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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第六章 聖国編
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閑話 聖女との対談

 その日。

 僕と聖女は僕の部屋で向かい合っていた。

 というのも、僕は彼女へと色々と聞いてみたい。彼女は僕を怒らせて殺してもらいたい。その両方の利害が一致したことにより、僕らはちょっとした対談をすることになったのだった。

 のだが、


「アナタ、一体いつになったら私を殺してくれるのかしら? もしかして『ぐへへへ、おではその身体が目当てでなぁ。お前を○○○して○○を○○○、お前をおで○○の○○○に○○○るまでは殺せね──』」

「⋯⋯もう何言ってるかわかんねぇよ」


 僕は「あらそう?」と言ってくる聖女へと呆れたような視線を向けた。

 そもそも僕の一人称は『おで』ではないし、悪堕ち聖女の身体など目当てでもなんでもない。

 それに何より──


「お前、たぶん僕と同じくらいに人を騙すの、得意だろ」


 ──正確には演技力と言うべきか。


 聖女はその言葉を聞いて初めてピクリと反応した。

 けれどもその反応すら演技の可能性が出てくるのがこの悪堕ち聖女であり、



「さぁ、色々と話し合おうじゃないか、ミリアンヌ」



 僕はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべた。




 ☆☆☆




 なぜ僕が──彼女の演技力に気がついたのか。


 そう聞かれて一番最初に思い浮かべるのは、四大会議が行われたあの場での彼女である。

 あの時、僕は彼女が『狂った正義を振りかざしている自己中なクソ聖女』にしか思えなかった。

 だからこそ自信満々で事を進めたし、かなりドヤっていた記憶もある。


 けれどもその考えは、あの大聖堂で初めて彼女を見た時──木っ端微塵に打ち砕かれた。


 あの時彼女は死を疑ってすらいなかった。

 だからこそ死を目前に『素』が表層まで現れ、僕に真実を気づかせてしまった。

 彼女が狂った聖女ではなく、壊れた聖女だということに。

 聖国と僕らとの戦争を望んでいたのは彼女であり、それこそ僕という存在の名を聞くと同時にその可能性に思い至り、大進行を食い止めたと聞くや否や挑発をし始めた。

 そしてそれでも効果はないと分かったため、彼女は『本物の使徒』たちによって作り上げられた改造人間(フカシ)に経験値を積ませ始め、そして、僕が至ってきた道全てを、そうなるように導いてきた。


「まったくお前は⋯⋯。プライバシー故に見はしないが、お前のステータスにもあるんじゃないのか? 件の『知性の化物』ってやつ」

「さぁー? 私、ステータスなんて見たことないから分からないわ?」

「嘘つけこの野郎」


 僕は敢えてわかりやすく嘘をついてきた聖女へと即答した。

 間違いない。この女は僕や恭香、浦町に並ぶ頭脳派だ。

 その上で僕すら騙しうるその演技力も相まって、結果としてとてつもなく厄介な怪物と化している。

 もしも万が一、彼女が内心で「執行機関を内側から滅ぼしてやる」とか思ってた日にはかなりやばい事になるだろう。そうでないことを祈りたい。つい先日死んだ呪眼神に祈ってもいい。

 けれども、


「お前、ほんとに死ぬこと以外興味無いだろ」

「何を今更」


 即答だった。

 彼女はその半ば光の消えた瞳で、何を思うでもなく、なんの感情が浮かぶでもないその顔で、じっと僕の方向を向いていた。

 けれどもきっとその視界には僕は映っていないだろう。

 それこそ、彼女の見ている世界は彼女にしか分からないもので、僕は間違っても、それを現実逃避とは言えなかった。


 ──否、言いたくなかった。


(辛いことなんでいくらでもある。それに対して一々『現実を見ろ』だの『逃げるな』ーだの言うのは、その人の痛みや辛さを理解しようともしないクズの言うことだ。まぁ、例外はあるだろうけど)


 内心で僕はそう呟くと、彼女のその虚ろな瞳をしっかりと覗き込んだ。

 すると何を察したか頭脳派ミリアンヌ。


「あら、もしかしてアナタ、私のコレ(・・)を治そうとでも思っているのかしら? だとしたら思い上がりも甚だしいわ。アナタは何でもかんでも情に訴えればなんとかなると思ってる、俗に言うご都合主義者の主人公かしら?」

「そんな訳ないだろうが⋯⋯」

「そうよね、そんなに痛々しくて腹立たしい奴になんか、いくら死にたくても付いていくつもり無いわ」


 そう言って彼女はほっと一息つく。

 そしてそれを見た僕は、思わず内心で驚愕した。

 その仕草には今までのソレとは少し違った『自然さ』が滲み出ており、それはあの時──大聖堂で見た時の彼女の雰囲気に酷似していた。

 それはせいぜい、テストの回答時に確実に正解だと断言できるか、なにか違和感や引っかかるものを覚えるか程度の、それこそ極僅か、本能の部分でしか察することの出来ない小さな違いではあるが、


