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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第六章 聖国編
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第285話

ふと見てみたら総合評価6,000突破してました〜。結構なところまで来たものですね。

「命名してやろう。今日からお前は『フカシ』だ」


 歩きタバコに続いてそう言い放ったギンは、満足げに笑みを浮かべて頷いた。

 ──あの歩きタバコってウザったらしいんだよね。あいつら受動喫煙の方がヤバイってのにそこらで吸ってやがるからな。何度張り倒してやろうかと思ったことか。

 ギンがそんなことを思っていると、件のフカシは肩を震わせ始めた。


「歩きタバコ⋯⋯フカシ⋯⋯? テメェ、俺のこと馬鹿にしてんのか?」

「してるよ? 当たり前じゃん」


 即答であった。

 それにはそのアルファ当人も思わず目を見開いたが、その意味を理解するにしたがってその身体中から威圧感が吹き荒れた。

 白夜や輝夜でさえその威圧感には思わず冷や汗を流し、画面越しに見ていた人々もその緊張を肌で感じとっていた。


「ぶっッ殺すッ!!」


 瞬間、彼の姿が消え失せ、次の瞬間ギンの背後に現れる。

 ──四段階(フォースギア)

 それは今のアルファが使用可能な限界の限界であり、それよりもギアをあげればまず間違いなくその身が滅ぶ。

 だがしかし、その速さは三段階の比ではなく、それこそ空間そのものを把握した上でこの速さになれていなければ反応することすらも不可能な程だ。

 アルファも今度こそはと頬を緩め──彼の横顔を見て、恐怖に背筋を凍らせた。


 ──なんだ、その程度か?


 気がつけばアルファはその場から全力で後退っており、全身からは脂汗が吹き出していた。

 お互い言葉は交わさなかった。

 アルファは宣言することなく今までよりも一段階早いギアを入れ、容赦なく背後から襲いかかり──ギンと、視線が交差した。


(こ、この野郎ッ! 四段階を視認してやがっただと!? さっきまでの死に体はどこへ行きやがった!?)


 ギンはそんな内心を知ってか、アルファへと向き直ると口を開いた。


「悪いけど、その程度の速度(・・・・・・・)になら慣れてるんでね。言っちゃ悪いが、お前の攻撃なら最初の数合以外は全部見えてた」

「なッ!?」


 アルファは絶句した。

 彼のステータスでも筋力値と敏捷値はトップクラスであり、神化して、その上でフォースギアを入れた状態で誰かに負けるなど、そんなこと馬鹿げた冗談は信じられる訳がなかった。

 だがしかし、ギンの言っていることはすべて本当のことであり、さらに言えばその相手は完全なアルファの上位互換なのだ。

 魔法を使えない。

 影化が通じない。

 人を壊すための拳を使う。

 速度もパワーも全てが格上。

 ありとあらゆる攻撃を察知する。

 それら全てにおいてアルファの十数段階上をいくあの合法ロリっ子。毎週毎週、空いた時間さえあればそのロリっ子と戦い続けたギンにとってアルファのそれはぬるま湯でしかなく、その痛みも彼女のそれに比べれば蚊に刺されたくらいのものである。


