第32話 過去編
過去編です。
ジリリリリリリッッ!!
僕の相棒が僕を起こしたのは、カーテンの隙間から朝日が漏れ始めた頃であった。
「くっ、ふあぁぁぁっ。朝早すぎだろっ、何でこんなに早く目覚ましかけちゃったんだ?」
寝ぼけ眼で時計を見るが、やはりいつもよりは2時間も早い時刻を指していた。全くもって意味がわからん。
必死になって昨日の僕のことを思い出すが...
「あ、そういや、今日は相談の日だったか?」
そう、相談の日だ。もしかしたらそれが関係して朝早くに起きたのかもしれない。僕はそう結論づけると朝食を食べて学校に行ってみることにした。
ここで僕について話しておこう。
両親はもう既に他界している。
あれは数年前だったか? 家に帰ると叔父さんと叔母さんがいて、両親が交通事故にあったと知らせてくれた。急いで病院へ向かったはいいものの、僕が到着する数分前に息を引き取ったと言うらしい。あの時は流石に泣いたっけなぁ...
今現在僕は、日本で1番大きな都道府県のとある大学へと通っていた。一人暮らしだ。学費などは叔父さんと叔母さんが払ってくれてはいるが、それでも申し訳ないのでアルバイトをしながらも学校に通っている。お金を出してくれている2人には感謝してもし足りないな。
先程言った"相談"とは、その事だった。
僕は昔から人の心を読む、というか、感情を理解することに長けていた。まぁ、それだけで友達ができる、なんてわけでもなかったのだが。
僕は今現在、大学内でのカウンセリングを受け持っている。学生に何やらせてんだ、という感じでもあるが、それでも時給が高いのでやらせてもらっている。
今日は確か、同じ学科の女の子の相談を受ける約束だったかな......何でこういう機会はあるのに彼女が出来ないのでしょうか? リア充爆発しろ。
大学までは僕は自転車で登校している。
まぁ、10キロくらい、自転車で充分だろう。
大学の敷地内に設置されてある駐輪場に自転車を停めると、僕はいつもの要領で1F職員室から鍵を借り出して、そのまま同じ階の相談室へと向かうのだった。
☆☆☆
「ふむふむ、なるほど、そういう事ね」
「あ、あのっ、どうにかなりませんかっ?」
彼女の名前は堂島 紗由理。僕と同じ19歳らしい。
彼女の相談を一言で言うならば、
『友達が最近変なんです、聞いても、「何でもない」としか答えてくれなくて...どうしたらいいですか?』
という事らしい。
それならマジな病院にでも連れて行ってくれ、と言いたいところなのだが、それでも僕はそういう相談を何度も受けて、その度に解決して来てしまったのだから、きっと断れまい。
はぁ、僕も面倒な仕事引き受けちゃったのかねぇ...。
ちなみにその友達の名は 鮫島 美月と言うらしい
☆☆☆
そんなこんなで放課後に僕は彼女の友人宅へと向かうことになった。
僕は今現在、食堂で昼食を食べていた。
「はぁ、憂鬱だ...」
なぜ僕が赤の他人の家にお邪魔せねばならないのか、本当に意味が分からない。学校に来い、学校に。
いつも通りうどんを啜っていると、向かいに座っている人物が苦笑いしながら話しかけてきた。
「は、ははは、銀も大変だねぇ...」
僕を『銀』と呼んだのは僕の数少ない友人の、それまた数少ない女子に当たるところの、桜町 穂花、である。
彼女は茶髪がかったボブカットで、身長はたしか、152cmとか言った気もする。僕っ子である。ちなみに19歳。
「はぁ、毎度思うんだが、お前も可愛いんだし彼氏でも作ったら? 僕みたいなのと一緒にいても面白くないぞ?」
そう、彼女は完全なる幼女体型なのを除けばかなりの美人さんなのだ。まぁ、どちらかと言うと『可愛い』の部類に入るんだろうが。
「むー、僕はねっ、君といるのが楽しいからここにいるんだよっ! あんまりそういうことを言うのはいただけないなっ!」
「はっはー、随分と嬉しいことを言ってくれるじゃないか、何?お前、俺のこと好きなの? いや、好きなんだろ?」
「さぁてどうだろうねぇ? 告白でもしてきたら教えてあげるよ?」
「ふん、誰がお前みたいな幼児体型......」
「......」
ん?幼児体型......なんだか引っかかるな...
...まぁ、気のせいかな?
「ま、好きならさっさと告白しろよ、このロリっ子が」
「ふんっ! 僕はロリっ子じゃないもーん!」
そんな軽口をたたきながらも僕たちは笑い合うのだった。
それが、僕らの最後の笑みになるとも知らずに。
☆☆☆
放課後、僕は堂島さんに教えてもらった場所へと向かうことになった。そこはどうやらボロアパートのようで、地図には『3号室』とだけ書かれていた。
「うーん、なんだか帰りたくなってきた」
まぁ、そんなこと許されないんだが。
しぶしぶ僕は1Fの3号室へと向かうのだった。
ピンポーン
部屋の前にあったインターフォンを鳴らす。
頼むっ出ないでくれっ!
そんな願いも虚しく、ガチャッと扉が開いた音がした。
......え? 開いた音がしただけなんですけど。
『どちらさま?』とかそういうの無いんですか?
