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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第六章 聖国編
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第284話

「ふぅ、これて一件落着じゃな!」


 白夜のそんな言葉が響いた。

 現在地は大広間の前の部屋──白夜と輝夜が国民たちを殺さないように倒していた大部屋。

 ギンとアルファの戦いが始まって十数分後、白夜たちはそれらの勢力を完全に無力化することへ成功していた。

 国民たちは全員峰打ちで地面へと転がしておき、豚のような男と悪意しか感じられない神父やシスターたちは皆白夜のテレポートで未開地の奥深くへと転送した。

 ある意味死罪よりも重い罰を決定付けた二人であった。


「にしても、だ。流石に誰も殺すな、という命令はキツかったな⋯⋯。それでこそあの主殿なのであろうが、ここまで時間がかかるとは思いもしなかったぞ」

「カカッ、主様はゆっくり来いと言ったのじゃ、ならば何の問題もないじゃろう!」


 白夜は輝夜の言葉にそう返すと、ゼロたち三人の方へと振り返る。


「よし、お主ら、この先にいるであろう主様の勇姿をそのカメラでしかと記録するのじゃぞ!」

「クハハハハッ! もしかしてもう終わっているかもしれないがなッ!」

「カカッ! 確かにそうじゃな!」


 そう言って白夜と輝夜は笑みを浮かべた。

 その二人の自信満々な姿に、そしてなによりも、あのギン=クラッシュベルが負ける姿など思い浮かばないと、そう思ったゼロたち三人と生放送を見ている全大陸の人民たちは、その言葉に思わず苦笑いを浮かべた。

 唯一ユイだけは兄であるアルファの心配をしていたが、それも『ギンが勝っている』という前提でのことであった。


 だからこそ、彼女らはその先の部屋へと歩を進めて──その現状に、目を見開いた。



「ったく、何度目だってんだ⋯⋯よッ!」



 白紫色の髪をした少年はギンの胸から手を引き抜くと、その手に掴んでいた鼓動する歪な肉塊を、思いっきり握り潰した。

 ブシュゥゥッ!!

 その内部に含まれていた血液が一瞬にして周囲へと霧散し、その血を身体に浴びたその少年は、少し口に入ったそれをぺっと吐き出した。


 そして、それを見た白夜と輝夜は固まっていた。

 先程あの少年が握りつぶしたのは、まず間違いなく『心臓』だった。

 なれば、その心臓は一体誰のものだ⋯⋯?

 その思考まで至ったところで、二人は考えるよりも早く地に倒れ伏してピクリとも動かない、ギンの側まで駆け寄った。


「「主様(殿)っ!?」」


 そこには心臓を握りつぶされた自らの主の姿があり、その身体からは血液が失われ過ぎているのか、肌は青白く染まり、その身体は血溜まりに浸かっていた。

 二人は思い出した。あの時ギンが浮かべていた表情を。


『まぁ、ゆっくりのんびり追って来てくれ。こっちもちょっとばかし、長引きそうな気がしてきた』


 その時、彼は苦笑いを浮かべていたのだ。

 それは予想以上に強いその敵に驚いていたようにも思えたが、今になっては、相手が格上だと知って、苦笑いを浮かべていたようにも思える。

 そんなことを考えていると、横からその少年が──アルファが声をかけてきた。


「にしてもよォ、何なんだよその男は? 何度心臓を破壊しても死なねぇし、頭蓋を割ったところで死にやしねぇ。吸血鬼だからって血液を可能な限り出してみたが、それでも多少回復速度が遅くなっただけ。気味が悪いったらありゃしねぇ」


 その言葉に息を飲むゼロたち三人。

 その口調は彼女らが知る『彼』とはかけ離れており、もしもその顔に面影がなかったとすれば、まず間違いなく他人だと思ったに違いない。

 だからこそ──


「しかもだ、なんでそいつァ⋯⋯」

「お、お兄ちゃん!!」


 ユイは、堪えきれなくなってそう叫んだ。

 アルファは顔を顰めてユイの方へと視線を向けると、その目尻に涙を貯めた(ユイ)の姿をその目を映し──殺気の篭った威圧を飛ばした。


「「「ひいっ!?」」」


 感動の再会。

 それを望んでいた三人にとってその殺気はあまりにも残酷で、その後に告げられたその言葉に、愕然とした。



「今更何しにきやがった⋯⋯このクズ共」



 それは、彼の本心からの言葉だった。

 だからこそその言葉には純然たる思いが、重みが篭っていた。

 だからこそ彼女らも愕然とし、それを見たアルファはその顔を怒りに歪め、その内に秘めた思いを叫びだした。


「俺ァな! 数年前に聖国に捕まって、何回も何回も体をいじくり回された! もちろん俺はお前らが助けに来るのを待ったさ! それだけが生きる希望だった!」


 ──だが、お前らは来なかった。


 彼はそう悲しげに呟くと、その血に染まった握り拳へと視線を落とした。


「ここが聖国だから助けに来れなかったか? 場所がわからねぇから助けられなかったか? ンなもん百も承知だったさ、俺はその上でお前らに生きる希望を見出し、その希望に縋り付き──結果としてそんな希望は幻想だってことに気がついた。嫌でもな」


 彼はそう言うと、思い返すようにその過去を語り出す。


「この国で生きてく上で大切なもんは、極論を言やァ忠誠心と強さだけだ。けど、俺には才能がなかった。頭も悪ぃし才能もない。だからこそ俺は努力した。血反吐を吐いて、身体が限界を迎えても努力を続けた。生きるために」