 ──そして何より、ギンはそれらを経て、一つの能力を手にしていた。


「それじゃ、そろそろこっちからも行かせてもらう」


 そうしてギンは半身になって重心を下げ、両手を構える。

 それは見間違うはずもなく、グレイスの型そのもの。

 かつては未完成だったその型は完全に完成しており、アルファはその型を見て、知らぬはずのその師の姿を重ね見た。


「『絶歩』」


 気がついた頃にはもう既に目の前までギンの身体は移動しており、それに気がついた頃にはもう手遅れとなっていた。


「ハッ!!」


 左手による顔面への打突。

 それに怯んだ隙に鳩尾へと右拳が振るわれた。

 それは足腰のバネを利用し、肩から腕の捻りまで加えられた一撃であり、その馬鹿げた威力は毎度毎度食らっているギンが一番よく知っていた。


「カ⋯⋯ガッ⋯⋯⋯ッァ⋯⋯ッ!!」


 もはや声にすらならない一撃にアルファの身体はくの字に折れたままフリーズする──かのようにも思えたが、流石は存在耐性Lv.10。

 アルファはすぐさまその瞳に光を宿すと、フォースギアを使って拳をギンの顔面へと振るってきた。

 だがしかし──


「それも知ってる」


 それを見事に察知した──否、事前に見て、覚えていたギンはそれに対してクロスカウンターを合わせ、スクリュー気味にそのテンプルを抉り撃つ。

 それは的確にして確実。

 的確に急所のみを撃ち抜き、確実に死に至る階段を足で蹴落とす。

 狙って打つ攻撃全てがフルスイング。

 外せば隙が出来る? ならば外さなければいいだけのこと。その一撃でその隙の間行動出来ないレベルのダメージを与えてしまえばそれでいい。

 グレイスの拳というのはそういう脳筋思考の元に鍛えられたものであり、それは改造人間と言えど人間の体を持つアルファにはキツすぎた。

 彼はフラフラと後退ると、その真っ白になりつつある思考の中で考える。


(な、何なんだコイツぁ⋯⋯、俺の、俺の攻撃が⋯⋯、全部、読まれてるってのか?)


 全てを読まれているとしか思えない。

 そう思った彼だったが、ふと、頭の隅をいくつかの言葉がよぎった。

 賢いだけの凡人。

 覚えてる。

 知っている。

 過小評価。

 それらのピースが重なり合い、ピタリと組みあい、アルファの中でとある答えを導き出す。

 それこそが──



(相手の⋯⋯、相手の動き全てを見て、観察して⋯⋯覚えてるって言うのか⋯⋯ッ!?)



 それを一言で表すなら『観取る』だろう。

 相手の動きを観察し、得意な手法から、苦手な手法、あまり使わない手、よく使う組み合わせ、その他すべてに至るまで、感覚ではなく全てをデータによって頭の中に記憶し、照合し、相手の全ての動きを完全に理解する。

 但し、観取るためには膨大なデータ量を要する。つまりはそれだけ相手の動きを観察し続けなければならないのだが、それに関していえば彼はもう既に十分すぎるほどに行ってきた。


(だ、だからこそ、俺の動きを観察してたからこそ、こいつは一度として手を出さなかったってのか!?)


 そうしてアルファの中で、全ての点と点が繋がった。

 そして思い至る──この男にはもう、自身の攻撃が通じないという事実に。

 ギリッ、と歯を食いしばり、アルファは目の前に立っているこの男を睨み据えた。

 怒りをその理性によって押さえつけ、その怒りという名の爆弾を抱えた状態で攻撃を受け続ける。

 それは並の人間ができる芸当ではなく、更にはその状態で観取るなんて行為、並の知性の奴ができるような事じゃない。

 だからこそ、アルファは自らのステータスに則って、ギン=クラッシュベルという男を、こう表現した。



「この、知性の化物が⋯⋯ッ!」




 ☆☆☆




 それらを聞いて僕は、内心で焦りを感じていた。

 確かに今現在においては僕の方が遥かに有利だろう。まず勝ちは揺るがないに思える。

 ──だがしかし、それと同時に浦町にかつて言われた言葉を思い出すのだ。


『君は知性が吹っ飛んだ時が一番怖いな。君に関しては知性“九”に対して野性が“一”だ。それでもアレ程のやばさなのだから、もしも野性が“九”の者から知性“一”が消えた時は⋯⋯一体どうなるのだろうな?』


 その答えは、僕にも浦町にも分からなかった。

 僕にとっては自身のその状態すらよく分からない。だからこそそんなことは考えられるはずもない。

 もしも予想するとしても、せいぜい僕に考えられるのは二通りの考え方だけだ。


 一つ、たった一割の知性が吹っ飛んだところで大して変化はなく、逆に弱体化する。

 それだったのならばどれだけ楽だろうか。きっと何の心配もする必要が無いだろう。

 けれど、問題はその次で──


(そうならないためにも、なるべく早く倒すべきかな)


