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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
番外編 声と扉
335/671

番外02 集う強者達

 岩国バラグリム。

 関所から最寄りの街の、食堂にて。


「むしゃむしゃ、ごくり、むぐっ、むしゃむしゃ、ぷふぅ……食った食った」

「お、おう……本当に食ったなぁ」


 久瀬は凛の食べっぷりに愕然としていた。

 確かに久瀬は何度か凛と会ったことがあるし、知り合いと言っていいほどには話したこともある。

 けれども、色々と知らないことはある。

 だが、


「お前……なんでこの世界にいるんだ?」


 そう、知らないことがあることは、彼女がこの世界に居ていい理由にはならないのだ。

 久瀬は色々と疲れたようにそう告げると、彼女は久瀬の方を見つめて、


「ねぇ、それよりおかわり」

「お前ら本当は血が繋がってんじゃねぇのか!?」


 その、どこかの誰かを思い出す、イラッとする感じのキャッチボールの繋がらなさ。久瀬は思わず叫んでいた。


「やだ、久瀬竜馬、私のこと、襲おうとしてる。兄さんに顔向けできない。このロリコン」

「違ぇよ!? 頼むからちゃんと会話してくれない!?」

「なら、おかわり」

「クッ……」


 手を差し出す凛に、それを見て悔しげに歯をきしませる久瀬。

 凛は久瀬の反応を見てニヤリと笑うと、店員を呼び出してこう告げた。


「とりま、ここからここまで。全部ね」


 その残虐極まりない言葉を聞いて、その様子を見て久瀬パーティの面々は確信した。

『この娘、間違いなくあの人の妹だ』と。

 久瀬はアイテムボックスの中に入っている財布の中身を思い出してため息を吐き、この食事にどれだけお金がかかるのか。軽く計算してみた御厨と京子がため息を吐く。


「私達は約束は果たしたわよ? なら、アナタもきちんと約束を果たしたらどう?」


 京子が凛へとそう話しかける。

 凛はちらりと京子へと視線を向ける。そして察した──この女ははぐらかせないタイプの人間だろう、と。

 凛はわざとらしいため息を吐くと、渋々ながら話し出した。


「お父さんとお母さん、生きてた。で、なんか空間を割ってこっちの世界きた。で、修行して強くなって、兄さん、探す旅に出た。終わり」


 瞬間、沈黙が周囲を支配した。

 一言伝えるとすれば『何言ってんの?』だろうか。

 だがしかし、その後に告げられたその言葉に、その沈黙は異なる意味合いのソレへと変化した。



「にしても、久瀬竜馬。あなたには、兄さんは期待してた。だから、私も異世界行ったら強いんだろうって、思ってた。けど、何だか期待はずれ。一年近くもいてその程度(・・・・)?」



 瞬間、その場に走った緊張感。

 彼女はもしかしたら自らの兄と──ギン=クラッシュベルと久瀬竜馬を比べているのかもしれない。

 あの時スクリーンで見た時の彼。つまりは三ヵ月前の彼と比べても久瀬の実力は劣っている。骨の数本くらいは折れるかもしれないが、恐らく彼が最初から本気だったとすれば数分と持たないだろう。

