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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
番外編 声と扉
344/671

番外11 覚醒

不心得者!

 一方その頃、街中で。


「き、騎士達の指示に従って避難ください!」


 冒険者ギルドの職員が街中の至るところで叫びをあげ、騎士達が忙しそうに動き回っている。

 けれども混乱は常軌を逸しており、彼ら彼女らは収拾が取れずに頭を悩ませていた。

 けれども、ここにその混乱をよしとする不心得者が一人。


「いやぁ、まさか大悪魔が出てくるとはねぇ……」


 そう言って彼は困ったように視線を背後へと向けた。

 人の群れ、そして外壁や幾つもの岩すらも通り越してその現状を見た彼は、ふむと一度頷いた。


「まぁ、今回はグレイスが油断したのが悪いな。……正直あの魔法にはヒヤヒヤしたけど」

『本音漏れてるよ、本音』

「おっといけない」


 彼はどこからともなく聞こえてきたその声に思わず口を手で押さえると、何も無かった風を装って歩を進める。

 そして彼は、一軒の掘っ建て小屋の前に立ち止まった。


「おじゃましまーす」


 そう言ってその小屋の中へと不法侵入していく彼。

 けれどもその中には人の気配はなく、


「おやおやー? なんだかこんな所にベヒモスの牙が放置してあるぞ〜? なんてこったい!」


 元々それを知ってここを訪れた彼は、目の前に放置されているベヒモスの牙を見て、そうわざとらしいことを口にした。

 彼は迷うことなくその牙を影の中に沈めると、ニヤリと笑ってこう告げた。



「はてさて、一体どうなってしまうやら」



 彼はそう楽しげに呟いて、彼らの行く末を見守るべくその小屋を後にした。




 ☆☆☆




 バアルは、倒れ伏す久瀬の姿を見て内心で安堵した。

 というのも、こういう類の人間を言い表す言葉に『手負いの獣』というものがある。

 手負いの獣には油断するな。

 それはバアルにとっても馴染みのある言葉であり、今までの人生で何度も経験してきたことでもある。


「よ、良くも久瀬くんをッ!」


 シッッ!