 彼に生まれつき備わっていたのは、ただ人より勘がいいという地味な特性だけ。

 それ以外に関しては一切と言っていいほど才能がなく、天魔族で、その上で稀代の天才であるゼロとはまさに対極にいるような存在だった。

 だからこそその才能の差を努力で埋め、身体改造によって埋められ、さらに研鑽を続けることによって至った──この境地。

 だからこそ、彼は最後にこう思い至った。



「最後に信じられんのは、自身の努力と強さだけだ」



 アルファはそう言うとユイたちから視線を逸らし、未だ倒れ伏しているギンへと視線を向けた。


「そういう意味でいやァ、アンタはもうちょっとマシかと思ってたんだがな。アンタは多分、俺と同じに側の人間だ。絶望を知って自分以外を信じられなくなった、賢いだけの凡人だ」


 ──賢いだけの凡人。

 あまりにも的を射ているその表現に、今の今まで死んだフリで休息をとっていたギンは思わず笑ってしまった。


「あ、主様っ!? 生きておるのかのぅ!?」

「だ、だだ、大丈夫か!? さっき、心臓潰され⋯⋯」


 その二人の言葉にギンは苦笑いを浮かべると、まるで何でもないと言ったふうに立ち上がる。


「酷いこと言うなぁ、これでもちょっとだけ体術には自信あったんだけど。天才よりちょっと下くらい?」

「やっぱり生きてんじゃねぇか。あと、天才じゃなけりゃ凡人だろうが。秀才なんざ凡人となんざ変わりねぇ」


 酷い暴論だった。

 けれども彼らと同じ場所にいる人間にはその言葉こそが最適であり、そこには努力した天才か、かなり努力した凡人の二種類の人間しか居ないのだ。

 だからこそギンも反論はしなかった。

 けれどもその代わりに彼はこう口にした。



「やっぱり僕、お前のこと大っ嫌いみたいだわ」



 瞬間、その言葉を聞いていた全員の目が点になった。

 ギンもそれは分かっていたのか、すぐにその次の句を口に出す。


「話聞いてた感じだと、お前ってアレだろ? 攫われた、なら助けに来てくれるのが当然だ、なのになんで助けにこない、なら嫌いだー、って感じだろ?」


 それはあまりにも簡略化しすぎた彼の人生だった。

 それにはさすがのアルファも青筋を浮かべ、彼へと殴りかかろうとして──



「甘えんじゃねぇよ、ガキが」



 その姿に、言葉に──彼の『野性』は恐怖した。


 先程まで死に体だったその姿。傷こそ回復したが痛みは未だにその身体の中で燻り続けており、間違いなく押せば倒せる程の重傷だ。


(押せば倒せるじゃねぇか! 何を怖がってんだ!? 相手は瀕死の雑魚だ! なのに⋯⋯なのにッ!)


 なのに──身体が恐怖に、震えている。


 彼はその震える右の拳を左手でガシッと掴むと、その震えを取ろうと必死になって抑え込む。

 それが功を奏したのか、その震えはすぐに消え去り、アルファはニヤリと笑みを浮かべて顔を上げる。

 そして目の前の──その拳。


「ガハッ!?」


 それは、死に体が放てるような拳ではなかった。

 そのあまりの痛みにたたらを踏み、その先でがくりと膝が折れる。

 体の芯を的確に捉えるそれは、アルファの用いる人を殺すための拳だった。

 けれどもその練度は彼のものとは比べ物にならないほど高く(・・)、先程まで一度として(・・・・・)近接攻撃を行わなかった男が放てる拳では無かった。


(こ、この俺が⋯⋯、この俺がッ、たった一撃で!?)


 アルファはその笑い始めた膝へと拳を叩き下ろして喝を入れると、その考えを掻き消さんばかりに攻撃に移る。


三段階(サードギア)ァッ!!」


 瞬間、彼の肉体にかなりの負荷がかかり、それと同時に周囲の動きがスローモーションの如く遅くなる。

 超高加速とはギンが予想したとおり自らの速度を極限まで上げるという能力であり、それを体術で打ち負かすなど、常日頃から自分より数倍早い相手(・・・・・・・・・・)と戦ってなければできない芸当だ。

 だからこそアルファは、その顔にしっかりとした笑みを浮かべて──



「悪い、それはもう覚えた(・・・)



 その言葉と同時に、鳩尾へと叩き込まれたその拳に、声にもならない悲鳴をあげた。

 アルファは両手で腹部を抑えて後退る。

 それはギンからすれば絶好のチャンス。

 けれども彼はアルファをつまらなそうに見下ろすばかりであり、そこからはもう先程まで血溜りに沈んでいた男の風格は感じられず、今の彼から感じられるのは──圧倒的な、強者の風格。

 そんな中、アルファはギンの言葉に内心で焦りを見せていた。


(覚えた⋯⋯!? 覚えただとッ!? こ、コイツ! まさかこの短時間で俺の動きを⋯⋯ッ!?)


 嫌な予感が彼の頭をよぎった。

 賢いだけの凡人。

 それは確かなことだろう。

 だがしかし、もしや自分はその『賢い』という部分を過小評価していたのではないか、と。


「助けてもらえなかったから嫌うって言うのは傲慢だ。助けて欲しければ助けてもらう努力(・・・・・・・・)をしろ。希望を持ってたのなら最期までそれを捨てるな」


 ギンはそう言うとため息を吐き、失望したように口を開く。


「何が悪を執行するだ。お前みたいなする努力を間違えた中途半端野郎が僕の相手()になるわけがないだろう。僕にとっちゃお前は、ただの傍迷惑な⋯⋯そうだな」


 ギンはビシッとアルファへと指を向けると、自信満々にこう言ってのけた。



「お前はせいぜい、歩きタバコだ」



 その意味はわからずとも、何だか馬鹿にされたような気がしたアルファであった。



歩きタバコって嫌ですよねぇ。

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