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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
番外編 声と扉
334/671

番外01 もう一人の主人公

〇久瀬 竜馬

〇御厨 友樹

〇古里 愛紗

〇小鳥遊 優香

〇猫又 紗

〇町田 京子

〇花田京介


番外のメインたちです。

 それから、数ヶ月が経った。


 世界は彼らが表舞台にいた頃とは少しだけ、ささやかながらの変化を始めており、その最たるものといえばとある存在の流通であろう。

 どうやってそんなものを手に入れたのか、もしくは秘密裏に開発していたのか、国王エルグリッドが大陸全土へと向けて髪の色を黒色へと染められる染料を発売し始めたのだ。

 さすれば『彼』の台頭、そして消失を知った者達は、皆なにかに取りつかれたかのようにそれを買い、自ら長年連れ添った髪の色を黒染めする行為に走ったのだった。

 その他にも、最有力だったクラン『執行機関』の移転と休業、魔法学園都市の学園長グレイスの長期休暇、元聖国の改造人間アルファの台頭、その他諸々。

 幾つもの変化、及び新たな注目の的となりつつある出来事や存在が現れ始めたのだが。


 その中に──とある冒険者パーティの存在があった。


「花田君、頼みます!」

「うおっす!」


 眼鏡の青年の前に大盾を持った聖騎士が躍り出て、ミノタウロスの突進を受け止める。

 それと同時。そのすぐ側の木々の影から、一人の女性が飛び出してくる。


「ハァァァッ!」


 瞬間、彼女の手が腰に指した刀に添えられると同時、硬質なことで有名なミノタウロスの肌には幾筋もの線が刻まれ、数秒後、まるで思い出したかのごとくそれらから鮮血が弾け出す。


『bumooooooo!?』


 ミノタウロスは生まれて初めて味わった猛烈な『痛み』に思わずたたらを踏み、初めて見た自らの血に、その可能性が頭をよぎった。

 敗北──つまりは『死』だ。


『buaoooooo!』


 ミノタウロスは雄叫びをあげた。

 まるでその考えを振り切らんばかりに。

 そうしてミノタウロスは両手を地面へとつき、四足歩行での突進の構えをとる。

 狙うは──後衛の、お下げ髪の少女。

 ミノタウロスは先ほどの盾男に捕まらないよう、全速力でそちらへと駆け出し……、


「おっと、そうはさせねぇぜ?」


 ズザザザッ!

 気がつけばミノタウロスの身体は地へと伏しており、彼は一瞬の硬直の後、そのあまりの激痛に悲痛さに満ちた叫び声をあげた。

 視線を下ろす。

 そこには半ばから斬られた自らの両足と、その切断後に燻り続ける、黒い炎(・・・)

 ひと目でわかる。その炎の危険性。

 その温度もさることながら、本能の部分がその炎の危険性をうるさい程に告げてくる。


 そして──その炎を扱う、その男の強さを。


 視線をあげる。

 そこには腰に差した刀に手を添える、一人の青年の姿があった。

 最近では珍しくなくなった黒髪に、黒い着流しのような服装のその男。

 彼こそが、最近頭角を現し出した内の筆頭(・・)



