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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第六章 聖国編
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第274話

出たよ勇者(笑)。

 そうして話は現在へと戻る。


 大きな円卓を囲むように、それぞれの代表五名が座っており、一番の下座に僕。その右から順に魔王、エルグリット、聖女、獣王となっており、逆に僕の左が獣王になっている。

 さらにエルグリットと聖女ミリアンヌの背後にはそれぞれ護衛として、国王直属護衛団長のアルフレッドと、トイレ覗き魔の勇者(笑)である水井幸之助が居り、水井はここに来て初めて僕の存在に気がついたのか、目を見開いて固まっている。


 ───ちなみに僕と獣王、魔王に関しては言わずもがな、逆に護衛を守ることになりかねないため個人のみである。


 閑話休題。


 僕の言葉を聞いたエルグリットは一度頷くと口を開いた。


「それではこれより四大会議を行う。かつての決まりに則り、この場での武力、及び魔法、スキルでの攻撃を禁止とする。それに加え、全ての国の主な街へとこの会議の放送を現在進行形で行い、この大陸に住まう全ての人民にこの会議の証人となってもらう。脅しや無理な発言はそのまま皆へと伝わる。弁えて発言するように」


 彼がそう言うと同時に円卓の真ん中に置かれていた水晶玉が光り輝き、恐らくこれが映像の投射魔導具なのだろうと思った。

 それと同時にエルグリットの言。詳しい内容については知らなかったため少し不安だったが、これならばある程度僕の予定は実行できる。僕は心の中で少しだけ安堵した。

 エルグリットはその水晶玉を見て投影が完了したと見たか、今回の議題について語り始めた。


「今回の議題は、ミラージュ聖国が一方的に執行者ギン=クラッシュベルのクラン『執行機関(ネメシス)』へと軍を派遣し、その周辺の住民の住まいごと占領した件についてだ」


 その言葉にきっと何も聞かされていなかったのだろう、魔王が目を見開いてため息を吐き、獣王は「ぐははっ」と笑い声をあげた。

 きっとこの件についてはもう既に住民達が掲示板に上げてることだろうし、なによりもその被害者には冒険者ギルドや騎士達も含まれている。下手な言い訳をすればそれこそ信用を失い、確実に国が割れる。


 そう考えて僕は視線を聖女の方へと向けたのだが───


「う、嘘だ! ミリアンヌがそんなことする訳ないじゃないか!」


 水井幸之助がそう吠え、こちらを睨み付ける。

 そう、この馬鹿という名の不確定要素があるからこそ厄介なことになりかねないのだが、それは厄介なことにこそなれど状況の悪化には繋がらない。


「悪いが現にこちらは攻め込んできた白騎士たちを捕縛している。彼らの鎧には聖国の国旗が刻まれており、それらは聖国の技術でしか製作できないものだそうだ。あと貴様、これは四大会議だ。確証もないくせに感情で発言するのはどうかと思うが?」


 そう言って僕はニッコリと微笑んでやると、彼は僕の笑顔の裏に隠された『嘲笑』を読み取ったか、顔を真っ赤にして叫び始めた。


「お、お前! ふざけたことを言うな! ミリアンヌはいつも正しいんだ! 嘘なんて言ったことなんて一度もない! そもそもお前の言葉自体が僕には信じられないけどね!」


 瞬間、確かに聖女ミリアンヌの眉がピクリと動いたことを僕は見逃さなかった。

 きっと彼女も気がついたのだろう───このまま言わせておけば間違いなく事態は悪化する、と。


 ───けれども、ヒートアップした彼の前では、その思考は少しばかり遅かった。


「お、お前は! お前は日本で僕の幼馴染みを殺したんだ! そんな奴の言う事、信じられるわけがないだろう!!」


 瞬間、会議室を静寂が占め、皆の疑わしげな視線が僕の身体へと突き刺さる。

 予想通り。全くもって予想通り過ぎて笑いをこらえるのが難しいよ。

 僕は見せつけるように肩を震わせて「クックッ」と笑うと、何を察したか呆れたような視線に変わったそれらを無視して僕は真実を語り始めた。


「いやぁ、当時『幼馴染の男に付きまとわれてる』という悩みを抱えた女性が僕に相談に来ましてね。僕もその男性に付きまとうのを止めるよう説得したのですが、その男はあろう事かより一層酷いことをし始めましてね。結果、残念なことにその女性は自殺という道を選んでしまったのですが⋯⋯。これでは証拠になりませんよね?」