 瞬間、優香の刀が鞘から振り抜かれ、居合いの要領でバアルへの襲いかかる。

 バアルはその太刀筋に思わず目を見開いた。何せそれは、剣の達人とも言われるバアルと技術的にはほぼ同格だったからだ。

 だが──


『これでステータスが伴っていれば……もしかしたら、強かったのかも知れませんね』


 バアルは腕を振り抜いた。

 たった一撃。

 それだけで優香の刀はいとも簡単にへし折れ、彼女はそのあまりの威力に吹き飛ばされてゆく。


「優香ちゃん!?」

「小鳥遊さん!?」


 未だにその足で立っている花田と妙がそう叫ぶ。

 そして──青い魔力が舞った。



「あんまり、無茶するなよな」



 気がついた時には久瀬の姿は吹き飛ばされた優香のすぐそばまで移動しており、彼は飛ばされてきた優香をいとも簡単に受け止めた。


『んなっ!?』


 バアルの驚きの声が響き渡る。

 油断していたとはいえ──目視できなかった。

 それは先程まで格下としか思っていなかった相手のできることではない。出来るとすれば──同格か、はたまたそれ以上か。


「く、久瀬……くん、なの?」


 優香は、その久瀬を見て思わずそう声を漏らした。

 久瀬から感じれる威圧感は彼女の知っている彼のソレではなく、彼の体から溢れ出す魔力は、素人目にも青く輝いて見えた。


「ははっ、もしかして他の誰かに見えるのか? 頭ぶった?」


 彼はそう言うと、優香を地面に横にした。

 その際に優香の視線は久瀬の首元へと向かっており、そこにあった青いマフラーは、いつの間にか青い鱗のようなもので覆われていた。


「えっと、うんやばいわ……なんだか幻覚見えてきたわ」


 それを見ているとなんだか久瀬の言っていることもご最ものような気がして、優香は頭に手を当ててそう呟く。

 それは傍から見ても戦意を喪失しているようにしか見えなかったし、実際に彼女はもうすでに戦意を完全に失っていた。

 ──けれども、


「今のアナタになら、任せて大丈夫よね?」

「おう、まかせとけ」


 なぜだか不思議と、今の彼になら任せておける。

 そんな気がするのもまた事実。

 優香は微笑みを浮かべて瞼を閉ざすと、それと同時に久瀬は立ち上がる。


「さて、第二ラウンド突入だな? 大悪魔」


 そうして彼は振り返る。

 青い鱗のマフラーが風に揺れ、その黒髪の奥には、自信に溢れた黒い瞳(・・・)がバアルを睨み据えていた。

 それを見たバアルは無意識のうちに後ずさってしまっており、ふと、彼の脳裏に『手負いの獣』という単語が過ぎる。


(て、手負いの獣!? これはそんなものではない! 何故! 一体どこにこれほどまでの力が……ッ!?)


 そう、手負いの獣の恐ろしいところは最後の力を振り絞って一撃に賭けてくるからだ。間違ってもダメージを回復し、さらに新たな力まで得るなんてことは有り得ない。

 ──ならば、最初から力を偽っていた……?

 そんな考えも頭を過ぎったが、バアルにはこの男にそれを行うだけの頭があるとは思えなかった。

 つまるところ、


『この、この一瞬で……覚醒したとでも言うのですか?』


 覚醒。

 意味もなく強敵を前にした主人公や英雄が覚醒し、結果として悪が滅びるという物語はこの世界には溢れている。前の世界でもそれは同じこと。

 けれどもバアルは知っていた。

 お伽噺の覚醒して悪を倒した英雄。その真実はただの泥臭い死闘の果てに奇跡が重なって、たまたまその英雄が勝っただけだということを。

 それがどんな英雄であれ土壇場での覚醒はしないし、もしもするとすれば正当な理由の元、ありとあらゆる準備を踏んでからしか『覚醒』は起こらないということを。


 だからこそ、彼は戦慄した。


 何一つとして準備をすることもなく、また正当な理由があるかどうかも甚だ疑問。そんな男が──よりにもよってこの土壇場で覚醒するだなんて。

 ──逃走──

 頭の中にその二文字が浮かび上がる。


(こんな弱者相手に逃走? 馬鹿馬鹿しい!)


 彼は内心でそう考えていた。

 けれども本能が今の彼には敵わないと叫んでおり、その警鐘は久瀬が一歩、また一歩とこちらへ歩を進めるに従って大きくなっていく。

 そして──彼はそのタイミングを逃した。



「逃げるには、少し遅すぎたな」



 瞬間、久瀬の声が背後から聞こえ、それと同時にバアルの背筋に怖気が走った。

 気がつけば彼は背後の久瀬へと裏拳を放っており──次の瞬間、その拳が手首のあたりから叩き切られた。


『ウガァァァァッ!?』


 バアルはあまりの痛みに叫び声をあげる。

 手首を切断されただけならばここまで痛みはなかったであろう。問題はその太刀を纏っていた青黒い炎(・・・・)