 僕はそんな思いを振り払うかのように拳を構えると、油断なく相手を見据えて──その瞳に燃える、その覚悟に思わず背筋を凍らせた。


「ハッ! クッハハハハハッ! いいぜいいぜ! 最高じゃねぇか! 敗色強い最後の戦い! 勝てば生き延び負ければ死ぬ! なら勝つためには死ぬ思いでやんなきゃなァ!!」


 そうして彼はだらりと両腕を下げる。

 それは傍目にはやる気をなくしたかのようにも見えるだろうが、僕はその瞳に宿るギラギラとした殺気を見て、その言葉を聞いて、思わず目を見開いた。


「行くぜ天才! 根性見せろよッッ!?」


 ──五段階(フィフスギア)ッ!!


 瞬間、先程までとは比べ物にならない速度で彼の姿が掻き消える。

 グレイスで慣れている僕だからこそある程度追えるものの、その速度は彼女のそれにも届く勢いであり、僕は今まで使っていなかった能力を使用することにした。


「『電流体(エレクトロマイン)』!」


 瞬間、僕の身体中から銀色の電気がバチバチと放出され、僕の速度が一気に強化される。

 よし、これであの速度にも追いつけ⋯⋯



六段階(スィクススギア)ァッ!!」



 瞬間、さらにギアをあげたアルファ。

 それにはさすがの僕も驚き目を見開いた。何せ僕の予想ではコイツのギアはせいぜいが四段目が限度だったからだ。通常の四倍速で動いているのだからそれはある意味当たり前のことでもあり、なによりも、それより二段階上げるなど無茶を通り越して無謀もいいところだ。

 だがしかし、その無謀の成果は出たのだろう。

 その速度は普段のグレイス──と言ってもせいぜいが素の六~七割くらいだろうが、その速度を確かに上回っており、その未知の速度に僕の頬を冷や汗が伝う。

 実はまだ奥の手として『幻想の紅月(ルーアン・イルゾニア)』や『血液操作』のスキルを残していたのだが、前者に関しては魔力を貯める時間が無く、後者に関してはそれを行うべくあたりに血を撒き散らしていたのだが、ここまで高速で動かれると、未だ慣れていないこのスキルでは捉えきれないだろう。


 そして何より──


(カウンターだったからこそ上手くいったが、もしもカウンター以外の、それこそ拳同士の衝突なんてあった時には⋯⋯)


 思い浮かぶは、彼が口にしていた『根性』のスキル。

 十数分間にわたる一方的な殴られで確信したが、あれは間違いなく物理法則を根性でねじ曲げるチートスキルだ。

 だからこそこうして神の布で出来た服やブラッドメイルが壊れてしまっているし──きっとそれは、ヌァザの神腕とて例外ではない。


(なぁ、一応聞くけどヌァザの神腕って復元可能?)

『あー、その場じゃ無理だ。壊れ具合によるが、かるく一日は見積もってもらわなけりゃ修理もできねぇ』

(ですよねぇ⋯⋯)


 つまりアレだ。カウンターに失敗してヌァザの神腕を破壊されるなんてことになれば、それはつまり僕が窮地に立たされるということ。

 片手でこの速度に対応するなんて不可能にも近いし、さらに片手での戦闘など短剣くらいしか⋯⋯


 ドクンッ──


「⋯⋯へ?」


 今、何か鼓動みたいなのが聞こえたような⋯⋯。

 僕が今感じた不思議な感覚に戸惑っていると、頭の中にクロエの警告が響き渡った。


『ギン! 前を見ろ!!』


 その言葉に焦って前を見ると、すぐそこまで笑みを浮かべたアルファが迫っており、僕は咄嗟にカウンターを合わせるが流石に無茶が過ぎたのだろう。

 バキィィンッ!!