「俺らに出会った運命を呪うんだな」



 ──久瀬竜馬。


 彼はそう告げて、ミノタウロスの首を切り落とした。




 ☆☆☆




「はいっ、依頼完了ですねっ!」


 久瀬はそう笑顔で告げてくる冒険者ギルドの職員から、ミノタウロス討伐の報酬を受け取る。

 ここはグランズ帝国、その僻地に位置する街。

 久瀬たちは『和の国』へと寄った後、次にドワーフたちの暮らす国、『岩国バラグリム』へと向かうべく、一度この国へと戻ってきた次第だった。

 するとたまたまその街の近辺にSランクの魔物が出没したとの情報を得た彼は、最近は懐が寂しくなってきたこともあり、その魔物を討伐しに行ったのだった。

 だが、


「はぁ……、やっぱり黒髪が増えても目立つんだよなぁ」


 彼はそう、疲れたように呟いた。

 確かに彼らが姿を消してからというもの、この大陸には驚く程に黒髪が増えた。

 けれども強者というのは基本的に(・・・・)素人目にも風格を感じさせるものである。この世界に来てからおおよそ一年。久瀬たちもまた、その強者の一員に入りつつあった。

 そのためか、やはり久瀬たちのパーティは目立ちに目立っており、今も冒険者ギルドの中はヒソヒソ声のオンパレード。そんな状況に置かれれば疲れるのは当然である。


「久瀬くんがそんな服着てるからだと思うんだけど……」

「私もそう思うにゃー」

「同感ね」


 けれども久瀬の言葉にそう言葉を返す者が三名。

 お下げ髪にメガネの古里(こざと)愛紗(あいさ)

 黒髪短髪のシーフ、猫又(ねこまた)(たえ)

 高身長の魔法使い、町田(まちだ)京子(きょうこ)の三名である。

 というのも、久瀬が和の国で

『なんだこれ!? 着流しって奴か!? カッコイイじゃん買おうぜ! な!?』

 とか言い出して、わざわざ黒い着流しに、加えて『彼』をイメージしたのか青い(・・)マフラーまで買い始めたのだ。

 そんなに目立つ格好をしていれば、黒髪以外の部分で『久瀬竜馬』という人物のイメージが決まってしまい、どんなに黒髪が増えようと、彼が黒髪でその服を着ている以上、目立つのは当たり前の事である。


「けどよぉー、この服かっこいいじゃねぇか。なぁ?」

「僕には分かりかねますが、久瀬君がいいのならいいのではないですか?」

「俺はよく分からないっすね。けど防御力的には最悪なんじゃないっすか?」


 女性たちの言葉にそう拗ねたように呟く久瀬。

 久瀬パーティの参謀役兼、副リーダー、御厨(みくりや)友樹(ともき)と、大盾使いの聖騎士、花田(はなだ)京介(きょうすけ)がそれに言葉を返す。少なくとも肯定的でないのは確かであろう。


「そうね、心臓を潰されようが存命し、回復する化け物でも無いのだから、その着流しの他に防具の一つや二つ、つけといた方がいいんじゃないかしら?」

「いや、流石にアレとは比べないでくれない?」


 京子の言葉にそう返す久瀬。

 たしかに彼も強くなってきている。

 けれども『彼』と比べるとその実力が劣っているのは確かなことである。強さ然り、回復力然り、武具然り。

 それは彼とて数ヶ月前のあの映像を見て確信しており、あの時点から比べても自身が成長しているのは確かなことだが、あの男がその間にどれだけ強くなっているのか……。正直、想像もできやしない。


(……まぁ、俺らは俺らで頑張ってくしかねぇんだがな)


 久瀬はそう内心で呟いて、


「……あれ? 優香ちゃん、どこいったのかな?」


 その声に、彼の直感が嫌な警報を鳴らし出した。

 ──小鳥遊(たかなし)優香(ゆうか)