 僕が皆の方を見てそう言うと、彼以外のそれぞれが大なり小なり、明らかな『興味』を示しながら頷いてきた。

 彼に関してはどうやら本気でそう思っているらしかったが───次の瞬間、その表情が驚愕に歪んだ。


「『記憶投影』」


 瞬間、僕の机の上にとある映像が映し出され、その魔法にいち早く行き着いた魔王が驚きの声を上げた。


「なっ!? ま、まさか記憶の投影魔法か!?」

「その通りです。流石に魔法の(・・・)王様ですね」


 魔王の正式名称を『魔物の王様』でないこともサラッと大衆へと染み込ませてゆく。

 驚愕と不安に顔を歪めている水井幸之助を傍目にパチンと指を鳴らすと、それと同時にその映像が音を出しながら動き出す。


『あ、あの⋯⋯私、幼馴染の水井くん、って男の人に付き纏われてて⋯⋯正直、鬱陶しいんです』


 そんな言葉を皮切りに、僕へと向けられていた興味の視線は全て水井への『侮蔑』の入り交じった視線へと一転した。

 きっと彼の心は今、かつて無いほどの絶望の最中だろう。

 だからこそ、おそらく彼はこの映像を否定する。


「こ、ここ、こんな映像! 嘘に決まっ───」

「議長の国王エルグリット、聡明高い聖女、獣王、魔王の皆さん、いまの映像は間違いなく僕の記憶ですが、それでも物的証拠がある訳ではなく、さらに言えば議題とは関係ない話でした、申し訳ない」


 僕は彼が無駄に言葉を囀る前にそう言うと、軽く頭を下げる。

 そして暫くして頭をあげた後、僕が見たのは隠しもせずにニヤリと笑を浮かべる獣王と、明らかに笑が引き攣っている聖女の姿であり───


「ただ、私情と感情で物事を話し、さらに会議を邪魔する勇者の名を騙る一般人。果たして彼は信用に足る人物であるでしょうか? また、彼という人物をこのような重要な場に連れてきた聖女は信用に足る人物でしょうか? まあ、僕からは確かなことは言えませんが、会議を進めるに当たって彼女らの言葉を鵜呑みにする危険性だけは察してもらえましたでしょうか?」


 聖女はきっと僕のことを舐めていたのだろう。

 だからこそ僕は、態度で彼女へとこう告げよう。


 ───僕に、言葉で勝てると思うなよ? と。




 ☆☆☆




 ひとまずそれで会議前のいざこざは終わり、やっと会議へと入ることが出来たのだが───


「少しいいかしら? この会議の議題───っていうか主に話し合いたいことは、このギンって子に聖国が手を出し、聖女さんが直接手を下したかどうかは別にしても、聖国側がその事実をどう受け止めており、その結果どうなるか、って話になるのよね?」


 金髪紫目の彼女───魔王ルナ・ロードはエルグリットが話だそうとしたところでそう切り出した。

 それに僕は迷うことなく頷き、エルグリットや獣王も肯定的な無言を貫き通した。

 それに対して聖女はどう思ったのか、一瞬の硬直の後にうなずいた。

 彼女は主神が天界の牢獄の中に囚われている中、たった一人で信者達の信仰を集めなければならない───いわゆる希望の偶像。

 なればこそ、彼女はその信者達にみっともない姿は見せられず、かと言って吸血鬼族である僕にも下手に出られない。彼女が考えていた中でもかなり最悪な状況だろう。


 ───その上、相手が想像以上に悪かった。


 僕は彼女の内心を察して嘲笑を隠して自然な笑みを浮かべると、早く帰りたそうな魔王のその話を利用させてもらうことにした。


「少なくとも僕はそう思ってます。早く正確に話を進めるためにも、僕自身が遭遇した聖国からの被害を先ほどの投影魔法で見せてゆき、その後、聖国側の意見を聞きたいのですが」

