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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第六章 聖国編
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閑話 命名と末路

 その翌日。

 僕ら執行機関のメンバーは居間へと集合していた。

 そして視線の先には、今回の議題たるケリュネイア。

 僕は彼女を見つめる。

 そして──


「これより、この変態の命名会を始めたいと思います」

「「「「「おー」」」」」

「反応が薄いぞ!?」


 ケリュネイアの、悲痛にまみれた叫び声が響いた。




 ☆☆☆




 毎度おなじみ、命名コーナー。

 最初の白夜から始まり、輝夜、暁穂と今まで何度かあったが、僕は少しばかり思うところがあったのだ。

 それは、


「なんで従魔の中で、レオンだけカタカナなの?」


 ということである。

 正直漢字もカタカナも分からない異世界人に言っても意味ねぇだろ、と言った感じだが、やっぱり気になるものは気になるのである。

 ならばいっその事玲音(レオン)とか獅園(レオン)とかに改名してもらおうかとも思ったが、読み方が同じならば意味もないだろう。

 ということで、僕は『次に従魔が仲間になった時にはカタカナの名前にしてやろう』と思って、事前に名前を考えていたのだが──


「お前みたいなくそ変態野郎にあの名前は勿体無い」

「少し余の扱い酷くないか!?」


 ケリュネイアはそう叫んだ。

 けれども彼女はそう言われても文句の言えない言動の数々をしてきているのだ。

 例えば⋯⋯


「そのよく分からん輪廻転生願望を嬉しそうに話したり、毎晩毎晩僕の部屋の扉を壊して夜這いに来たり、果ては他人の変態を吸収したり⋯⋯お前はそう言われても仕方ないと思うぞ?」

「何故じゃ!? 余は生きたいように生きているだけだぞ! それに関してはたとえ相手が主人様といえど変えるつもりはない!」

「無駄にカッコイイセリフを吐くな!」


 僕がケリュネイアにそう心労にまみれた叫び声をあげると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。


「あら、一応言っておくけれど、アナタみたいなブ男、彼女のような美人に迫られるなんて奇跡みたいなものなのよ? 大人しく童貞なんて捨ててしまいなさい。童貞くさくて仕方ないわ。臭すぎて童貞が移りそう」

「う、うるさいな! そこにも童貞二匹居るだろうが! あと女に童貞が移るか!」

「うるさいわね、アナタが一番臭いのよ。このブ男」

「そこまで僕ってブサイクじゃないよね!?」


 酷い悪堕ち聖女が仲間になったものである。

 僕はさり気なく精神力を削ってくるミリアンヌにそう叫び声をあげると、隣に座っていた恭香が僕の肩にポンと手を置いた。


「大丈夫、ギンはそこまでじゃないよ。数年もしたらきっとイケメンになってるって」

「そ、そうか⋯⋯っておい、人の顔の骨格って数年で変わるわけないよね?」

「⋯⋯⋯⋯」

「黙らないでくれる!?」


 もしやコイツら、同盟でも組んで僕の精神を壊そうとしているのではないだろうか? あまりにも酷すぎる。

 僕はため息を吐きながら背もたれへと体重を乗せると、何故か僕達の会話を楽しそうに聞いているケリュネイアへと視線を向けた。


「まぁ、僕としてもお前に命を救われたわけだしな。本音を言うとすれば『エロースがもう一匹かぁ⋯⋯』って感じだが、クランに入れること自体はやぶさかじゃない」

「ねぇ? なんで今私に口撃飛んできたの?」


 僕はエロースの言葉を完全に無視すると、僕は次の従魔が女性だった場合につけようと思っていた名前、その意味について語り出す。


「その名前はどっかの宗教か何かで『神の叡智』とかいう意味を持つ言葉で、僕は次こそはまともな人物が入ってきてほしいな、っていう意味を込めてこの名前を考えたんだけど⋯⋯」


 目の前にいるのは、期待に目をキラキラと輝かせてこちらを見つめてくるケリュネイア。

 その性癖と頭の固ささえ無ければ少し大胆で優しそうな女騎士さんなのだが、その二つが合わさってとんでもない化物が誕生してしまっている。

 だからこそ、僕は皆へと意見を聞こうとして、


「余は、主人様に名を付けて貰いたい」


 その真剣味に溢れる言葉に、僕は思わず目を剥いた。

 ケリュネイアは先程までとは変わってキリッとした表情を浮かべており、彼女はその瞳を真っ直ぐ僕へと向けて口を開く。


「余は、ずっと一人だった。大昔は他のケリュネイアも居たのだが、それも遥か太古の話じゃ。だから、余は主人様たちとの会話が楽しくてしょうがない。それがどんなに些細なことでも、な。心から信用できる主人が──生命を奪おうとしてきた者すら救ってしまうような、そんな優しい主人様がそばに居るということに、心の底から安堵し、歓喜しておるのだ」


 ──だから、

 彼女はそう言って、僕へと黙って頭を下げた。


「余は、命を救ってくれた借りは一生忘れん。主人様か余のどちらかが死ぬまで仕え続けよう。だからこそ、余の後にも先にも一つしかないであろうその名は、余が心から仕えようと思った貴方に付けてもらいたい」