(なるほど⋯⋯、やっぱりそういう事か)


 悪いが僕の方が、一、二枚ほど上手だったようだ。


「なぁ、聖女⋯⋯じゃなかった、ミリアンヌ」

「あぁ、神よ、忌々しい吸血鬼に名を呼ばれるという愚行をお許しください。もしも私に力があればこの男に攻撃し、紙一重のところで殺されるのですが⋯⋯」

「⋯⋯お前、茶化さないとやっていけないのか?」


 思わずその言葉にがくりと肩を下げてしまった僕だったが、コホンコホンと数度わざとらしい咳をしてその弛緩した空気を断つと、



「なぁ、お前の過去って、教えてもらってもいいか?」



 ──ビクッ!

 その言葉を聞いた彼女は目に見えて身に纏う空気を変質させた。

 その身体中から感じられ始めたのは、彼女を持ってしても隠しきれない負の感情。

 絶望、失望、悲哀、憤怒──そしてそれら全てを塗り潰すほど大きな、虚無感。


「いいわよ、アナタが私の過去を聞いて、今と全く同じように私に接することが出来るのか、少し興味が湧いてきたわ」


 その言葉からは、興味という感情は微塵も感じられなかった。

 そこからは傍から見ているだけの僕でさえ塗りつぶしてしまいそうな虚無感しか感じられず、僕は内心で冷や汗をかいた。

 彼女はそれを知ってか知らずか、その顔にニヤリと、凄惨で、薄っぺらく、そして何よりも痛々しい笑みを浮かべ、



「アナタ、自分よりも大切な友人に、殺してやる。そう宣言されたことはあるかしら?」



 その言葉を皮切りに、そのドス暗くて、儚い希望と絶対の絶望の入り交じった、その半生を語り出した。




 ☆☆☆




「うぉぅふ⋯⋯」


 十数分後、僕は机に頭を押し付けて撃沈していた。

 いやね、僕もかなりやばい過去なんだろうなぁ、とは思っていたし、最初のあの一言で予想よりもまだやばいんだろうと想像はしていたけど、


「けど、アレだな。本人の口からそこまでリアリティのある生々しい話を聞かされると⋯⋯、うん、撃沈しない奴なんて居ないだろ」

「⋯⋯⋯⋯」


 僕は無言の聖女に何か違和感を感じながらも、少し考えてみることにした。

 もしも僕の立場に僕の知り合いが居たとしたら。


 ──ここに居るのが、恭香だった場合。

『えっと、うん、普通に知ってたけど⋯⋯』

 ──ここに居るのが、エロースだった場合。

『よく分かんないけど、ミリーちゃん、ゲームして遊ぼー!』

 ──ここに居るのが、久瀬だった場合。

『ちょっと待て、そんなヘビィな話俺に聞かせるなよ!? 俺は簡単に答えが導き出せるほど賢くないしな⋯⋯。とりあえず、一緒に考えてみようぜ?』

 ──ここに居るのが、父さんだった場合。

『はっはっはー! やばいねそれ! 僕も息子に陥れられてぶち殺されかけたんだけど、それに負けず劣らずやっばいね!』


 そこまで考えたところで、実際にまともに答えてやってるのが久瀬だけだってことに気がついた。

 さっすが久瀬くん。『一緒に考えてみようぜ』なんて、如何にも主人公が「にししっ」と笑いながら言いそうなセリフではないか。そんなクッサい小説(ラノベ)ありそうだ。

 そんなことを考えながらも、僕はこうも考える。

 ここに居るのは恭香じゃない。エロースでも、久瀬でも、ましてや父さんでもない──僕自身だ。


 ならば──僕が、僕だけが彼女へと送れる言葉とは、一体何なのであろうか? と。


 そう考えて唸っていると、今まで黙っていたミリアンヌが、驚いたようにポツリと言葉を零した。


「アナタ⋯⋯、なんで、なんでこんな話を聞いて、そんなに平気そうにしていられるの?」


 その言葉を聞いて、僕は思わず首を傾げた。


「⋯⋯は? いや、ちゃんと『やばい』って言ったろうに。凄いなお前、僕だったらその時点で自殺してるかもな」

「⋯⋯ええ、そう。そうよね」


 そう、まるで自分に(・・・・・・)言い聞かせるように(・・・・・・・・・)呟くミリアンヌ。

 それ(・・)を見た僕はその言葉に少し疑問を覚えた。

 それについて考えたり探ってみたい気持ちに駆られたが、それはきっと彼女にはすぐバレるだろう。

 だからこそ僕は、



「ミリアンヌさ、もしかして他人から死ぬ許可をもらいたいだけなんじゃないの?」



 そう、単刀直入に聞いてみることにした。

 その言葉に彼女はその動きを停止し、何故か、彼女を覆っていたその『悪堕ち聖女』という外骨格にヒビが入った様子が想像できた。


