第30話
作戦会議中。
およそ数100年前、とある昔話が誕生したという。
昔々、ある場所にとても大きな大陸がありました。
その大きな大陸に住む人たちはとても傲慢でした。
近くにある大陸へと船を出しては戦力と武力を用いて占領して回ったのです。そしてその数年後、既にその大陸は幾つもの大陸を植民地としていました。
しかし、そんな中、その大陸でさえ手を出しかねていた場所があったのです。その場所は大昔に神々が1体の魔物を封印したとされる神殿でした。しかし、その造りはまさに神が作りしものとしか言いようがないほど美しく、その傲慢な大陸の人々が目を付けないわけが無かったのです。
「なぜあの場所が私たちのものではないのか」
「あの場所は我らの物であるべきだ」
「俺らが有効活用した方が良いに決まっている」
そんな傲慢なことを考えた人々は、とうとうその場所に手を伸ばしてしまいました。神々がたった1体の魔物を封印した理由もさして考えることなく。
そしてその1週間後、その大陸は滅びました。
それもたった1体の魔物の手によって。
その魔物の名はナイトメア・ロード
昔話の内容だけでギルドが付けたそのランクは....
『SSSランクっ......』
「はぁっ!? Sランクじゃなかったの!?」
「こ、こやつはッッ!?」
「!? 白夜、知っているのか...?」
「あ、あぁ、もちろんじゃ、こやつが封印を解かれた際、妾もそこに居合せたからのう......こやつの姿を見た瞬間、この妾でさえ脇目もふらずに逃げたもんじゃ」
近海を完全に支配できる程の武力を持つ大陸全土を1週間足らずで滅ぼすほどの危険性を持つ化け物。白夜もその時の判断が少しでも遅れていれば、恐らくその場で死んでいただろう。
その化け物がこのダンジョンのボスなのだ。
「こ、これは逃げた方が得策だったか...?」
そんな事を言っては見たが状況が変わるわけでもなく。
まるで僕の言葉が合図になったかのように隷属された魔物たちが一斉に襲いかかってきたのだった。
☆☆☆
「白夜! 1度下がって!」
「分かったのじゃっ!」
僕は白夜が僕の後ろに下がったのを確認すると、全魔力の大半を使って新しい魔法を唱えた。
「『百鬼夜行』ッッ!!」
百鬼夜行。
影魔法Lv.3、複数の鬼を召喚する魔法だ。
何だかんだ言いながらも今までは使う機会のなかった魔法である。この魔法は魔力を込めれば込めるほどにその鬼の数と強さはねずみ算的に増加してゆく。今回込めた魔力はおよそ30000だ。恐らくは1体1体がSランクの強さを持つ鬼たちがおよそ1000体。
うん、それだけ居れば流石のこの群れでも倒し切れるだろう。
だが、問題は......
「ナイトメア・ロードか......」
ナイトメア・ロード。
一言で言うならば眼窩に蒼い炎を宿した骸骨、だろうか。その骸骨が大きな鎌を片手に持ち、ボロボロの黒いローブを羽織っている。外見だけならスケルトンというEランクの魔物にも見えなくもないだろうが、熟練の冒険者ならばそうは思わない。何故ならば、
『魔力量が桁違いだね......』
コイツは魔力量が僕よりも多いのだ。身体の周囲を漂っている魔力の残滓が目視できるなど、本当に馬鹿げてるとしか言いようがない。僕も他の人から見たらこうなっているんだろうか?
けれど、コイツの1番厄介な所はそこではない。
コイツは僕とは違い、魔法攻撃力が魔力量に追いついている、という事だ。つまりは僕と同じ魔法を同じ魔力量で使ったとしても、それらには圧倒的な威力差があるのだ。その上、器用さまで30000を超えているなど、本当に『悪夢』の名に相応しい魔物だろう。
「厄介極まりないな......」
「他のAAA達は主様の鬼に任せるとして、こやつは2人で挑まんとまるで勝負にならんぞ...」
「はぁ、突如潜在能力に目覚めたりでもしないかな」
『いや、戦闘中は経験値入らないから無理だよ?』
「「だよねぇ...」」
やっぱり僕は物語の主人公みたいにはなれないだろう。
種族に恵まれていても、出会うのは格上ばかりだ。
彼らのように強敵相手に地力で勝つのはまず不可能。
だからこそ、僕は考える。どうすれば勝てるか、と。
覚醒も、相手のミスも、神の助けだって求めない。
考えて、考えて、作戦を練って、
そしてコイツだって倒してやるっ!
☆☆☆
僕たちは作戦を練るために、1度、影の中に潜り込んでいた。
『あんな啖呵切っておいて、すぐ逃げ帰るとは......マスターもかっこ悪いねぇ』
くっ、仕方ないだろっ! あいつは今までみたいな簡単な作戦じゃ倒せそうにないんだからさっ......
