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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
番外編 声と扉
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番外10 伸び代

 皆で強い方が強い。

 そう告げた久瀬からはえも言えぬ威圧感が感じられ、バアルは思わずと言ったふうに呟いた。


『私としたことが……、どうやら一番厄介な存在はこっちだったようですね……』


 バアルは直感した。

 この男は、この場で消さねばならない──と。

 彼は長年生き続けてきた。だからこそ、このような後々に後悔するような直感の仕方には身に覚えがありすぎたのだ。

 だからこそ戦慄し、冷や汗を流す──この男から感じられるその嫌な直感に。なにせそれは、今まで生きてした中で一番に大きいものだったのだから。


(間違いない……、この男の力はいずれ私にも……いや、あの混沌にすら届きうる)


 気がつけばバアルは警戒態勢を取っており、その姿勢は次第に臨戦態勢へと変化してゆく。

 それには久瀬たちも警戒したが、



『あなた方の最大のミスは……、私を完全に本気にさせてしまったことですね』



 瞬間、バアルの姿が久瀬たちの背後に現れ、それと同時に大盾を持った花田の身体が吹き飛ばされる。


「うぐっ!?」

「花田っ!?」


 花田も一流のタンクだ。

 彼はすぐに体勢を立て直すと、すぐさま大盾を持ってバアルへと突撃してゆく。


「御厨さん! 町田さん! 援護お願いしまっす!」

「「了解です(よ)!」」


 その言葉に御厨と京子が杖を構え、それぞれが水属性の魔法を発動する。

 それは今までバアルが炎属性しか使ってこなかった、という経験則からの行動ではあったが──


『残念、私は“原始魔法”持ちですよ』


 瞬間、雷が一閃し、対処する間もなく御厨と京子の身体に打ち付けられる。

 悲鳴は──なかった。

 二人はその異常なまでの威力に一瞬で意識を刈り取られ、受け身をとることなく顔から地面に倒れ込む。


「御厨くんっ! 町田さんっ!?」


 後衛の古里愛紗の叫び声が響き、それと同時に花田の大盾とバアルの爪が激突する。

 ガキィィィィンッ!

