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影―001 討伐決定

心機一転!

聖国編までを『序章』とするなら、ここから先は『影編』ですかね。

探したい話が見つからないとお困りの方、ここから先は安心してください、書いてますよ。

「うわぁ……この街もでかくなったなぁ」


 僕はそう呟いた。

 現在地はかつて僕のクラン『執行機関(ネメシス)』があった土地。そこに新しく作られた街であり、周囲を見渡せば黒黒黒黒黒……、ほぼ全員が頭の先から足の先まで真っ黒である。


(全く……誰に似たんだか)

(いや絶対ギンだよね?)


 僕は頭の中に響いた恭香の声を無視すると、右手で(・・・)懐からスマホを取り出した。

 ──右手。

 なぜあるのかと聞かれれば『ない』と答える他ないのだが、これは単純に父さんが『隻腕だと街で目立つよ!』と言ってきたため、幾筋もの影を筋肉のように張り合わせ、とりあえず日常生活を送れるだけのハリボテを作ったのだ。

 まぁ、その上から包帯を巻いているから傍からは分かるまい。

 僕はスマホの電源をつける。

 そこには正午に近い時刻が記されており、僕はもう一人の大食らいの事を思い出してこう告げた。


「まぁ、昼は街の外で自炊だな」

『待ってましたなのじゃ!!』


 そうして僕は、再び街の外へと歩を進めるのだった。




 ☆☆☆




「ふんふんふふーん♪」


 僕はそんな鼻歌が聞こえてきてそちらへと視線を向ける。

 するとそこには肩までの銀髪を風になびかせる一人の少女が切り株に座っていた。


「はぁ……お前、いつの間に勝手に出てこれるようになったんだ?」

「カカッ! 今の妾にとっては、あんな空間を抜け出すくらい朝飯前なのじゃっ!」

「もう昼飯前だけどな」


 僕はそう呟くと、彼女──白夜の身体中をざっと眺めた。

 前の軍服とは違って、今の白夜は赤い線の入った白い着流しを着ており、頭のこめかみのところから銀色の角が、着流しの後ろの方からは銀色の尻尾が飛び出している。

 まぁ、色々と『竜人』という言葉が似合う姿になった白夜ではあれど──


「……成長は、してないんだよな」

「おい主様。今どこを見てそう言った?」


 もちろん身長とその『まな板』ですが。

 僕はその言葉をなんとか飲み込むと、白夜から視線を外してトントントンっと本物のまな板の上にあるレタスをみじん切りにしてゆく。


「ギン? みじん切り終わった?」


 そう言って声をかけてきたのは、近くで肉に衣をつけている一人の少女──恭香だった。

 まぁ、彼女は成長した。

 身長は二十センチ近く伸び、腰まで伸びていた髪を後ろで縛るようにもなった。

 顔つきもずっと近くにいたから分からないものの、そう考えれば大人びてきたようにも思える。

 服装の変化としては前まで着ていた死神のコートをモチーフとしたコートから、所々に赤の入った黒いローブを着るようになったことくらいだろうか。


「あぁ、うん。ちょっと待って」

「ふむ? 何かあるなら手伝お……」

「「お願いやめて」」


 僕と恭香は手伝いたそうにしている白夜を制止させると、大急ぎで残りの工程を済ませてゆく。

 今日の昼の献立は、数ヶ月前に狩ったオークの群れ。その中にいたオークキングのトンカツである。

 昼から胃に来る献立だが、うちの胃袋はこれくらいでなければ食べた気にならないらしい。白夜でさえこうなのだから……、本当に、レオンと伽月が心配だ。

 僕がみじん切りを終えたと同時に恭香も肉の下準備が終わったのか、彼女は今まで暇そうにしていた白夜を呼んだ。


「ふむ? なんじゃ改まって?」

「はい、これなら手伝ってくれて大丈夫だから。まずこれ、三分経過お願いできる?」


 そう言って恭香はトンカツを油の中へと投入すると、それと同時に白夜はパチンと指を鳴らした。

 そして、それと同時に僕の『眼』が時間の歪みを微かに捉える。

 僕の力が『空間』を支配するとすれば、白夜のソレは『時間』を支配する。まったく末恐ろしい娘に育ったものだ。


「ほい、三分終わったのじゃ」

「えーっと、じゃあ次一分半ね」


 そう言って恭香は温度をあげ、それと同時に再び時間が歪む。

 本来ならば五分近くかかる調理があら不思議。実際にかかった時間はたったの十秒足らず。


「まぁ、そんなチート能力をただの料理に使って良いのか、って感じもしないでもないんだけど」


 僕はそう呟きながら、アイテムボックスから取り出した三枚の皿にレタスのみじん切りをよそってゆく。

 ここに今恭香が油から上げているカツを乗せれば完成だ。

 僕はグググっと伸びをすると、疲れたとばかりにこう呟く。



「あぁ、めちゃくちゃ久しぶりに料理した」と。