「それにしてもどうするのじゃ? 本気の妾と主様でも勝てるか分からんような相手じゃぞ?」
今現在、ナイトメア・ロードは地上で僕たちを捜索している。
アイツ自身も僕たちが格下だと分かっているが、それでも鬼を相手にする隙を突いて襲いかかられるのはまずいと分かっているのだろう。鬼と隷属魔物との戦いは完全に傍観に徹している。
まぁ、これであいつの配下は全滅できそうなのだし、良かったと思うことにしよう。
ん? でも、確かに史上最強の相手には変わりないが、それでも僕と白夜が作戦を練って行動すれば何とかなるんじゃないだろうか?
白夜がいることの安心感で思わず軽い気持ちになってしまった僕だったが、
『いや、多分2人では荷が重いと思うよ?』
という恭香の声で何とか気を引き締め直す。
「うむ? どういう事じゃ? 妾たち2人ならばせいぜい互角と言ったところじゃろう?」
『いや、2人とも肝心なことを忘れてるよ......』
ナイトメア・ロード。
奴の称号『悪夢』。
大陸を1週間で滅ぼした能力。
そして、奴のスキル...
『マスターと白夜ちゃん2人では、ナイトメア・ロードのユニークスキル、"悪夢の世界" は絶対に破れないよ』
理の教本が、そう、断言したのだった。
☆☆☆
『正確には白夜ちゃんに関しては不可能って意味なんだけれど』
そう言って恭香は語りはじめた。
『"悪夢の世界"。日本なら、"悪夢の世界"とでも言うのかな? まぁ、それはともかくとして、その能力を一言で言い表すなら、"自らの世界を作り上げる" という事に他ならない。超多量の魔力を使用して結界を作り、その内部を外界から完全に遮断。そしてその内部に更に大量の魔力で自らの世界を構築。正直、MP,INT,DEXに恵まれたナイトメア・ロードならではのスキルだね』
どっかで聞いたことのある内容だな...
『ナイトメア・ロードはその世界の中ではまさに最強と言ってもいいんだろうね。"悪夢"の名を冠するだけはあって、その世界の中ではありとあらゆる幻覚、幻聴、等々の五感の全てを騙して来るからね。これは耐性が無ければ上級神でもくらっちゃまずいスキルなんだよ? 本当は』
本当は、という言葉を付け加えたのは、恭香が言った最初の言葉に関係するのだろうか。
『うん、もちろんだよ。基本的にはナイトメア・ロードも幻覚系の世界を構築してくると思うんだ。今の今までこの世界を使って倒せなかった生命は神だけだからね。だけどね、吸血鬼は別なんだよ。多分だけど上位種の真祖、つまりはマスターと同クラスともなると幻覚、幻惑の類は一切効かないと思う』
は? 僕って幻覚無効とかのスキルは持ってないぞ?
とうとう恭香も頭がイカれて、こっちサイドへと来てしまったのか?
『......心、読んでますからね?』
なんだか常に心読んでませんか?
恭香の魔力量が気になる僕だった。
「『私の魔力量は∞です』とかフ○ーザみたいななことは言い出すなよ?」
『──ッッ!? ......話を戻しましょうか』
おい、なんだ今の驚きは。
まさか∞なのか? お前、魔力尽きないのか?
『ほ、本来、吸血鬼というものは、人を騙し、惑わし、魅了し、そして吸血するという存在ですからね。神々でさえ、こと幻覚系においては並び立つ者が居ない、と言わしめるほどのスペシャリストたちなのです。』
おい、焦りで口調が戻ってるぞ。
『...こほん。そんな吸血鬼たちの上位種である真祖のマスターなら確実に幻覚系は効かないと断言できるよ。ましてや今のマスターの強さは始祖クラスだからね、まず間違いないよ』
「つまりは...なんだ? その世界に閉じ込められたが最後。それ以降は1人でアイツと戦わないといけなくなるわけだ」
『うん、そうだね』
......無理じゃね?
『うっ...い、いや、"悪夢の世界"で魔力の大半を使用すると思うから、そこまで難易度は高くないと思うよ? 気をつける事は、幻覚に惑わされない。近接戦闘でも相手が強いことを忘れない。こっちは魔法を使って翻弄する、っていう感じだよ。スキルさえ発動させれば後はマスター次第、って感じになるかな?』
はぁ、どうやら今回も最後はタイマンだそうです。
以上が、無敵の最強空間の攻略法です。
さぁ、ギンたちはどうやってそこまで持っていくのでしょうか?
次回、ギンパーティ VS ナイトメア・ロード!




