第283話
ギン「やっと僕のターン!」
アルファ「いやッ、俺のターンだ!」
やっと彼らのターンドローです。
大聖堂に入って僕達が一番最初に目にしたのは、溢れんばかりの白銀鎧の大軍であった。
「皆のものぉぉぉ! 配置につけぇぇい!!」
それと同時にガシャンギシャンと金属がぶつかり合うような音が幾つも聞こえ始め、それと同時に僕らへのその尖った槍の穂先が向けられる。
──聖国の残党騎士か?
一瞬そうも思ったが、それらの様子を見て僕ら一瞬にしてそれらの正体を見破った。
「まさか国民まで戦争に出張ってくるとはな⋯⋯」
そこに居たのは、鍛えているようには思えない、白銀鎧を着た青年から老人までの男性諸君と、その背後で弓を構えて震えている女子供だった。
そしてこうも思う。はたして彼ら彼女らは自ら進んでこの場に立っているのか、それとも強制されているのか。
けれどもその質問は、案外あっけなく解消した。
「貴様らとっととせぬか! 貴様らのような下民を大聖堂に入れてやっているのだ! その命を賭してワシと聖女様のことを守らんかい!!」
その声の主を求めて視線をさ迷わせると、この軍勢の後方、そこに全身をより豪勢な白銀鎧に包んだ小太りの男がおり、月光眼を通して見たその男の身体からは悪意は感じ取れなかった。
それはつまり悪意すら持たずに民を見殺しにしようとしているわけで、それはイコールで救いようがない良心のないクズだということでもある。
「『召喚・アダマスの大鎌』」
それと同時に僕の左手の中に巨大な大鎌が生み出され、それを見た彼らはどよめき、無意識に数歩後退る。
そして、僕はそれを見て確信した。
「白夜、輝夜。多分この人たちはあの後ろの豚に脅されて来てるだけだ。あの豚と周囲の信用出来なさそうな神父は殺していいが、他は殺すな」
そう言って僕は大鎌を使い慣れている輝夜へとアダマスの大鎌を貸し出す。
なにせ、アダマスの大鎌には『不殺攻撃』という能力がある。それさえ使用すればどんな威力の攻撃を叩き込んだところで相手は死にはしない。絶対に、だ。
「了解したぞ。で、主殿はどうするつもりだ?」
すると大鎌を受け取った輝夜が、心配そうに眉を寄せてそう口を開いた。
その様子じゃ薄々分かっていそうなものだが、僕はその軍勢の後ろ、そこにある通路のさらに奥から漂ってくるその威圧感を感じ取っていた。
それは間違いなく──error級の化け物の威圧感。
それこそ彼のヤマタノオロチよりも余程ヤバイであろうその気配を感じとった僕は──
「まぁ、ゆっくりのんびり追って来てくれ。こっちもちょっとばかし、長引きそうな気がしてきた」
僕はそう言って苦笑いを浮かべると、体を霧にしてその場から立ち去った。
☆☆☆
場所はその奥の大広間。
その奥に続く階段の、その半ばに座っているその男を見た途端、僕は嫌でも気が付いた。
──きっと僕はこの男のことが大嫌いだ、と。
身長は僕と十五センチ近く離れているだろう。
見るも無残に白く染まりつつある紫色の髪に、その両の瞳には紫色の光が灯っている。
そして、その光の名はきっと──
「おお、やっと来たんかよ、初めまして。おっせェ登場だなァ? 執行者さんよォ」
男はそう言うと、霧になっている僕の方を確実に見据えて立ち上がる。
──見えている。
否、見えてはいないだろうが確実に僕の居場所を察して、見据えている。
僕は気がついた時にはもう既に霧化を解除して地に降り立っており、それと同時に彼へと容赦なく鑑定を使用した。
──そして、そのステータスに愕然とした。
名前 アルファ (16)
種族 改造人間
Lv. 112
HP 350,000,000
MP 1,000
STR 400,000,000
VIT 200,000,000
DEX 300,000,000
INT 10,000