 だが、


「んー、何だかそれだと、君が久瀬よりも強いってふうに聞こえるんだけどにゃー」


 妙が苦笑いを浮かべてそう呟く。

 その言葉にはその場の空気を軽くしようと言った意味合いがあったのだろう。

 けれども彼女は──凛はその言葉に笑みを浮かべてこう告げた。



「なら、勝負してみる? 久瀬竜馬。惨敗する覚悟があるのなら、って話だけど」




 ☆☆☆




 場所はその街から少し離れたところに位置する平原。

 時刻は夜。もうここらを通る馬車や人の姿はなく、遠くの方に建物の明かりが。上空からは満月の月明かりが大地を照らしている。

 そして、十数メートルの間を開けて対峙する二人。

 片や黒髪の刀使い、久瀬竜馬。

 片や白髪青眼に素手の、凛。

 傍から見れば武器を持つ強者と武器も持たないか弱い少女の図。久瀬もそれには思わず苦笑いした。


「おい凛ちゃん、お前武器はどうした?」


 それに対して凛は、さも当然とばかりにこう告げる。


「ねぇ、兄さんが、武器を常備してた姿なんて、見たことある?」


 ギンが武器を常備していた姿。

 久瀬は思い出す。

 かつて『シル=ブラッド』として自分たちの前に現れた彼は、確かにステッキという武器を持っていたが、彼はどこでもない所からそれらを取り出していた。

 かつてエキシビションマッチで見た時の彼は、どこからとも無く大鎌や縄を召喚し、それを見事に使い分けていた。

 それらを考えて思い至る──ギン=クラッシュベルという男は、武器や防具などを一切と言っていいほど常備していないのだ、ということに。

 きっと彼女が言いたいのはそういう事だろう。

『兄さんに出来ることを、私にできないはずがない』と。


「傲慢か……、それともガチな方か」

「悪い、それ、ガチな方」


 彼女は淡々とそう告げる。

 久瀬にはその言葉が本当か否かは分からなかったが、それでも、彼の直感は告げていた──この少女を侮るな、と。

 ならばこそ、きっと自分はこの少女を侮るべきではないのだろうし、武器を持っていないからと言って手を抜いて問題ない相手でもないだろう。


(もしかしたら、素手でもある程度強い、って意味での言葉かもしれないしな……)


 そう言って彼は刀へと手を添える。

 ふぅっ、と息を吐いて心を落ち着かせ、スイッチをオフからオンへと切り替える。

 彼は、ギン=クラッシュベルほどの頭脳も身体能力も持ち合わせていない。性能だけでいえば彼の劣化版と言っても差し支えないだろう。

 だがしかし、それをも覆す勢いで優れているのが、その圧倒的なまでの集中力。

 その他にも彼の特徴は多々あれど、今この状態で最も厄介な彼の力はそれと言って差し支えないだろう。

 それにはぱちくりと凛も目を瞬かせ、彼女はポツリと、こう言葉をこぼした。



この状態(・・・・)じゃ、勝てなさそうだね」



 瞬間、彼女を中心として血色の渦(・・・・)が巻き上がった。


「「「なぁっ!?」」」


 それを見ていた久瀬達は思わず目を剥き声を漏らし、そのあの男がアルファ相手に使っていた『その色』に、帝国で感じた彼の魔力に瓜二つのその魔力に、有り得ないとばかりに驚愕した。



「私の能力は『寄生(キングオブ・ニート)』。対象の能力、スキル、武器。全てをコピーし、自らのものとして使用する能力」



 その言葉と同時にその渦が止む。

 その中から現れたのは、髪先が白くなった黒髪の少女。

 見覚えのある黒のローブに、その手には十字架の杖。

 その左手の甲には円環龍の紋章が、その右手は肌の上から銀色の鎧が纏わり付いている。

 青かった瞳はそれぞれが赤色と銀色へと変化しており、その背中からは吸血鬼さながらの翼が生えていた。

 今の彼女から感じられる威圧感は──紛うことなく、彼と同位のもの。


炎十字(クロスファイア)、常闇のローブ、災禍(ヘイルテンペスタ)、月光眼、純血神祖、その他もろもろ」


 彼女は彼の──否、自分のチート能力を口にして、硬直している久瀬竜馬へとこう告げた。



「今の私は、まんま劣化版の、兄さんそのもの」



 ──今のあなたじゃ、勝ち目は皆無。



 これは凛本人も知らないことなのだが、彼女にはれっきとした二つ名が付いていた。

 それは通りがかった街でその能力を使用し、ギン=クラッシュベルと全く同じ能力を使用してSSランクの魔物を倒した時のことだ。

 彼女はその際にあまりにも目立ってしまい、彼女は面倒事を嫌ってそそくさとその街から退散したわけだが、その後に、その姿、その戦い方を見た住民達が敬意と畏怖を持って二つ名を付けた。