「ぐははっ、それが最も簡単そうだな!」

「そうね。少なくとも私はその魔法が本物だってことは分かってるし」


 すると獣王と魔王はいち早くその案に乗ってきた。

 察するに獣王は好奇心から、魔王は早く帰りたいという気持ちからだろうが、間違いなく二人の意見は『聖国ギルティ』に傾くどころか決まっている。なんと心強いことか。


 僕は議長のエルグリットへと視線を向けると、彼もコクリと頷き肯定を示したため、さっそく僕の記憶を投影しようとした。


 ───が、それをよく思わない者もいる。


「少々お待ちください。少なくとも私にはその魔法はただの偽造にしか見えませんし、あまりにも話が出来すぎています。まるで事前にそう決められていたかのように」


 聖女ミリアンヌは、まるで何ともないという風にそう告げた。

 だが、僕の直感は彼女は見かけ以上に余裕が無いと告げており、僕はニッコリと笑ってこう言った。


「当たり前じゃないですか」と。


 瞬間、ミリアンヌの目が限界まで見開き、すぐに証言をとったとばかりに笑みを浮かべたが───僕の次の言葉にその顔を歪めた。


「僕はね、この世界に来たばかりの時に貴女の国から嫌がらせを受けました。だからこそ僕は考えたわけです。もしも万が一、こうして皆に聖国のしたことを証明するような事があった場合、どうやって見も知らぬ人たちに貴女たちのやったことを証明し、地獄に突き落とそうかと、ね?」


 瞬間、僕の目の前に映像が浮かび上がる。


 最初の映像は、パシリアの街で国王相手にタメ口をきく神父とその会話。

 次の映像は、教会の裏で聖国に雇われたと叫ぶ荒くれ者たち。そしてその男に報酬を渡す聖国の神父。

 次の映像は、僕のクランホームを占領する白騎士たちの映像。明らかに敵意を持っているその様子。


 それらが流れるにつれ聖女の顔が青く染まってゆき、隠しきれない焦りと冷や汗がその顔に浮かぶ。

 僕はその三つの記憶を流した所でパチンと指を鳴らすと、浮かび出されていた映像と音声が綺麗さっぱり消失し、僕はニヤリと笑みを浮かべてこう告げる。


「おやおや聖女様、今のは貴女曰く『偽物』の映像のはず。まぁ、最初の映像に関していえばそこの国王陛下という証人がいるので言い訳は無駄ですが、偽物を見て何故そこまで焦っているのです?」


 ───まるで、やましいものを暴露された貴族のようですよ?


 僕がそう言うと同時、彼女は咄嗟に考えた言い訳を話し始める。


「そ、そんなもの! 出鱈目に過ぎないただの偽物です! 証人と言いましたが、国王様は貴方に王都を救ってもらった借りがあります! 獣王様と魔王さんに関しても───」

「関しても───何ですか?」


 そこまで言ったところで───彼女は気がついた。


 エルグリットが苦笑していることに。

 獣王が黙って目を瞑っていることに。

 魔王が───怒っていることに。


「貴様⋯⋯黙って聞いておればこのような餓鬼に私達一国の王が誑かされ、脅されているとでも言うのか?」

「ちと、今のは看過できぬ発言であったな。間違いなく王国、帝国、魔国の全国民を侮辱する発言だ。聖女よ、疾く頭を下げよ」


 瞬間、視界が歪むほどの圧倒的な威圧感が二人の身体から溢れ出し、聖女は自らの失言に気がついた。

 だが、彼女は頭を下げることを嫌うプライドの塊だ。それ位は初めて見た僕にでもわかる。


 けれども───ここで謝らなければ戦争になる。


「も、申し訳ありませんでした⋯⋯」


 その声は震えており、それが屈辱による震えであったことも想像に容易すかった。


 ───とりあえず、必須条件の一つ、クリアである。


ギンの口八丁、次回へ続く。

ちなみにですが、記憶の投影は原始魔法を手にした直後から練習し始めてたものです。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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