MND 100,000,000
AGI 400,000,000
LUK 50
ユニーク
神化
根性
超高加速Lv.2
戦の神髄Lv.2
レベル上昇速度半減
アクティブ
威圧Lv.3
パッシブ
並列思考Lv.6
超直感Lv.10 ★
超視力Lv.10 ★
超聴力Lv.10 ★
気配察知Lv.5
気配遮断Lv.3
危険察知Lv.10 ★
存在耐性Lv.10 ★
称号
野生の化物 神格 改造人間 常識を壊せし者 竜殺し
進化することは出来ないようだが、この低レベルの状態でありながらこのステータス。
完全に魔法による戦闘を考慮していないステータスだと考えてもその能力は明らかに常識を超え──否、常識という枠組みを壊している。
(ハ、ハハッ⋯⋯、まさか僕以上に常識を知らない化け物がいたとはなぁ⋯⋯)
もはや笑う他あるまい。
僕は内心で笑みを浮かべていると、返事がないことに業を煮やしたのか、彼は眉を顰めて口を開いた。
「おいアンタ、テメェ親に挨拶には挨拶を返せとか言われてねぇのか? 非常識にもほどがあんぞ」
その言葉には確かに怒りの感情が滲んでおり、僕はその言葉を聞いて思わず笑ってしまった。それも嘲笑を。
それに尚一層眉の皺を深める彼だったが、僕は彼に向かって堂々とこう言ってやる。
「残念なことにそんな普通の親は僕にはいないもんでね。居たとしても記憶にない」
そう、僕にはそんなことを教えてくれる親なんていなかった。
居たのはあの日、夢の中で幼少期の僕を助けてくれた顔も思い出せない両親と、自分のことしか考えていない、馬鹿で親失格な義理の両親だけだ。
それに何より──
「なによりも、僕はお前と会話を望んでいるんじゃない。別に何を話すつもりもない。だから黙ってぶん殴らせろ」
瞬間、僕の姿が一瞬にして書き換えられ、影神モードのそれへと変換される。
それと同時に溢れ出る、純粋な殺気。
ぶん殴らせろ、とは言ったもののそれはあくまでも表面上のもの。心の奥深くでは恭香を攫ったこの男を、レオンたちを傷つけたこの男を──今すぐに殺したいほど憎んでいる。
今現在、戦闘が始まる前だからこそこうして理性で抑えていられるが、その理性も戦闘が始まればそちらへと回ってしまう。
なればこそ──もうそこには、僕の殺意を止めるモノはどこにもない。
それを知ってか知らずか、僕の殺気を受けた彼は瞼を閉じると、ふと思い出したかのようにこう口を開いた。
「そういやアンタ。正義を執行する執行者なんだよな? なら客観的に見ても、主観的に見てもやっぱり俺らが『悪』ってことになるだろうな?」
──何が言いたい。
僕はその意味のわからない言葉にそう睨みを利かせると、彼は軽く肩を竦めて瞼を開く。
「いんや、別に俺もアンタと何かを話すつもりはねぇさ。なんせこれから始まるのは正真正銘、命の取り合いだ。歴史に名を残す綺麗な物語とは違ぇ、泥臭くて鉄臭い、ただの殺し合いだ」
瞬間、彼の身体から膨大な威圧感が吹き荒れる。
──神化。
そのスキルを使用したことは傍目にも明らかであり、僕はその変化と同時に災禍を召喚する。
ピン──と。
瞬間、張り詰めたような空気が漂い、僕と彼がお互い示し合わせるように。けれども偶然に同じタイミングで口を開いて、駆け出した。
「これより⋯⋯」
「今から⋯⋯」
次の瞬間、僕の杖と彼の拳が衝突し、周囲に強烈な衝撃波を撒き散らす。
目の前には笑みを浮かべた相手の顔。
僕は、そのクソッタレな顔を睨み据えて、こう告げた。
「正義を執行する!」
「悪を執行するぜ!」
こうして正義と悪の──知性と野性の、常識を捨て去った戦いが始まった。
☆☆☆
その鍔迫り合いの後、僕はすぐに『勝てない』と察すると、彼を押し込んで、本気で後ろへと飛び退いた。