「うーん、きっと堂島さんに聞いてたんだろうな」
僕は明らかにおかしなその様子をそう結論づけると、恐る恐るその部屋の中に入って行った。
きっと、この時の僕が、『何かおかしい』と気づいていればこの先の結果は変わったのだろう。
「お邪魔しまー......って暗くないですか!?」
もう夕方にもかかわらず、全ての部屋のカーテンを閉めているのだろうか。その玄関から先は、言葉通り『一寸先は闇』の状態だった。電気くらいつけて欲しいものだ。
「あのぉ、堂島さんに呼ばれて来たものなんですが...」
何時まで待っても返事はなく、僕はなんだか嫌な予感がしてきた。これ、やばいんじゃないか?
僕は警戒をしながらもゆっくりと玄関から家の中へと上がる。床にもボロが来ているのか歩く度にギシギシと音がした。それはまるで、獲物が近づいていることを知らせるかのように。
まずは入ってすぐの所にあるトイレから調べることにした。一応入っていたら困るし、ノックだけはしておいたのだが、中には人は居ないようだった。
「うーん、いるわけないか...」
僕はうち開きのドアを閉めながらもそう呟いた
トイレに居ないなら後は居間だけだろう。
なんだかとても不気味だが、きっとそれは気の病なのだろう。
僕はそう結論づけると居間へと向かった
のはいいのだが...
バチバチッ
あれ、なんだか今、光が...
「ぐぅっ!」
突如首筋に襲ってきた痛みに思わず呻く。
ま、まさかっ、スタンガンか!?
僕は後ろを振り向こうとするが、それでも身体に力が入ることも無く。だんだんと意識が遠のいてゆく。その途切れかけの意識の中、最後に見たものとは...
(お、叔父さん...?)
自分の叔父の姿だった。
☆☆☆
「うっ、ここは...」
身体中に痛みを感じながらも僕は意識を覚醒させる。
た、たしか僕はスタンガンで......
「ふん、ようやく目が覚めたか、グズめ」
僕はようやく今の状態に気がついた。
両手は手錠のようなものでしっかりと拘束されており、どこか、ベットのような場所で横になっているようだった。
どうやら横の方にもう1人繋がれているようだった。恐らくこの人が、鮫島 美月さんなのだろう。
そして、
「なんで......なんで叔父さんが...」
目の前には、僕が大好きだった叔父さんが、見たこともないような顔をして立っていたのだった。
「はっ? なんで、だと? 笑わせるなよ小僧」
いつも僕のことを『銀』と呼んでくれる叔父さんは、もうそこには居なかった。
「決まっているだろう、お前が邪魔だからだよ」
その男は話し始めた。
「お前の両親。つまりは兄貴と義姉のことから話してやる。アイツらのことは昔から気に入らなかった。俺の様に挫折などせずに生きてやがった兄貴をっ、そしてそんな兄貴と結婚しやがった義姉を。俺はっ、殺したい程に憎んでいたっ!」
何故そこまでの憎しみを抱いたのか、
この男の過去に何があったのかは知らない。
正直、興味もない。
僕はただ、コイツの話を聞いていた。
「そこで、俺は思いついたんだっ! コイツらだって殺してやれば俺の役に立つんじゃねぇかってなぁ!」
「──ッッ!? ま、まさかっ!?」
「あぁ、そうだよ! お前の両親を殺したのはこの俺だっ!」
その話を聞いた途端、僕の中で何かが崩れる音がした。
それは僕の感情か、理性か、それとも...
「はっ、ハハハハはッ! ついでに言ってやるとなっ! お前の叔母、つまりはおれの妻もさっき殺してやったところだ! アイツらは保険に入ってたからなぁっ! これで俺の所に金が入ってくるってわけだぜぇ!」
この男はもう既に壊れている。
何があったのかは知らないが、それでもカウンセリングなんてやっている僕には分かった。この男は既に"心"が壊れている。
「どうだぁ!? 絶望したかあ!? どうせだからよぉ、これからお前の友達もぜーんぶ殺してやるよっ! あの世に行っても寂しくねぇようになぁっ! 手初めにそこの女からッ! 次にお前のオトモダチの...あぁ、なんて言ったかなぁ...」
コイツは最早、金を得るために家族を殺したんじゃない。
人を殺すことに悦びを感じているのだ...
「そうだぁ、桜町 穂花...とか言ったかぁ?」
「──ッッ!? あ、アイツをどうするつもりだっ...!」
親友の名を呼ばれ僕は思わずそう聞き返した。
聞き返してしまった。
「へぇー...やっぱりあの娘はお前にとって大事だったのかぁ...」
......は? コイツは今、なんと言った?
『だった』......? まっ、まさかっ....!?
「あぁ、その顔、気づいちまった見てえだなぁ。きひひっ!今持ってくるから少し待っていろよぉ?」
奴は言った。『持ってくる』と。
そして数秒後、奴は居間へと戻ってきた。
僕の親友の死体を引きずって。
彼女は数多くの暴力を受けたのか、身体中に青いあざを作っていた。恐らく骨も両手の指では足りなくなる程折れているのだろう。服は無残に破られており、恐らくはこの男に凌辱されたのであろう。今日の昼に見た可愛らしい彼女は僕のせいで殺されてしまったのだ。
思わず目を背けたくなる惨状の彼女を見て、僕は何を思っただろうか?
怒り?
憎しみ?
悲しみ?
哀れみ?
自己嫌悪だったか?
いや、違う。
「ははっ、やりすぎたなナイトメア・ロード、彼女は本当は死んでないだろう?」
僕はこれが夢だと思い出したのだった。
ナイトメア・ロードもやりすぎましたね。
実際は
頭だけはいい叔父が殺人を偽装しながらも、両親と叔母を殺害。その後に鮫島家に侵入して主人公と鮫島を監禁。主人公の呻き声と叔父の声が聞こえた隣人によって警察へ通報。そのまま逮捕、という流れです。
桜町も鮫島もやられちゃいません。