 それこそが──



「何ぞよ、あやつかと思ったら『執行代理人』の方だったか」



 突如として、草原に幼女の声が響き渡った。




 ☆☆☆




 ほぼ時を同じくして。

 昼間久瀬たちが通った関所にて、昼間の検閲官の騎士はため息にも似た声を出していた。


「あぁぁぁ……、もうやだ。なんなのこの国。なんかやらかしたんじゃねぇだろうな?」


 その呟きに彼の同僚の女騎士が話しかけた。


「あら? どうしたの急に。昼間の荷馬車に人が倒れてたアレのこと? 確かにあれには私も驚いたけど……」

「あぁ、騒ぎを駆けつけて『黒炎』が出てきたってってことと、その騒ぎの元凶が『執行代理人』だった、ってことか? いや、それもあるんだがよ……」


 彼はそう言って頭をボリボリとかくと、ほとほと疲れたようにそれらの名前をつむぎ出す。


「お前は丁度休憩入ってたから知らないだろうが、その他にも居たんだよ、化け物たちが。最初が『氷魔の王』、その次が『神天』のゼロに……あの『戦神王(・・・)』だ」


 それを聞いた女騎士の背中に、冷たい汗が伝った。


「えええっ!? 何でそんなにも世間の注目の的になってる人たちがこの国に来てるのよ!? 何か襲ってくるの!?」

「馬鹿言うなよ! あんな面々が揃って退治するのなんざ大悪魔くらいなもんだぜ!? あの執行者でさえ重傷を負った相手なんざ縁起でもねぇ⋯⋯」


 そう言ってその男はふぅと息を吐き出す。


「もしもそいつらが偶然たまたまこの国を訪れてきたってんなら、それはそれでいい事じゃねぇか。そんだけこの国に強者が集ってくる理由でもあるんだろうさ」

「そ、そうよねっ! もしかしたら最近噂されなくなってきた執行者さんにも会えるかもしれないものね!」


 そう、女騎士が口にした直後だった。


「あの……夜遅くにすいません。今ってこの関所通ることできますか?」


 二人は、その声に思わず腰に差していた剣に手を伸ばした。

 ──この距離で、しかも話しかけられるまで……全く気配に気がつけなかった!?

 たしかに今は夜だ。

 だがしかし明かりはともっているし、魔物が来る可能性も大いにあるため警戒は怠っていなかった。

 だからこそ二人は驚き──そこに立っていた、黒髪オッドアイの青年を見て、何故か(・・・)ほっと安堵の息をついた。


「何だ黒髪か、なら安心だな」

「そうね、黒髪なら安心よね」


 彼らは気がついていない。その言葉が破綻していることに。


「そうですか……。本当にすいませんね、こんなに夜遅くに。魔物と勘違いでもされたでしょうか?」


 彼はその包帯の巻いてある右腕で頭をボリボリとかいてそう告げる。その包帯の巻いてある右腕に一瞬興味をそそられた二人ではあったが、まるで何かに導かれるようにその思考は違う場所へと誘導された。


「……おや? 手荷物がすくないようですね」

「ええ、まぁ」


 女騎士は彼の背後を見てそう言った。

 彼は通常サイズの皮袋の紐を右手で持って肩にかけており、それは旅人の持つ荷物にしては少しばかり小さすぎた。

 けれども、


(でもまぁ、手荷物を持ってない訳じゃないのよね。なら別に不審でもないわよね)


 そうして再び誘導される思考。

 彼はそのローブのポケットから冒険者カードを取り出す。

 二人はそれを見て、そして再びその男へと視線を戻す。


「えーっと、三名様で。ギル様、キカ様、ヒヤ様で宜しいですね」


 二人は気が付かない。

 その男の顔に、見覚えがありすぎることに。

 そこに立っているのが、一人だけだということに。

 それらの名前が、彼のクランの重要人物の、最初と最後の文字をとっただけだということに。

 気が付かない──否、その『眼』を見ている限り、気が付けない。

 彼はその確認を聞いて、



「はい、もちろんです」



 胡散臭いほどの笑顔で、首肯した。

ちなみに彼がわざわざ皮袋を背負って旅立ったのはこういう理由があっての事です。

次回! グレイス登場!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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