 バアルは直感していた。その炎が先程見た黒炎とは似て非なるものだということに。

 そして彼は決断する──逃げるという選択を。


『チィッ! このままでは分が悪い! また会う日までその命は預けておきましょう!』


 バアルはその言葉を最後まで言うことなくてその身を翻すと、全速力でその場から避難を開始する。

 だが、彼は焦り故に忘れていた──久瀬の戦い方を。



「待つにゃっ!『位置固定』っ!」



 瞬間、バアルの動きがその場で停止した。

 猫又妙の二つ目のユニークスキル『位置固定』は、指定した対象をその場に固定するという能力。それは離れれば離れるほどに力が弱く、そして消費が大きくなってゆく。

 だからこそ、彼女がバアルを止めていられたのはほんの数瞬間だったろう。

 けれどそれは、格下相手に敗走していた彼の怒りを爆発させるには十分すぎた。


『貴様ァァァァ! もう許さんぞ! 今すぐっ! この場で皆殺しだ!』


 彼は怒りに顔を歪め、その身体中から蒸気が吹き出す。

 彼は構えを取ると、つい先程自分へとスキルを使用した妙へと狙いを定め──



「行くっすよ!『無敵の要塞(キャッスルオブキング)』!」



 瞬間、彼の動きが再び停止した。

 花田京介のユニークスキル『無敵の要塞』は、かつて闘技場でエルグリット相手に冷や汗を流させた最高峰のユニークスキル。

 その力は一定の間自らが受ける全てのダメージを無効にし、全ての敵の攻撃を自分一人に集めるというものだ。

 それは単純に防御としても使うことが出来るが──


「ナイスだぜ! 二人とも!」


 数秒の足止めとしても、十分すぎるほどに役立つのだ。

 バアルは久瀬へと視線を向ける。その顔に浮かぶのは理解すら追いつかないと言った大きな焦燥。

 怒りで頭が真っ白になり、そこに意味不明の行動制限。そうなれば答えに至るまでに時間がかかるのは自明の理であり、生物はえてして、一つの物事に囚われてしまえば他のものまで意識が向かないものである。

 久瀬はバアルの元へと駆けつけると同時に、今の今まで奥の手として隠しておいた、最強のユニークスキルを使用した。



「行くぜ!『天下無双(・・・・)』ッ!!」



 瞬間、久瀬の身体から膨大な力の魔力と威圧感が吹き荒れる。

 ──天下無双。

 それは創造神が作り出した最高傑作にして最強のユニークスキル。一定時間の間、全ての攻撃を無効化し、全ての攻撃を最強の一撃へと変化させる。

 そのスキルをわかりやすくいえば、マ○オのスター状態とでも言うべきか。

 その身体は混沌の『終焉(ジ・オーラス)』すらも跳ね返し、その一撃は神王ウラノスにさえ傷を負わせる。


「ハァァァァァッ!!」


 久瀬はその手にしていた刀をバアルの肩へと差し込んだ。

 その刀は二流の鍛治師が打ったもの。けれどもその刀はいとも簡単に彼の硬質な肉体を貫通し、その痛みにバアルは思わず叫び声をあげる。


『ぐがぁぁぁぁぁぁぁッッ!?』


 刀に突き刺され、更にその刀に付与された青黒い炎が内側からその身を焼く。

 バアルはそのあまりの痛みに後ろに倒れ込み、久瀬の持っていた刀はその衝撃によって折れてしまう。

 だが──それで十分だった。



「あとは頼んだぞ! 凛ちゃん!!」



 瞬間、久瀬のそれすら超える、膨大な魔力が吹き荒れた。

 バアルは目を見開いてそちらへと視線を向ける。

 その先には過剰威力の拳で気絶させたはずの少女が立っており、


「回復力を見逃したのは、あなたも同じく」


彼女はそう呟いて、淡々と詠唱を始めた。



「『輪廻司りし螺旋の王、色々便利な白帝の王』」



 その魔法は、グレイスの『超殲滅魔法』と肩を並べる、間違いなく全世界最高峰の破壊魔法。



「『彼の力、此の力在りしは彼が魂、我は絶対不滅のニートなり。故に、我が前に職は要らず。在りしはただ絶対なる安寧のみ』」



 細部こそ違えどその威力は瓜二つ。

 その危険を敏感に感じとったバアルは暴れ出す。


『ば、馬鹿ですか!? 今すぐ詠唱を止めさせなさい! あなたも巻き添えで死ぬのですよ!?』


 バアルはそう叫んだが、返って来たのは──嘲笑だった。



「『言葉は要らぬ。ただ、その時間と労力を以て親へと罪を贖い給え』」



 久瀬は馬鹿にしたように笑ってみせると、命乞いを始めたバアルへとこう告げた。


「わりぃな、俺今スター状態なんだわ」


 瞬間、久瀬とバアルを中心に巨大な魔法陣が展開され、その膨大な魔力が──今、解き放たれる!



「自宅に沈め!『時代穿つ神羅の罪セクロ・デュスペガード』ッ!」



 光が弾け、久瀬とバアルはその破壊魔法に飲み込まれた。


冒頭の盗っ人に始まってこの詠唱……。

まったく、この兄妹は……。

ちなみにですが、武闘会でちらっと言っていた久瀬の『切り札』がこの能力です。スター野郎め。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] ニート根性丸出しの詠唱!!マジ面白くて笑いこげた!!面白いです。
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