 久瀬と愛紗の幼なじみであり、考えるよりも先に行動し始める超脳筋の問題児である。

 その純粋な戦闘力は久瀬にも勝るとも劣らない。そのため戦闘時にはかなり頼れる存在なのだが⋯⋯、


「クソッ、なんでアイツすぐ消えるんだよッ!」

「小鳥遊さんは必ず問題を引き起こしますからね。出来れば他パーティに引き取ってもらいたかったところです」

「うーん……、優香には悪いけど同感だにゃー」


 酷い言い草である。

 だがしかし、彼女の問題児っぷりは彼の問題児しかいないクランのソレすらを上回っており、


「……あら? 向こうから大量の荷物背負って歩いてくる子、もしかして優香じゃないかしら?」

「今金欠だって俺言ったよな!?」


 久瀬は、絶望感に打ちひしがれた。




 ☆☆☆




 その一週間後。

 乗合馬車に乗り込んだ久瀬パーティは、岩国バラグリムのとグランズ帝国の国境線。

 そこに位置する関所まで到着していた。


「検閲かぁ……、あんまし検閲検閲言ってる国に入ったことねぇよな。確か」

「そうですね。和の国は黒髪だったため検閲などは一切なかったですからね」


 そう、何気に検閲を受けるのは久瀬達にとっては初めてのことであった。

 実際には召喚された異世界人ほぼ全員で聖国から帝国へと移動した際、検閲という名の金の徴収を受けたのだが、アレは人族で金さえあれば誰でも通れるものであった。

 だからこそ久瀬は初めてのことに多少の不安を覚えつつも、それ以上に興味を抱いて……、



「ひっ、人よッ!? 荷馬車の中に人が倒れてるわっ!?」



 その意味不明の叫び声に、思わず目を見開いた。


「荷馬車の中に人が倒れてる……? なぁアンタ、そういうことって良くあるのか?」

「よくあるも何も、そんなの常識的にあるわけね⋯⋯ってあれ? よく見たらあんたクゼ・タツマじゃないか?」

「お、おう……そうだよな」


 久瀬は困惑した。

 確かに自分の中の常識で考えると荷馬車の中に知らない人間が倒れているなどおかしいにも程がある。

 にもかかわらず、実際にソレが起きている。

 となれば──


「なーにか、嫌な予感がすんだよなぁ」


 ──それと同じくらい、見逃しちゃいけない気も。


 久瀬は内心でそう呟いて馬車を降りる。

 それに少し驚きながら他の面々も御者の人に一言断ってから馬車を降りる。

 声の上がる方向や付近の人たちが見つめている方向を頼りにそちらへと進み出すと、その先の、今ちょうど検問中の馬車へとたどり着いた。


「なんかあったんですか?」


 久瀬はそう話しかけた。

 それには検問の土精族の騎士も怪訝な顔で振り返ったが、久瀬のその髪と、その姿を見て目を見開いた。


「あ、アンタまさか……ッ!? い、いや、何でもねぇ。検問に当たってる騎士としては必要なこと以外は何も言わねぇ、聞かねぇ道理だわな」


 そう言って数度深呼吸をするその騎士。

 それには久瀬も少し驚いた。ラノベなどでは、何も考えずに名前を言い広めて喧騒を広める無能検問官がたまに登場してくる。どうやら彼は有能な検閲官だと言うことらしい。

 彼は困ったように頭をかくと、何も言わず、顎をクイッとその馬車の方へと向けた。

 それは自らの口からは何も言えない、ということにほかならず、それを察した久瀬は軽く頭を下げてその馬車へと向かって行った。


「なーんで俺、こんなにめんどくさそうなことしてんだろうなぁ」


 彼はそう呟いた。

 確かに久瀬はお約束は守ってきたし、面白い出来事ならば進んで首を突っ込みたがる。

 けれども面倒ごとは苦手であり、本来ならばこんな案件は無視して通り過ぎるところ。

 けれども彼がここまで首を突っ込んだのは、



「ちょいと失礼…………って、おい。この娘(・・・)すんごい見覚えあるんだけど」



 久瀬は、その馬車の中で眠りこけているその少女に、見覚えがありすぎた。

 その声にその少女は「ううっ」と声を上げ、目を擦りながらも上体を起こす。

 肩まで伸びる白色の髪に、その両の瞳は綺麗な青色。

 その日本人離れした(・・・・・・・)容姿は、かつて久瀬の友人の住んでいたアパートでごく稀に見かけた少女のソレであり⋯⋯、



「凛ちゃん……、もしかしなくても銀の妹だよな?」

「……あれ、もしかしなくても、久瀬竜馬?」



 そこに居たのは、ギン=クラッシュベルの義理の妹であった。

やっと登場妹ちゃん!

まだまだ兄との再会までは長いですが、

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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