番外12 顛末と依頼
番外編完結!
ぴろりん! レベルが上がった!
ぴろりん! レベルが上がった!
ぴろりん! レベルが上がった!
ぴろりん! レベルが上が⋯⋯
勝利のファンファーレが響き渡り、久瀬はそれと同時に解けた『天下無双』に気がついた。
「は、ははっ……、ダメージ喰らわないにしろ……どんだけ破壊したいんだよあの野郎。なんて魔法を開発しやがった」
久瀬はそう呟いて先ほどの『時代穿つ神羅の罪』を思い出す。
そして、直後に襲ってくる震えと目眩。
前者はその魔法のあまりの破壊力に、そして後者は『天下無双』を使った疲労と、青龍の力を使ったことによる魔力切れによるもの。
『全く……貴様は何故初めてだというのにも関わらず黒炎と私の力を同時に使うのだ。私の力だけで十分だと言ったであろう』
久瀬の頭の中に青龍の声が響く。
その言葉には久瀬も思わず笑みを浮かべてしまい、それと同時に──彼の口から鮮血が吐き出される。
「あ……れ?」
気がつけば久瀬の視界は徐々に傾いてゆき、視線の先には愛紗と花田がこちらへと駆け出してくる姿が、さらにその向こうでは気絶した凛と、それを介抱している妙の姿が。
(やば……い、意識が……)
そうして久瀬の意識は、徐々に暗転していった。
☆☆☆
「く、久瀬くんっ! 久瀬くんってば!」
愛紗の叫び声が響き、花田は咄嗟に彼女を羽交い締めにする。
「だ、ダメっすよ古里さん! よく分からないっすけどこう、倒れた時はむやみやたらに動かさないのが正解っぽいっす!」
「でっ、でもっ!」
それでも尚引く姿勢を見せない愛紗に花田は困ったように眉をしかめて──
「まぁ、大丈夫じゃないか? いきなりステータスが変動して、その上で無茶したから身体の中にダメージが行ってるだけだろ」
突如として、周囲にそんな声が響いた。
気が付けば久瀬のすぐ近くには一人の青年がしゃがみ込んでおり、二人とそれを遠くから見ていた妙は声を上げようとして──出来なかった。
「悪いな、本来なら三年間くらいは姿を現さないつもりでいたんだ。だから今何かを話すつもりは無いんだよ」
彼はそう告げると影を操作し、その影の中からベヒモスの巨大な牙を取り出した。
その見覚えのありすぎる存在にまたもや声をあげようとした三人ではあったが、依然として声帯が何かによって押さえつけられているかのように声が出ず、結果としてヒューヒューという息だけが吹き出してくる。
それを横目で見ながらも、彼は久瀬の吐き出した血だまりにその指を突っ込んだ。
「『血液操作』」
瞬間、彼の魔力が注ぎ込まれたその血液はひとりでに動き出し、ベヒモスの牙を中心に巨大な魔法陣を展開する。
「さらに『渦動魔法陣』」
そして、その下に展開される巨大な渦動魔法陣。
それらの光景を見て思わず息を呑む音が聞こえ、彼は久瀬の髪の毛を数本抜き取り、その魔法陣の上へと捧げる。
「血で作った魔法陣に、身体の一部、そしてついでとばかりにベヒモスの牙に渦動魔法陣付きだ。せいぜい起きてから感謝しろよ、久瀬」
そう言って彼はパンッと両手を合わせ、そのスキルを発動する。
「『神器創造』ッ!」
瞬間、周囲を光が包み、そのあまりの眩しさに三人は目を閉じる。
その光は数秒もしないうちに止み、三人は光が止むと同時にすぐに目を開くが、けれどもそこには彼の姿はなく──
「こ、これって……」
そこには一本の黒刀が、大地に突き刺さっていた。
☆☆☆
一方その頃、霊峰バラグリムの麓にある森の中。
『はぁっ、はぁっ……、さ、流石に私もっ、し、死ぬかと思いましたね』
そこには身体中がボロボロに破損した大悪魔──バアルの姿があった。
そう、彼はあの破壊魔法から生き延びていたのだ。
咄嗟に原始魔法で何重もの障壁を作り上げ、翼を広げて繭のように自らの身体を覆い、その上で爆発の衝撃を利用することによってここまで吹き飛ばされてきた。
死んではいない。瀕死でこそあるがまだ生きている。
だからこそバアルは内心で安堵し──
「あァ? なんだテメェ。なんか悪者っぽいけど……まぁいいや、ちょっと道教えてくれねぇか? 仲間とはぐれちまってよ」
唐突に、背後からそんな声がかけられた。
その言葉に、話しかけられるまで分からなかった気配の無さにバアルは戦慄し、考えるよりも先に身体が反射的に攻撃に移っていた。
『ハァァァァァッ!!』
それは、瀕死であるが故の反射的な行動。
これ以上無駄な体力を使いたくない、強い相手だったとしても一瞬で殺せるほど楽な道はない。
──なによりも、疲れたのだから楽をしたい。
そう、頭のどこかで考えていたからこそそういう手段をとり──
「なんだテメェ、やっぱり悪モンか?」
『んなっ!?』
その拳を片腕で受け止めたその少年見て、思わず目を見開いた。
白髪の混じった紫髪に、その紫色の両の瞳。
それは見間違うはずもなくこの国に滞在している殲滅対象のうち一人。事前に調べた中にいた再重要人物。
『き、貴様はっ! 戦神王アル……』
「道知らねぇならもういいや」
そうして気がついた時にはバアルの視界はぐるぐると回っており、度重なるダメージで回復力さえ底をついていたバアルはいとも簡単に命を散らした。
けれどもその直前、薄れゆく意識の中で、彼はたしかにこう聞いた。