 硬いもの同士が激突したような音が響き渡り、その感覚にバアルは思わずと言ったふうに呟いた。


『ふむ……貴方もなかなか。見たところ攻撃力は全くと言っていいほど足りていませんが、防御だけに関していえば厄介なレベルまで来てますね』

「ご感想ッ、どうもっす……ねッ!!」


 その言葉と同時に京介はしゃがみこむ。それと同時に彼の背後からから現れたのは──ミノタウロス。


『Ubaaaaaaaaaaaaaaa!』


 Sランク、ミノタウロスの咆哮が響き渡り、その手に持っていた棍棒をバアルへと向かって叩きつける。

 だが、相手は落ちてもなおEXランクを超越している。


『ミノタウロス……でしたか。もしやどこかにサモナー系統の後衛がいるのでは……?』


 彼はその棍棒を片腕ではじき返し、それと同時にミノタウロスの首を跳ねとばす。

 彼は視線を周囲へと向け──最終的に、一人の少女へと視線を向けた。

 そこには空中に浮かぶ本の近くに立っている古里愛紗の姿があった。

 彼女のユニークスキルは、『魔法の図書館(マジックライブラリー)』、そして『物語の記録(ライトノベルズ)』の二つ。

 前者はかつて闘技場にてみせた魔法を吸収し、そして使用するという魔法殺しのユニークスキル。

 そして後者。それは一度目にした生物のレプリカ召喚し、使役するという能力。

 それは一度でもその対象の戦闘を見れば発動の条件を満たす、俗に言うチート能力だ。

 たがしかし──


『それがどうした、という話ですね』


 バアルは今のやり取りだけでその能力の幾つかのデメリットを見つけていた。

 彼はサモナーという可能性から、見たもののレプリカを召喚するという能力の可能性まで、ありとあらゆるその可能性を鑑みた上で確信づけた。

 その能力では、自分の脅威となる存在は召喚できまい、と。

 もしもその能力で先ほど見たグレイスや、今戦闘中のバアル自身。そして大陸中に放送されたギンを召喚すれば今のバアルとて危なかった。間違いなく逃走以外の選択肢を失う。

 バアルも今の弱体化した状態で自分や先ほどのグレイス、そして仮にとはいえアスモデウスを倒したという存在と戦うのは避けたかった。

 だが、


『その能力……自分より弱い存在しか召喚できないか、あるいは魔力消費が激しいのではありませんか? まぁ、ただのサモナーという選択肢もありますがね』


 その言葉に愛紗はピクリと肩を震わせた。

 そう、彼女の『物語の記録』はやろうと思えば彼のギン=クラッシュベルさえ召喚できる。

 だがしかし、もしもそんなことをすれば召喚時に消費される魔力すら足りずに一瞬で死に至るだろう。

 それは彼女とて無駄死にだと分かっている。召喚できても命令できないのなら意味が無いからだ。

 だからこそ彼女の反応を見たバアルは嘲笑し──直後に襲ってきたその剣をひらりと躱した。


「愛紗! 今のうちに二人をッ!」


 久瀬は返す刀でバアルへと更なる一刀を向け、それと同時に愛紗へとそう叫んだ。

 愛紗は倒れ伏す御厨と京子へと視線を向け、すぐに彼の言いたいことを察するとそちらへと駆け出した。


「私も、手伝う」


 そう言って愛紗へと追随したのは凛。

 彼女は『ヌァザの神腕(アーガトラム)』すら使用できる。なればこそ、件の『治癒再生』の力も使えるということにもなる。

 だからこそ、きっとその選択は正しかったのだろう。

 間違っていたのは──最大限に警戒されているにも関わらず、バアルに背を向けたということ。


『殺しはしませんよ、いい研究材料になりそうですからね』


 ドスゥッ!

 一瞬で久瀬を跳ね除け、凛のそばまで駆け抜けたバアル。

 彼の拳が彼女の腹部にめり込み、とっさに反応することが出来なかった彼女は口から鮮血を吹き出し、あまりのダメージにそのまま地に伏した。

『殺さない』と言っておいてそれは明らかなオーバーキルであり、いくらギンの力を持っている凛とはいえ、今のバアルのほぼ全力の拳には耐えられなかった。


「凛ちゃん!?」


 今のパーティ最強の存在が地に伏した。

 それは『全員で戦う』彼らにとっては戦力的にも──そして精神的にも大打撃だった。

 だからこそ『彼』は僅かに揺らぎ、そして、その僅かな揺らぎをバアルが見逃すはずがなかった。



『貴方は、生かしておけない』



 その声とともに、久瀬の意識は暗転した。




 ☆☆☆




『だから言ったであろう。今の貴様では勝てないと』


 気がつけば、久瀬はどこか知らない場所に立っていた。

 目の前には巨大な扉(・・・・)

 幾つもの南京錠によってその扉は閉鎖されており、それらからはえも言えぬ威圧感が漏れだしていた。


「こ、ここは……」


 大地には深い青色の水が張っており、周囲を見渡せば一定距離よりも遠い場所は深い霧で覆われている。久瀬は直感した、あれより先には行けないのだろう、と。

 久瀬は再び視線を扉へと向けて──


『おい貴様。周囲を見渡しておいて背後だけ見ないとは何事だ。先程から何度か話しかけてやっていたのに無視し、あろう事かここでも無視する気か』


 その声が、背後から聞こえてきた。

 久瀬はその声に思わず目を見開き、ガバッと背後へと身体を向ける。

 そして──思わず恐怖した。


「うおわぁっ!?」

『それが初対面の人に対する態度か?』


 人じゃねぇだろうが。

 久瀬は、そう言おうとして──やめた。

 まだ敵か味方かは分からないが、兎にも角にも……


(コイツは……あの、大悪魔よりも)


 ──あの大悪魔よりも、強いんじゃないか?


 そこに居たのは、青色のオーラを纏う巨大な龍。

 その龍はキッと久瀬を睨みつけると、まるで心を読んだかのごとく口を開く。


『私を大悪魔と比べるな。私はこれでも四聖獣が長だ。……今はクソッタレな創造神にどこぞの馬の骨とも知らない男に封印されてはいるがな』


 四聖獣。

 ちょっと知識をかじったオタクならばその言葉を聞けばわかる存在だろう。

 赤の朱雀、白の白虎、黒の玄武、そして──


「せ、青龍、なのか……?」

『ほう? 貴様のような者でも知っていたか。流石私だ』


 その龍は久瀬の言葉にそう返した。

 声から想像して、彼女は満更でもなさそうにフンと鼻を鳴らすと、先程よりも多少上機嫌そうに口を開く。


『まぁよいわ。この際無視したことに関しては目を瞑ってやろう』


 ──で、だ。


 青龍はそう呟くと、先程までの空気を一転させ、真剣な眼差しで久瀬を見下ろした。


『もう一度言おう、今の貴様ではあの大悪魔には逆立ちしても勝てはせん。全員で力を合わせるという意見までは良かったものの、それでも、うち一人でもかければ途端に崩れるのが貴様たちのしている戦い方だ』