 その言葉と同時に僕へと集まる視線。

 それらの視線は言外に「ここまで言ってるんだから⋯⋯」と言っているようなものであり、僕はボリボリと頭をかくと、左手を彼女へと向ける。


「『テイム』」


 瞬間、彼女の身体が光り輝く。

 今の僕のステータスの高さに加え、彼女自身がテイムを望むことによって百パーセントの確率へと変たそれは間違うことなく成功し、僕は彼女へとその名を告げた。



「命名、今日からお前の名前は『ソフィア』だ」



 ──どうかソフィアが、いつかその名に相応しい存在になってほしいと、そう願って。




 ☆☆☆




 一方その頃、つい先日まで聖国として賑わっていた国の、その首都だった場所にて。


「イテテテテ⋯⋯、ったくよォ、あんのクソ野郎、もうちょっと手加減しろってんだよ」


 そこには、かつてその国に囚われていた改造人間、アルファの姿があった、

 彼はつい先日ギンに切られた傷をさすりながら、町中を歩いてゆく。


 あの後、聖女がどうなるにしろ、案外早くギンが戻ってくるだろうと分かっていたアルファは、ゼロたちの肩を借りて大聖堂の外まで移動し、近場の宿に入って身を休めていた。

 すると案の定ギンたちはかなり早い段階で大聖堂を出てきたはいいのだが、なんと予想外なことに聖国が自然解体し始めたのだ。

 宿の店主は『アンタ、勇者に騙されて執行者と戦ってた奴だろう? 俺はもうここを離れるが、宿は好きに使っていいぜ』と言い残して荷物をまとめて去ってゆき、他の国民たちも次第にその後を追い、三日目の朝にはその街からは人の気配が消え失せていた。

 まぁ、それをいいことにアルファたちは傷がある程度癒えるまでこの街に滞在することにし、現状、小腹が減ったアルファがなにか食べられるものがないか街を散策していたわけだったが──


「ん? ありゃァ⋯⋯なんだ?」


 アルファは、その超視力がかなり向こうの広場に転がっている何かを見つけた。

 大きさは人間と同じくらい。まるで芋虫のようにモゾモゾと動き続けており、動きを見た感じだとかなり衰弱しているようにも思える。

 それを見てしばらく考えたアルファは「うへぇ」と顔を顰めてしまう。


「もしかしてアレか、人がいないことをいいことに脱走した罪人とかか? んで、食いもんが無くて野垂れ死にかけてる。⋯⋯なら俺が今ここにいる理由皆無じゃねぇか」


 そう、もしもアルファの仮説が正しければその囚人はここら辺一帯を探し回ったはず。彼はギン以上の『超直感』を持っているからこそ見つけられる可能性はあるが、もしも見つけられたとしてもごく少量だろう。三人の家族(・・・・・)と、今現在こちらへと向かってきているらしい二人の仲間に行き渡るほどではない。

 アルファはため息を吐くと、無いよりはマシだろうとそちらへと足を向けて──



「⋯⋯⋯⋯あっ」



 その転がっている男の正体に、気がついた。

 衰弱し、痩せこけたその頬。顔面に残っている、その物理的に身に覚えのある拳の跡。そしてくすんだ金髪。

 手足を縄で縛られており、衣服はすべて剥がれている。

 身体中には石をぶつけられたのか打撃跡が残っており、その痛々しい顔面と相まってかなり無残な状態になっている。

 かつてのイケメン金髪とは思えないその状態にアルファは思わず苦笑いを浮かべながら、その男へと話しかける。


「なんだ、アンタ聖国の勇者さまじゃねェか?」


 その言葉に、ビクリと反応するその男。

 彼は閉じきっていたその薄い瞼を開け、アルファの顔を見て目を見開いた。


「お、おお、お前は⋯⋯、み、ミリアンヌの⋯⋯」

「⋯⋯ミリアンヌぅ? あぁ、あの聖女ちゃんか。たしかそんなに名前だった気がしないでもないな」


 アルファはそう言いながらも彼の手足の縄を切ってやる。物理こそ至高主義の彼だってナイフの一つくらいは常備しているのだ。


「た、助けて⋯⋯くれるのか?」


 男はかつて見下していたアルファへとそう問いかける。

 彼はその数日間、ずっとこの広場に放置されていたのだ。聖国は最南に位置しているため他の国よりも暖かいが、それでも秋は肌寒い。

 そんな状況で手当もされず、人もいない状態で放置されてきた男にとって、アルファはさぞかし明るい光に見えたであろう。

 けれども──


「あァ? 助けるわけねぇだろ、馬鹿じゃねぇの?」


 アルファは顔を歪めて、そう吐き捨てた。

 その言葉には男も口を開いて愕然とし、ただ何をするでもなくアルファの言葉を聞いていた。


「お前が生きてるってことは、アイツ(・・・)が生かしておいた、ってことだろうが。ならこんな所で餓死なんてさせてたまるかってんだ」


 そう言って彼は腰の鞘へとナイフを仕舞うと、男に踵を向けて歩き出した。

 向かう先は直感の赴くままに決める。そうすればきっとお目当てに行き着くことだろう。

 アルファはそう考えて歩き出し──自らの袖を掴んできた、その男を蹴飛ばした。


「邪魔。テメェは俺を見下してた代表格だろうが。聖女ちゃんに話しかけられたのを見て、その腹いせに殴りかかってきたのは誰だ? 黙って殴られてる俺を見て鼻で笑ったのは誰だ? お前だろ。ならこういう時だけ甘えんなよ(・・・・・)餓鬼が(・・・)


 そう言って彼は地に伏すその男を見て、鼻で笑ってやる。

 それはかつて男がアルファにやった行動そのものであり、アルファはあえて、そこで彼の言葉を使用した。

 アルファは今度こそ直感の導く方へと歩き出し、けれども数歩歩いたところで立ち止まり、絶望色に染まったその瞳を向けてくる男──水井幸之助へと、こう告げた。



「なんでアイツがお前を生かしておいたか。答えは単純明快、興味の欠片もなかったからだ」



 再び歩き出したアルファの背後から、嗚咽の混じった叫び声が上がった。



水井くんの今後は作者も分かりません。

あのままのたれ死んだのか、はたまた生き延びたのか。

まぁ、いずれにせよ待っているのは地獄ですがね。

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