それには殴り合いを所望していたらしい彼も目を点にしていたが、悪いが僕の本職は後衛だ。そんな実力差のない脳筋の前衛相手に意味もなく殴り合いをするほど馬鹿ではない。
「『渦動魔法陣』!」
瞬間、僕の上空に幾百もの魔法陣が展開され、僕は杖を上にかざして──振り下ろす。
「『破魔の銀槍』!」
瞬間、全門から放たれる炎、氷、雷の連射連射。
それは彼の大悪魔アスモデウスでさえ手を焼いた僕も後衛技の十八番である。そんなものを向けられたら流石にあのステ⋯⋯
「うおりぁぁ! 二段階ッ!!」
瞬間、彼の拳がその槍を木っ端微塵に砕いた。
「なぁっ!?」
僕は思わずその光景に目を剥いてしまったが、なぜそんなことが出来ているのかには一瞬で考え至った。
(くっ、超高加速に超直感、それに超視力か⋯⋯)
そう、まず間違いなくその三つのスキルの合わせ技だろう。
彼の言った言葉『二段階』。それは恐らく推定するに自らの時間そのものを早くする──言うなれば白夜の時空間魔法『クイック』と同じようなものだと推定できる。
そして超直感は言うまでもなく、その能力とうまく合致しているのが超視力だろう。
文字通り『視力を良くする』という能力であってもそれは驚異的であり、その引き伸ばされた一瞬の間に数多くのことを見ることの出来るその能力はあまりにも凶悪だ。
(って言うかなんでコイツアレを素手で壊せんだ!?)
僕は本格的に近接戦闘を諦めると、余裕を持ってさらにバックステップを踏んで距離を取⋯⋯
「三段階」
瞬間、僕の目の前でその言葉が聞こえ、僕はとっさに常闇を防御に回して回避に映る。
──だがしかし、相手は近接戦闘が得意な改造人間。その、三倍速である。
「フッ!!」
正拳突き。
それは見事に常闇のローブが守りきれていない場所を的確に撃ち抜き、僕の腹部へと直撃する。
「カハ⋯⋯ッ!?」
そのあまりの威力に僕の口からは血液が吹き出し、身体がくの字にへし折れる。
それは数日前アスモデウスから受けた攻撃ともまた違った一撃であり、言うなればあれを化け物の拳だとすれば、これは武闘家の拳。
的確な急所を確実に撃ち抜き、人を確実に死に至らせる、人を殺すための拳だ。
僕はあまりにも強烈なその威力にガクッと膝を落とし──その直後、顎のすぐ先まで迫っているその拳を見て目を見開いた。
「くぅっ!」
咄嗟に僕は影纏からの影化を使用して物理を無効化した。
その状態でなら物理攻撃は通用しない。例外として、グレイスのように影ごと凍りつかせるなどの力技もあるが、この男は魔法が使えない。ならば影化した僕を捉えることは出来はしないだろう。
僕はそう──思っていた。
「根性ゥゥゥゥッッ!!」
瞬間、僕の顎から脳天へと激痛が走り、身体が跳ね上げられ、吹き飛ばされる。
あいにくと痛みには慣れているため、すぐに体勢を立て直して着地することが出来たが、僕の顔はきっと、驚愕色に染まっていたことだろう。
なにせ、それは本来ありえない現象で、僕はその痛みを感じながら、必死頭の回転を止めないようにしながらもその正体を模索して──それはすぐに思い至った。
──それは、ユニークスキル『根性』だ。
僕の超直感が告げる。
そのスキルがもしも、根性によって物理法則や世界の理すらもねじ曲げるチート能力であったとすれば? と。
もしも、もしも万が一そんな能力をこの男が持っていたとするならば、それは鬼に金棒どころの話ではない。気分的にはゼウスに雷霆だ。
まぁ、そんな可能性はきっと僕が白夜をテイムしたあの時と同じくらいには低いのだろうが──
「やっばい⋯⋯、何だか、そんな気がしてきた⋯⋯」
もしかしなくても、今僕が置かれている現状は、今までで最高クラスの危機なのかもしれなかった。
ヤ・バ・い。
相手は『野性の化け物』です。
進化しない代わりにとてつもないステータスです。ギン並の怪物ですね。