 ちなみにではあるが、僕の料理スキルだけは三年前から何一つとして成長していない。




 ☆☆☆




 その後、昼食を終えた僕達は、街の中へと訪れていた。

 今日、この日があの日から丁度三年目の約束の日。

 時刻の約束こそしていないが、今日、この場所に僕らが全員集まることは間違いない。

 のだが──


「やっほー! ひっさしぶりだね親友くんっ! もう、私ってば三年間も会えなくて寂しかったよぅ! ってあれ? なんか身長伸びたー?」

「何でこいつしか集まらない……」


 そう、そこに居たのはエロースだけ(・・)だった。

 彼女は三年前から何一つ変わらない姿で、服装でその場に浮遊しており、かなり周囲の注目を集めまくっていた。

 まぁ、僕は姿を限りなく薄くしているので目立っているのは『誰かに話しかけているエロース』という図になっているため、まぁ僕の存在がバレるということはないのだが。


「あれ、も、もしかしてあの人……」

「エロースさんだよな?」


 そんなざわめきが周囲から聞こえ始め、僕はため息をひとつついて──未だ喋り続けている彼女を、影に沈めた。


「「「んなっ!?」」」


 いきなり消えたエロース。

 それには周囲の人達は目を見張り周囲を見渡したが、今現在影の中でわめいているエロースは見当たらない。


『ちょ、ちょっと親友くんっ! 感動の再会だよ! 一体なんの真似……ってまさか!? とうとう親友くんっも「エロースのことは、誰にも渡したくない」ってキャーーーッ!』

「あー、久しぶりー。えろーす」

『棒読み酷いっ! 後なんか目から光が消えてるよっ! 妄想だってわかってたけど現実は辛いっ!』


 僕はその言葉を無視して空間把握を街中に広げ、エロース以外誰ひとりとして来ていないという事実を再確認すると、懐からスマホを取り出す。

 あれからかなり時間が経ったのか、刻まれている時刻は──午後の六時。

 そう、六時である。しかも午後の。

 僕は気がつけば引き攣った笑みを漏らしており、それと同時に、僕のスマホに何通かのメールが届いた、


「……なんでだろ、嫌な予感しかしない」


 僕はそう呟いて、それらのメールを開く。

 そこには嫌な予感通り、彼女らからの三年越しのラブメールが。


 ─────────────

 《輝夜》

 Re:悪い。

 あ、今日が三年目なの忘れてた。

 待ってるから探し出してくれ。

 ─────────────

 《レオン》

 Re:伽月と結婚したのである

 三歳で結婚である。間違いなく世界記録であるな。

 あ、でも正確には一歳と三ヶ月の時である。

 新婚旅行中なので遅れる。

 どこかで巡り会う時もあるであろう。

 ─────────────

 《アイギス》

 Re:あっ

 今オリビアとマックスといます。

 完全に約束忘れてたんで探し出してください。

 待ってます。

 ─────────────

 《暁穂》

 Re:忘れてた訳では無いんです。

 ただちょっと……いいポイントが見つかって。

 え? いや、なんのポイントかは聞かないでください。

 ─────────────

 《浦町 了》

 Re:何となくわかるぞ

 多分誰も来ていないのであろう?

 という訳で私も上に習おう。

 藍月と共に旅をしている。探し出してください。

 ─────────────

 《ミリアンヌ》

 Re:エロース送ったのだけれど。

 別にそこで落ち合う必要ないのでしょう?

 クランホームにいるから戻ってきなさい、童貞。

 ─────────────


 ピクッ、ピクピクッ。

 頬が音を立ててヒクッと引き攣り、それを影の中から見ていたのであろう。エロースが『ひぃっ』と悲鳴を漏らした。


「アレだな。三年後は『最強になってみんなで大陸中をまわる』って感じの話になるかと思ってたら、どうやら十数名のターゲットをぶん殴って回る旅になりそうだ」


 気がつけばそんな言葉が僕の口からは漏れており、多分、僕の瞳は爛々と光を灯していることだろう。

 僕はニヒィと三日月のような笑みを浮かべると、左手に影を纏いながらこう告げた。



「とりあえず、ここにいない奴ら、討伐決定」



 そうして、僕の仲間を探す旅が始まった。



さすがです。

この期待を裏切ってくる感じ。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] みんな。凄い大切な、いい所なんだから、ちゃんと集まろうよ!期待を返してくれ!!あの、これからどうなるんだろう?!どんだけ強くなっているんだろう?!、って言う期待をさ!!
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