製の『執行者像』を建てたため! どこか、どこかにこの街で開催される料理大会に出場し、その賞金を何割か分けてくれるような心優しい執行者様はいないものですかなぁ!」
「自業自得……」
ポツリと呟かれたミリーの言葉を無視したその神父は、チラリチラリとこちらへと視線をよこす。
その瞳が雄弁に語る──その大会に出て賞金の何割かを自分たちの教団に寄付していただきたい。どうせ勝てるのでしょう? と。
僕はそのわかり易すぎる芝居にため息を吐くと、
「三割だ。それだけやる代わりに、この街でもう厄介なことに巻き込まれないようにしてくれ」
「おお、もちろんですとも!」
彼はそう言って、満面の笑みを浮かべた。
☆☆☆
その後、イエスギン教のネックレスを貰い、一応これで迷惑な行為は受けないとの確約を付けたところで、僕は神父について、この街にある『料理ギルド』へと向かっていた。
──料理ギルド。
未だSSランクで止まっていることでお馴染み『冒険者ギルド』や、なんだかんだで行っていない『商業ギルド』に、三年前に潰した『盗賊ギルド』。
知名度でいえばそれらよりも劣るが、それでも確かな実績を残している店がこの料理ギルドなのである。
「まぁ、この世界でいう三ツ星レストランとか、王侯貴族すら食べに来るレベルの料亭はほとんどが料理ギルドに登録してるしね。他にも料理を作って売る場合も、地域によっては料理ギルドに登録してないと違法とみなされるし」
まぁ、その後者に関しては執行機関でバリバリ喫茶店というかレストランを経営していたのだが、あそこは街ではなく僕の私有地で、その上店があったのは執行機関の内側だ。
まぁ、料理ギルドもさぞかし手を出したかったところであろう。あれほど繁盛が目に見えてるレストランというのも珍しいからな。
ちなみにだが、あのレストランは今も執行機関のホームの中に存在している。コックである暁穂がいなかった上に客がいなかったため売上ゼロだが。
閑話休題。
「この国の王都──つまりはこの街における料理大会というものは本来有名なものでしてね。大陸中から腕自慢の料理人たちが集い、それに伴って大陸中からこれを目当てに様々な人たちが押し寄せてきます」
「あぁ、どうりでこんなクソみたいな街にこれだけ一般人がいる訳だ」
「……この街の結構なお偉いさんを前に……、流石としか言いようがありませんね」
神父は僕の嘘偽りのない言葉にそう肩を落とすと、それと同時に立ち止まった。
どうやらちょうど目的地に到着したらしく、左手に見える建物へと視線を向ければ、そこにはナイフとフォークが✕のように交差し、その上に魚の乗っている看板が掲げられており、それは人目で『料理ギルド』なのだろうと分かる外見になっていた。
彼はその建物へと視線を向けている僕らへと振り返って視線を向ける。
「まぁ、あとの説明は料理ギルドに登録していただき、その後料理大会に出場すると言ってくだされば解決しますので」
そう言って神父は一礼し──
「そう言えば、そこまで昔と変わっているのです。初めからそうじゃないかと疑っている人でなければそうだとは思いもしませんよ。だからその……、隠蔽は完全な無駄ですね」
「早く言えよ!?」
最後の最後で、僕へと結構大事な爆弾を落として行った。
☆☆☆
「……ほんとにバレないぞ」
「ホントだねぇ……」
結果、全くと言っていいほどバレなかった。
実際に前に会ったDランク冒険者や件の神父には一目でバレたのだが、前者は僕が調子に乗って『神蝕』まで使ったせい。後者は完全なイレギュラーである。
その証拠に、今すれ違った神父の集団も誰一人として僕には見向きもしておらず、最低限、連れの面々だけ多少の隠蔽をしておけばよく、僕に関しては全くの無問題のようだ。
「はぁ……、これまでどれだけ気を割いていたか」
そう考えるとものすごく精神的に疲れてくるが、とりあえず今は料理ギルドに登録、後にその料理大会とやらの出場登録まで済ませてしまった方がいいだろう。
僕はため息を漏らしながらもその料理ギルドの扉を開き、中へと足を踏み入れ──瞬間、押し寄せてくるその熱気。
「うおっ」
僕は思わず声を上げ、周囲を見渡した。
すると、あちらこちらで料理が行われており、この熱気はその熱からくるものなのだろうと簡単に納得できた。
けれど、それとこの現状が繋がるわけでもなく──
「……なんでこんな所で料理してるんだ?」
「それはもちろん! 料理大会に出場を申し込んできた人たちのっ、その軽い選別さ!」
突如としてそんな声がかけられる。
僕はいきなりのハイテンションに眉を顰めてそちらへと視線を向けると、いかにも『海の男』と言った感じのゴリマッチョが立っていた。
「僕の名前はウミンチー! この港国王都の料理ギルド、そのギルドマスターさ! 宜しくっ、名も知らぬ青年よ!」
「あぁ……、はい」
何故だろう。
ここまでハイテンションで来られると逆に落ち着くというか、なんというかテンションが下がる。
僕はいきなり握手をせがんできたウミンチーへと左手で握手し返すと、彼は握った僕の左手をブンブンと上下に振った。
どうやら彼は『普通』なようで、あのコスプレ凶信者のような馬鹿げたステータスは持ち得ていなかった。
僕はその事実に内心でほっとすると、早速その本題へと入らせてもらうことにした。
「選別は分かったんですけど、僕達も一応料理大会に出場したくてきたんですが、まずギルドに登録よろしいですか?」
「おっと! 君たちもその口かい? もちろんいいともさ! ふははははっ!」
そう言って彼は踵を返して歩き出す。
僕は全く何も言われないままに歩き出した彼に困惑しながらも、一応その後に付いていくことにした。
すると、その選択は正解だったようで──
「それじゃあ一応大会の説明からするね! 大会に出場出来るかどうかは今までの実績と僕の観察眼! そして微妙な人はここで料理を作ってもらって判断するよ! 君たちの中でなら──そうだね! 君とそこの獣耳美人さん! 君たち二人はいい感じだね!」
そう言って彼が指さしたのは、もちろん僕と暁穂。
ちなみに彼は白夜とエロースへと視線を向けて数秒固まっていたのだが、そこら辺はまぁ、流石としか言いようがない。よくぞひと目で見抜いた。
僕がその言葉に無言を貫き通すと、彼はニカッと笑って話を続けた。
「いいねいいね、その無駄にアピールしない冷静な感じ! 寡黙な料理人っていうのはいいものさ! って訳で、そこの竜人ちゃんと浮いてる子さえ出さなければ君たちは出場を許可するよ! で、はいこれっ、説明書っ」
「浮いてる子!? 何その凄い言い方!?」
「おい、待つのじゃゴリマッチョ。まさかその竜人というのは妾のことではあるま……」
「ちょーっとエロースと白夜は黙ろうねぇ〜」
恭香がエロースと白夜の手を引っ張ってどこかへと歩いてゆき、それを見送った僕はウミンチーへと視線を向けてこう言った。
「まぁ、あの二人には絶対料理を手伝わせないから安心してくれ」と。