 僕の右腕の所からそんな破壊音が響き渡り、直後、ガシャンと音を立てて僕の足元の床へとその銀色の鉄塊が衝突する。

 それは見間違うはずもなく、肘のところで砕かれたヌァザの神腕。

 僕はそれを見て現実逃避するように、こう呟いた。


「クロエ⋯⋯やっと僕のこと名前で呼んでくれたね」

『バッ⋯⋯、お、お前こんな時に何言ってんだ!? お前がさっき言ってた窮地だぞ、ここは!』


 そう、窮地も窮地、崖っぷちである。

 影分身して時間稼ぎするか? いや、フカシは超直感の持ち主、そんなことをしても一発でバレそうだ。

 なら悪鬼羅刹⋯⋯は無理だし、クロエを召喚⋯⋯も、今のクロエがこの速度についていけるか⋯⋯?


『⋯⋯いや、召喚する前にやられちまうんじゃねぇか?』

『ですねぇ。相手に魔力察知のスキルがないとはいえ、流石にクロエさんを召喚するとなるとバレますよ。それは常闇さんにも同じことが言えますね』


 ──ですよねぇ〜。

 僕は内心でがっくりと肩を下げると、何とか現状を打破する考えを見つけ出そうとして──



 ──今まで、ごめんね。



「──ッッ!?」


 突如として頭の中に響いてきたその()に、僕は思わず目を見開いて周囲を見渡した。

 けれども周囲には心配そうにこちらを見つめる白夜たちと、僕の周囲を縦横無尽に駆け回るアルファの姿しかなく、僕は頭の中に響いてきたその声に返事をしようとして──その前に、再び同じ声が響いてきた。



 ──私は、ずっと君の中にいた。君が、私のことをずっと憎んでたのも知ってるよ。だから、今までごめんね?



 ずっと、僕の中にいた⋯⋯?

 なんだか最近多いなそのフレーズ、と思いながらも僕は頭を回転させる。

 だがしかし、この世界に(・・・・・)やって来てから(・・・・・・・)そういう何かがあったわけでもなく、もしや器の転生の際にエウラスあたりが僕の身体になにか封印したのでは、とも思ったが、超直感がそうではないと僕へと訴えかけてくる。



 ──私は、そこまで力は強くないの。だから出来るのは、たった一度の呼び掛けだけ。



 そうしてその声は、僕へと訴える。



 ──その剣は、絶対に折れたりしない。その剣は君自身。君が折れなければずっと共にあり続ける。君が強く望めば、きっと力を貸してくれる。



 その剣は決して折れない。

 僕とともにあり続け、僕が望めばその力を⋯⋯。

 気がつけば周囲の時は極限まで引き伸ばされており、僕は瞼を閉じ、ゆっくりと息を吐いてその言葉を復唱した。



 ──その剣は、君を助けた白銀の神剣。君の中に眠る銀色の魔力。銀の名を冠する、神王が作りし一振りの短剣。



 気がつけば頭の中には見たこともない、けれどどこか見覚えある、黒い柄の短剣が浮かび上がっており、徐々に元に戻りゆくその時間の中、僕は左手を胸へと当てて、その銀色の魔力を掴みあげる。



 ──それは何者にも屈することはなく、ただ、主と認めた相手を守り続ける。



「ハッハァ! これで終わりだァァァ!!」



 真正面からアルファの叫び声が聞こえてきて、僕は目を開く。

 そこにはこちらへと拳を振りかぶっているアルファの姿があり、僕は何故か、その姿をしっかりと捉えることが出来た。



 ──その、神剣の名は⋯⋯



 僕はその心に灯る銀色の魔力を左手に宿すと、思い浮かべた形を想像しながら、すれ違いざまに振り下ろす。


 気がつけば僕の手の中には黒色の柄が握られており、その先に伸びるは、赤い文字が刻まれた白銀色の刀身。


 僕は立ち上がると、振り向くことなくその名を告げた。



「神剣、シルズオーバー」



 直後、アルファの肩から胴にかけて線が走り、鮮血が噴き出した。



神剣シルズオーバーとそれを恨んでいたギンに関しては、閑話の『混沌と忘却の記憶』と『見捨てた知性と見捨てられた野性』をご覧下さい。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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