 青龍は今更ながら久瀬の戦い方の穴を指摘した。

 一人ではなく皆で戦う。圧倒的な一よりも多少強い多数を持ってくる。その意見は何ら間違いではない。

 だがしかし、それは一人で戦うよりも遥かに難しい。


『一人欠ければ動揺が走る。誰かが跪けば意識が削がれる。常に仲間達のことを考えなければならず集中が割かれる。貴様がしているのは力の差を無理して誤魔化しているようなものだ』


 逆に一人で戦うのはある意味簡単だと言えよう。

 確かに負担は増え、力がなければ数に押しつぶされる。けれども彼女が挙げた全てを負担しなくて済むのは大きい。

 だからこそ彼らは一人で戦うことを選んだが──


「……そんなこと、分かってるよ」


 久瀬は、そう悔しげに呟いた。

 確かに彼が言った『皆で強い方が強い』という言葉は本心から来るものだった。

 ──けど、


「俺だって強くなりたいさ、仲間を救えるくらい、アイツを助けてやれるくらいの力が欲しい」


 ──だけど、ないんだ。


 自分に力がないことは分かっている。

 仲間を救える力もなければ、友を助ける力もない。

 だからこそ必死に自分を鼓舞して頑張ってきたが、依然としてその距離は縮まらない。

 それは『神剣シルズオーバー』などによって知力や精神力の才能を開花されていない久瀬にとっては──ただの一学生にとってはあまりにも辛すぎる、

 それこそ、心が折れそうになってしまうほどに。

 力がなければ一人で戦えない──語り継がれてゆく物語に描かれる、皆が望む英雄にはなれない。


『貴様は……英雄に憧れているのか?』


 その言葉に、久瀬は口を開かなかった。

 沈黙──それが何を意味しているか、青龍はなんとなくだが察することが出来た。

 きっとその沈黙は、肯定であり──なによりも否定なのだ。

 彼は物語の中の英雄に憧れた。主人公に憧れた。全ての壁を己が身一つで打ち砕いてゆく主人公に憧れた。


 ──けれどもそれ以上に、一人の男に憧れたのだ。


 青龍はすべて知っていた。なにせ、久瀬とはこの世界に来てから常に共にいたのだから。

 だからこそ、それらを敢えて口にした。


『私は知っているぞ、お前は優れた友に嫉妬した。そしてそれ以上に憧れた。まるで物語の主人公のような(・・・・・・・)その男にな。だからこそその男が自らを“主人公”と評したことに喜びを覚え、それと同時に恐怖し、焦燥した。自分のような凡人に──弱虫に、主人公なんて務まるのか、と』


 その言葉に──一言一句違うことないその言葉の羅列に、久瀬は思わず苦笑いを浮かべた。

 ──こいつは本当に自分のことを知っているんだ。

 そう思えば嫌でも苦笑いが溢れてきて、



『はぁ……、馬鹿か貴様は』



 いきなり投げかけられたその言葉に、思わず目を剥いた。

 視線を上へと向ければ呆れたような様子の青龍の姿があり、彼女はつまらなさそうに口を開く。


『憧れるな、夢を持て。追いつくのではない、追い越すのだ。目指すならばその男ではなく、さらにその先の最強を目指さんか弱虫。だからこそ貴様は弱虫なのだ、この弱虫よ』

「よ、弱虫を連呼するな!」


 気がつけば久瀬は叫んでいた。

 それを受けた青龍は『それでよし、元気があるのはいい事だ』とケラケラ笑うと、久瀬の背後──そこにある大きな扉へと視線を向けた。


『四聖獣最強の青龍の力に加えてあのユニークスキル。そしてこの扉と来たものだ……。大悪魔の勘はこの上なく正しかったということだな』


 彼女はそう呟いて、その扉にかけられている南京錠の数を大まかに調べた。

 そして、何度数えても同じ結果になることを知り、自分の目を疑うという行為を諦めた。


(創造神め……この男に特別強い器を用意したな? それに加えて私の封印されている身体だ。尋常ではなく『器の扉』が大きいことはそれで説明がつく)


 彼女はそう内心で呟き、視線を久瀬へと向ける。

 この扉は、器と魂が見合っていない場合にのみ起こる現象──ここは覚醒とでも言うべきか。

 その覚醒による力の上がり幅は、元々の魂の大きさと器の大きさがどれだけ離れているかに比例する。

 だからこそ、青龍はその単語を思い出して笑みを浮かべる。



『弱虫……か、さぞかし魂の大きさが小さいのであろうな?』



 その言葉に含まれる意味に、久瀬が気づくことは無かった。

ギンや久瀬たちはいずれも創造神たちに新しい『器』を作られてこの世界へと来ましたが、その大きさだけでいえばギンよりも久瀬の方が大きいです。

その上精神的には久瀬が下。

ならばその伸び代は……言うまでもないですね。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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