「『七段階』」と。
☆☆☆
「なんぞよ、やっぱり居たのではないか」
「ギクッ」
グレイスの声に彼──ギン=クラッシュベルは思わず身を硬直させた。
あの後、久瀬の神器を創造したギンは『位置変換』によって十数キロ離れた場所にある岩場へと姿を隠し、魔力の回復に務めていた。
そこを──見つかった。
「って言うかなんでここにいるんだよお前……、普通にあの大悪魔にやられてなかった?」
「やられて何ぞおるか! ワシはアレぞよ! ま、魔力切れでちょっとだけ倒れててただけぞよ!」
「知ってる。久瀬が倒れた時にはもう普通に胡座かいて欠伸してたもんな。そこの土精族の人も」
「なんでそんなところばっかり見ておるんぞよ!?」
その叫び声にギンはフッと笑みを浮かべると、小馬鹿にしたようにこう言おうとして──
「ふん、僕がお前のことを知らないわけがないだろう? マイスイートハ……って痛い!?」
──殴られた。
気が付けば彼の側には黒髪の幼女が立っており、すく近くの空間の割れ目からは子供の腕が飛び出していた。
「全く……すいませんねグレイスさん。うちの女の子を落とすことしか脳のないバカが」
「全くなのじゃ! 隙があれば誰か女の子を誑かすとはなっとらんのじゃ! いっそ去勢するべきかのぅ?」
「まって!? 童貞のまま去勢されたくない!」
その言葉にはギンも思わず後退り、それをグレイスの背後から見つめていたドナルドは、その下らないやりとりに呆れるかと思いきや──ギンを見て、ダラダラと冷や汗を流していた。
「お、おお、おい、グレイス……。い、一体、何者なんだ? その男は……」
その声は明らかに震えており、彼の瞳は限界まで見開かれ、ギンの体を隅々まで見渡していた。
それを横目で見たグレイスは、全てを察したのかつまらなそうに口を開いた。
「ワシの言った通りであろう? もう既にこの男はワシらの域に追いついておる、だからこそ危うい、と。能力を使いこなせるかどうかは別として、ステータスとスキルだけならばDeus級は固いであろうな」
「で、Deus……ッ!?」
ドナルドはその言葉に思わずそう呟いた。
彼はギンへと視線を向ける。その瞳にはありありと『嘘だと言ってくれ』という感情が浮かんでいたが、
「うん、格上と戦ってばっかだったからレベルは限界まで来て、その上で神器もウルのも第四段階が開放されたよ。まぁ、全く使い切れてないんだけどね」
そう言って彼は苦笑する。
実際には修行開始二週間でレベルは最大まで上がり、その後神器などが解放されてゆき、そしていつの間にかステータスを見ることをやめた。なんだか自分の化物加減に呆れてきたから。
ギンはそこら辺に触れずにそう口にすると、ドナルドは何かを言いたげに口を開いて、けれどもそれを閉ざした。
彼の言いたいことはただ一つ。
『ここに、本当に人間がいるのか?』と。
声は聞こえる。姿も見える。けれどもその存在そのものが稀薄であり、意識を半分でも他に逸らしてしまえばその時点で見失うだろう。
その様はまるで──
「まるでエルザ。全盛期のあやつを前にしているような感覚しかしないぞよ」
エルザ。
エルメス王国、パシリアの街にて孤児院の院長を務めている妖精族の女性。
時の歯車の一員であり、最も怒らせてはならない人物として各地の有力貴族たちに名を馳せている人間だ。
今でこそ丸くなってはいるが、全盛期の彼女は目の前にいても少しでもほかに意識を割けば見失ってしまうレベルであり、本気の彼女を見つけるとなれば直感に頼る他無くなる。そのレベルだ。
そして、今目の前にいるこの男も、間違いなくその高みのさらに先へと続く階段。その最初の一歩を踏み出しつつあるのもまた事実。
ドナルドは明らかに自分よりも強いであろうギンを実際に見てため息を吐くと、それと同時に久瀬の言っていた『ある男』というのがこの男なのだろうと直感した。
(はぁ……、神器を得たとしてもこんな怪物に勝てるのか? あの坊主は……)
そう内心で思って、
「あ、そうだ。ドナルドさんでいいですよね? 一つ依頼がしたいのですが……」
唐突に、ギンがそんなことを口にした。
その言葉に首を傾げたドナルドではあったが、続く言葉にその瞼が徐々に見開かれてゆく。
「いやぁ、鍛冶神にもお願いしてみたんですけどお手上げらしくて。曰く『こんな素材は師匠以外に使えっこない』との事でしたが……。あ、素材はこれです」
鍛冶神ヘパイストス──つまるところブラッドナイフの製作者であり、ドナルドの弟子でもある。そん彼女がお手上げだと言うほどの素材。それはまず間違いなくとんでもない代物に間違いない。
そう確信してドナルドはギンが懐から取り出したものを見て──短い悲鳴を上げた。
何せそれは──
「僕の依頼はただ一つ。この『円環龍の鱗』を使って、動きに支障が出ないレベルの鎧一式を作っていただきたい」
とてつもなく、ギンに槌を投げつけたくなったドナルドであった。
以上、番外編でした!
久瀬君は今後の物語でかなーり重要な役回りをする人物です。
そのため武闘会や閑話では『印象が薄い』という結論に至り、この番外編を執筆することになったのですが……。どうたったでしょうか?
次回、お待たせしました!
三年ぶりに彼が帰ってきます!