「まず最初の『ご都合主義の主人公には死んでもついて行きたくない』って意味合いのセリフ。生を望んでいない奴がそんなことを思うわけがない」


 さらに、


「続いてさっきの言葉。お前『僕だったら自殺してるかもな』ってセリフと、僕からの素直な賞賛。アレにちょっと笑ってたろ」


 そう、先程の彼女は確かに笑みを浮かべていた。

 それはまるで『自分はよくやった、頑張ったんだ』と認められて喜んでいるようにも見えたし、



「『ならもう死んでもいいよね』って、他人の言葉を自殺の理由に出来るって、そう安心しているようにしか見えなかった」



 その言葉に、時が止まったように固まっていた彼女が、やっと動き出した。

 彼女は少しだけ、ほんの少しだけ光の戻ったその瞳を僕へと向けており、その顔には、まるで悪いことを言い当てられたかのような、何かを恐れている子供のような表情が浮かんでいた。

 その顔に少し怯んでしまいそうになる僕。

 けれども、もしもここで言わなければ、ここを乗り切らなければ、彼女はいつまで経っても──他人に死を求め続ける。

 だからこそ、僕は誤魔化すことなく、こう告げるのだ。



「お前は、誰かに認めてもらいたかったんだろう。自分の努力、友人たちの勘違い、自分の絶望、そして自分の人生を。で、結局誰にも話すことが出来なくて、今度は死にたいと思うようになった。そして最後に、死の理由まで他人に求めるようになった」



 きっと、彼女は否定するだろう。

 今まですがり付いていた『死にたい』という感情すら粉々に打ち砕かれたのならば、あとはその言葉を否定するしかない。

『見事な想像ね』だとか『馬鹿馬鹿しい』だとか『意味がわからない』だとか。

 だからこそ、僕はその否定すら想定して、こう告げよう。



「僕は絶対にお前を殺さないし、死なせない。けど、お前の努力も、絶望も、人生も、全てを認めてる。お前は友達を助けるために頑張った。誰がどう思おうが、なんと言おうが、それだけは僕が胸を張って認めてやる」



 なかなかどうして久瀬(仮)にも負けない、クッサいセリフだな。

 そう内心で思った。




 ☆☆☆




「馬鹿ね、結局アナタはご都合主義の主人公タイプなのかしら? まぁ? 私からすればアナタなんてどっちにしろ興味の無い、例えるなら路上のゴミと同位の存在なのだけれど」


 そうミリアンヌから返答があったのは、翌日(・・)の事であった。

 あの後ミリアンヌは完全に固まってしまい、彼女の前で手を振っても反応はなく、軽く肩を揺すってやると、


『はっ!? お、おお神よ! 危うく騙されるところでしたッ!』


 とか大声で叫びながら部屋から飛び出して行ったのだった。

 その奇行には僕も思わず首を傾げ『クサすぎたか?』などと思ってしまったが、この顔を見れば彼女が今まで何をしていたかは明らかであろう。

 目の下にくっきりと残るクマと、赤く腫れたその目の周り。

 そして、いつもとは雰囲気の違う、言うなれば下手っピな演技とでも言うのだろうか?

 まぁ、兎にも角にも、


「なんだ? もしかして僕のウルトラパーフェクトに図星をついたあの言葉に感動して泣いてたのか? それとも僕にいう返⋯⋯ぶふぁっ!?」

「うるさい!!」


 殴られた。

 まぁ? 確かにちょっと調子乗った感は否めないが、だからといっていきなり殴ることはないだろう。

 今までだって僕を怒らせたい割に、一度として殴る蹴るなんかの強行手段は取らなかったくせに。

 僕は頬を擦りながら起き上がると、真っ赤になって息を荒らげているミリアンヌへと視線を向ける。

 すると彼女は、いつものようにぷいっとそっぽを向くと、



「ま、まぁ、初めて言われた言葉だったから新鮮ではあったわ。一応の礼として、私のことを『ミリー』と呼ぶこと、アナタにだけは快く許してさせあげましょう」



 結論。

 元聖女ミリアンヌ、現ミリーは、ただの可愛いツンデレ娘であった。


とうとうツンデレが⋯⋯ッ!

次回『ギンの決意』です。

ここで大きな区切りとなります。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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